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第二十三幕 『ワカラヌコタエ 前編』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:07/19-11:23 No.944


―――グレンの自室にて。



「………明け方まで調べて……結局、手掛かりナシ、か……」
「すいませんっぴ」

「いや、仕方ないさ。
殺人ともなると、『残留思念』は被害者の“最期の瞬間”で塗りつぶされることが多い。
 悲惨な最期であればあるほどに、な」

グレンはハッカパイプを咥えながら、溜め息を吐いた。



………………見ての通り、グレンの調査は進展していなかった。



「ところで…………ピィ。聞きそびれていたんだが、何でこの【世界】に来た?」

腕を組み、グレンはそう言った。

「真逆、お前ほどの者が【世界】の規則を知らぬわけがあるまい?」
「……………」

「……別に咎めたりはしない。話してみろ」

少し語調を緩め、グレンは言い直した。

「………分かりましたっぴ……」

そして漸く、ピィは語り始めた。

「実は―――この【世界】に、降りた“デジモン”がいるっぴ」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「…………成程。マグナモンから知らせを受けてはいたが……それとは別のモノか?」

ピィの説明を聞き終え、グレンは顎を抱えた。

「そうですっぴ。…………“デュークモン”様、矢張り……」
「ああ。恐らく、『伯爵』が“ゲート”を開いて呼び込んだのだろう」

現状でそれ以外、思い当たる節はない。

「早く手を打たねば………もう既に、被害が広がっている」

グレンは、今朝の朝刊を睨んだ。


『路地裏に惨殺死体発見!』
『容疑者不明の猟奇殺人再び!』
『遺体は全身滅多刺し!』
『犯人は吸血鬼? 全身から血を抜かれた死体』
etc,etc…………

そんな見出しの記事が、新聞の一面を飾っていた。


そして、極めつけは――――最後の記事。

「如何いう心算か知らないが――――敵は、“吾”を怒らせたいらしい」

そう言うとグレンは、新聞をデスクに放った。



―――そこには、こうあった。




『壁一面の謎の血文字 【Un desafío a un caballero】とは!?』


「【騎士への挑戦】、か。―――――必ず後悔させてやるぞ、痴れ者が」






『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第二十三幕 『ワカラヌコタエ 前編』






「――――ったくもう!! 下着ドロのオコジョなんて、とんでもないペットが来たもんだわ!!」

「まーまー、きっと布の感じが好きなんやろ」

予鈴の鳴る中、不機嫌そうに愚痴る明日菜を、木乃香が嗜めた。

「んじゃ、ネギのパンツだっていーじゃない!!」

「ん~~~………女物やないと柔らかさとかがイマイチなんとちがう?」


…………いや、怒る気持ちは判らんでもないが、朝からその話題なのはどうかと思う。
つか止めて(筆者的に)。


(もう……ダメだよ、カモ君! 勝手にアスナさん達の下着をとっちゃ……
それと、あんまり喋っちゃダメだよ)

(え~~……だけどよ~~これは習慣つうか、なんつうか……)

(兎に角、なるべく騒がないでね)

と、こちらもこちらで、ネギとカモが会話のやりとりしている。




生徒達が各々、「おはよう」と挨拶を、交わす。
―――麻帆良学園は、普段通りの朝を迎えていた。




「……………」

昇降口でネギは、キョロキョロと周囲に視線を動かす。
些か、挙動不審な動作だった。

「…………? よう兄貴、さっきから何をキョロキョロしてんだよ?」

その様子を見かねたカモが、小声でネギに問う。

「えっ…………いや、ちょっとね…………」

ネギは引きつった笑みを浮かべ、言葉を濁した。

「なぁ~~に落ち込んでるんスか? 俺っちで良けりゃ相談に乗りやすゼ、兄貴!」

「うん………じ、実はうちのクラスに、ちょっと問題児が――――」

と、ネギが口を開いた、その瞬間だった。

―――背後に、二つの人影。




「―――――お早う、“ネギ先生”」




ぞくり。

「――――――――ッ!!」

首筋から、頬を這い上がるように、悪寒が奔った。

ネギは、即座に振り返った。

すると、そこには――――


「――――今日も、まったりサボらせてもらうよ」


金髪碧眼の『魔法使い』と、その『従者』が、いた。


「フフ……“ネギ先生”が担任になってから“色々と”楽になったな。
その辺は、ある意味“感謝”してるよ」


「―――エ……エヴァンジェリンさん!! 茶々丸さん!!」

(―――――!! コイツは!?)

カモが何かを感じ取ったが、そのことにネギは気が付かない。

「っ…………!!」

咄嗟にネギは、背中の『杖』を掴んだ。

「おっと……そう焦るなよ、“先生”?」

対してエヴァンジェリンは、余裕綽々だ。

「今ここで闘って……お前に勝ち目はあるのか? 
校内では大人しくしていた方が、お互いのためだと私は思うのだがな」

「ぐっ……」

ネギは反論出来なかった。

確かに、実力の差は歴然。
それは、この間の夜に、痛いほど思い知らされた。

「フ―――そうそう、“子供”は素直じゃないとな。………じゃあ、私はこれで失礼するよ」

そう言ってエヴァンジェリンは踵を返すと、「そうそう」と、思い出したように付け加えた。

「“くれぐれ”も、タカミチやグレン達に助けを求めようなどと考えんことだ。
 また、“生徒を襲われたりしたくはないだろう”?」

「うぐっ…………」

―――何一つ、反論出来ない。

ネギに出来た事といえば、震えるその手を、静かに下ろす程度の事だけだった。

「ではな」

エヴァンジェリンは、勝ち誇った表情で告げると、さっさと何処かへと行ってしまった。






「う……うわああ~~~~~~~~~~~~~~ん!!」

突然、ネギは走り出した。

「うわっ!? びっくりした……じゃなくて、待ちなさいよ、ネギ!」

その後を、明日菜は追いかける。

「ううう……言い返せないなんて、僕は先生失格だ……」

階段の踊り場で、項垂れながら嘆くネギ。

「兄貴! 気をしっかり!」

カモがいち早く、傍で声を上げる。

「……そうか! あの二人っスね!? 
あの二人がさっき言ってた問題児なんスね!? そうなんスね!?
何やられたんスか!? 嫌がらせっスか!? 不良っスか!? 校内暴力っスか!!?」

「ちょっ………ちょっとオコジョ、声大き……」

「許せねェ!! ネギの兄貴をこんなに悩ませるなんて!!」

一人で勝手に盛り上がるカモ。当然、明日菜の注意も耳には届いていない。

「舎弟の俺っちがブッちめて来てやんよォ―――っ!! 
ああ!? ぅだらァ! ゴラァ!? スッダボがあぁあぁあァ!?」


…………どこの―――いや、何時の不良だ、オマエは。
ひと昔のマガ●ンとかじゃないんだぞ。


当たっても、絶対に痛くなさそうな釘バットを振り回しながら爆走するカモに、ネギは一言。

「…………あのエヴァンジェリンさんは……実は【吸血鬼】なんだ……それも【真祖】……」



! ?



カモの表情が、劇画タッチで固まる。


…………おお、こういうのマ●ジンの漫画であったよな。


「く……故郷へ帰らせていただきます」
「コラ」

荷物をまとめて逃げようとするカモの尻尾を、明日菜はむんずと掴んだ。

「あんたね~~~一応ネギの“使い魔”として雇われてるんだから、真面目にやりなさいよ!」
「じょ、冗談ですぜ姐さん」


…………どうだか。さっきはかなり本気の目だったぞ?


「―――そしてその隣にいたのが『パートナー』の茶々丸さんで………
 僕はあの二人に惨敗して、今も狙われてるんだよ…………」

苦い表情で、ネギは言った。

(な~~るほど……さっきの二人に【契約】の力を感じたのはその所為か………)

先ほど、一瞬感じた気配の原因を理解し、納得するカモ。

「しっかし、兄貴もよく生き残れたなァ…………【吸血鬼の真祖】と言やあ、
古今東西でも最強クラスに入る“化け物”じゃないッスか」

「うん……アスナさんとグレン先生のおかげで、どうにか………」

「姐さんと赤毛の旦那が? そうなんスか?」

それを聞いて、カモは明日菜の方を見やる。

「うん………でも、何か魔力が弱まってるらしいのよ。
次の満月までは大人しくしてるらしいけど…………ところで“しんそ”って、そんなにやばいの?」

「ヤバイんスよっ!!!! っていうか、聞いたことないッスか? よくあるでしょ、ゲームとかで!」

「う~~ん……私、殆どバイトとかで忙しいから……あんまりそういうのは、ちょっと……」
「そうなんスか……」

哀しきかな、明日菜は苦学生なのである。


…………忘れていた人は、原作の第1巻(定価:390円(税別))・3時間目を参照のこと。
ちなみに私は忘れてました。(コラ


「ま、何にせよ………兄貴、安心しろよ。そーゆーことならいい手があるぜ?」

フフフ、とカモが不敵に笑う。

「えっ!?」
「何かあの二人に勝つ方法があるの!?」

カモの台詞に、ネギと明日菜は身を乗り出す。

「なァ~~~に、そう難しいことじゃねェ……
 ―――ネギの兄貴が、姐さんとサクッと【仮契約】を交わして、
 相手の片っ方を二人がかりでボコっちまうんだよ!!」


ど~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!


「「ええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」」

「これが一番確実なんスよ! 兄貴も、やられっ放しはイヤでしょう!? 
ここは一つ、心を鬼にして――――」

と、そこまで言ったところで――――



「――――――何莫迦な事を言っている」



スパンッ!!


「あっぽォゥ!?」

突如、横方向からツッコミが入り、吹っ飛ぶカモ。

「まったく………朝から下らないことを言うもんじゃない」
「グ、グレン先生………? 何も、カモ君をハリセンで叩かなくても……」

ややビビリながら、ネギは言った。

「ん? 何でそんな遠慮がちに言うんだい? ネギ先生」
「い、いやぁ………何となくですけど……何か怒ってませんか? グレン先生」

「怒ってる? 俺が?」

ハハハ、とグレンは笑い飛ばした。

「たとえ怒っていたとしても、俺はその怒りを身勝手に他人へぶつけるなんてことはしないさ。
そんなのは八つ当たりであって、最低な行為だ」

と、そこまで言った後、グレンは、

「そんなことより………もう予鈴は鳴り終わってるんだ。早く行かないと拙いぞ、二人とも」

「「ああっ!!!」」

途端に、ダッシュする二人。

「ああ―――っ! 兄貴! 待ってぇ―――!!」

その後を、カモが追う。



―――踊り場には、グレンだけが残った。















と、思うのは、少々早急である。

「グレン様? あの子について行かなくていいんですかっぴ?」

傍らで、ピィが訊ねる。
勿論、認識阻害の【魔法】を使用しているので、姿は見えない。

「ああ、今日は時間割の変更で、これから他のクラスの授業なんだ」
「そうなんですかっぴ………でも、さっきのカモっちの話……」

「ああ………」

ネギは今、教師としての責務と生命の危機に晒されて、心身共に追い詰められている。
このままでは、彼は誤った選択をしてしまうだろう。

「気持ちは判らんでもないが、な……」

それだけは、止めねばなるまい。
自らの教え子を(たとえロボットであってもだ!)傷つけるような行為は、教師以前に人として失格だ。

「………ピィ。すまないが、今日の調査はお前一人で頼めるか?」

「構わないっぴ」
「助かる」

本当にこういう時は、誰かの手があると助かる。

「………グレン様、一つ良いですかっぴ?」
「何だ?」

唐突にピィが、

「グレン様ってひょっとしてショタコぶゲるヴフっ!?」

何か危険極まりない台詞を吐こうとしたので、グレンは鉄拳でその口を塞いだ。






放課後。

「―――つうわけで、兄貴! 姐さんと、サクッと【仮契約】しちまいやしょう!!」

「強引に話を戻すわね、アンタ………」


…………すいやせん。ホント(汗


「で、でも…………やっぱり二人がかりなんて卑怯じゃ……」

「何いってるんスか、兄貴! そう言って二人がかりでやられちまったんだろ!?
 “やられたらやり返す”! “奪られたら奪り還す”!! 『漢の戰い』は非情なのさ―――!!」

「いや、『漢』とか言われても僕困るし…………あと、後半は全然関係無いよ?」

「も~~~兄貴ったら、ノリが悪いっスよ~~?」

「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」

話から置き去りにされかけた明日菜が、ここで割って入る。

「勝手に話が進んでるけど、私は良いって一言も言ってないわよ!! 
大体、仮契約って、昨日本屋ちゃんとやってたヤツでしょ!? 何かチューするんでしょ!?
バカみたい!!」

「………バカみたい、って非道い言い様っスね姐さん…………あ」

と、ここで、カモの表情が奇妙なニヤケ面になる。

「ああ~~………もしかして姐さん、中3にもなってまだ『ファ~ストキッス』を済ませてないとか?」

「な゛ッ…………!?」

「フフフ………図星か………こりゃ失礼。
それじゃあ【仮契約】とはいえ抵抗があるでしょーなァ……」

やれやれといったふうに首を振るカモ。
その態度が、明日菜の癇に障った。

真っ赤になりながらも、明日菜は反論する。

「なッ……何言ってんのよ!? べっ、別にチューくらい……何でもないわよっ!!
 たっ、ただ、何で私がネギの『パートナー』とかをやる必要がっ…………」

「じゃ、OKということで☆」

狙い定めたように、カモは強引に話をまとめた。

「ってコラ――――――ッ!!! 人の話は最後までっ…………」

当然、慌てる明日菜。

「心配ないっスよ。この作戦なら楽勝っス。危険も(……多分)ないし」

「途中の妙な間が気になるんだけど!? って、だから人の話を聞きなさいよ!!!」

「兄貴の方は如何っスか~~?」

「聞けェ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!!」

話を聞かないカモを、ブン回す明日菜。

「あぼぼぼ!? 姐さん! もげる! 尻尾もげる~~~~~ッ!! NOおおお#%~~!?」


…………愚かな。


カモが“ぐる○るニャー”的な回転運動を体感させられている傍らで、
ネギの思考は、それに負けないくらい高速回転をしていた。

(…………た、確かに次の満月になって、また戦ったとしても、僕に勝ち目は殆ど無い。
 このままやられるのを待っているよりかは反撃した方が――――…………
 …………それに、このままじゃ僕は先生として失格だし…………あうう~~…………)

物凄い葛藤の末、ネギは結論に至った。

「わ、わかった! やるよ僕!!」

「よっしゃ! そーこなくっちゃ、兄貴!!」

「ちょ、ちょっとネギ~~~~!?」

全く性質の異なる二つの叫びが、上がる。

「お……お願いします! アスナさん!! 
一度だけ!! ホントに一度だけでいいですからっ!!」

ウルウルと懇願するネギ。

「う゛…………」

そのあまりにも必死な表情に、明日菜は根負けした。

「………もう……ホントに一回だけだからね?」






――――準備は、整った。

「――――――よしっいきますぜ! 二人とも!!」

そう言うと、カモは思いっきり息を吸い込み、

「―――――――――【仮契約(パクティオー)】!!」

唱えた。


シュパァァ――――――――――――ッ!!!!!


描かれた『魔法陣』が光を放つ。

(う……わ…………な、何? コレ…………)

光の中で、明日菜は奇妙な感覚を感じた。

(なんか……ちょっと……気持ち、いい……… 
…………って、そうじゃない!)

ぷるぷると首を振り、妙な思考を振り払う。

「コホン…………ホ、ホラ、行くよ? ……いい?」

小さく咳払いをして、明日菜は問うた。

「あ……は、はい」

ネギは目を閉じ、顔をやや上に向けた。

(あれ………? そう言えばこれってアスナさんと…………キス………?)

緊張しながら、ふと、そんなことがネギの頭をよぎる。

「…………」

明日菜は、ネギの顔に手を添え、一瞬躊躇った後、



――――――ちゅっ…………



「って、あ――――――――!! 姐さん! 
おでこはちょっと中途半端っスよォ~~~~!!」

「う、うるさいわね!! いいでしょ何でも――――――っ!!」

カモの抗議に、照れ隠しで怒鳴る明日菜。

(お……おでこ…………)

ネギはネギで、何か複雑な表情をしていた。



「え―――――い! 仕方ねェ! 
とりあえず【仮契約(パクティオー)】・成立!! 『神楽坂 明日菜』!!!」


「わあ!?」 「キャ―――!?」



――――――――ズバアァァァッ!!!



目も眩むような閃光が、辺りを満たした。










後編につづく。

魔法先生と紅蓮の聖竜騎士  ~X-EVOLUTION ANOTHER~ 第二十四幕 『ワカラヌコタエ 後編』

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