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第二十幕 『お騒がせ妖精(トラブル・フェアリー)、参上! 後編』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:06/15-10:24 No.745


寮のとある一角にて。

「――――結局、侵入者は見つからず仕舞い、か」

やれやれ、とエヴァは肩をすくめた。

「如何なさいますか? マスター」

傍で従者―――茶々丸が尋ねた。

「まぁ、気配からして、所詮“小者”クラスだ。
じじいにも報告したことだし………放っておいて構わんだろう」

「かしこまりました、マスター」
「さて、夜の分の仕事もあることだし………帰るぞ、茶々丸」

そう言って、帰路に着こうとしたとき、

「――――コラコラ。勝手に先に帰るな、エヴァ」

背後から、声がかけられた。

「…………お前はストーカーの気でもあるのか? グレン」

エヴァは、ムッとした表情で振り向いた。

「酷いな……心外だぞ」

ハッカパイプを咥えながら、グレンは呻いた。

「用件は――――ああ、昼の続きか?」
「そうだ。実は、昨夜――――――」

グレンは、事の内容を話し始めた。






「も~~~……ネギ――――ッ!? ネギ―――――ッ!!」

そして同時刻。

明日菜は、いなくなったネギを探すべく、大声を上げながら寮内を駆け回っていた。
なんか、前にもこんなことがあったような……などと思いつつも、しっかり探している辺りは彼女らしい。

「それにしても、どこに行ったんだか………ネ――――」

もう一度、ネギの名を呼ぼうとしたとき、明日菜は気付いた。

(………グレン先生……と、誰?)

曲がり角の向こうで、グレンが誰かと話している声が聞こえた。
明日菜は、何となく息を潜め、そろそろと聞き耳を立ててみた。






『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第二十幕 『お騒がせ妖精(トラブル・フェアリー)、参上! 後編』






―――昨夜、都内で“猟奇殺人”が起こった。

話は、ここから始まる。
時は未明。場所は―――都合上、“都内のどこか”としか言えない。
被害者は二十代の女性………だった。
話を聞くところによれば、駆けつけた警察は皆、あまりの惨状に、思わず目を背けたらしい。

全身を鋭利な刃物で―――メッタ刺し。

刺し傷はもはや数えるのも不可能な数で、身元もわからないありさまだったという。

ただ一つ奇妙な事は。

それだけの惨状にも関わらず、
遺体の周りには“血痕一つすら発見されなかったこと”だった―――――






「…………以上だ」

数分ほど一気に話したグレンは、少し間を置くためにハッカパイプを一服した。
対するエヴァの感想はというと、

「フン、下らん話だ。私には関係のないことだな」

と、随分素っ気の無いものだった。

「だがエヴァ、これは君「私は“関係ない”と言ったぞ、グレン」……しかし………」

これでは君が不利だ、とグレンは言った。

「すでに、学園内の魔法使いの何人かが―――エヴァ、君が犯人ではないか、
という疑いを持ち始めている」

「ハ―――莫迦だな。私が本当に【登校地獄の呪い】を解いて自由になってるのであれば、
この学園に用など無いし、第一、それなら、ぼーやを襲う算段など、今更練るものか。
そんな簡単に解ける【呪い】なら、誰も苦労はしない」

そもそも、見知らぬ人間をメッタ刺しにした後、血を吸い尽くす―――
そんなゲテモノ嗜好など持ち合わせていない、とエヴァは付け加えた。

「―――それで? お前は如何するんだ?
真逆、莫迦どもの話しを真に受けて、私を殺す、などと言ったりしないだろうな」

「それこそ“真逆”、だ」

「フッ―――いいのか? 私が嘘を吐いているかもしれないんだぞ?
なんてったって私は『悪い魔法使い』なんだからな」

エヴァは、嘲笑を浮かべながら言って、

「自分を卑下するなよ。君はそんな事をする“人間”じゃない」

「ッ…………」

グレンの見透かすような瞳に、押し黙った。

「フ……ン……なら、そこに居る奴にも、そう説明して納得してもらえ。
―――なあ、神楽坂 明日菜?」

「―――え?」

グレンが後ろを振り向くと、角の陰から不承不承といった体で出てくる、明日菜の姿が。

「か、神楽坂? 何時からそこに……」

「……神楽坂さんは、最初から聞かれていました。
……分かっていて、お話しになったのではないのですか?」

「いや、俺は“気配”とか“熱源”よりも“匂い”で探知する派だから………
そうか。“風下”だったから分からなかった」

と、茶々丸とグレンが話している横に、

「ち、ちょっと! さっきの話―――何なのよ!? ネギを何処へやったの!?」

明日菜の疑問が、エヴァに飛んだ。

「何だ、今日はやけに詮索屋だな、神楽坂 明日菜。だが、あれこれ欲張るのは良くないぞ?
それほどあの“ぼーや”のことが気になるのか?」

くくっ……と、小さく笑いながら、エヴァは言った。

「う、うるさいわね! そんなのどうだっていいでしょ! 
答えなさい! ネギに何かしたら許さないからね!!」

「……先程の話のことなら、『何処ぞの痴れ者が、私を陥れようと事件を起こした』という話だ。
そして―――ぼーやの事なら知らんぞ」

仮に知っていたとしても、何もできんがな、とエヴァは付け足した。

「え……? どういうこと?」
「ホラ」

と、エヴァは自らの口を広げ、歯を見せた。普通の人間と何ら変わらない歯だった。

「今の私では、満月を過ぎると、魔力がガタ落ちになるのでな―――
この通り次の満月までは、私もただの人間だ。
 今日ぼーやを襲ったとしても、何もできん―――どうだ、満足したか?」

「う…………」

怯む明日菜に、フンと鼻を鳴らし、勝ち誇ったふうに言うエヴァ。

「フ……ぼーやを探すんだったら、そこのグレンにでも頼むんだな。
―――私は、これから仕事があるので失礼させてもらうよ」

「仕事……? ……ってまだ話は終わってな「―――――エヴァ!」い……」

だが明日菜の声は、(決して大きくもない)グレンの声によって遮られた。

「――――“夜道”に、“気をつけろよ”?」

「……フン、誰にモノを言ってるつもりだ?」

肩越しに振り返ったエヴァは、不敵に笑って去っていった。






エヴァジェリン達が去った後。

「……さて。行こうか、神楽坂」
「って、ちょっと待って先生!」

スタスタと行こうとするグレンに、明日菜は講義の声を上げた。

「どうかしたか?」

首だけこちらを向いて、グレンは答えた。

「グ、グレン先生は……その……どっちの味方、なの?」

エヴァ側か、ネギ側か。

昨日は協力してくれたけれど、次は如何だか判らない。
得体の知れなさではこの人も、エヴァンジェリンと同等か、それ以上なのだ。

図書館島の時だって、そうだ。
わけのわからない怪物が出た時も、「落ち着いている」というより、完全に「慣れている」ようだった。


………あと、普通に戻ってきたし。


「答えて……!」

明日菜はグッ、と身構えた。
グレンは、「答えろと言われてもな……」と口ごもり、

「そんなこと決まっているだろう? 俺は――――――」

と、次の言葉を言おうとした瞬間、


「「「キャ―――――――――――ッ!!」」」


「えっ!?」
「悲鳴!?」

寮の内部――――大浴場から悲鳴が聞こえた。






大浴場『涼風』内にて。

「「「キャ―――ッ!?」」」

「あ、あわわわわわわわわわわわわ!」

ネギは、目の前で起きている光景に、おもいっきり困惑していた。

丁度、何者かに拉致され(笑)、大浴場で『元気づける会(という名の逆セクハラ?)』が始まり、
案の定もみくちゃにされていた時だった。

突然、皆が着ている水着が、小さな“何か”によって“脱がされ”ていったのだ。
あまりにも速すぎる為、姿までは確認できなかったが、“何か”は二匹(?)いるようだった。

しゅるるっ

「いや―――ん!」


…………あ、またもや新たな犠牲者(?)が! ……それにしても早技だなこりゃ。


(なななななッ!? これは一体何事――――――ッ!?!?!?)

ネギが、混乱の極みに達しかけた、そのとき。

「ネギ! どうしたのよ!!」
「ア、アスナさん!!」

入り口より明日菜参上!

―――キランッ!!

乱入してきた明日菜に、“何か”達は反応し、標的を変更。

シュシュンッ!!

螺旋にも似た軌道を描き、明日菜めがけ飛び掛る。

「!!」

反射的に明日菜は、

スパココ――――――ンッ!!

手にしていた洗面器で、“何か”をブッ叩いていた。

「「!?」」

振り抜くは一度。
されど打撃音は二つ。

「おもわず、達人もビックリ!」級の、それはそれは素晴らしい振り抜きっぷりだった。

が、向こうも速かった。

バラララッ

「!?」

ベストとブラウスのボタン、制服のリボンが、思い出したかのように外れ飛ぶ。
状況不利と判断したのか、“何か”達は湯煙に紛れ、一目散に逃走した。

「な……何よ、今の小さいのは……」

一瞬、イタチと、ボールのように見えたが。

その“何か”達の去っていった方向を、唖然とした表情で明日菜は見つめた。


……………………パチパチパチパチパチ


ここで漸く拍手が鳴っている事に気付き、我に返って、明日菜は振り返る。

「…………」
「「「……………………」」」

素晴らしき(?)沈黙タイム。

で、

「コラ―――――ッ! あんた達も、素っ裸で何やってるのよ―――! 
ネギまで連れ込んで―――――!!」

「いいいいえアスナさんッ! これは誤解ッ」

「元気づける会なんだよ―――――っ!!」

―――結局再び大騒ぎ、なのであった。






一方。

「――――痛ぅ~~~……真逆あんな反撃が来るとは……」
「――――予想外だったっぴ~~~~~」

駆けながらも、頭を「サスサス」とさすっているのは、カモとピィ。
先程の一件は、この二匹の仕業である(って、言わなくても判るか)。

「ここは一先ず外に出て、ベランダとかからの進入に切り替えるべ!」
「おお、そうしようっぴ!」

そう言って、大浴場から飛び出し、通路を曲がって非常階段へ―――という所だった。

―――――――シュッ!!

風が吹いた。

「ぷぎゃっぴ!?」
「にゅべるッ!?」

突然、二匹は奇声を上げて、動きを封じられた。
ピィは鷲摑みに、カモは踏みつけられて。

「…………? 何だ? フェレットに―――毛玉か?」

と、疑問系で呟いたのはグレンである。


何故グレンがここにいるのかというと、幾ら何でも大浴場の中に入るのは問題があるので、
入り口付近で待機していたのである。

万が一不審なモノの“匂い”を感じたら、何時でも飛び出せるようにしてあった。

―――で、感じたので飛び出した → 何か影が出てきたので捕まえた → 今に至る
というわけである。


「離せっぴ! オイラを喰っても美味くないっぴ~~~!!」

「いや、誰も喰うとか言ってないし――――って、「ぴ」?」

グレンは鷲摑みにしていた毛玉―――もとい、生き物を凝視した。

ピンクの体毛につぶら(?)な瞳、背にある小さな羽。
そして―――今まで描写がなかったが―――頭(額?)に、『白い十字傷』のようなものが走っている。

「お、お前、“ピッコロモン”の“ピィ助”か!?」

グレンは、おもわず大声を出していた。

「……ぴ? オイラをその(ダサい)名前で呼ぶのは……
ひょっとして、“デュークモン”様ですかっぴ!?」

「ああ、久しぶりだな。【魔法使いの世界(ウィッチ・チェルニー)】以来か」

「そうっぴね~~~♪」

和気藹々と話すグレンとピィ。
そんな一人と一匹に、

「………ど、どうでもいいから、この足を退けてくだせぇ~~~~………」

オコジョ妖精はうめき声を上げた。





「ふ―――――……また今日もドタバタな一日だったわよ……」

漸く大騒ぎが終わり、大きく息を吐く明日菜。

「でも、皆さんのおかげで少し元気が出ましたよ」

フォローのつもりか、ネギは笑顔で答えた……が、やはり無理をしている顔だ。
本当に「少し」しか出てないな、元気。

「―――こんばんは。ネギ君、神楽坂」
「あ、グレン先生。こんばんは」

と、返事をしたのはネギだけ。明日菜は警戒の眼差しで、グレンを見た。

「何か用ですか?」
「ああ、ネギ君に会いたいという者がいてな。案内してきたんだ」
「僕に?」

ネギは首を傾げた。
と、

「俺っちッスよ、ネギの兄貴!」

ヒョコッとグレンの肩から顔を出した者がいた。

「あ――――っ! カモ君!!」
「兄貴―――! 会いたかったッスよゥ~~~!」


…………再開を喜び合う一人と一匹。
おおっと!? 感動のシーンに良くあるキラキラフィルターが!? 
ここってそういう場面だったっけ!?


「あ、あれって、さっきの!? ……あれ? じゃあもう一体は?」
「ここだっぴ」

明日菜が声のする方を見ると、オコジョが出てきたのとは反対側の肩から、何かが顔を出している。

「いや~~~さっきは見事だったっぴね、お嬢ちゃん」

はたして、コレに対する明日菜のリアクションは、

「………モ○ャ公?」
「誰が某“漫画の巨匠”のキャラかっぴ!!」


………いや、そんな説明しなくていいから。判るヒトも少ないだろうし。


「コラ、ピィ助。大声を出すな」
「“デュ”……じゃなかった、グレン様! オイラの事は“ピィ”って呼んでくださいっぴ!!」
「そう言われてもな……」

くらっ……

明日菜は、軽く眩暈を覚えた。

そりゃそうだ。
得体の知れないオコジョと“毛玉”が人語を解しているのだから。

流石に騒がしくなってきたので、ネギ達は部屋の中で、この二匹の【妖精】の話を聞くことにした。



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『仮想空間世界』―――“デジタルワールド”の何処か。


「―――そうか。“こちら側”での行方は、掴めなかったか」
「は、はい。申し訳ありません」

西洋兜に手と足が生えたような戦士型デジモン、【グラディモン】は深々と平伏した。

「………と、いうことは『現実世界』に抜けた可能性もあるか………」

金色に輝く鎧を纏った聖騎士―――【マグナモン】は、
顎に手を当てて呟き、グラディモンに命令を下した。

「捜索を続行。ただし、『現実世界』への干渉は、可能な限り避けろ。いいな」

「わ、判りました!!」

そう言うと、グラディモンはあっという間に走り去っていった。


ピロリロリ――――――ン♪


と、タイミングを図ったように、何かの電子音が小気味良く響いた。

「む、漸く『検索』が終わったか」

そう言うと、マグナモンは空間に指を走らせた。
マグナモンの眼前に、『情報の海』から絞り込まれた“新種”のデータが、
立体ディスプレイのように現れる。

現れたは良いが――――

「………ッ! これは!!」

その内容に、黄金の騎士は驚きを隠せなかった。
何故なら、この『デジモン』は………

「マグナモン様!」

と、その時。 先程とは別のグラディモンが駆け込んできた。

「どうした? 何かあったのか?」
「ハッ! 申し上げます! 何者かが【保管庫】に侵入、【聖剣】を奪って逃走した模様です!」

「【聖剣】を? ……判った。私も直ぐにそちらに行く」

慌てている部下とは対照的に、腑に落ちない表情をするマグナモン。

「……何故、今頃アレを? 
確かにアレは“力”を秘めてはいるが、アレは【奴】にしか扱えん筈だが……」

不審に思いつつ、『データ』を保存。閉じる。

「何か悪い事が起きなければ良いが……」

そう言うとマグナモンは、その場を後にした。














このとき。
マグナモンは夢にも思わなかっただろう。

―――その予感が、現実になることを。

しかし、今はそれについて語る時ではない。

―――今はまだ、その時ではないのだ。








つづく


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回予告。

お次は、ネギのパートナー探し!?
二匹の妖精が振りまく、お騒がせ騒動!
止めろ! ヤツラを止めろ!!

次回、
『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第二十一幕 『漢の使命!? パートナーをGETせよ!!』

次回は、サスペンス(絶対に違う)!

魔法先生と紅蓮の聖竜騎士  ~X-EVOLUTION ANOTHER~ 第二十一幕 『漢の使命!? パートナーをGETせよ!! 前編』

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