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第九幕 『風雲! 図書館島大決戦 その2 ~魔弾の王~』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:04/27-08:43 No.403


某所にて。

「早速ですまんが――――貴君に向かって欲しいところがある」

暗い暗い、まるで肌に張り付くような、粘着質の闇。
その中で、それに劣らない不気味な声が言った。

「嫌なこった」

対するは、同じ黒い色にも関わらず、闇に同化していない、男。

「―――計画の実行に、ある“人間”が必要なのだ」
「それこそ下っ端共に任せりゃいい仕事じゃねえか。俺には関係ねえ」

こちらは、先ほどの声のおぞましさに微塵にも反応せず、まるで普通に話している。

「大体、俺はアンタの部下じゃない。アンタの命令を聞く義理も無いゼ、『伯爵』のオッサン」
「ふん………減らず口は相変わらずのようだな、『蠅の―――」

ズドンッ!!

重い銃声が、言葉を中断させた。
いつ、どこから出したのか、男の手には一丁の拳銃―――のように見える、ショットガンがあった。

―――薬莢が、乾いた音を立てて地面で跳ね返る。

「俺をその名で呼ぶんじゃねえ………次は殺すぞ?」

男の声は、冗談でも脅しでもなく、本気だった。
闇の、ある一点を睨んでいることから、声の主はそこにいるのだろう。
このことから、男の射撃の―――いや、戦闘の実力は、相当なものだと言える。

「フン……以後、気をつけることにしよう」

闇の中で『そいつ』がニヤリと嗤うのを、男は気配だけで感じ取った。

「…………ケッ……」

男は、さも不愉快そうに唾を吐き、クルリと踵を返して歩き出した。

「待て。何処に行く心算だ」
「うるせえな。何処だっていいだろうが」

男は背を向けたまま、何処かへ行ってしまった。

「フン………まあ良い。……では、オマエに行って貰おうか」

闇の中から、さっきの男とは別の男が現れた。
黒いフードに身を包んだソレから窺えるのは、感情の欠落した、ガランドウな金色の瞳。

「…………」

男は―――小さく頷いた。






『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第九幕 『風雲! 図書館島大決戦 その2 ~魔弾の王~』






―――右から、骨の棍棒。

「!!」

刹那が身を屈めたのと同時に、頭上を棍棒が過ぎていく。
くらっていたら、頭はきれいに吹き飛ばされていただろう。

「奥義―――【斬岩剣】!!」

そのままの体勢から『気』を込めた【夕凪】を疾らせ、金色の猿―――【ハヌモン】の両足首を斬り飛ばす。

「!?!?!?」

バランスを崩し、倒れこむハヌモン。

「哈ッ!!」

すかさず、顔面めがけ【夕凪】を突き刺す。

「亞Gyaうga■■■■■■■―――――!!!!」

ハヌモンの肉体が、データの破片となって飛び散り、霧散する。


「GAAAAAAAAAA――――――――――――――!!!!」

頭上に、影。

「!!」

咄嗟に【夕凪】で払うが、まるで実体が無いように、空を切る。

「くッ!!」

跳躍。
如何にかその場を逃れる。

「Gルwぁぁぁぁ!!」

しかし、向こうは獣。反応速度は、残念ながら刹那より迅い。
すぐさま体勢を立て直し、その顎で刹那の頭を喰らわんと、襲いかかる!!

「フッ……」

だが、刹那の顔には焦燥などない。むしろ、余裕さえ感じられた。

紫の刃狼は気付いていなかった。
策に嵌められたことを。

「秘剣―――【百花繚乱】!!」
迫り来る紫の刃狼めがけ、凄まじい『気』の奔流が、炸裂する。

ガガッ!!

必殺に至らなかったが、それで十分。
刃狼の身体は、強制的に上空に打ち上げられる。
幾ら『この世のモノ』では無いとはいえ、空を『翔べ』ぬ生物に『翔ぶ』為の器官は無い。
故に、空中へと上げられてしまったら、その機動力は死んだも同然!

「!!!」

刃狼は漸く、それを理解するが、

「遅いっ!!」

不意に現れた紅い影が、

ザンッ…………!!

紫の刃狼―――【サングルゥモン】を、真っ二つに切り裂いた。





「刹那! 無事か!?」

背中を合わせながら、問うグレン。

「ええ! ……ですが、こいつ等、動きが妙です」
「……ああ」

グレンも、その意味は判っていた。

数の方では向こうが圧倒的に有利だ。連携して攻められれば、確実にやられる。
だというのに、こいつ等の動きはバラバラで、まるで統一性が無い。
寧ろ、そういったことを、ワザと考えられていないような組み合わせである。
グレン達を倒す心算なら、上級悪魔系のデジモンで固めて、一斉に攻めれば良い。

だが、そういうのが潜んでいる気配もない。

(だとすれば―――………)

「……狙いは、時間稼ぎ、か………?」
「ですが、一体何のための……―――ッ!!」

弾かれたように二人が跳んだ直後、

ズドンッ!!

地面に、エネルギー弾が炸裂した。

「くっ………!」

グレンは、【グラム】に意識を集中させる。

―――細く、鋭く、穿ち―――貫く!!

「【誇り高き破邪の剣(ロイヤルセーバー)】――――――ッ!!」

碧き閃光の【槍】を、放つ!

ドスッ………!!

「グォオオオオオオオオa■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――ッ!!?」

【槍】は半身半獣のデジモン―――【ケンタルモン】の腹を突き破り、その存在を消滅させる。

敵は、残り10体。

「【斬空閃】!!」

一体にめがけ、放たれた『気』の刃が、空間と共に敵を切り裂く。


残り9体。


と、

「グォオオオオ―――ッ!!」「シャァァァァ―――ッ!!」

ここで敵デジモン達がグレンを取り囲んだ。

「ほぅ……自らの脅威は早めに集団で潰す―――成る程、良い雇用主がいたようだな」

だが、グレンの声は至って冷静だ。

「キシャァァァァ――――ッ!!」

デジモンが、一斉に、腕を振るった。

ズバッ! ゾグッ! ドシュッ! ザクッ! ブシュッ! グシャッ!

肉を切り裂く、不快な音。
だが。

「「「「GYIIIIIィィィ――――――YAAAァァァァァァァァAAAAAAッッッッッ!?!?」」」」

悲鳴を上げたのは敵デジモン達だった。

「おおおおおっ!!」

紅の残像を残し、銀の光が翻る!


残り5体。


「遅いッ!!」

刹那が、飛来する巨大な蜻蛉―――【ヤンマモン】4体に向かい、必殺の一刀を炸裂させる!

「神鳴流奥義……【百烈桜華斬】!!」

舞い散る桜の花弁のように、砕け散るデータの破片。


残り―――1体!


「ウォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッッ!!!!」

残った赤銅色の鬼―――【フーガモン】が骨棍棒を旋回させ、人為的に竜巻を生み出す。

「ガァァァァァァアアアアア――――――ッ!!!」

放たれた破壊の暴風が、二人を捉え―――

「!?」

―――る前に、二人は空中に身を躍らせていた。

「これで―――」
「終わりだッ!!」

【奥義―――雷鳴剣】!!
【誇り高き破邪の剣(ロイヤルセーバー)】!!

『雷』を宿した野太刀と『光』の聖剣の一刀が、フーガモンを直撃し、

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――!!!!」

決着が、ついた。






―――“霧”が、晴れる。

「ふ―――………怪我は無いか、刹那」
「あ、ハイ。特に大きな怪我は」

グレンが、刹那の身を気遣って言った。
無論、あの数では到底無傷なワケにはいかず、二人の身体には小さなすり傷が、あちこちにできていた。

「………なぁ刹那、この先は何がある?」

ふと、刹那にそう訊いた。

「え……? 図書館島だと思いますけど……それが何か?」
「ふむ………よし、行ってみるか」

そう言って、腕時計に目をやる。
午後9時を指していた。

「刹那、君はそろそ「大丈夫です」………」

即答だった。

「あ――……いや、もう遅いし「まだ大丈夫です」………」

刹那は頑として己の意思を覆さない。

(弱ったな………無理強いするわけにもいかんし………)

押しに弱いグレンは、仕方なく、

「……わかった。じゃあ―――」

と、そのときだった。

「―――――!!」

グレンは突然、刹那を抱き上げた。

「え? ええ!? グ、グレンせんせ―――」
「喋るな、刹那。舌を噛むぞ!」

突然のことで動揺する刹那を無視し、グレンは横に跳んだ。

次の瞬間、

―――ズザンッ…………!!!

「―――え?」

先ほどまで二人が立っていた場所が、綺麗な半月を描いて―――削り取られていた。






「ぬうッ………」

グレンは先ほどの攻撃で、敵のおおよその力を推測した。

(音はほぼ無音……『フィールド』無しに活動できるということは、恐らく『完全体』か『究極体』。
……いや、技の規模が小さいから『完全体』か?)

それも、そこそこの手慣れ。場数は、かなり踏んでいるとみて間違いない。

「グ、グレン先生……?」
「気をつけろ、刹那。まだ敵が何処かに潜んでいる」
「!! ハ、ハイ!」

二人とも、剣を構える。

(どこだ……何処にいる………)

感覚を総動員して、敵の位置を割り出す。

(―――いた!!)

「そこッ!!」

間髪入れず、碧の閃光を放つ。
だが、敵はそれをかわし、一挙動で此方に迫る。

「ケァァァアアアアアアアッ!!」

鋭い、蹴り。
その軌道は、完全に弧を描いている。

同時にそれは、紅の衝撃波となって、グレンを襲う!

「!! ぐッ……!」

グレンは、どうにかそれを【グラム】で受け止め、弾いた。

「おのれッ!!」

刹那が黒い人狼に向かい、一瞬で間合いを詰める。
だが人狼―――【ワーガルルモン】は、怯みもしない。
それどころか、上段蹴りを放ってきた。

「奥義!! 【斬岩け―――」

刹那はその脚ごと斬り飛ばそうとして―――そこで気がついた。
敵の攻撃が、上段から反れ、中段を狙う容赦の無い高速の蹴りへと変化していたことに。

「しまッ……!?」

(フェイント!?)

その速度は、刹那の技が発動するよりも、半瞬迅い!

ドガッ!!

「あぐッ!!」

蹴り飛ばされ、街路樹に身体を打ち付ける刹那。

「刹那ッ!!」

だが、刹那はぐったりして動かない。
さらに人狼は、刹那めがけ爪を振るった。

「させんッ!!」

グレンは疾走する。

キキィ……ン!!

間一髪。
飛来する爪刃の群れを、グレンは叩き落した。

「グルルル…………」

だが人狼は、もう次の技を放つ体勢に入っている。

「くッ……」

流石のグレンも“このまま”では、勝ちが薄い。
あの程度の技なら避けるのは簡単だが、刹那を危険に晒してしまう。
かといって、このまま『人間の姿』で戦うには、少々厳しい。

―――『本来の姿』ならば、話は全く違ってくるが。

(仕方が無い、残り回数が少ないが………『使』う!)

そうグレンが決意し、人狼が飛びかかった―――そのときだった。


ズド―――…………―――ン…………!!


一発の、銃声。

人狼の、右の肘から先が―――吹き飛んだ。

「!!!! ギャァァぁぁ嗚呼AAアア嗚呼ぁぁ嗚呼アア嗚呼AAァァ―――――――ッ!?!?!?!?!?」

吹き飛んだ右腕を押さえて、もがき苦しむワーガルルモン。

「な、に―――?」

思わずグレンは、銃声のした方向を向いた。

ドルルルル…………ン!!!!

豪快な騒音を吐き出し、疾走する『鋼鉄の獣』。
そしてそれを駆る、一人の男。

ドガッ………!!

巨大なバイクが、ワーガルルモンを跳ね飛ばした。

「ゲアぁッ!?!?」

人狼は、苦悶の声を上げた。
男は、両手に銃を構え、

「さっさと逝きな!!」

ただ普通に、ごく普通に、

「【ニ連撃奏(ダブルインパクト)】!!」

―――引き金を、引いた。

ドダダンッ!!

連なる銃声。

銃弾の軌道は、左腕、右肩、脛部、太腿部、腹部、胸部に二発ずつ。頭部には三発。

総計、十五発。

凶悪な弾丸の群れが、ワーガルルモンの各部を抉り飛ばした。

「ギョBarovuwesdengp■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!?!?!?」

無残な断末魔を残し、データの屑と化す、黒の人狼。

やがてそれは、虚空に溶けて消えた。






「―――ま~~ったく、こんな雑魚がよくも今まで生きて来れたもんだ………」

その様を平然と眺めていた男は、手にしていた銃―――ソウドオフショットガンの一つを背中に、
もう一つを左足のホルスターに突っ込んだ。

「……で? てめぇはまた人間のお守りかよ? ………ホンッッットに飽きねぇな、オマエ」

男は此方を振り向いて、呆れかえったように言った。

黒いライダースーツのようなものの上に、黒い革のジャンパーを羽織っている。
年齢は、見た目から判断するに、二十歳未満。
その鮮やかな金髪は、闇の者に相応しからぬ色だ。

今こそ人間の姿をしているが、グレンの記憶が正しければ、
その顔には本来、鳥か竜に近い紫色のマスクをしていたはず。

「……そうか。てっきり『伯爵』だけが、この『世界』にやってきたものだとばかり思っていたが―――」

グレンが、口を開いた。

「貴様も来ていたとはな……『魔弾の王』―――【ベルゼブモン】!!」

人の身を纏った『魔弾の王』は、口の端を吊り上げてワラった。




つづく

魔法先生と紅蓮の聖竜騎士  ~X-EVOLUTION ANOTHER~ 第十幕 『風雲! 図書館島大決戦 その3 ~『聖剣』と『魔弾』~』

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