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第十六幕 『魔王とドロン』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:05/19-10:31 No.545



よく晴れた、春休みの昼下がりの麻帆良学園。

そんないい天気にも関わらず、部屋から出ない―――もとい、出られない男が一人。

「うう………まさか一週間以上後に後遺症がでるとは……油断した………」

ベッドで臥せっている者は、名をグレンと言った。

「だ、大丈夫ですか? グレン先生」

その傍らで少年―――ネギが、心配そうな声で言う。

「うう……すまないネギ君。今日は一緒に学園見学、できそうに無い」

この日、グレンはいわゆる筋肉痛で動けなかった。

考えられるものとして、図書館島での無理矢理な動きが原因かと思われる。
更に【進化】した際の副作用である体力の低下も加わったため、
常人では決してありえないほどの筋肉痛に陥ってしまっているのだ。

「そんな、気にしないでください。アスナさん達には僕が説明しておきますから……」
「ああ……神楽坂たちに、宜しく言っておいてくれ」

「わかりました。じゃあ、お大事に」

そう言うとネギは、部屋を出た。

「うう……何たる無様か。たかが筋肉痛ごときで……ハウッ!?」

だが辛いんだな、これが。

「くっ………こんな不様なところ、奴にだけは見られたくないな」

グレンは誰にも聞こえない声で、ボソリと呟いた。






―――某所。とあるパーキングエリアの真ん中にて。

「ブエッキシッ!!」

男が、突然盛大なクシャミをした。

『        ?』
「ああ、どうせ『伯爵』のオッサンがオレの陰口でも叩いてんだろ。ったく、あのチキン野郎め」

男を案じるかのように発せられた電子音に、男は返答する。

『         ♪』
「って、笑うなよ!!」

傍から見れば、ただデカイ独り言を言っているちょっとアブナイ人にしか見えないのだが、本人はマジだ。
幸い今は“彼ら”しか人はおらず、そう思う人間は誰もいなかったが。

「そんじゃ行くぞ、【ベヒーモス】」
『   、   』

そう言うと、アッシュは【相棒】に飛び乗った。






『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第十六幕 『魔王とドロン』






場所を移そう。
ここは、とある山中。

ビシュッ! 

何か黒い物体が、飛んでいる。

ビシュ、ビシュ!

よくよく見れば、その物体は細長い棒状の―――手裏剣だった。

狙いは、川。

「ほいっ」

ボチュンッ、ボチュンッ!

水中にめがけて放たれた棒手裏剣は、やがて現れた者の手により、獲物と共に回収された。

「うん、こんなところでござるな」

麻帆良学園女子中等部2-A出席番号20番、長瀬 楓である。
美しき中学生サバイバー―――もとい、甲賀中忍である彼女は、例によって山篭りの最中であった。

「あちゃ、火が消えてしまっているでござるな」

彼女はここで、いつものように修行していた。

「ええと、着火マン、着火マンは、と…………どこでござったかな―――お、あったあった」

いつものように食料と採り、いつものように食事をし、そしていつものように修行する。
そんな、左程変化が起きないこの山中で、


ズドガゴンドラドカガバッシャ―――――――――――――――ンッ!!!!


「!?」

かなり場違いな騒音が響いた。

「何でござるか、今の音は…………ヘリでも落っこちたのでござろうか?」

野次馬心に駆られ、音のした方向に急ぐ楓。
木々を飛び越え、飛び越え、飛び越えた先に、彼女が見たものは―――

「…………犬○家?」

清流の真ん中から、Vの字に突き出た人の脚だった。脚の長さから推測するに、大人だ。

「随分と(いろんな意味で)物騒な溺れ方でござるなぁ…………」

放っておくのも気が引けるので、楓はその人を引き上げることにした。
鉤縄を引っ掛け、その縄を、適当な太い木の枝に引っ掛けて、引っ張り上げる。

「っと、よい―――しょっと………」

ザバぁ!

「―――ボばハあァッ!!!?」

引き上げられたのは、黒いライダースーツの上に革のジャケットを羽織った男。
逆さ吊りの状態で一気に水を吐く。

「ゲホッ、ゲホッ………………あ~~~死ぬかとおもった――――!!」

開口一番で、男―――アッシュは、盛大な声を上げた。

「大丈夫でござるか?」
「う゛~~………ってか、誰だ? お前」

「拙者は、長瀬 楓。一応、お主の恩人ということになるでござるかな。……で、お主は何者でござるか?」

「(ござる? ………変な喋り方するオンナだな……)アッシュだ。ファミリーネーム(苗字)とかは無ぇ」


これが、アッシュと楓の、奇妙な出会いだった。




「っ~~! いやいや、助かったぜ。
真逆、革ジャンが水を吸うと、あんなに重くなるなんざ思わなかったんでなぁ!」

アッシュは、渡されたタオルで髪を拭きながら、カンラカンラと笑った。
今のアッシュの格好は、ライダースーツを上半身だけ開放して、黒いTシャツというものだった。
ちなみにグローブとブーツと革ジャンは、脱いで隣で自然乾燥中。

「そういえば、アッシュ殿は如何して川なんかで溺れていたでござるか?」

塩焼きにした岩魚を手渡しながら、楓がそう切り出した。

「ん? ………ああ、そりゃ……その、なんだ……」
「?」

「―――――居眠りこいててバイクから落っこちたに決まってんだろ」
「……別に自信満々に言うことではないんだと思うのでござるが……しかし、よく無事だったでござるな」

………普通は大ケガだし。

「当然だ。オレはそこらの雑魚とは鍛えが違うからな」

………いや、だから威張るトコとちゃいますて、ダンナ。

だが、今の言葉に楓は反応した。

「ほほう? アッシュ殿は、武術か何かを?」
「武術っつーか、我流みたいなモンだけどな」

「ほほう~~~?」
「…………………んだよ、その目つきは」

「いやいや、拙者はもともとこういう目つきでござるよ?」
「ならいいんだけどよ。あ、もう一本サカナもらうぞ」

「あいあい♪」

ガツガツガツガツ…………

「ぷふ~~~! 食った食った「ときに、アッシュ殿。一つ頼みがあるのでござるが」……? 何だよ」

歯に挟まった小骨を取りながら、アッシュは訊き返した。

「拙者の修行につきあっていただけないでござろうか?」
「……………はぁ?」

露骨に、何それ? という顔をするアッシュ。

「何、大したことはないでござる。ほんの食後の運動でござるよ」

アッシュは顎に手を当て、一瞬考える素振りをし、

「………まあいいがよ。で、具体的に何やんだよ?」

答えた。

「ふむ……それでは―――」

そう言うと、楓は―――

シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ♪

おもいっきり分身した。

「おおおおおおおッ!?」

さすがにこのような事態は予測していなかったらしく、アッシュは驚いた声を上げた。

「「「「「「「「まず、山の幸でも採りにいくでござるかな?」」」」」」」」

「お、おう! (す、すげ~~~~……)」

こうしてアッシュは、楓と夕食の食材集めに行くことなった。





数時間後。

「いや~~~アッシュ殿のおかげで大漁でござるよ♪」
「そうか、そりゃ良かった(まあ、退屈じゃなかったしな)」

山菜やらキノコやらの入った籠を背負い、2人はテントのある所に戻る。
と、ふとあることに気がついた。

(この臭ぇ“匂い”………真逆)

「どうしたでござる? アッシュ殿」
「なんでもねェ」

そっけなく答え、もう一度嗅覚を行使したが、“匂い”はすでに消えていた。
だがアッシュは、その“匂い”の元手が気になった。

(気のせい……ってワケねぇか……夜中んなったら探してみるか)

兎に角、アッシュは夜を待つことにした。





丑三つ時。

外で寝ていたアッシュは、寝袋から這い出す。

「…………………………………」

アッシュは楓のいるテントの傍で聞き耳を立てる。聞こえるのは、規則正しい寝息。

「………………おし、熟睡してるみたいだな」

確認すると悟られぬように、しかし素早く移動する。

やがて、テントも見えなくなったところで、アッシュは一言。

「…………出て来いよ、オレはここにいるぜ?」

―――変化はない。

「何のつもりだか知らないが、てめェの“匂い”は我慢ならねぇ。―――出て来やがれ」

壮絶な笑みと共に、限定された一箇所―――目の前の草むらに、殺気を放つ。

―――変化はまだない。

「――――――てめェなんだろ? 昼間、オレに一発かましてくれたのはよォ……………」

そう。
楓の前ではああ言ったが、アッシュが川に落ちた理由は、居眠りをしていた為では決してない。
【ベヒーモス】で薄暗い山道を走行中に、突然何者かに横からの一撃を受け、放りだされてしまったからだ。

―――変化は、

「――――――あ~~ら、よくわかったわね」

―――起こった。

草むらの中から出てきたのは、一つの影。
その姿は、猿のような“強化スーツ”を身に纏い、サングラスをかけた、オカマ口調で喋る人間大の生物。

「やっぱてめェか、クソエテ公…………」
「あ~~ら、言うじゃない。下らない“誇り(プライド)”とやらの為に人間の姿になっちゃったおバカさん」

奇妙な生物―――エテモンは小馬鹿にしたように言った。

「人間の小娘なんかと遊んじゃって。随分いいご身分ねぇ~~~」
「………るせェッ……! 関係ねぇだろ、ンなこと。………何のマネだって訊いてんだよ」

「そうねぇ~~~ま、強いて言うなら――――――テメェ、目障りなんだよ」

オカマ口調から、いきなりドスのきいた声で喋りだすエテモン。

「小童のクセに“究極体”? それも“魔王”? 
クソみてェな使い方しかできねぇクセにシャシャリ出てんじゃねェよ餓鬼が!!
 テメェにそのチカラは勿体ねぇんだよ!! さっさと、あちきに斃されてそのチカラ渡しやが―――」

ゴッ!!

「グヘッ!?」

エテモンの台詞は、アッシュが放った拳によって中断された。

「………ゴチャゴチャと何ぬかしやがるかと思えば……クソくだらねぇんだよ!! 
ようはてめェがザコすぎるだけだろうがッ!!」

アッシュは怒鳴った。
その言葉を聞き、エテモンは己の鼻を押さえ、

「………こ、この……クソ餓鬼ゃああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

絶叫した。

「死ねやぁぁぁああああぁぁぁああああぁぁぁあああぁああッッッッ!!!!」

エテモンは暗黒の球体を形成。オーバースローで、アッシュめがけ投げつけた。

「当ったらねぇよ!!」

それを、軽やかなステップでかわすアッシュ。
すかさず、両手を闇色のオーラが包み、手の形に添って悪魔の爪となる。
アッシュはそのまま両腕を振るった。

「【魔刃爪(ダークネスクロウ)】!!!」

光すら引き裂く魔爪が、エテモンを直撃する。

「何ッ!?」

だが魔爪は、スーツを僅かに削っただけに終わった。

「ハッハッハッ! バァ~~~カ!! 
こんなこともあろうかと【サルスーツ】の耐久性を強化してあるんだよッ!!」

「っってぇッ!! んなことしてるヒマがあるんだったら他のデジモンのデータでも吸ってろ!! 
だから何時まで経っても、てめェは“ヘッポコ完全体”なんだよッ!!」

「煩ぇッ!! テメェを斃れせば良いんだよ!! 黙って吸われちまいなアッ!!」

言うなり、ドカドカと暗黒球体を放つエテモン。

(ッ!! せめて【べレンへーナ】さえありゃあ!!)

球体をかわしながら、アッシュは胸中で毒づく。
だが、肝心のそれは【ベヒーモス】の“中”だ。
走行中に落ちたりすると危ないので、【ベヒーモス】内に収納していたのが裏目に出た。

スーツに対して効かないのだったら、顔面に攻撃を叩き込めばいい話なのだが、
いかんせん的が小さい上、チョコマカと動き回るため、得策とは言えない。

(0.2秒……いや、0.1秒でもいいから動きが止まりゃあ……ッ!!)

「オ―――ッホホホホホホホホッ!!!! そらそらッ! 逃げなさいッ!! 逃げ惑いなさいッ!!」

気分がノってきたのか、オカマ口調に戻るエテモン。
そのときだ。

ヒュウンッ!!

「ホホホホホホホホホホ―――ホ?」

気がつけば、むき出しのエテモンの顔に、三本の黒い棒―――棒手裏剣が突き刺さっていたのは。

「いげぁぁぁぁ亞アアア嗚呼あァアアア嗚呼嗚呼あああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?」

顔を押さえ、もがき苦しむエテモン。

(今だッ!!)

その隙を、アッシュは見逃さなかった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!!!!!!」

振り上げた拳を、その猿ヅラに、叩き込む!!

「【鬼刃皇拳(ブラッディーノヴァ)】ッ!!」

ゴシャァッ!!

闇のオーラを纏った拳が、エテモンの顔面を捉え、


「あぶひゃあああああああああああああああ――――――――――――…………………!?!?」


――――夜空に、星が一つ増えた。





「――――~~~~~ッッハ~~~~~~~ッ! ……ゼェ、ゼェ、ゼェ………」

疲労が、ドッと押し寄せてきた。
たまらず、地面に横になるアッシュ。

(くそッ……この技使っただけでコレかよ……ほんっっとに使えねぇな、“人間の身体”は……)

「―――大丈夫でござるか?」

それを上から覗き込みながら、一人の忍が言った。

「っていうか、何で、ここに、いるんだよ、オマエ………」
「ん~~~アッシュ殿が夜中に何処かへ行くから、気になって後をつけたんでござるよ」

(アホかッ!!)

と、声に出そうとしたアッシュだったが、あまりにも疲れたので、言うのをやめた。

(っていうか狸寝入りだったのかよ……ったく冗談じゃねぇ)

代わりに、胸中で愚痴る。

「で、さっきのアレは、一体何だったんでござるか?」
「……知らん。ただの変態妖怪だ。そういうことにしとけ」

説明が面倒なのか、語りたくないのか、アッシュはぶっきらぼうに答える。

………あながちその表現は間違ってはいないが……その表現は拙くないですかい、ダンナ。

「ふむ。まぁ、そういうことにしておくでござる」
「ヘッ……!」

楓のその答えに、アッシュは鼻で笑ったが、不思議と悪い気分はしなかった。

「ったく………こんなザマ、ヤツにゃ絶対見せらんないって―――の」

アッシュは、誰にも聞こえないように、ボソリと呟いた。





「―――ん?」

楓は奇妙な音に気がついた。

「アッシュ殿? 何か妙な音が―――」
「あ? 音ォ? 別に何も―――」

ブロロロロ……ン

「この音は……【ベヒーモス】!!」

アッシュは疲れも忘れ、跳ね起きた。
間もなくして、乗り手のいない大型バイクがその姿を現した。

「おまえ、無事だったのか!?」
『   !    !』

肯定を表す電子音を奏で、バイクは答えた。

「あっはっはっはっは! そうかそうか!」

それにアッシュは嬉しそうに答える。

「アッシュ殿は、バイクと話せるでござるか?」

気になった楓は、訊いてみた。

「まぁな。こいつはオレの【相棒】だからな。話ぐらいできる」
「なるほど~~~~……世の中は広いでござるな~~~」

………いや、納得するの? 






そして朝。

「で、アッシュ殿はこれから如何するでござる……?」
「ん? そうだな……【ベヒーモス】も見つかったことだし、帰るかな」

「……そうでござるか」

少し残念そうに、楓は言った。

その表情を見てしまったアッシュは―――

「――――だが、帰っても特にやることもねぇしなぁ……」

と、口走った。

「え?」

そう言うと、アッシュは楓の方を見て。

「………ま、もう少しオマエの修行とやらにつきあってやるよ」

「―――――――アッシュ殿………」

「あ、勘違いすんなよ? オレはそういう意味で言ったんじゃねぇからな!」
「? そういう意味? どういう意味でござるか?」

「んがッ!!」

見事、墓穴。

『    ♪』
「はははっ♪」

「うっさい!! オマエら笑うなコラァッ!!」



(まったく…………ホントこんなザマ、ヤツにゃ絶対見せらんね―――よ)

だが、不思議と悪い気はしなかった。




つづく。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回予告

さて、舞台は変わって新学期。
進級しても相変わらず元気のいい3-Aに振り回される、ネギとグレン。

そんな最中、巷に広まる【吸血鬼】の噂。
『満月の夜に現れる、血まみれの吸血鬼』

それと同時に起こる、謎の怪事件。
真相を掴むべく、手がかりを探すネギとグレンの前に現れたのは――――――!?

次回、
『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第十七幕 『桜並木の吸血鬼』


お楽しみに。

魔法先生と紅蓮の聖竜騎士  ~X-EVOLUTION ANOTHER~ 第十七幕 『桜並木の吸血鬼 前編』

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