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第十三幕 『風雲! 図書館島大決戦 その6 ~騎士、降臨~』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:05/11-00:26 No.484
時は進み、翌日。
「―――では、この問題がわかる人~~」
「ハイ」「ハイ!」「ハ~~イ!」
「じゃあ、佐々木さん」
「こたえは『35』です!」
「正解です!」
「「「お~~~~」」」
ネギ達は今、『青空教室』ならぬ『地底教室』で、勉強の最中だった。
「皆さん、いい感じになってきましたよ。その調子です!」
「てへへ、そうかな~~~」
お世辞でも何でもなく、最初のころに比べ、明らかにバカレンジャー達は勉強が上達していた。
やはり、やる気になればできる娘たちなのだ。
「それでは、キリもいいので、少し休憩にしましょうか」
「「「ハ~~~イ!!」」」
『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第十三幕 『風雲! 図書館島大決戦 その6 ~騎士、降臨~』
一方、その頃。
「……………よ、ようやく抜けたか……」
グレンは、息も切れ切れに呟いた。
「しかし……学園長も何を考えてあんなトラップだらけに……普通なら死ぬぞ、あれは」
落とし穴に仕掛け矢、電導網に吊り天井、etc、etc………とにかくワナのオンパレードだった。
迅速に行くために、最短ルートを通ったのが裏目に出たのかもしれない。
いずれにせよ、いつもの3倍は疲れた。
「……やっぱり、帰ったらガツンと言わなくてはいけないな、これは」
勿論、学園長に。
……生徒を殺す気かって――の。
「さてと……『地下11階・3番地下道・左奥』……うむ、間違いない。ここのようだな」
気を取り直して、学園長から貰った地図を見ながら、
グレンは最初の目的場所、『魔法の本の安置室』へ着いたことを確認した。
いや、正確に言えば、『元・安置室』になるか。
「これは……酷いな………」
かつては祭壇のようなところは、粉々に打ち砕かれており、二体の『石像』だったものが転がっていた。
「……妙だな。この『石像』の壊れ方……まるで、“強烈な突き”を受けたような感じだ」
学園長の話では、黒いフードの男が“右手”を横に振るった直後、『ゴーレム』がバラバラになったと聞いた。
しかも、衝撃は正面から来たという。
(横に振りながらも“正面から衝撃”?
ありえんな……俺ならいざ知らず、奴らにそれほどの“使い手”が居たとは……)
グレンは、あごに手を当てて考えたが―――ふと、鼻孔をくすぐるものに気がついた。
「……この“匂い”! ネギ君たち!?」
振り返ると、床に開いた大穴から、微かだが吹き抜ける風。
その中に―――更に微かだが、覚えのある“匂い”を認めた。
「この下、か………随分深いな……」
グレンは穴を軽く覗き込んだあと、
ダンッ!!
一瞬の躊躇もなく、飛び込んだ。
水に浸かっている本棚の中から、数冊取り出し、ペラペラとめくる。
「ふ~む……ずっと水に浸っていたハズなのに、本はまったく痛んでない……」
水でインクが滲んでいなければ、紙も濡れていない。
ネギはいぶかしんだ。
「それに、この本棚………一見、無秩序に並んでいるっぽいけど、
今回の期末テストに必要なもの以外は、できるだけ目につかないような並びになってる……」
まるで、ここに来させることが目的だったかのように。
「お、腕の封印の二本目が消えてる……」
ネギは自分の右腕を見て言った。
「あと一本か……明日の朝になれば魔法でここを脱出できるぞ」
魔法の本が入手できなかったのは、ネギとしても少し心残りだったが、生徒たちの安全のためだ。
何より、またあの“黒いフードの男”に襲われないとも限らない。
「また何か起きてからじゃ遅い……僕がしっかりしなくちゃ」
ネギは、不安を振り払うように胸のペンダントを握り締めた。
――――――――――チカリ………………ッ
結晶が、玩具のような安っぽい光を放った。
「………そういえば、みんなはどこに行ったんだろう……?」
思考を普段の状態に戻し、ネギはふと気がついた。
「一応、探してみよう………」
ネギは重い腰を上げた。
「ん………?」
キャッキャッ、と誰かの声がする。
数からすると……2・3人だろうか?
ネギは気になって本棚の陰から身体を出してみた。
そこには―――
「え」「ん?」「お」
「え゛っ」
3人の少女たちが、一糸纏わぬ格好で水浴びしていた。
………いや、水は温水だから、正確に言うと『温水浴び』………どうでもいいか。
「キャ―――ッ! ネギ君のエッチ―――ッ!!」
「アル――!」
まき絵と古菲が悲鳴―――かなりのからかいを含んだ悲鳴―――をあげた。
「あっ いえ そのっ これは あわわっ」
顔を真っ赤にして、慌てふためくネギ。
「ス、スミマセンッ!!」
即座に踵を返して走り去ろうとするが、
「まあまあ」
楓にむんずと掴み上げられてしまった。
「クスクス。ネギ君ったら、顔真っ赤にしちゃってカワイ~~☆」
「ネギ坊主10歳なのに女の子の裸に興味あるアルか?」
「ち、ちが……あううっ、おろして~~~」
3人の逆セクハラが始まった。(違)
愉快そうな3人とは対照的に、ネギの心境はまさに生き地獄状態だった。
(うううっ……これは先生イジメだよぅ~~~)
このままでは、純情無垢な少年の精神は、ショートを起こしてしまう。
「あのっ! そのっ……僕……」
故にネギは、半ばヤケクソ気味で、言った!
「僕、お姉ちゃんで見慣れてるしっ、女の人の裸とかには“全然興味ない”ですからっ!!
イ、イギリス紳士としてっ!!」
ドッカーン。
………ネギよ、それはそれで『問題発言』だぞ? しかもイギリス紳士はあんまり関係ないと思うんだ。
「ひ、ひど~~い! 先生~~!」
「中学生(ガキ)じゃ相手にならないアルね~~!」
よよよ、と泣き崩れるまき絵と古菲だが、もちろんそれは演技。
「あっ、いえっ、そういうことじゃ……」
対するネギは、さっきとは違う意味で、大慌て。
「み、皆さんに魅力がないとかじゃなくって、そ、そのっ、なんていうか、
えっと……と、とにかく、僕はこれでッ!!」
ネギはにげだした。(RPG風)
「あ、ネギ坊主~~!」
「ネギく~~ん! もっと遊ぼうよ~~!」
「ハハハ」
……君たちのは“遊び”って言いません。
「『興味ありません』だって♪ カワイ~~」
「『イギリス紳士』アルよ~~」
「でござるな~~♪」
3人は、クスクスと笑った。
「さて、そろそろ上がるでござるか」
「おぅ。マキエ、行くアルよ」
「うん。……あれ?」
ふと、まき絵は何かを見つけた。
「どうしたでござる? まき絵殿」
「ちょっと見て二人とも。ほら、あれ」
そう言って、まき絵は“それ”を指差す。
―――湖に、プカリと不自然に浮いた、奇妙な突起物。
ただの岩に見えるが、見ようによっては“突き出た肋骨”にも見える。
「……なんだろ、あれ」
「ただの岩でござろう。さ、早く上がるでござる」
「じゃないとふやけてしまうネ」
そう言って楓と古菲は手早く身体を拭き、タオルを巻いて、岸に上がろうとする。
まき絵も身体を拭いて上がろうとした、そのときだった。
ザバァッ!!
「え―――――――――」
音に気がついて振り返った瞬間、
「きゃあああああああああああああああああ―――――――――――っ!?」
まき絵の身体は、巨大な“手”に掴まれていた。
「マキエ!!」
「まき絵殿!!」
思いがけないものの登場に、二人は驚愕した。
「これは―――!」
「この間の『土人形』で、ござるな」
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
正解、とでも言いたそうに、咆哮する『土人形』。
「いやああああああっ!! 助けてぇ! 誰かぁっ!!」
まき絵は半狂乱だ。
「まき絵殿、落ち着くでござる! ―――くー!」
「OKネ、カエデ」
ほんの僅かな目配せの後、二人は疾走した。
―――友を助ける為に!
「唖唖唖唖唖唖唖――――――」
古菲は、滑るように走りつつ、気合を溜め―――
「哈ッ!!」
岩をも砕く一撃を、放った!!
ドンッ!!!!
「GAッ!?」
土の巨体に亀裂が奔り、上体が大きく傾いだ。
「勢ッ!!」
続けて、まき絵を掴んでいる腕めがけ、飛び蹴り。
たまらず『土人形』は、掴んでいた手を離す。
「キャアッ!?」
「よッ……と」
落ちるまき絵を、楓が空中で上手くキャッチ。
「GUAAAAAAAAAA!!」
だが『土人形』は無理矢理二人を捕らえようと、強引に腕を伸ばす。
「―――しつこいでござるな」
楓の腕が霞んだ。
ズガッ!!
「GAAAAAAッ!?」
「大人しく其処で寝ているでござるよ」
楓の放った棒手裏剣が『眼球』に突き刺さり、バランスを崩した『土人形』は、派手な水飛沫を上げて倒れた。
「ゴバッ! ゴバッッ ゴ……」
『土人形』は仰向けになったため起き上がれず、しばらくもがいていたが、やがて動かなくなった。
(まだ動いている『土人形』が居た―――あのときの“黒フードの男”と、何か関係があるでござるか?)
尋常ではない禍々しい殺気。それを思い出しただけで、楓は背筋がゾッとした。
「―――み、皆さ――――――ん!」
そんなことを考えていると、遠くから幼い担任の声が聞こえた。
恐らく、先程まき絵が上げた悲鳴に気がついたのだろう。
「さっきの悲鳴は何だったの!?」
同じく駆け寄ってきた明日菜が、慌てて訊いた。
「“あれ”でござるよ」
楓は、湖で沈黙している『土人形』を指差した。
「“あれ”? ……って『ゴーレム』!? どうしてこんなところまで」
「恐らく、まだ残っていたのが此処に迷い込んだのでござろう」
「そ、そうなんですか……あ、それで皆さん怪我とかは?」
「心配無用ね。こう見えて私とカエデは頑丈アルね」
「……答えになってないです……」
何処にあったのか、紙パックの『チェリーコーラ』を飲みながら、夕映は静かにツッコんだ。
「………しかし妙ですね」
「どうかしたん? 夕映」
「これはどう見てもただの鉱物の塊です。常識から言って、そんなものが動くとは―――」
「あ、危ないですよ! 夕映さん!」
好奇心から『土人形』に触れようとする夕映を諌めるネギ。
と、その瞬間!
――――ピクン!
「え?」
「危ないッ!!」
咄嗟にネギは、夕映を抱えて無理矢理跳んだ。
が、避けきれない!
ジュボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!
突然、湖が爆発した。
「フぅ―――間一髪でござったな」
「な、長瀬さん、あ、ありがとうございます………」
爆発に巻き込まれたかと思われたネギと夕映は、楓によってその命を救われた。
幸い、水飛沫はさほど遠くへは飛んでおらず、明日菜をはじめ他の皆は無事だった。
「こ、これは……“水蒸気爆発”!?」
夕映は驚愕に目を見開いて、言った。
通常、水(液体)が蒸発して気体なったものが水蒸気であるが、これはゆっくり加熱した場合。
水(液体)を局所的に、一気に加熱すると、瞬間的に状態変化が起こり、爆発を起こすのだ。
更に付け加えるなら、これは主に火山などで起こる現象であり、
マグマの通り道でも何でもないこの麻帆良で、このような現象は絶対に起きない。
「―――第一、もしそんな所だったら、私たちは此処に落ちた時点で消し炭になっています。これは一体……」
どういうこと、と言おうとした夕映の口は、固まった。
ズ・ズ・ズズズズ……………………
ゆっくり、ゆっくりとだが、『土人形』が徐々に起き上がっていく。
「う……そ………」
「く……あれでは浅かったでござるか……………っ!」
ネギは唖然とし、楓は歯噛みした。
「GWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウゥゥゥゥゥ………………!!!!
『土人形』の怒りの咆哮と共に、背中から超高温のガスが吹き出た。
「!! まずいです! 楓さん!! 皆さん!! 逃げるです!!」
その叫びに、反対する者がいるはずもなかった。
「キャ―――――――ッ!! イヤ―――――――――――――ッ!!」
「熱・熱・熱・アツ――――――ッ!!」
「いや、それどころじゃないって――――――――!!」
「くッ……」
駆けながらネギは、後方を振り返った。
そこには、一歩・一歩と、大股で追いかけてくる、熱風を放つ『土人形』が。
(ううッ……魔力さえ戻れば魔法で『ゴーレム』を足止めして、一気に逃げられるのに………ッ!!)
それをやったら、魔法がバレて強制帰国………などと、そんなことを言っている場合ではない。
非常事態なのだ。教え子達の―――人の命が懸かっているのだ!
(くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――ッッッ!!!!!!)
ネギは呪った。何もできず、無力な自分自身を。
ネギは怒った。魔法を封印するという、軽率な行動をとった、自分自身に。
「あッ!!」
最悪なことに、ネギは砂中の本棚に足をとられ、転倒した。
「!! ネギ坊主ッ!!!」
「ネ、ネギ君!!」
誰もがその名を叫ぶが、手遅れだった。
『土人形』の、握った拳が、
無慈悲に、
振り下ろされ――――
「うあああああああああああああああ―――――――――――ッッッッッ!!!!!!」
――――た。
「ネギ―――――――――――――――――ッ!!!!!!!!」
悲痛な叫び声は、凄まじい轟音に掻き消された。
視界に映る全ての速度が落ち、ゆっくりとコマ送りを見ているような錯覚に、ネギは陥った。
―――死にたくない―――
ネギはそう思った。
だが、ゆっくりと襲い掛かる巨石の拳は、止まらない。
衝撃と、その後に来る死を覚悟し、ネギは目を瞑った。
ヒュウウ…………ウウン……!
一迅の風が吹いた。
「――――――ッ!?」
何かに、襟首を掴まれ、強引に引き上げられる。
直後、天地が引っくり返ったような、浮遊感。
遅れて、爆音。
音は遠い。
一秒後、ズン、という着地音と衝撃。
だが、ネギに痛みはない。
ズザザザザ――――…………と、地面と何かがこすれる。
そして、
「―――――っは~~~~~~…………どうやらギリギリセーフ、みたいだな」
聞こえたのは、副担任の声。
「グ……グレン先生!!」
そこに居たのは、紅いマフラーの男、“グレン・MD・サマーフィールド”。
「どうやら苦労しているみたいだな、ネギ君。それにみんな」
安堵と共に、グレンは言った。
つづく
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