第9話「エヴァンジェリン先生の魔法講座♪」 投稿者:偽・弓兵 投稿日:04/24-01:27 No.383
第9話「エヴァンジェリン先生の魔法講座♪」
「ほう…一度みた剣ならばほぼ完全に複製できる? しかもその能力まで?」
士郎はエヴァに自分の能力について語った。それに対してのエヴァの感想は――――
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! そんなデタラメな力あってたまるかぁ!!!」
こんなモノだった。
「いや、まあそう言うとは思ったけど。でも嘘じゃないぞ」
そう答える士郎。
「貴様、自分が何を言っているのかわかってるのか? 魔力だけで物質を作り上げるなど…私も色々な魔法を見知っているが、そんなことは初耳だ。…しかもその物質の魔力まで複製するとは…デタラメにもほどがあるだろう?」
あきれたように返すエヴァ。
要約すれば士郎の能力である「投影魔術(グラデーション・エア)」は自らの魔力を物質化するというものである。しかし普通の魔法使いがそれを行っても、すぐに消えてなくなってしまう。がしかし、士郎の投影したモノは、破壊されないかぎりそのまま残る。そんな事は何百年と生きた魔法使いであるエヴァでさえも…いや、どんな魔法使い…例えかの『サウザンドマスター』でさえも無理だろう。そんな能力を目の前の青年――――『衛宮士郎』は持っているというのである。
「しかも…伝説の聖剣、魔剣、名剣を再現できるだと? 伝説級のアーティファクトを無尽蔵に作り出せるということか?…非常識な…」
あきれたように嘆息するエヴァ。
「まあ、無尽蔵とまではいかないけどな。作るのにも魔力がいるし」
「だが、作り出された剣の魔力はそれ以上なのだろう?…ホントに非常識な人間だな。お前は」
「いや、吸血鬼の真祖にいわれてもなぁ…」
そう言う士郎に、
「それほどお前の能力がデタラメだという事だ」
そのエヴァの言葉に、苦笑しつつこう返した。
「まあ、前の世界でもデタラメだって言われてたからなあ…」
その士郎の失言を聞き逃すエヴァでは無かった。
「なに? 『前の世界』?」
眉を顰めて士郎に聞き返す。
「あ…い、いや、なんでもないぞ?」
そう言いながら目を逸らす士郎。――――まったく誤魔化しきれてない。
「ふん。どうやらまだ言ってない事がありそうだな。さあ、言ってみろ」
「い、いや、何もないぞ?」
目が泳ぎまくっている士郎に、
「――――言え」
“あくま”の笑顔でこう言われては、士郎に否応は無かった。
「イエッサー!!!」
どこぞのうっかり魔術師の教育のおかげか、反射的に敬礼しながらそう答える士郎。
「ほう…別の世界から来た…か。なるほどな。それなら多少のデタラメも納得できないではないが…」
「まあ、さっきもいった通りあっちでも異端視されるからおおっぴらにできないんだよ。だから、俺の能力や異世界から来たことは他にばらさないで貰いたいんだ」
「それに関して他の者に言うつもりは無い。さすがにそんな能力が知られたら、他の魔法使いに危険視されてしまうからな。…茶々丸もこのことは秘密にしておけ。ハカセにもだぞ?」
「はい、わかりました。マスター。士郎さん、私も秘密にしますから」
そう答える茶々丸。
「そっか…ん、ありがとうな。エヴァちゃ「エヴァでいい」…エヴァに茶々丸さん」
「ふん…まあ、結構面白い話だったからな…かまわんさ」
そう言いつつお茶をすするエヴァ。そして、
「ところで、士郎の事情…能力の事とか異世界から来たとか知っているのはどのくらいいるんだ?」
そんな質問が出た。
「ん~、えーと、まずこっちに来てはじめに出会った木乃香ちゃんと刹那ちゃん。そして京都で世話になった詠春さんと青山鶴子さんとその妹の青山素子ちゃん。それで、もしかしたら学園長も知ってるのかも知れないな。詠春さんから聞いてるかもしれないし」
そう答える士郎。
「ほう…近衛や桜咲がか…知り合いとは聞いていたが」
「ああ、こっちに木乃香ちゃんたちが入学するまで同じ屋敷で暮らしてたからな」
「そうか…まあ、それはいい。青山とかいう奴らは神鳴流だろう? 古くから神鳴流にいる一族らしいし、西の長である詠春の命なら他に他言はしないだろう。それに近衛や桜咲もそんな事を他に漏らさないだろうしな。…学園長は、士郎がこの学園に敵対しない限りは何もすまい」
そう告げるエヴァ。
「さて、なかなか面白い話を聞かせてくれた礼だ。京都にずっといたならほとんど東洋魔術師しか知らんだろう? この学園にいるのはほとんど西洋魔術師だからな。少しは知っているようだが、詳しくは知るまい? ならば対価として少し話してやろう」
ふところからメガネをとりだし、かける。そしてエヴァンジェリン先生の西洋魔法講座が始まった。
「まず、お前が言ったように、西洋魔術師には詠唱時間無防備な術者を守るために“魔法使いの従者(ミニステル・マギ)”がいる。私なら茶々丸。そしてここには居ないが、もう一人“チャチャゼロ”という従者がいる。」
「なるほどね…そういえば俺が京都で戦った魔法使いも二人組みだったな」
感心する士郎。
「まあ、いまでは恋人探しの口実に成り果てているがな…それよりこの従者だが、私達のような本契約の従者もいれば、『仮契約』というシステムもある」
「仮契約?」
疑問顔の士郎に、
「簡単にいえば、お手軽なお試し版…といったところか。本契約よりも手軽に契約ができるシステムだ。その代わりに制限があるが、それでも仮契約により手に入る『アーティファクト』によっては強力な従者になりえる」
「? さっきも言ってたけど、アーティファクトってなにさ? 俺が取り出す剣もそうじゃないかって言ってたけど」
「アーティファクトとは、その仮契約をした人間に合った専用のアイテムの事だ。多種多様あり、場合によってはとんでもない力を秘めたモノもある。…だから始め、お前の剣がそんなモノじゃないかと疑ったんだ」
そう言うエヴァ。
「へー、こっちじゃそんなモノがるんだなぁ」
感心する士郎に、
「まあ、使いこなせるかどうかは別問題だがな。…それで、そのアーティファクトを召喚する時に使うのが、『仮契約カード(パクティオーカード)』だ。
「『仮契約カード(パクティオーカード)』?」
「ああ、仮契約した証だ。それを使えば術者や従者が念話や転移系を使えなくても術者が従者を呼び寄せることができる。そしてアーティファクトの召喚もな」
「へー。これはまた随分と便利な道具もあるんだなぁ。…そう言えば、ネギ君も西洋魔術師なんだろ? ネギ君にはまだ従者はいないのか?」
その言葉に、
「ぼーやか? まあこっちに来たばかりだし、魔法学校を卒業したばかりだしな。まだ従者はいないだろう。…仮契約をするにしてもまあ、その魔法は使えないだろうし…いくらなんでも10歳でキスして従者を作る甲斐性はあのぼーやには無いだろう」
「そうか――――ってキス!? なんでキスするんだ!?」
エヴァの言葉に驚愕する士郎。いきなりなぜキスが出てくるのか理解できない。
「いったろう?お手軽だと。専用の魔法陣の中でキスすればそれで完了。簡単だろう? …まあ、この契約方法の所為で従者探しが恋人探しの名目になったのかもしれんが」
「いやいやいや!! そんな事でいいのか!?」
抗議する士郎。まあ、基本的に養父の教えで『女の子には優しく』がモットーの士郎だ。そんな事でキスするのが納得いかないのだろう。――――前の世界では魔力補充の名目でもっとスゴイ事をやった事を忘れているらしい。
「別にかまうまい。大抵合意の上で契約するんだ。それほど問題ではなかろう」
そう言ったエヴァは、突然ニヤリと笑ってこう言った。
「試しに、私と仮契約を結んでみるか? お前がどんなアーティファクトを手に入れるのか興味があるし、お前も力が手に入る。良い事尽くめだろう?」
そう言ったエヴァの表情は外見年齢とはかけ離れた妖艶な顔だった。
「は?――――っっっ!? い、いや、え、遠慮しとくよ。…それより、あまり女の子がそんな事を簡単に言っちゃだめだ」
そんな士郎の言葉に、表情を元に戻すエヴァ。
「――――本気にするな。冗談だよ」
「そ、そうか…良かった…」
最後のほうが小声になる士郎。
「まあ、とりあえず今日はこんなところだ」
そう言ってメガネをはずすエヴァ。
「そうか。ありがとう。ためになったよ」
頭を下げる士郎。
「このぐらいの事で気にするな。こっちの一般常識みたいなモノだからな」
そのエヴァの言葉に茶々丸が、奥の部屋から出てきて言った。
「士郎さん。ベッドの準備ができました」
そう士郎に告げる茶々丸。
「そうか…ありがとう。茶々丸さん」
「いえ、士郎さんはお客様ですから」
無表情にそう告げる茶々丸。
「それじゃ、俺はそろそろ休ませてもらうよ。――――今日は色々あったし」
「おやすみなさい。士郎さん」
頭を下げる茶々丸。
「ああ。おやすみ。茶々丸さんにエヴァ」
そう言って寝室に向かおうとする士郎に、
「…そういえば、士郎。お前、京都で何をしていたんだ? 詠春の下にいたと言うことは、『関西呪術協会』の退魔師でもしていたのか?」
そう質問するエヴァ。
「いや、確かに詠春さんにはお世話になってたけど、所属はしてなかったよ。まあ、退魔師の真似事はしてたけど、でも俺がしたいのは――――」
そこで言葉を切って、はっきりと言い放つ。
「『正義の味方』だからな」
そうきっぱりと言った士郎の目を見て、笑い飛ばそうとして――――止めた。士郎の目は、冗談を言っているのではなく、本気でそんな子供が話すようなことを目指していることに。
「ふっ…なるほど。『正義の味方』か。なら、お前は私を倒さなければならないぞ? なんせ私は『悪い魔法使い』だからな?」
そう苦笑しながら言うエヴァ。
それに対しての士郎の言葉は――――
「いや、エヴァは『悪い魔法使い』なんかじゃないさ。ほとんど知らない、さっきまで戦っていた相手を泊めてくれる様な奴が悪い訳がないだろ?――――それに色々教えてくれたし…うん、エヴァはいい子だぞ。…俺、お前みたいな奴は好きだ」
その士郎の無自覚な言葉に、
「な――――」
絶句するエヴァ。その顔は真っ赤だ。
「何を言うかぁぁぁぁぁっっっ!!!!?」
うがーっと叫びながら立ち上がるエヴァ。
「わ、私は『闇の福音』!! 600万ドルの賞金首だぞ!? その私がいい子なわけがあるかぁぁぁぁぁ!!!!」
ガンッッッ!!!
「ぬぺろっ!?」
士郎にエヴァの拳がヒット。またもや変な叫び声を上げて吹き飛ばされる。
「あたたた……でも、エヴァは昔がどうであれ、今はいい子だよ」
頭を抑えつつそう告げる。
「――――っっ!!」
その言葉に再び絶句するエヴァ。
「それじゃ、俺はもう寝るから」
そして士郎は休むために寝室へと向かっていった。
「まったく…私がいい子だと? そんなわけなかろうに…アイツは無類のお人よしだな」
そう言うエヴァの顔はまだ赤い。
「マスター。士郎さんをいったいどうなさるおつもりですか?」
その茶々丸の言葉に、
「はじめは邪魔になりそうなら怪我させて追い出そうと思ったが…」
物騒なことを言うエヴァ。
「士郎はかなりの使い手だ。あの剣を作り出す能力もさることながら、それを使いこなす技量もある。経験も豊富だ。下僕にすれば役に立つ」
「では、血を――――?」
「いや、それは無理だな。今日は満月だったからあそこまで戦えたが、他の日ならば歯が立たん。この麻帆良で立ち向かえるとしたら爺か、タカミチくらいだろう」
士郎の実力をそう読むエヴァ。
「それに、士郎も何かまだ隠し持っているみたいだしな」
「そうでしょうか?」
その茶々丸の疑問に、答える。
「士郎は色々な聖剣、魔剣を『見る』事でそれをコピーできると言った。――――なら、そのオリジナルを何処で見た? 士郎の話では作れる剣の数は10や20ではきかないようだ。それほどの剣をいったいどこで見たのか…」
「なるほど…」
エヴァも経験豊富な魔法使いだ。士郎の言ったことについて分析していた。
「では、どうしますか?」
「――――とりあえずは保留だな。ぼーやの事もしばらく様子見だ。せっかくの封印を解けるチャンスだ。焦ってこの機を逃すわけにはいくまい」
そう茶々丸にいって、お茶を飲むエヴァ。
「――――だが、封印が解けて士郎と敵対するのも面白そうだ。私が『悪の魔法使い』なら、士郎は『正義の味方』――――封印が解けた私なら士郎の力に対抗できる。そんな関係になるのも面白いかもしれんぞ?」
そう苦笑するエヴァ。――――が、その表情を一変させ、
「いや――――あるいは士郎を暗黒面に堕としてみるのも面白そうだなぁ…」
クックックッ、と嗤うエヴァ。
その笑顔を見て茶々丸は、
(マスターが楽しそう。士郎さんには悪いですが、それも良いかも知れませんね)
そのころ士郎の寝室では――――
「――――っっ!? 何!? この悪寒!?」
敏感に妖しい気配を感じ取っている士郎がいた。
もし、士郎が今笑っているエヴァの表情を見たのなら、ダッシュでここから逃げ出していただろう。なぜなら彼女の嗜虐的な笑顔は、以前の世界にいた腹黒毒舌シスター――――『カレン・オルテンシア』そっくりだったのだから――――
第9話了
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