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魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~(×デジモン オリ主・オリ有) 第一幕 『異界の夜』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:04/09-11:17 No.261
―――丑三つ時。
全ての生物がその活動を休止している時間。
何時もなら、ただそれだけの何も無い夜だが、今日―――この日だけは、少し違っていた。
ここは都市郊外にある森の中。
普段は殆ど現れる事の無い、乳白色の―――靄か、霧。
そして―――異変は、起こった。
―――ガサッ
「―――ふむ、前もって確認はしていたが……この『世界』は不思議だな。『肉体』との相性が、これまでのどの『世界』よりも良い」
不可思議な台詞を発しながら、草むらの中より現れたのは、二十代と思われる男性。
身の丈は、パッと見て180cmくらい。まだどことなく十代の幼さが残る顔だから、青年と言った方が良いかもしれない。
身体の各部をコキコキと鳴らしながら、彼は満足そうに言った。
「“魔”的要素が多いからだろうな。さて―――」
言葉を区切り、虚空に手を伸ばす。
―――その手に、紅の剣が現れた。
「ほう、此処では【剣】になるか……至れり尽せり、だな」
何か作為的なモノを感じるが――と心の中で付け加え、青年は夜空を見上げた。
「さてと―――如何する、か」
凛とした呟きが、冬の夜空に心地よく響いた。
『魔法先生と紅蓮の竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第一幕 『異界の夜』
ここで、少し場所を移動しよう。
―――異変の只中。
青年がいる場所から、少しばかり離れた森の中には、霧が空間を覆っていた。
そんな霧の最中を、
タタタタタタタタタタタタタタタタ
駆ける、二つの人影。
速い。 兎に角速い。
速度だけなら、国体選手も真っ青だろう。
なんと、驚くことに二人とも少女だ。
一人は長い黒髪が似合う、褐色の肌をした長身の少女。
もう一人は髪を左側頭部で結び、凛とした表情が似合う小柄な少女。
と、此処までは良い。問題は彼女達が手にしている物体だ。
―――凶悪な光を放つ【拳銃】と、【野太刀】。
前者を褐色の少女が、後者を小柄な少女が手にして疾走っている。
明らかに銃刀法に引っ掛かりそうな出で立ちではあるが、彼女達は気にしてなどいないのだろう。
現在、彼女達が気にすべき事といえば、
今、この瞬間にも、追い続けてくる、
――九つの目玉を光らせる、大蜘蛛の化け物なのだから。
おかしな蜘蛛だった。
通常、蜘蛛の脚は八本なのだが、この大蜘蛛は六本の脚でしか移動していない。
残りの脚はと言うと、前の二本だけが腕のように変化しており、垂れ下がった髪の毛状の体毛を掴んでいる。
「くそっ………!」
褐色の少女が、引き金を引いた。
派手な音と共に、銃口から鉛の弾が、吐き出される。が、
チュィ――――――ン!
その鉄のように強固な頭部に、呆気なく弾かれる。
「【斬空閃】!!」
今度は小柄な少女が気合と共に抜刀、不可視の刃を放つ。が、矢張り効かない。
もう幾度と無く繰り返した行為だが、どちらもまるで効果が無い。
「どうする、龍宮!? このままでは埒があかないぞ!」
小柄な少女が、褐色の少女――『龍宮 真名』に言う。
「兎に角、この霧を抜けるぞ! 如何するかはそれからだ、刹那!」
真名は、小柄の方――『桜咲 刹那』にそう返す。
疾走しながら二人は、背後から追い駆けてくるこの大蜘蛛を、如何やって撒くか思考していた。
不意打ちされなかったのは、幸運と言えた。
通常、夜に霧が出たならば、視界などほぼ利かず、背後の大蜘蛛の存在などに気付かなかったであろう。
―――まあ、気付いたところで、大して意味など無かったわけだが。
それはさておき、問題はこの霧だ。
確かに周囲の様子が見えない。実際、ここが山中の何処なのかさえ、二人には判らない。
だが、明らかに異常なのは、そこではない。
『夜なのに、“眩しい”』こと。
いきなり眩しくなった為、一瞬眼が眩んだ程だ。こんな現象には、産まれて此の方遭ったことが無い。
「キシャアアアアアアアアアアアアア!!」
大蜘蛛が唸り声(?)を上げる。
((!!))
二人は後ろを振り向いた。
先ほどから気がついたのだが、ある一定の間隔で大蜘蛛が声を上げる度に、その速度が増していくらしいのだ。
―――大蜘蛛の速度が、更に上がる。
いくら二人の驚異的な脚力を以ってしても、これ以上速度は上がらない。
―――万事休すか!?
答えは―――
「「そこだ!!」」
否、である。
声を上げる為、無防備に開いた口内に、狙いを定める!
「神鳴流奥義―――『雷鳴剣』!!」
「喰らえっ!!」
銃撃と斬撃が、大蜘蛛の口内で同時に炸裂した。
「ッ!?!?!?」
たまらず、大蜘蛛は悲鳴を上げようとするが、すかさず真名は、
「お釣りだよ」
ダメ押しに、手榴弾を投げつける。
ズガァァ……ァァン!
「ギィヒャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
大蜘蛛の叫びが、唸り声から悲鳴へと変化した。
しばらく大蜘蛛はのた打ち回り、
ズ……ズ…ン………!!
地面に倒れ伏した。
「………ん?」
勝手の判らない山道を、のんびりと歩いていた青年は、ここで異変に気が付いた。
「何だ? 今の『口の中に強烈な一撃を叩きこまれた大蜘蛛の断末魔』のような悲鳴は?」
本人に他意はないのだが、見事に的を射た台詞を言う青年。
……っていうか、そのまんまなのだがな。
「――っ!?」
急に青年の顔が険しくなった。
「……この“匂い”……近いぞ?」
クンクンと鼻を鳴らす青年。何かの匂いでも嗅ぎ分けているとでもいうのか?
「………ヤツではないが………ん!? 一般人も居るのか!?」
なんと、本当に匂いを嗅ぎ分けていた!
どうやら青年は犬並み、いやそれ以上の嗅覚の持ち主のようだ。
「ならば拙い!!」
青年は勢いよく己の脚に力を込めると、
―――夜空に向かって跳躍した。
「……仕留めた――か?」
「……その様、だな」
動かなくなった大蜘蛛を見ると、少女達は限界だったのか、
「「―――フゥ」」
力なくその場に、へたり込んでしまった。
「―――こんな大蜘蛛とは、戦ったことが無いぞ」
と、刹那。
「全くだ。後で学園長に追加請求をしなくてはな」
と、これは真名。
………そういう問題ではないのでは?
「今日中に寮へは戻れそうにないな。霧も“晴れていない”ことだし」
―――そう、未だこの奇怪な霧は晴れていない。
「そうだな………ん? お前、明日は日直じゃなかったか? 刹那」
「え?…………ああっ! しまった! どうしよう!?」
慌てふためく刹那。
「まぁ、朝イチで出発すれば間に合うとは思うが……」
対象的に、落ち着く真名。
―――彼女達は気付かない。
まだ、終わりではないことに。
―――彼女達は知らない。
後ろの大蜘蛛が、彼女達の想像を、大きく上回っていることに。
―――ガザッ…………!
「「!?」」
物音に気付いて振り返った二人が見たものは、不自然な程にゆっくりと立ち上がる、
―――九つの目玉を紅く光らせた、大蜘蛛の化け物だった。
「ギィエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
明らかにその声は、憤怒の表れ!
「何というしぶとさ………!」
「しつこいのは嫌われるのだが、ね……」
―――さて、如何する!?
此方は完全に手詰まり。疲労も限界だ。
対して向こうはほぼ無傷。加えて酷くご立腹の様子。
今度こそ、打つ手無し……か?
「ギャヲオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
大蜘蛛がその巨体を起こし、襲い掛かる!
「「くっ……!!」」
迎え撃つ為、少女達が全身の力を振り絞った、
その時だ。
「【誇り高き破邪の剣(ロイヤルセーバー)】――――ッ!!」
天空より、乱入者が現れたのは。
爆音が炸裂した。
「ぁwせdrえft!?!? ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!?!?!?」
耳を劈くような絶叫が響き、大蜘蛛が一瞬にして粒子へと還る。
「「な―――」」
二人が絶句するのは、無理もない。
今まで、只の一つの攻撃も効かなかった大蜘蛛が、いとも簡単に葬られてしまったのだから。
「――ゲホッゲホッゲホッ………」
爆煙の中、誰かが咳き込む音が聞こえた。
「いやいや参ったね、『高さ』と『加減』を間違えた」
やがてその煙も晴れてきて、そこで漸く、その声の主の姿を見ることができた。
一言でいえば、それは『奇妙な青年』だった。
まず初めに目に入るのは、限りなく『赤』に近い茶髪。肩口まで伸びた髪を、無造作に後ろで束ねている。
次に、その手にある、一振りの両刃剣。刀身が、鈍い銀光を放っていた。
イメージとしては、中世辺りの騎士が使っていそうな、そんな形状の剣だった。
そして、白を基調とした服装と、長い真っ赤なマフラーが風になびくその姿からは、マントを着た『騎士』を連想させた。
「よ………っと」
青年は、地面に突き刺さった【剣】を引き抜くと、此方を見た。
「「!!」」
それを見て、刹那と真名は、咄嗟に身構える。
―――まだこの青年が、“敵ではない”と決まった訳ではないのだ。
「あ――………その、なんだ」
緊迫した空気を察し、やや戸惑いがちに口を開く青年。
その言葉は――
「えっと………ひょっとすると……君たちの獲物だった……のかな?」
―――えらく、見当違いの言葉だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて。
これにて第一幕は終了。第二幕へと続きます。
いきなりな出会いを果たした『紅蓮の聖騎士』と刹那、真名の三人。
これからどうなるのか。
知る術を持つのは、この物語を読んでいる“あなた”かもしれません。
次回
『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第二幕 『麻帆良の園にて』
ご期待下さい。
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