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麻帆良に来た漢!第六話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/05-12:32 No.2638

 ネギが地底図書室に落ちてから、丸一日……その間、副担任である慶一郎は多忙を占めていた。期末テストへ向けてバカレンジャーの集中勉強会が行われている頃、多くの教師達は期末テストの問題を作成をしている。本来ネギもするべく仕事であるが、あいにくと今ここにはいない。……つまり、副担任の慶一郎がそれを代わりに手伝っていた。
 ネギ達が行方不明になった、と判明した土曜日のネギの受け持つ全ての授業を肩代わりし、放課後職員室でグッタリしているとしずなが目の前に来て申し訳無さそうにこちらを見ていた。

「どうかしました、しずな先生?」

「あの、南雲先生には申し訳ないのですが……本来ネギ先生がするはずだった英語の期末テストの問題作成なんですけど、宜しければ代わりに作成してもらえませんか?」

「え」

「い、いえ、その一から作れと言う訳ではなく、ネギ先生の机に草案がありましたので、それをまとめてくれるだけでいいのですが……」

 しずなの言葉にふと慶一郎は職員室の中を見回す。なるほど、確かにほとんどの教師が机に向かって何やら書き込んでいるようだ。他に手の空いている教師は自分以外には見かけない、仕方なくしずなから問題の草案を受け取る。

「でも、本当にいいんですか?教師といっても、俺はまだ就任二日目ですよ?草案をまとめるだけとはいえ、今学期の授業内容知らないから問題にかなり影響出て変わっちゃいますけど……」

「学園長からも許可を頂いています。それに敢えて授業内容に沿ったテストではなくて、違う視点から作られたテストを受ける事で生徒達の応用力を磨く事にもなります」

 人の良い笑みを浮かべるしずな。そんな素敵な笑顔を見せられたら、どんな男でもイチコロだろう……ただ南雲慶一郎という男に対しては全くの無意味だが。

「なるほど、そこまで考えてあるなら引き受けましょう。生徒達にはちと気の毒ですけどね……」

 そう言うと慶一郎は、ネギの後始末をつけるべく他の教師達と同様に机に向かう事にした。





『第六話 課題とバカレンジャーと探検と~その④~』





 多忙の土曜日を終え、翌日の日曜日。
 慣れないデスクワークを長々として疲れていた慶一郎は、学園長から受けた話などすっかり忘れて睡眠を取っていた。いつもなら早朝から起きてランニングや基礎トレーニングをしている所だが、さすがに今日は無理があったのでやめておいた。
 慶一郎が目を覚ますと、時計の針は十時を過ぎている。

「むぅ、ちと寝すぎたな……」

 頭を掻きながら起き上がると、少し時間の遅い朝食を取る。朝食を食べ終わると、外に出るべくいつもの服装に着替える……と、ポケットがマナーモードの携帯を震わせていた。慶一郎が送信者を見ると、そこには学園長と表示されていた。

「はい、南雲です。どうかしましたか、学園長?今日は日曜で学校は休みのはずですが……」

「……昨日話した事忘れてるんかの?」

「………………?」

「ほ、本当に忘れとる!?ネギ先生の事じゃよ!地底図書室に行ってくれと言ったじゃろうがっ!!」

「あー……そういえば、そんな事もあったような?」

「あったんじゃ!!とにかく、そろそろ行動するから学園長室まで来てくれんか?大至急……」

 話の途中で電話を切る。確かに約束?を忘れたのはこちらだが、一々そこまで命令される気はさらさらない。起きたばかりで限りなく不機嫌だった慶一郎だが、特に用事はなかったので仕方なく学園長室に向かう事にした。……もちろんゆっくりと歩いて、である。





「腕の封印は後一本。明日の朝には魔法の力を取り戻せる……こんな所まで来ちゃったのは、僕が教師として皆をしっかり引率できなかったからだ。帰りの道が見つからないようなら、最悪魔法がばれるのを覚悟で皆だけでも外に……」

 一方こちらは地底図書室。
 実は学園長の企みによるこの事態だったが、ネギはその事をまだ知らない。教師として魔法使いとして、その心の在り方等を深く考えていた為に、この事態の責任を自分一人で抱え込んでいた。バカレンジャーに集中勉強会を行っていたネギだったが、それもテストまでにここを脱出できなければ意味がない。そう思い出口の探索をしていたネギは、水音の近くに生徒達の声がしたので何かあったのか?とそちらへと歩いていく。

「え?」

 しかしそこには、バカレンジャーのうちの佐々木まき絵、長瀬楓と古菲の三人の生徒が裸で水浴びをしていた。子供とはいえネギは男性であり、異性に裸を見られた彼女らは声を上げる。

「キャーーーッネギ君のエッチーーーッ(アルー)!!」

「い、いえ……その、ごめんなさーい!」

 可愛らしい悲鳴を上げた二人から慌てて離れようとしたが、何故かその襟首を楓に持ち上げられる。その拘束から逃げられないネギはせめて目を瞑る。真っ赤になって目を瞑っているネギに、意地悪な三匹?の小悪魔達が詰め寄って囲んでいた。

(う~、先生いじめだよ~……)

 なんとかその場を離れるべく、ネギは必死に言い訳を考える。

「え、英国紳士として、女の子の裸とかに興味ありませんから!(お姉ちゃんで見慣れてるし……)」

 中学生とはいえ、ここまではっきりと魅力無しのように言われた三人はその場にショックで固まる。さすがに言いすぎだったと謝ろうとするが、楓の拘束が外されたのでとりあえずその場を離れる事にする。

「後でまき絵さん達に謝っておかないと……ん?」

 少し離れた所を歩いていると、再び別の場所から水音がした。先程のような事を踏まえて、ゆっくりと隠れながらそこへ近づいていくネギ。……その行為は一般的には、覗きと言われている犯罪行為であるとは気付いていない。

「あれは……アスナさんかな?」

 物陰からこっそり伺っているネギはまるで覗きそのもの。しかし、そんな事すら忘れてしまいそうになる程に、水浴びをする明日菜は幻想的な印象を与えていた。そんな呆然としているネギの視線に明日菜は気付く。近くに置いてあったバスタオルを手に取ると、ネギの方へと歩いてくる。

「こら、なにやっているのよネギ坊主?」

「す、すいません……覗くつもりじゃなかったんです!?」

「ガキのくせに何言ってるんだか……」

 まさか明日菜の作り出した幻想的な光景に見惚れていたと素直に言えるはずもなく、ネギはとにかく謝りまくった。そんなネギを見ていた明日菜は、周りに誰もいないのを確認すると話しかける。

「あのさ……ネギに一つ言っておきたくて……」

「アスナさん?」

 妙にしおらしい(本人に言ったら殴られそう)彼女の様子にネギは首を傾げる。

「……こんな所に連れてきてゴメン」

「は?」

「実は今度の期末テストで最下位取ったクラスは解散して、しかも小学生からやり直しって聞いてね。学園長の孫のこのかまでそんな事言ってきたから、あの日南雲先生がああ言っていたけど不安になっちゃってさ……テストの用意とかしなくちゃいけないネギを巻き込んだ事、本当に悪い事したって今は思ってる」

「えっと、アスナさん……小学生からやり直しって何の事ですか?」

「いや、私達が留年って……」

「今回のテストの結果は、僕だけの正式教員になるための課題なんですけど……?」

 そこで初めて、二人は何か言葉が噛み合ってないことに気が付いた。

「え?じ、じゃあ留年とか小学生やり直しとかは……?」

「そんな話は南雲先生も僕も聞いてませんけど……」

「はあ?じゃあなに?デマだったって事?そんなんだったら、こんな怪しすぎる図書館来なかったわよー!!」

 憤慨する明日菜を慌ててなだめるネギ。ネギがそんな自分達を見て思ったのは、猛獣とそれを抑える調教師?そんな失礼な事をふと考えていると、明日菜はこちらへと責任転嫁してきた。

「だいたいアンタが来てからろくなことが起きないわよ!このちび、ガキー!!」

「そ、そんな事言われても……直情径行なアスナさんも悪いですよー!?」

 そうこう言い争いをしていると、どこかで悲鳴が上がりそれと同時に木乃香が走ってくる。

「た、大変やー!アスナ、ネギ先生ー!!」

「どうしたの、このか!?」

 木乃香の方へ向かう二人。その中でネギ一人は、声のした方向に奇妙な魔力の波動を感じていた。ツイスターゲームの時の動く石像に似た魔力だったが、ネギの直感が頭の中に警鐘を打ち鳴らしていた。
 途中夕映とも合流した三人は声のした方へと走っていくと、そこにはやはりあの時の動く石像が立っていた。その前にはまき絵を庇うようにして、楓と古菲が真剣な顔で立ち塞がっている。

「あ、あれはあの時の石像!?」

「でも何か様子がおかしくない……?」

 その場にいた全員が、その石像に何とも言い知れぬ悪寒を感じていた。そしてその対応を迷った瞬間、石像は見た目とは裏腹なスピードで近くにいた無防備な夕映に拳を振り上げる。

「くっ!?」

 その唐突な行動に楓も古菲も、そしてネギもまた反応が遅れた。運動神経のない夕映ならばなおさらで、そこから一歩も動けない。しかし無常にもその石で作られた大きな腕は小さな夕映に振り落とされる。

「夕映さんっ!!?」

 ネギの悲痛な叫びの先には大きな水柱が立っている……誰もが夕映の無事を心配する中で、最悪の事態も感じていた。
 しかし、次の瞬間その場所にいた石像が遥か後方へと吹き飛んだ。

「「な、何事でござるか(アルよー)!?」」

 武闘派の二人がまず反応した。ネギ達の方は余りの事態についていけていない。

「み、みんな……」

 水柱の中から腕が飛び出していた。先程の石像からすれば小さいが、人間としてはかなり太い。その人物?は夕映を庇うようにそこに立っている。
 その姿は最近ネギのクラスの副担任に就任してきた男に酷似していた。特に際立って違和感を感じるのはその頭、顔に当たる部分に縁日で売っているようなセルロイドのお面をしている事だろう。それは何処ぞの秘密組織に拉致られ、改造された昆虫を思わせるフォルムの正義の味方のお面だった。
 そのお面男は周りを見回して、怪我人がいない事を確かめる。

「……間一髪間に合ったな」





 あの後学園長室に向かった慶一郎は、そこで学園長から転移する前に大き目の携帯のような物を渡されていた。

「何です、これは?」

「うちの魔法関係者の工学部の連中が作った試作品じゃがのう、魔力を感じ取ってそこの画面に表示するGPSみたいなもんなんじゃが……南雲君は魔力探知なんぞできんじゃろ?地底図書室に送ってもネギ君と合流できんと困るわけじゃよ」

「まあ、確かに目の前にパーっと送るわけにはいかないでしょうね。他の生徒もいますし」

「そういう事じゃ。ネギ君の魔力は入力しておいたから、後はそれを頼りに探して護衛を頼むぞい」

「わかりましたよ。じゃあ、とっとと送ってください」

 軽くその機械の使い方を確認しながら慶一郎は言う。そんな態度に学園長はどこか物足りそうだった。

「……南雲君。仮にもこの世界での転移魔法はかなりの高位魔法なんじゃぞ?そんなに普通の感想しか言えんのかの?」

「呆けましたか、学園長?俺はあっちではしょっちゅうレイハに召還されていたんですよ?これくらいで一々驚いてられませんよ」

 最もな答えに、ぐうの音も出ない。仕方なく詠唱を始め、慶一郎を地底図書室に送る学園長。転移が終了し、自分以外誰もいなくなった部屋の中で学園長は一人呟く。

「……最近わしの扱いって何か酷くないかの?」

 答えるものは何もいなかった。



 地底図書室に着いた慶一郎は、試作GPSのおかげでさほど苦労することなくネギ達を発見した。しかし、糸目の生徒……長瀬楓の気配察知範囲が思ったよりも鋭く、それなりの距離を取らざるを得なかった。

(しかしまあ、監視護衛程度ならここからでも十分か……)

 生徒達は暢気に水浴びなどしているが、ネギのようにこっそり覗いたりはしない。あくまでも気配とGPSにのみ集中していると、頭の中に変な声がした。

『た、大変じゃ南雲君!!』

(……いきなり頭の中に話しかけないで下さい、学園長?どうかしたんですか?)

『わしが監視護衛に使っていた動く石像が此処への落下の所為で暴走してしまったんじゃよ!!こちらの制御を受け付けんのじゃ!』

(ふーん、そりゃまた自業自得ですね)

『ぐっ……それはそうなんじゃが、どうやら石像は近くの魔力を察知しそれを排除しようとしてるんじゃよ!』

(待った。それってネギ先生の事じゃ?)

『そうじゃ!そしてその周りには生徒達が居る。すまんが他に人手は送れんので、南雲君だけでなんとかしてくれんか?』

(ん?そういえばネギ先生も魔法使いだったのでは?)

『……ネギ君は今魔法を封印しておる。封印が解けるのは明日の朝じゃな』

(なんでまた?)

『と、とにかく事情は後で説明するわい!今は生徒達(特にこのか)の安全を最優先してくれぃ!!』

(了解しました。ではまた……)

 そう言って思念通話が切れるとGPSに目を落とす。そこにはネギと思われる点と、そこに向かっているもう一つの点が見える。

(まずいな、予想以上に速い……か?長瀬もそっちに気付いたようだし、俺もいつでも飛び出せるようにしておくか)

 革ジャンの中からあるものを取り出し、ネギ達の下へと向かい走る。
 慶一郎がその現場に辿り着いた時、丁度動く石像が動き出した所だった。その場にいたネギを含め全員が動けていない状況に、冷静に念の為に溜めておいた龍気を発動させて駆ける。
 石像が夕映に拳を振り落とす瞬間にその間に入り込み、両腕をクロスさせその攻撃を防ぐ。その衝撃で水柱が立ち後ろの夕映は水浸しになるが、慶一郎は構わずに石像に龍気を錬り込んだ右ストレートを放ち石像を吹き飛ばす。

「……間一発間に合ったな」

 そう言う慶一郎は自分の行動を魔法関係と疑われるのも面倒臭いので、簡単な変装をしていた。もちろん、顔に付けている仮○ラ○ダーのお面である。普通そんなもので変装とは言えないが、慶一郎としては最悪顔さえ確認されなければ、誤魔化しきれると思っていた。

「どうやら怪我人はいないようだな?後ろの君も……水浸しにしたのは許してくれ、急を要していたのでな」

 周りを見回し、怪我人の有無を確認していた仮面男はその周囲の視線に首を傾げる。

「どうした?早くここから逃げないと、またさっきの奴が来るぞ?」

「……こんな所で何をしているんですか、南雲先生!?」

 一番早く意識を取り戻したのは、天性の突っ込みの明日菜だった。指を突きつけてバスタオルを身体に巻いたまま詰め寄る。

「南雲先生?誰の事だ、それは?」

「アンタの事でしょうがっ!!そんな身体した大男がホイホイいるわけないでしょ!?」

 激昂する明日菜に目もくれず、仮面男は後ろの方の木乃香に声をかける。

「とりあえず、君達は服を着ろ。それから向こうの滝の裏側に非常口があるから、全員そこから脱出するんだ」

 仮面男はテキパキと指示していく。明日菜を除く全員は疑問に思いながらも、危険な石像がいるこの場所からの脱出に異論は無かった。服を着ながら、非常口へと走りながら一同は話し合っていた。

「ね、ねえ、ネギ先生?あれってどう見ても南雲先生だよ…ね?」

「えっと、僕もそうなんじゃないかと思うんですけど……」

「とゆーかアレを南雲先生以外やと説明できるん?」

「それもまた難しいアルなー?」

「待つでござる。確か南雲先生の着ているシャツはいつもの白で、あのような黒いシャツではなかったでござるよ?」

「それにアーミーパンツが森林戦用ではなく、市街戦用の都市迷彩になってるです!」

「そんなん関係ないでしょうが!!」

 明日菜以外は、南雲慶一郎=仮面男を肯定しようとしていない。そんなネギ含むクラスメイト達にただひたすら明日菜は突っ込んでいた。
 そうこうしているうちに、再び追いかけてきた石像と仮面男は交戦状態に入る。

『ゴオオオオォォォォ!!』

 不気味な雄たけびを上げて攻撃してくる石像を、仮面男は恐ろしいほどに的確に捌いていく。見た目通り相当の重量含むパンチを受け止め、時には上下からその攻撃を流し弾く。そしてその攻撃が流された瞬間の隙を、ピンポイントで人体の急所と呼ばれる箇所に拳を叩き込んでいた。
 しかし、相手は石像に過ぎないので怯むことなく突っ込んでくる……だが、その身体は徐々にひび割れ削られてく。そんな光景に、中国武術研究会所属の古菲やどうみても忍者な楓は興味を覚えずにはいられなかった。

(す、すごいアル!?アレだけの攻撃をあそこまで捌ききれるなんて……)

(しかも急所を的確に打ち抜く攻撃……もしアレが南雲先生本人で、その実力でござるなら……)

((戻ったら絶対手合わせしてもらうでござる!&アルよー!))

 武闘派の二人共揃って同じ事を考えていた。仮面男はその時寒気を覚えたとか……。



「ラ○ダァーーパァーーンチッ!!」

 どこか伏せられた技を叫び、迫り来る石像を吹き飛ばす仮面男。少し距離が離れるものの、石像はしぶとくこちらを追いかけてくる。

(……強さとしては、ソルバニアの中の下くらいか?無駄に頑丈だから一気に壊すのは手間が折れるが、ネギ先生達が脱出した後でなら吹き飛ばす事はできるか。どうせなら学園長がやろうとしてた事を引き継いでやってみる事にしよう)

 仮面男は石像を相手にしながら、徐々に後退していく。ネギ達の危機感を煽る為だ。そんな仮面男の見た目劣勢に焦ったのはネギだった。
 南雲慶一郎本人かはともかく、彼が抜かれたら次は自分達である。特に魔法の封印が解けていない自分は足手まといであると、この図書館島に入ってからずっと思っていたので、なおさら思考は混乱していく。

(バカレンジャーの皆さんの運動能力が高いのは知ってる……けど、アレはそういうレベルじゃないんだ!さっきだってあの仮面の人がいなかったら、夕映さんはきっと今頃……)

 そう思うと全身に冷水をかけられた気分だ。教師である自分が生徒を守れなくてどうするのだろう?そんな自責の念がネギの心を掻き乱す。
 夕映が助かったとはいえ、あの瞬間は十歳のネギには衝撃を与えるのに十分だった。前を見たり、後ろを見たりと落ち着かないネギはようやく滝の裏側の非常口を発見する。

「み、皆さん早く中へ!……って扉に何か問題がついてる!?」

 非常口の扉には何故か英語の問題が書かれたプレートがついている。押してもビクともしない所を見ると、どうやらこの問題を解かないと扉は開かないようだ。焦るバカレンジャーの中の一人、古菲はその問題を見ると答えが閃いた。

「ムムッ?ワタシ、この問題解かるアルよ!……答えは〔red〕アルね!」

 古菲の答えにゴゴゴッと鈍い音をさせて扉が開く。

「おおっ!?すごいじゃん古菲ー!」

「とにかく皆~早く中へ入るんや~」

 木乃香のその声に全員が続いて非常口へと駆け込んでいく。最後尾のネギは未だに石像と戦り合っている仮面男に声をかける。

「非常口は開きました!あなたも早くっ!!」

「いいから先に行け!お前達がいては上手く必殺技?が使えん!」

「で、でも……!?」

「デモもストライキもない。少年、君は教師なのだろう?ならば生徒の安全を第一に考えてやれ。君らが脱出するまでこの石像の相手は引き受けた!」

 そう言って仮面男は非常口の前で仁王立ちする。まるでその後ろには誰一人通さないかのような意志を、ネギはその大きな背中から感じていた。仮面男はもう振り向かない。

「……わかりました。すぐに僕達は脱出しますから、決して無理はしないで下さい!!」

 ネギは仮面男にそう告げると、生徒達を追って非常口の中に走っていく。ネギの気配が後ろから消えたのを確認した仮面男は呟く。

「学園長……彼は中々いい資質を持った子供ですよ。今はまだ未熟だが、実に将来が楽しみだなネギ先生?」

『ゴオオオアアアァァァッ!!』

「さてと、動く石像。もう少しばかり演出に協力してもらおうか?」

 仮面男の口元は笑っていた。



 非常口に入ったネギ達は、そこで上に繋がる螺旋階段を見つける。

「こ、これが出口までの階段!?」

「コレ一番上まで登るん~?」

 運動部ではない木乃香と夕映は若干顔を引きつらせているが……しかし、後方の戦闘音は心なしか近づいて来ている。迷っている暇はないと一斉に駆け上がる。少し登ったところでその道を石の壁が塞いでいた。よく見ると、非常口の扉同様に問題が付いている。

「何これ!?また問題?しかも数学って……」

「ここは拙者が。……X=四十六度でござるかな?」

 楓の答えに壁は道を開ける。どうやら階段には一定間隔でこの石の壁があるようで、そこの書かれている問題を解くことによって開いていくシステムのようだ。
 螺旋階段を登っては問題を解く……その繰り返しだったが、バカレンジャーは次々と問題を解いていく。不幸中の幸いか偶然か、壁に出されている問題は金曜日からここに来てまでの間に、ネギが行った期末テストへの集中勉強会で重点的に講義した所だったのだ。

「す、すごいですよー!バカレンジャーの皆さんー!」

「アスナとマキエまで答えられるなんて、きっとネギ坊主の勉強の教え方が良かったんアルよー!」

 古菲にそう褒められると、ネギは少し嬉しかった。ここ暫く教師として自信を失くしていただけに、自分の教師としての講義がこんな形でとはいえ認められたのだから。

「あうっ!」

 そんな時、体力に不安のあった夕映は階段に躓いてしまう。足を挫いてしまったようで、夕映は自力で立ち上がる事ができない。下の方から仮面男と石像の戦闘音はまだ続いている為、ここに置いて行く訳にはいかない。

「ゆ、夕映さん!?……くっ、僕にもっと力があれば!」

「ネギ……」

「大丈夫でござる。拙者はまだ余裕がある故、夕映殿然らば御免でござるよ~」

 楓が夕映をヒョイッと抱き上げる。十歳のネギでは夕映をおぶさる事はできないが、身長百八十近い楓なら夕映を抱き上げる事も可能だ。ネギはここは楓に任せる事にして再び階段を登って行く。
 一時間近く経過し、そろそろ体力が尽きかけてきたネギ達は、ようやく地上直通と書かれたエレベーターを終点に見つけた。携帯の電波も入り、夕映は地上にいる図書館探検部の二人に連絡を入れている。

「あのエレベーターでなら、きっと帰れますよ!皆さんもう踏ん張りです!」

 ネギがそう激励して皆がエレベーターに向けて走り出した時、その視界に見えてはならないものを見た。ネギ達がいる螺旋階段の反対側、少し下の位置に動く石像がこちらに向けて何やら力を溜めている。
 そして何より違和感があったのは、そこで戦っていたはずの仮面男の姿が見えない。

(え?……なんで、まさか!?)

 そして、動く石像が何をしようとしているかをネギは察してしまった。しゃがみ込んで力を溜めているという事は、こちらに全力で飛び込んでくるつもりで……そこには唯一の脱出路のエレベーターがある。

「そんな!?いけないっ!皆気を付けて、石像がまだ……」

 ネギがそう言い終わらない内に、石像は足場を崩壊させるほどの力強い跳躍でこちらに飛び込んできた。あれだけの質量がエレベーターの所に直撃したら、エレベーターもネギ達も無事には済まない。絶望がその場の全員の脳裏を過ぎる。
 しかし、ネギ達の所へ衝突する瞬間……真下から影が飛び上がる。目の前に急に現れたその影は、姿の見えなかった仮面男である。飛んできた石像を蹴り上げると、さらに壁を反動にし上方へと飛び上がる。それはまるで天に向かって飛翔する龍の如し……空中の到達限界点に達すると、石像に向けて身体を回転させながら降下していく。そこには跳躍を蹴り止められた無防備な石像が……。

「ラ○ダァァアアーーー卍○ィイイーーーック!!!」

 その凄まじい蹴りは石像の左半身を吹き飛ばし、反対側の壁へと叩きつける。仮面男も同様に反対側の階段に降り立つ。
 呆然としていたネギ達は、とりあえずの危機が避けられた幸運を感謝していたが、すぐに立ち直るとエレベーターに乗り込む。俯いているネギを心配して明日菜が声をかける。

「ネギ……いいの?もしあれが南雲先生なら……」

「いいんです。それにこれ以上の人数では重量オーバーになってしまいます。僕達に今出来る事は、一刻も早くここから脱出する事です!」

 ネギのそんな決意に促された明日菜は『閉』のボタンを押し、エレベーターは地上へ向けて動き出す。その後は問題なくネギ達は地上に戻り、連絡を受けて待っていたハルナとのどかとの合流を果たし、長い図書館島の探検の旅は終わりを迎えていた。



 エレベーターが無事動いていったのを確認すると、仮面男……慶一郎はお面を取り、革ジャンにしまう。そして壁にめり込んでもなお動こうとする石像の右腕を掴むと、引っ張り出して螺旋階段の中心に投げ落とす。
 そして全身に満ちた精気と霊気のエネルギーを束ねて龍気を練り上げながら、慶一郎もまた石像に向けて飛び降りる。極大に膨れ上がった龍気を両手に集め、石像に向けてそれを解き放つ。

「中々名演技だったぞ!これは感謝の気持ちだ、受け取れ〈天覇龍凰拳〉!!!」

 巨大な龍気の弾丸が落ちていく石像に命中し、そして石像は跡形もなく吹き飛ばされていた。

麻帆良に来た漢! / 麻帆良に来た漢!第七話

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