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剣製の旅立ち 投稿者:血影 投稿日:08/03-13:17 No.2767

「士郎、あなた日本に行きなさい」

「は?」

異質なものがそこかしこに放置され、異臭たちこめる某時計台の研究室で実験の準備をしているさなか、いきなりドアをけり開けて入ってきた師匠の明らかに苛立ちを含んだ命令に、彼、衛宮士郎は意味が分からずほうけた返事をあげてしまった。

「は?じゃないわよ!すぐに支度して日本に行きなさいって言ってるの!」

普段なら怒るような返答でもないのだが、よっぽど虫の居所が悪いらしく。彼女の機嫌は目に見えて悪くなっていた。

「え~っと…それは里帰りでもしてこいってことか?」

「そんなわけないでしょ!だったら私も一緒に帰るわよ」

怒っている理由はわからないものの何とか自分なりに解釈して返事を試みてみたが一蹴されてしまった。

「だったらなんで俺を日本に返すんだ?まさか、今になって俺がいらなくなったのか?」

弟子兼恋人としては考えたくもない答えだったが、理由がそれ以外に思い当たらない以上聞いてみるしかなかった。

「違うに決まってんでしょ!!あんたが必要ないなんてそんなことあるわけないじゃない!!」

驚きながらも喜びの色がありありと出ている男の顔を見てはっとなったのだろう、一瞬で顔を茹蛸にしてしまった女性は恥ずかしさを隠すように早口で一気に理由を話し始めた。

「ここのお偉いさん方と、魔法協会のお偉いさん方の間で話し合いがあってね。相互の理解、交流のために一名ずつ交換派遣をして親交を深めようってことになったのよ…建前上だけどね。それで相手側が都合がいいといってきた場所が日本の麻帆良ってわけよ。それで日本出身の結構暇そうなやつってことであんたに白羽の矢が立ったのよ」

一気に話を終えて一息ついた彼女と打って変わって、士郎は驚愕していた。

「ちょっとまてよ!!なんで俺にそんな大役が回ってくるんだ!!俺の行動しだいで両協会間の対立にもなりかねないってことじゃないのか!!」

「ないとは言い切れないけど、いきなり相手の魔法使いを殺したりしなければ大丈夫よ」

あっけらかんと言い放った女性に対して、士郎はこれはもう決定事項なんだなと諦めた。
人生苦もありゃ楽あるさ。きっと向こうでも何かいいことがあるに違いない、時計台に来て一番に学んだポジティブシンキングである。

「で?俺はそっちでなにをするんだ?」

「相手次第だから、いったいなにをさせるか分からないわ。…そんなにおかしなことはさせないはずだけど」

その言葉に不安が倍増したが時計台(以下略)の思考で乗り切った。

「…本当なら私もついていきたいんだけど、どうもここの人間はあたしのことをよく思ってない人間が多いみたいだから、気をつけて。」

その彼女の顔がさっきまでとは違って本当に心配そうで、その顔を見てると自分の心配なんか吹き飛んでしまった。

「分かった。それじゃちょっと行ってくるよ。俺がいない間に浮気なんかしないでくれよ」

そんな顔は見ていたくないその思いだけで笑って答えた。彼女はもっと元気に笑っているほうが美しいのだから。

「…馬鹿。あんたのほうこそ浮気なんかしたら許さないからね」

彼女は笑って見送り、“剣製”は旅立っていった。
そこで待ち受けるありえるはずのない出会いがあることなど露とも知らずに…

二人の優しき魔術師達 怪奇!!人ならざるもの?

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