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麻帆良に来た漢!第一話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:06/29-08:07 No.2610



「よし、これで終わりだ!――〈神飛拳〉!」

『ギャオオオオオオォォォォォォ……』

 一つ目の化け物が断末魔を上げ、塵となって消えていく。化け物が消えた場所には一人の男が立っていた。
 その男の容姿は身長が二メートル程で、その身体は素晴らしい筋肉に覆われている大男である。胸板は分厚く、白のTシャツの袖から出ている腕の太さは子供の頭くらいあった。アーミーパンツに頑丈さが売りなブーツを履いた足は、大木のように地面に根を下ろしている。ぱっと見た感じでは、まるで鬼人のような体躯の持ち主の名前を南雲慶一郎といった。

 慶一郎が今いる場所は、ソルバニアという異世界……かつて慶一郎が現実世界において命を失いかけていた時、ソルバニアの巫女と呼ばれる少女レイハからソルバニアへと召喚され、結果として命を救われた対価を『イェネンの鬼神』として彼女に使役されることで払った。
 それ以降レイハは慶一郎をソルバニアの石を通して、現実世界から召喚てし使役し続けた。そう、慶一郎の都合はお構いなしに。

「ケイ。お疲れ様でした」

 化け物を倒し終わった慶一郎に近づいて来るレイハ。

「レイハか。今回はコレでお終いかい?」

 慶一郎は何時も通りレイハに確認を取っていたが、当の本人は用事が終わった慶一郎には興味が無いように帰還の魔法陣を展開していた。

「はい。では戻します」

「やれやれ……相変わらず素っ気ないな。まあ、それがレイハらしいというか……」

 その時、レイハがふと呟いた。

「あ」

「え?」

 その瞬間、慶一郎の身体は光に包まれた。






『第一話 異世界からやってきた男』






 ソルバニアから帰還する際にレイハが呪文を唱える事で重力の感覚が消失し、元の世界へ還るべく慶一郎の身体は光に包まれる。
 しかし今回は微妙に感覚が違い、しかも彼女の呟きがどうにも気にかかった。ああいう状況での「あ」とか言う呟きは、大抵失敗した時に良く使われるパターンである。そんな事を考えていると、間もなく両足に大地の感触を得て全身に地球の重力を感じた。包まれた光が既に晴れ、街の郊外の一角といった風景が目の前に広がっているが、その風景は慶一郎の全くもって見知らぬ場所だった。

「……どこだ、ここは?」

 着地の為に跪くようにして丸めていた身体を伸ばして立ち上がる。

「もしかして、レイハは帰還の魔法とやらを間違えたのか?どうみてもここは大門高校周辺ではないようだが……あんな馬鹿みたいにでかい樹なんて見た事ないぞ」

 慶一郎は大きな溜息をついた。とりあえず軽く身体を解しながらも、辺りの様子を確認しようとした。状況を把握しない事には、下手な行動は避けた方がいい。そう慶一郎が判断した矢先……。

「そこの不審者、動くな!」

 いきなり掛けられた殺気の篭った声に、慶一郎は動きを止めた。

(い、いきなり見られたー!?)

 恐る恐る声のした方を振り向くと、そこにはブレザーの制服に身を包む中学生くらいの少女がいた。その手の中には自分の身長と同じくらいの竹刀袋があり、それを今にも抜き放たんとばかりに立っていた。その少女の様相は一五〇センチ程の身長に、黒髪を斜め後ろくらいで白い紐で結んでいる。目鼻だちがはっきりしていて年相応の可愛らしさを表していると言えるが、どちらかというと可愛い系というよりは美人系と言った部類に含まれるかもしれない。
 将来はかなりの和風美人になるだろう……などと考えていたせいか、少女は袋から日本刀のような刀を取り出していた。少女の気配からしてどうやら真剣のようだで、その刀を油断無く構え慶一郎を睨みつける。

「ええ~っと……?」

 正直、慶一郎は困っていた。いくら初対面だからとはいえ年端もいかない少女に、ここまで警戒されるとは思わなかったからである。もしや自分の周囲に他の不審者でもいるのかと思い、顔を巡らせて周囲を見回すが誰もいない。すると少女は今にも刀で斬りかかる、とでも言わんばかりの殺気をぶつけてくる。

「だ・れ・を・探しているのですか、誰を!?ここには貴方一人しかいないでしょう!」

「そう言われてもな……俺に何か用か?」

「惚けないでください!!今、貴方は光の中からいきなり現れたでしょう!?」

 やはり見られていたようだ。自分の失態に思わず慶一郎は舌打ちする。今までソルバニアから帰還の際には、ある程度人目に付かない場所に転送してもらっていた。だからといって知らない土地に気を取られ、近づく人間を察知し損ねたのは慶一郎にしては珍しいミスである。
 しかし事情を説明するのも面倒なので、過去に使った手で強引に誤魔化す事にした。

「だから、何だ?」

「えぇ?」

 少女は慶一郎の強引な居直りに戸惑った。そんな少女を見た慶一郎は、相手が怯んだ隙を見逃さずチャンスとばかりに屁理屈を畳み掛ける。

「いきなり光の中から現れたからそれが一体なんだというんだ?なんか問題でもあるのか?それともそれは日本の法律に触れて死刑を与えられるのか!?そして君の血液型はB型なのか?」

「えっと、いえ私はA型ですが……」

 少女は居直った慶一郎の迫力に気圧されて言葉を失っている。慶一郎は以前のように、このままウヤムヤにして逃げ切る策を選択する事にした。

「世の中には訳の分からない摩訶不思議な事はいくらでも溢れてる!余計な事に首を突っ込んでいる暇があったら、学生らしくさっさと家に帰って授業の予習復習や宿題でもしているんだな。……では、俺はここでさらばだ!!」

 慶一郎は少女に背を向けて逃げ出そうとするが、残念ながら数歩も進まないうちに呼び止められる。

「止まりなさい!誤魔化そうとしても無駄です!!」

 先程よりも鋭い殺気を浴びせてくる少女に、慶一郎は思わず苦笑していた。

(やっぱり無理があったか……)

 単純な居直りでどうにかなるとは思っていなかったが、この少女はやはり甘くはないようだ。
 どう言い訳したものかと腕を組んで悩んでいたら、慶一郎は針のような尖った殺気がこちらに飛んでくるのに気付いた。顔に向かって飛来するそれを反射的に指の間に挟み取る。その手に取った物を見て慶一郎は焦った。

「こ、これは――棒手裏剣!?」

 以前何処ぞの日本一凶暴な女子高生に、中に錘が仕込んであり先端が金属製のボールペンを棒手裏剣よろしく投げつけられた事はあった。しかしさすがの慶一郎も、本物の棒手裏剣を投げつけられる日が来るとは思ってもみなかった。それも見るからに小柄な少女に。
 慶一郎は慌てながらも、次々と飛んでくる全ての棒手裏剣を指の間に挟み取っていく。

「何をするんだ!?危ないじゃないか!」

「楓に借りた物だったが、全て簡単に挟み取るなんて……貴方、只者じゃないですね?」

「いや、十分君も只者じゃないと思うけど……。もしかして君の親戚に御剣涼子って女子高生いたりしないかい?」

 ここまで行動パターンが酷似していると、その血縁と疑いたくもなる。しかし頭に血が上った少女は、慶一郎の言葉には既に反応すらしない。遠距離攻撃は通じないと判断した少女は、ついに持っていた刀を抜き放つ。

「どう考えても怪しすぎる。もしや、お嬢様を狙う新たな刺客か!?」

「(人の話を聞いてないな)――待て!話せば分かる……」

「問答無用!!」

 言うなり少女は慶一郎の方へと踏み込み、疾風のような斬撃を放ってきた。

(これは、また……何とも!)

 何処ぞのポニーテールの剣術少女に勝るとも劣らない程の鋭い斬撃だった。水月を狙って伸びてくる剣先を、慶一郎は身体の上体をに捻って紙一重で避ける。勢い余って泳いだ刀を足で蹴り飛ばそうとしたが、少女は飛燕の素早さで切り返し肩を狙って斬り込んできた。この一撃は、さすがの慶一郎でも避けきれない。かといって真剣で斬りつけられてはたまらないので、腕に龍気を纏わせガードする。
 鈍い音がして刀をガードした左腕に激痛が走る。

「痛ぁーっ!!」

 慶一郎は滅多に出さない悲鳴を上げて後ずさった。龍気を纏わせガードしたといっても、向こうは真剣でありこちらは生身である。最悪腕は切れてはいないが、真っ赤なアザにはなっている。
 そんな容赦の欠片もない一撃に、慶一郎は冷や汗を流す。

「ほ、本気で斬りつけたな?今のは手加減しなかったろ!?」

「刀で斬りつけたのに掠り傷だけ?そんな馬鹿な!?」

 慶一郎にガードされた事実に少女はさらに警戒したのか、摺り足でじりじりと間合いを詰めながらプレッシャーをかけてくる。一向に戦う姿勢を解かない少女に、慶一郎は呆れていた。しかしこのままずっと斬りつけられる訳にもいかない為、何とか少女の説得を試みる。

「いや、真剣で生身の人間に斬りつける方が馬鹿なーと突っ込みたいんだが……銃刀法違反って知ってるか?」

「となると、やはり鬼か何かの類ですか……ならば容赦はしない!!」

「人の話を聞けー!」

 相変わらず少女は人の話を聞かない。
 更なる殺気を出して少女の刀が唸る。喉を狙う突きと見せかけ脛を打ち、上段打ちから変化してガラ空きの脇腹をなぎ払う。この少女の何より恐ろしいのは、生身の人間に思い切り真剣で斬りつけられる精神力、というかいい度胸である。寸止めで済ますつもりは毛頭ないというのがなお恐ろしい。まるで何処ぞの剣術少女の師範を思い出してしまう程だ。

(いかん、このままでは本当に殺されてしまいかねん!)

 いい加減に生命の危機を感じた始めた慶一郎は、変わらず正面から突っ込んでくるばかりの剣先に蹴りを合わせ、刀を上に弾いて連続攻撃を止めた。避けてばかりいた相手が初めて反撃を返した事に、少女は目を見張り一度距離をとる。
 その隙に慶一郎は爪先立ちになって背中を丸め、逃げ腰に見える奇妙な構えを取る。

「……?」

 慶一郎の奇妙な構えを見た少女は警戒する様子を見せたものの、構えの意味を理解しようともせずに正面から斬り込んできた。しかしその動きは既に何度も見ており、慶一郎にしてみれば非常にタイミングが取りやすい動きである。

(見切った!)

 少女が斬り込んでくると同時に慶一郎は動く。背を丸めた低い姿勢のまま特殊な歩法で滑るように一歩で間合いを詰め、刀を振り上げた瞬間に生じた一瞬の死角に飛び込む。

「――〈南雲流無刀取り〉!!」

パンッ!

 少女の手から刀が思いっきりすっぽ抜け、高々と宙に舞った。そしてすれ違うようにして放った当て身がカウンター気味に入り、少女は短く呻いて身体を折った。

「あ、またやっちまった……」

 地面に崩れ落ちる少女を、間一髪片腕で抱き止める。
 〈無刀取り〉は、相手が打ち込んでくる瞬間に懐に飛び込み、柄頭を下から叩いて剣を弾き飛ばし、さらに当て身で倒すまでの一連の動きがセットになった技である。もちろん女の子相手に当て身までするつもりはなかったのだが、タイミングがあまりにも良かった為、思わず右手が出てしまったのだ。
 当て身の当たり所が余程良かったのか、少女は目を覚ます気配は全く無い。

「まいったな、こりゃ……」

 慶一郎は気絶した少女の身体を両腕で抱き上げると、途方にくれてしまった。



 そうして暫く考えていると、その場に二人の人物が現れる。
 彼らはこちらの状況を見て、鬱陶しいくらいの殺気をこちらに向けてくれた。恐らくこの少女の関係者なのだろうが、正直慶一郎は疲れていた。先程ソルバニアから還ってきたという事は、向こうで化け物を退治してきたわけである。ようやく戻ってきてみれば知らない土地に放り出され、挙句真剣振り回す少女の相手までしていたのだ。
 先にスーツの男が慶一郎に話しかけてくる。どうやら話し合うだけの余地はありそうだ。

「彼女をどうするつもりだい?返答次第によっては……」

「……頼むからそう喧嘩腰はやめてくれ。俺は彼女に何もするつもりはない」

 慶一郎の言葉に、褐色のすらりとした長身の少女が二挺拳銃を構えてこちらを睨んでいる。話が通じる相手だと判断したのか、その横のスーツを着たメガネの中年?の男が少女を抑え、慶一郎の方へと一歩足を踏み出した。

「そういうことならまず彼女をこちらに渡してくれないかな?」

「……そうだな」

 そう言われてすぐさま返すほど慶一郎は無謀ではない。
 腕の中の少女を返した瞬間、後ろの少女に問答無用で撃たれそうな気がするからだ。しかし、ここで少女の身柄を渡さないと後々面倒そうである。しかも現状の体力では目の前の二人を相手にするのは少しきつい。特にスーツの男の方……温厚そうな顔をしているが、その実力は計り知れない。そんな事をしなくともあっさり少女の身柄を渡す事で、少しでもこちらに対する警戒心が薄れるならばと判断した。
 男の要求に頷いて肯定の意を表す。

「わかった。とにかくこちらに敵意がない事は理解してくれ」

 そう言いながら目の前に来た男に、未だ気を失っている腕の中の少女を丁寧に受け渡す。このやり取りだけ見ていると、まるで自分が犯罪者のような気がする……慶一郎は思わず苦笑した。
 慶一郎があっさり少女を解放したことからメガネの男、高畑・T・タカミチは目の前の男を悪い人間ではないと評価した。しかし事情が良く分からないのも事実である。ここはこの地の最高責任者である学園長に話を回すのが最善、そう判断した高畑は懐から携帯電話を取り出した。素早く番号を押すと、学園長に報告を兼ねて連絡する。
 話を聞いた学園長は、とりあえず彼と話がしたいから学園長室へと連れてきてくれと言った。高畑も異論は無く、すぐに連れて行きますと答えると電話を切った。

「よくは分からないが、彼女……桜咲刹那君が迷惑をかけてしまったのかな?僕の名前は高畑・T・タカミチと言う。タカミチと呼んでくれて構わない、ここの警備員みたいなものも兼ねていてね。とりあえずその辺の事情をここの責任者が聞きたいと言っているので、良ければ僕についてきてくれないかな?……龍宮君もそれでいいね?」

「……OKだ、高畑先生。とりあえず先程の無礼な態度を許してもらえるかな?私は龍宮真名だ」

 銃を構えていた少女はそれをしまうと、謝罪の言葉をかけてくる。慶一郎としては、彼女も同じく銃刀法違反に引っ掛かっているのでは?と突っ込みたかったが、その場の空気がそれを許しそうに無い。
 仕方ないので今後の事を考え、大門高校に連絡を取っておいた方がいいと判断する。万が一に警察などに連れて行かれたら、身分証明が必要になるだろう。

「構わないさ、彼女の関係者だったならむしろあの態度は当然だろう。俺は南雲慶一郎、大門高校で英語教師をしている者だ。タカミチ、後で電話を貸してもらえるか?身元を保障してくれる人に連絡を取りたい」

「わかったよ、南雲君。ではこちらに……そうだ、龍宮君は悪いけど寮に刹那君を連れて行ってくれるかな?このまま一緒に連れて行くわけにはいかないんだ」

 彼女も当事者の一人では?と慶一郎は思ったが、向こうにも事情があるらしい。

「えっとそれと龍宮さん、良ければ彼女に俺が謝っていたと伝えてくれるかな?」

「龍宮と呼び捨てで構わないさ、南雲さん。双方とも了解したよ、勿論後できちんと説明はしてもらうがね?」

 不適にそう言うと龍宮は高畑から刹那を受け取り、軽々と背中に彼女を負ぶった。彼女くらいの身長があれば容易い事だろう。慶一郎達に軽く手を振ると、寮があると思われる方角へと歩いて行った。

 いつまでもこんな郊外にいても仕方ないので、高畑に促された慶一郎もまたその場を後にする。どうにも厄介事にとことん絡む運命にあるのかと、慶一郎は深い溜息をつく。かつて裏の格闘界で幻の格闘家と呼ばれ、異世界ソルバニアでイェネンの鬼神として使役された男が、この世界にやってきた時の第一幕だった。





 所変わって……麻帆良学園の学園長室。
 結局あの後高畑に携帯を借りたものの、何故か連絡が一向に繋がらない。理由は分からないが、とりあえず慶一郎はここの責任者を名乗る老人、近衛近右衛門と面会する事にした。

「フォッフォッフォ、君が南雲慶一郎君かね?」

「はい。先程、刹那君と交戦していたのが彼、南雲君です」

「いやーすいませんね。身に降りかかる火の粉は容赦なく吹き飛ばす性分でして……」

「吹き飛ばす……もしかして下手な詮索はお断りと言いたいのかのぅ?」

 さらりと物騒な単語を口にする慶一郎に、学園長は思わず引き攣っていた。

「人様を必要以上に詮索する輩はろくな奴じゃありませんよ。俺の今いる立場からしてみれば、不審者極まりない事も自覚はしてますがね。必要以上に気分を悪くするような詮索をする奴が目に付いたら、俺の全力を持って物理的に処分します」

 慶一郎としてもわざわざ敵を作るつもりはさらさらないが、興味本位で色々と詮索される気もないので早々に釘を指しておいた。両者の間に緊迫した空気が流れる。こちらのそんな意思を感じ取ったのか、学園長は今までと雰囲気を変えて話しかけてくる。

「(よ、予想外に物騒な男じゃのぅ……)まずは南雲君がここに来た理由を聞いてもいいかね?」

「理由と言われてもな、上手く説明はできないんだが……恐らくあなた方も信用しないだろうな」

「そうは言ってもね。信用するもしないも、話を聞いてみない事には何にも始まらないよ」

 慶一郎はあくまでもまっすぐな高畑の視線を高く評価していた。

(今時珍しいタイプの性格だな。さっきも褐色の少女、龍宮といったか?彼女の行動をしっかり抑えていたし、刹那という少女の身柄の交渉も堂々としたものだった。いきなり真剣で襲いかけられたりもしたが……俺の現在置かれてる非常識な立場でも、一応説明するだけはしておくか)

 一度そう決めると、気持ちの方も落ち着いてくるものだ。

「いいだろう。簡単に言うとだな……俺は地球上に存在しない異世界、ソルバニアと呼ばれる場所にその世界の巫女のような立場のレイハと名乗る少女に召喚されていた。今日、刹那と言う少女に襲われたのは丁度こちらに還ってきた瞬間に遭遇したからだろう。いきなり光の中から俺のような巨漢が出てきたら誰だって警戒して当然だな(それでも真剣で襲いかかるのはどうかとは思うが……)」

「「…………」」

 かなり長い間、目の前の二人に沈黙が続く。慶一郎はそんな彼の様子をじっくりと伺っていた。

「……ふ~む、やはりそんな所じゃろうな」

「は?」

「そうですね……感知された魔力量から察するに、次元震くらい起こってそうでしたから。学園都市の結界には幸いな事に異常は発生してはいないようですが」

「……はい?」 

 何やら納得し始めた二人に逆に慶一郎は慌てる。まさか本当に納得されるとは思っていなかった。それに彼らの会話の中に、慶一郎は妙な違和感を感じていた。

「いや、そこで真面目に納得されるとむしろ不気味なんですが?それともここではいきなりやってきた不審者の言葉を真に受けて信用するのが普通なんですか?」

「フォッフォッフォ、そうではないんじゃよ南雲君」

「何がです?」

「薄々南雲君も感じ取っているとは思うんじゃが、落ち着いて聞いて欲しい。異世界に行き来していたと南雲君は言っていたが、恐らくここは異世界ソルバニアから帰還しようとしていた元の世界とは違う世界ではないかと思われるんじゃ、つまりは平行世界という奴じゃな」

 目の前のぬらりひょん……もとい学園長を名乗る老人はそう言った。
 慶一郎は思わず耳を疑ったが、目の前の二人の様子には嘘は見えない。そして慶一郎自身、ここへやってきた時の違和感を思い出していた。あのレイハの不意の呟き、帰還の魔法で飛ばされた時の感覚の違い、帰還した時の見知らぬ場所、何故か一向に連絡が取れない携帯電話。不安材料がここまで揃っているのならば、学園長が言っている事ももしかしたらあるかもしれない。

「信じられないのも無理はないがのぅ……」

「いえ……俺は自分の目で確認したもの以外は信じない性格ですが、実際に起こったもしくは見たものは否定しませんよ。しかし、平行世界に帰還失敗とは……レイハにしてはあまりに迂闊だな」

 驚きはしたものの全く取り乱さない慶一郎に学園長は感心した。こんな状況では大の大人でも、取り乱して喚き散らしてもおかしくはないだろう。冷静に状況を分析し、自己を鎮めることの出来る人間はこちらの魔法先生にもそう何人もいない。
 そう考えた時、学園長の脳裏に一つの妙案が閃いた。

「……ところで、南雲君はこれからどうする気じゃな?こちらに全くアテはないんじゃろう?」

「そうですねぇ、何分違う世界ですから。まあ多分そのうちレイハが連れ戻してくれるはず……だと思うんで、それまではこちらの世界をぶらぶらと旅でもしようかと思ってます。元の世界でも昔七年くらい世界中を旅して回ってましたから慣れてますし」

「ふむ、時に南雲君。年齢はいくつじゃ?」

「?……二十九になりますが?」

 学園長は唐突に変な事を聞いてきた。

「腕の方は立つ……じゃろうな」

「ええ、あの刹那君を子供扱いでしたから」

「ほほぉ、タカミチ君がそこまで言うとは。もしや……?」

「そうですね、僕よりも強いかもしれません」

 何やら関係者だけで話が盛り上がっている。慶一郎は何ともいえない居心地の悪さを感じていた。

(どことなく学園長は藤堂先生と同類の気がする……)

「タカミチ君に異論はないようじゃな」

「そうですね、いい意味でも悪い意味でも良い刺激になると思いますし……」

(悪い意味があるならやめた方がいいぞ、タカミチ)

 そんな慶一郎の心の声とは関係なしに二人は話の結論を出していた。

「では決まりじゃのう?」

 高畑と話し合っていた学園長は、心底面白い事を見つけた子供のような悪戯心に満ちた笑顔で、慶一郎に宣言してくれた。

「南雲君。ウチの学園で教師をやらんかね?」

麻帆良に来た漢! / 麻帆良に来た漢!第二話

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