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第七幕 『対決! 白熱? スーパードッジ!』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:04/19-11:23 No.333



「~~♪~~~♪」

その日、グレンは上機嫌だった。

この間立ち寄った骨董品屋で、気に入ったものが手に入ったからだ。

それは―――何の変哲もない、一本のパイプ。
だが、これは唯のパイプではない。

煙草は、肺に悪影響を及ぼす。
肺活量は減るし、息は臭くなるし、何より健康に悪い。

故に、彼が持っているパイプは―――

「ん~~~♪ スカ~~っとするね」

ハッカパイプだった。

「今日は良い事が起こりそうだ」
……それは如何だろう?





『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第七幕 『対決! 白熱? スーパードッジ!』





その時グレンは、鼻歌交じりに、先日行った国語の小テストの解答をしていた。

「ご機嫌ですね、グレン先生」
「? おや、しずな先生」

声の方を向くと、眼鏡をかけ、とにかく母性的な印象の指導教員、しずな先生がそこにいた。

「やっぱり判ります?」
「ええ……あら? 煙草は“パイプ”で吸われるんですか?」
「ああ、違いますよ。パイプはパイプでも、これはハッカパイプですよ」

グレンはパイプを咥えなおして言った。

「なるほど、それなら生徒達にも害がありませんね」
「そうですね。自分も気に入っているので、尚更良いですよ」

あはは、と笑うグレン。

と、そこへ、

「うわああ~~ん! センセ~~!!」
「グレン先生~~っ!」

出席番号5番『和泉 亜子』と、同じく16番『佐々木 まき絵』が、泣きながら職員室に飛び込んできた。

「どうした? 二人とも」
グレンは、パイプを咥えながら二人に訊いた。

「こ、校内で上級生が暴行を……!」
「見てくださいこのキズッ!! 助けて下さいグレン先生っ!」
「何だと……? 誰だ!? そんな非道なことをする奴は!!」

「と、とにかく来てください!」
「途中でネギ先生にも伝えたから、早く!!」

―――ピクッ

グレンの動きが固まった。

―――あ、嫌な予感。

「……御免、今なんて言った?」
「だから、来る途中に、ネギ先生にも……って、グレン先生?」

グレンは頭を抱えて嘆息していた。

(今日は良い日になると思っていたんだがな……)

一昨日の騒動を思い出して、ちょっと鬱になる。
だが、すぐに頭を上げる。

(どうも、俺には安息の日はないらしい)

まぁそれも『騎士』の宿命か、とグレンは一人ごちた。
……いや、これは多分『補佐』の宿命だと思うぞ?





「だれがゆずりますか! このババァッ!!」
「今時、先輩風吹かせて物事通そうなんて、頭悪いでしょ!? あんたたち!!」

「なッ……何ですって~~~!?」
「やる気!? このガキ~~ッ!!」

校庭は戦場と化していた。
ただ今、第一次麻帆良大戦の真っ最中。

(ど、どうしよう!?)
その只中、そのケンカを止めようと四苦八苦している子供先生。

(高等部の人たちと大変なことに……)
「み、みなさん! や、やめっ……」
必死に声を張り上げるネギだが、この喧騒の中で届くはずもなかった。

「こんのぉ―――!!」
「なにぉ―――!!」

激闘は止められないのかと、思われた矢先、

「ハイハイ、そこまでだよ、君たち」

ヒョイッと、誰かが、明日菜とあやかを掴みあげた。

「グ……」
「グレン先生……!?」

我らが副担任、グレン・MD・サマーフィールドだ。

……え? 高畑先生の出番じゃないのかここは だって?
残念なことに彼は海外に出張中なのだよ。
……こらそこ! 「ご都合主義な……」とか言うな! 私だって苦しいネタだと思うんだ!

「女子の取っ組み合いっていうのは、見ていて悲しいものがあるぞ」
「で、でも……!」
「そっちの君達も、うちの生徒が悪かったな」

くるりと後ろを向いて、グレンは高等部の生徒達に言った。

「だが、中学生にこういうのは、ちょっとやりすぎじゃあないかな?」
「は、はい……すみません」

流石に副担任相手は分が悪いことを悟ったのか、バツの悪そうに退散していく高等部2-D。

「で、でも、悪いのは向こうなんですよ? グレン先生」
「気持ちは判らんでもないが……それでも自分から手を出してはいけないよ、二人とも」

と、ハッカパイプを咥えるグレン。

「何事も冷静に、正確にやらないとね」
「「…………」」

(ス、スゴイやグレン先生……あっという間に争いごとをまとめちゃった……)

テキパキと事態を治めたグレンに、大いに感心するネギ。

「グレン先生……その……ありがとうございます」
「そんなに落ち込むな、ネギ先生。こんなときもあるさ」

グレンはそう言ったが、ネギはやはり感心していた。

(やっぱりグレン先生はすごいな――僕も負けていられないや!)

ネギはそう決心した。





2-A教室。
次は体育の授業なので、皆は教室で体育着に着替えていた。

※なお都合上、勝手ながら以下の台詞の前に、キャラの名前を入れさせていただきます。

亜子:「ねえねえ、やっぱグレン先生ってすごくない?」
アキラ:「うん、頼りにはなるね」
裕奈:「カッコイイしね~~」

先ほどのグレンの評価で、皆、盛り上がっていた。

裕奈:「ネギ君はちょっと情けなかったかな――」
まき絵:「でも10歳なんだからしょーがないじゃーん」

あやか:「何ですの皆さん! あんなにネギ先生のことをかわいがっていたくせに!」
亜子:「え~~でも~~」

明日菜:「ホラホラ、今日は屋上でバレーでしょ。早く移動しよ」
まき絵:「ハーイ」

着替えも終わって、皆そろって屋上へ移動した。

「大体この学校、生徒数の割にコートが少ないから……ん?」
「ああッ!」

そこで彼女たちが見たものは!?





「あら、また会ったわね、あんた達」
「高等部2-D!? 何でここに!」

先ほど争ったばかりの、高等部の女子達だった。

……どうでもいいが、制服のままでやる気なのか?

「自習だからレクリエーションでバレーをやるのよ。あんた達は?」
「わ、私たちもバレーよ!」
「ふ~~ん……どうやらダブルブッキングしたようね」

わざとらしく嘆息する……リーダー格の女子(名前忘れた)。

「っていうか! あんたは何でそこで捕まってんのよ! ネギ!!」
「い、いえ、その、体育の先生が来れなくなったので代わりに来たら その……」

……ああ、ネギらしいわね……

「と、いうわけで今回は私たちが先よ? お引取り願おうかしら、神楽坂 明日菜」
「くっ……わざとね!? あんた達の校舎、隣の隣でしょ! 中等部の屋上に来る必要なんて無いじゃない!」
「あらら、言いがかり? さすがお子ちゃまね~~」

カチン

「何ですって――ッ!? あんた達の方がガキじゃないのよ――ッ!!」
「やる気――!? かかってきなさいよ、この中坊――!!」

―――第二次麻帆良大戦、勃発!?

(ケンカを止めさせないと……でもグレン先生もタカミチもいないし……どうしよう……)

そのとき、幸か不幸か、ネギの鼻に、ゴミが入った。

ムズムズ……

「は………は……ハ………ハクシュン!!」
「ひゃっ!?」「きゃッ!?」

風の魔法(暴走)発動!

「あ………あの、どんな時も暴力だけはいけません、アスナさん」
「え……あ、うん……」

突然の風に、全員が驚いて手元が止まっていることを確認して、ネギは続けた。

「それでですね……クラス対抗で、スポーツ勝負で決めるというのはどうです?」

「面白いじゃない。私たち高等部が負けたら、大人しくこのコートを出て行くし、
今後あんた達の邪魔もしないわ。それでどう?」

「そ、そんなこと言ったって、トシも体格の全然違うやん――!!」

「あ、そうか」
「バカ!」

「じゃあハンデをあげるわ。種目は『ドッジボール』。こっちは11人だから、そっちは22人でいいわよ」

「分かったわ! 約そ「待てィッ!!」え!?」

全員が声のする方向――給水塔の上を、凝視した。

「―――数多くある草花の中にも、虫を喰らうものがある……。
  巧みに惑わし、確実に虫を引き寄せる……。 人それを―――“甘い罠”という……」

(○ム兄さん!?)

「って、グレン先生!? 何やってるんですか、そんなところで!」

耐えきれず、ネギがツッコんだ。

「む、もうばれたのか……おかしいな、マニュアル通りなのだが……やはり逆光じゃないとダメなのか?」
「そういう問題じゃありません! 降りてきてください!! 危ないですよ!?」
「ああ分かった、ちょっと待て」

グレンはヒラリと身を翻して着地した。

「何なんですか? さっきのは」
「うむ。以前、とある知り合いから貰った『不正を 逃さず正す 108の法』という本に書かれていたものだ」
ほらこれ、とグレンは手に持った文庫本を見せた。

「……誰ですか? その知り合いというヒトは」
「何というか、こう……鬱陶しいほどの『爽やか全身青タイツ野郎』? みたいな、こんな感じの奴だった」

キラーンと、歯を輝かせるポーズの真似をしながら、グレンは説明した。

「???」

唖然となるネギは置いといて、グレンは高等部の女子に向かって言った。

「随分せこいやり方だな。ドッジにおいて人数の多さは有利ではない。
的を多くし、一網打尽する魂胆だったのだろうが……甘かったな」

「ああ、言われてみれば!」
「危うく罠にはまるところでしたわ……」
「セコ――イ!」

口々に文句を言う2-A。

……っていうか、言われる前に気付け!?

「くッ……!!」
「だから、この勝負のハンデとして、俺が参加することを許可してもらいたい。
無論、ボールを投げる回数は、制限しても構わんぞ」

「………フッ……いいでしょう。同じ11人で、ハンデとしてこの先生を参加。
ただし! 投球回数は3回まで! あとパスは不可です」
「うむ、いいだろう」

「私達が勝った場合は、そこのネギ先生をいただきます!」
「別に構わんぞ」

「「「「ええ~~~~~~~!?」」」」

2-Aの、ほぼ全員が驚愕の声を上げた。

「何それ!? 全然ハンデになってないよ!」

とか、 

「何勝手にそんな重大な事決めちゃうの!?」

とか、

「そうだよ、もし負けちゃったら、どうするの!!」

とか、非難轟々だった。

それに対して、グレンは、

「戦う前から負けた時を考えて如何する? ようは勝てば良いだけのことだ」

と、涼しげな表情で言った。





試合開始!

―――早々にネギに当たったが、明日菜がノーバンキャッチしたのでセーフ。

ボールは明日菜の手へ!

「おりゃッ!!」

ボンッ!

「まず一人!」

ねぎチーム対女子高生チーム
11対10 

「どう!? 年下ってなめてると痛い目にあうんだから!」
「ふん……調子に乗るのも今のうちよ」

リーダー格が、不敵な笑みを浮かべる。

「先に、ハンデの先生にさえ当てれば、私達の勝ちも同然!」

放たれる剛速球。だが、

「ふむ、発想は良いが―――」

グレンは事も無げに、かわす。

「まだまだ甘い」

足元、肩、脛付近、頭部――どこに投げても当たらない。

「ス、スゴイ! すべて見切ってかわしている!」
「……でも、その巻き添えくって、アウトになってる数も多いんだけどね」

驚くネギを尻目に、明日菜はさらりと事実を言った。

ねぎチーム対女子高生チーム
8対10 

グレンは避けきれるが、他の生徒が避けられない。そこが、欠点だった。

「く、なら――そこッ!」

女子高生はグレンを狙うのを諦め、背を向けている、のどかに狙いを定めた!

「きゃあっ!」

バシッ!

間一髪。
ボールは、間に合った明日菜によって止められる。

「大丈夫、本屋ちゃん!? 後を向いてたら、当てられるだけだよ!」
「さっすが、明日菜! やっるう!」
「ナイスだ、神楽坂」

皆、明日菜の行動を称える。

「女子中学生の底力! 見せてやるわ!!」
再び明日菜の投球!

「えいっ!!」

だが。

ドガシィッ!!

「えっ!?」
「え―――っ!?」

ボールは、リーダー格の女子に受け止められていた。

「明日菜のバカ力が……」
「バカ 力のアスナさんの全力投球を片手で……」

「バカ 力・バカ 力うっさいわよっ!!」
「それよりも「ドガシィッ!!」って痛そうな音したぞ?」

2-Aの皆が(色んな意味で)騒いでいるのを確認すると、リーダー格の女子が不敵に笑った。

「フ……バカ力が自慢のようだけど、この程度で全力なんて笑わせるわ」

……あ、でもけっこう痛そう。半分は強がりだなコリャ。

「お黙りっ!! ……そもそも、あんた達が、私達に勝てる筈がないのよ!」
「……如何いうことだ?」

「何故なら私達は―――」

高等部が全員、一斉に制服を脱ぎ捨て――

「ドッジボール関東大会優勝チーム! 麻帆良ドッジ部『黒百合』だからよっ!!」

ユニフォーム姿に変わった。

(ど……ドッジボール関東大会優勝―――!?)
2-A全体に、どよめきが起こった。

「フ……どう? これであんた達が勝てないということが―――」

「……高校生にもなってドッジ部……?」
「小学生までの遊びちゃうの?」
「あ、あたしもそう思った」
「っていうか関東大会って、あいつらしか出なかったんじゃない?」

どよめきの原因はこれだ。
「う、うるさい! 余計なお世話よっ!!」

……ちょっと涙目ってことは、少し自覚してるというわけだな。

「くっ、生意気な……ビビ! しぃ! “トライアングルアタック”よ!!」
「「わかった、英子!」」

「ぷぷ、トライアングルアタックだって……だっさ~~」
「皆、油断するな! 敵は何か仕掛けてくる気だぞ!」
グレンは皆に指示を飛ばすが、この状況では、真面目に受け取る人間はいないだろう。
……いや、例外がいた。

「この、2-Aクラス委員長の『雪広 あやか』がいる限り! ネギ先生には指一本触れさせませんわ!!」
……台詞だけならカッコイイのだがなぁ……

ビュン!

「キャッ……」

バシ! ビュン!

「あんっ」

「はい「あうっ!」一人アウト」


「「「いいんちょ――! 全然ダメやん!!」」」

大口叩いた割に、いいんちょはあっさりやられてしまった。

「く……パスの軌道が読めませんわ……“トライアングルアタック”、一体どんな陣形を……」


「「「だから三角形(トライアングル)やん」」」


その瞬間、関西弁の者以外の生徒も、一斉にツッコんだ。





「それそれっ!」「あはは、他愛ないわね」

その後、同じく“トライアングルアタック”により二名アウト。

ねぎチーム対女子高生チーム
5対10 

「まずいよ、これは……」「こ、このままじゃ負けちゃう?」

「フ……もう殆ど勝負は着いたも同然ね……次はあなたよ! 神楽坂 明日菜っ!!」
「!?」
「くらえ!」

必殺―――『太陽拳』!!

「―――!! しまった、太陽を背に……!?」

バシィッ!

「あたっ!」

目が眩んだ不意を突かれ、明日菜はボールに当たってしまう。

「アスナさん!!」
「まだよっ! もう一撃!」

「あんっ!」

更に、空中で、跳ね返ったボールを再び明日菜にぶつける。

「なっ……二度も当てて!?」
「ひ、ひきょーやで!」

「お黙り! どんな汚い手を使ってでも勝つ!! それが『黒百合』のポリシーなのよっ!!」

勝ち誇ったふうな口をきくリーダー格の女子。


「………………何ィ……?」


だが、この余計な一言が、怒らせてはならない男の逆鱗に触れた。

(今のはいくらなんでもひどすぎる! こうなったら……)

「ラス・テル・マ・スキル……「止めろ、“ネギ”」……!?」

唐突に、腹に響くような低音ボイスで、グレンが言った。

「―――そんなことをすれば、それこそ奴らと同類だ」
「ぐ、グレン先生……?」

ネギの声に、若干の怖れにも似た色が見て取れたのは、気のせいではないだろう。

っていうか、マジに怖い。
この怖さを描写できないのが、酷く残念である。

「スポーツというものは、正々堂々とやってこそ意味がある………奴らはそれを侮辱した」
「グレン先生の言うとおりよ」

明日菜も、会話に便乗する。

「スポーツでずるして勝っても嬉しくないの。正々堂々とやりなさい。男の子でしょ」
「アスナさん……」
「みんなごめん、後は頼んだー」

神楽坂 明日菜 アウト。

ねぎチーム対女子高生チーム
4対10 

「あうう~~もうオシマイや~~」
「アスナもいないし……もう時間が……」

まさに門前の虎、後門の狼。

「みなさん! あきらめちゃダメですっ!」
「……ネギ君?」

「さっきアスナさんも言ったじゃないですか! 後ろ向いてたら狙われるだけだって! 
前を向けばボールを取れるかも……いや、きっと取れるはずです! 最後まで諦めないで、がんばりましょう!!」

ネギは賢明に、2-Aの皆を励ました。

「そ、そーだね! まだ諦めるのは早いよね!」
「このままなめられて終われないよ!」

皆の顔に、再び闘志が浮かび上がった。





「うむ、よく言った、ネギ先生」

気合を入れる生徒達を見ながら、グレンは感心した。

「フフ……往生際が悪いわね」

その様子を、高等部の女子達は、嘲笑った。

「さあ、そろそろ終わりに「お前達に、一つだけ問いたいことがある」? 何ですか? 先生」

グレンの口調は至って普通だが、放つオーラには尋常じゃない覇気が込められている。

「お前達、それで“楽しい”のか?」

「? おっしゃる意味が分かりませんわ。コレは勝負。楽しさなんてものは要りません」
「そうか…………なら、」

そして、ボールは放たれ―――



「仕方ない」

バシッ!!

「え!?」

グレンの指、三本で止められた。

「―――本来なら、ボールには触れずに生徒達の手で終わらせたかったが………
止むを得ん。少しお灸を据えてやる」

ボールを、人差し指で回転させる。

「くッ! 皆、距離をとって! 攻撃に備えるのよ!」

(如何に相手が教師でも、向こうは素人。上手くても、精々ダブルアウトで精一杯。この勝負、勝った!)

高等部女子の、誰もが勝利を確信した。

が。

「あ ま い」

ボールを高く上げ、眼前に来た瞬間、グレンは―――腕を横に薙ぎ払った。

バチン

「……え?」

飛んできたのは、ヘロヘロの超スローボールだった。

「フ、最後の最後でミスしたようですね! こんなヘボ玉――」

小さな、油断だった。
キャッチしようと、わずかにボールに触れた―――その瞬間!

ギャリリリリリリ………

「え!?」

リリリリリリリリリ―――――

ボールの回転が急激に上がり、

――――ズダダダダダダダダダン!!


「え!?」

「いたっ!?」 「あッ!」 「あう!?」 「はう!!」 
「ええ!?」 「うわ!?」 「きゃ!」 「うそ!」 「わッ!?」


総勢10人、全員アウト。


「「「は……?」」」

「「「ええ~~~~~~~!!!?」」」

誰もが、己が目を疑った。

「なッ何、今の!? 魔球!?」
「凄い魔球ネ! どうやったアルか!?」
「先生、それ最初にやってよ~~!」

2-Aの女子が驚きと感心の眼差しで、詰め寄ってきた。

「ああ、別にこれは魔球じゃない。ボールの回転速度と射出角、
ぶつかった時のボールの反射角を計算して、打ち出したものだ。……ああ、相手の動きの誤差も、だな。
まあ、特訓すれば誰でもできる。簡単だろ?」


「「「「「できませんよ! そんなこと!!」」」」」


2-Aの面子(ネギを含む)は、そろってそう叫んだ。





「くッ……納得いきませんわ! 勝負のやり直しを要求します!」

声を荒げながら、講義をする高等部女子。

……当然だけどな。

「何? やり直し? それは如何してだ」
「だって、あんなの反則じゃないですか! あれじゃハンデにはなりません!」

……だよな。あれはないよな、いくらなんでも。

「ふむ、では君は俺がいなければ勝てていた、とでも言うのか?」
「当たり前です! 中学生相手にこの私達が……」

「自惚れるな!!!!」

突然の、グレンの大喝。

「策に溺れ、相手の策を見破れなかったお前達が悪い。
そして、相手を侮った結果がこれだ。違うか?」
「う……」

「確かに俺がいなければお前達の勝ちだったかもしれん。
だがな、あのまま戦ったとしても、君達は負けていたのだ」

「???」

“勝って”いるのに“負けて”いる。一見、矛盾する言葉だ。

だが、グレンは続けた。

「どんな逆境に立たされても諦めない―――“心の強さ”にだ!!」

……うっわ、ハズカシ~~台詞だ

「俺は君達に訊いたな。“楽しいか”と」
「は、はい……」

「俺はスポーツというものは、勝ち負け以前に楽しむことが重要だと思っている。
スポーツからそれを取ったら、ただの争いだ。それでは楽しくも何ともない。
……君達も、昔は楽しかったから、好きだったから、今でもドッジを続けているんだろう?」
「!!」

高等部女子は全員、ハッとした顔になった。


忘れていたきっかけ。
忘れていた感情。
忘れていた、言葉。

今、ドッジ部全員が、それを思い出していた。


「……だったら、それを争いの道具に使ってはいけない。勿論、姑息な手段もだ。わかったな?」
「ハイ……す、すみませんでした……」

おおお~~~~~!!

湧き起こる歓声。

グレンは満足そうに空を見上げ、

「――これにて一件落着!」

機嫌よく、言った。

こうして、小さな諍いは、幕を閉じた。





―――はずだった。

「は? 俺をドッジ部の顧問に欲しい!?」
「ハイ! 是非!」

高等部の女子達が、目をキラキラ――いや、ギラギラと輝かせ、グレンに詰め寄った。

(これは………やば……い?)

グレンの、『デジモン』としての本能が、叫んでいる。

逃げろ、と。

あれから、心を入れ替えてくれたのはよかった。

だがグレンは今以上、厄介ごとを抱え込む余裕などないのだ!!

「――――戦略的撤退ッッ!!」

グレンは職員室――二階の窓から飛び降りた。

「ああ! 待ってください、コーチ!」
「誰がコーチかッ!?」


……それから数日間、グレンと高等部女子の追走劇が、繰り広げられたとか、られなかったとか。


おわれ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回予告。

三学期も残りわずか。
もうすぐ期末テストという最中、ネギが教師になるための最終試験が下された。

条件:期末試験で、2-Aの最下位脱出。

失敗すれば、ネギはクビ。
奮戦するネギとグレンだったが、予想以上に成績の悪いバカレンジャーに悪戦苦闘する。
このままではいけないと悟ったバカレンジャー(他2名)は、最後の望み『魔法の本』を目指し図書館島へ。

だが、そこに迫る巨大な悪意のことは、誰も知る由も無かった。


次回、

『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第八幕 『風雲! 図書館島大決戦』

お楽しみに 

魔法先生と紅蓮の聖竜騎士  ~X-EVOLUTION ANOTHER~ 第八幕 『風雲! 図書館島大決戦 その1 ~騎士と剣士は闇夜に踊る~』

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