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麻帆良に来た漢!第八話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/10-15:10 No.2666


 『超包子』と呼ばれる屋台に、一人の褐色の少女が走り込んでくる。

「チャオ~~!!サツキ~~!!大変アル~~~!!」

「お~古菲じゃないかネ。どした?遅かったネ?」

〈お店の事なら大丈夫でしたよ。南雲先生や朝倉さんが手伝ってくれましたから〉

 どう見ても慌てまくっている古菲とは別に、二人は落ち着いている。彼女の事を気にしながらも、しっかりと身体は仕事の為に動いていた。その二人とは別にどこか憔悴した一人、朝倉は古菲に話しかける。

「やっと来たか~。じゃあ超さん、古菲来たし私もう帰っていい~?」

「構わないネ。バイト代は先生の方に渡しておくから、今度受け取るといいヨ」

「って朝倉が何故ここに!?」

 動揺から立ち直った古菲がいつもはここにいない人間の存在に気付く。

「古菲が遅れてくるし、南雲先生は鎮圧してくるーとか言って出かけちゃうし、ここの人手が足りないから駆り出されたのよ。そんでその張本人はどこに行ったの?」

「そうダ、古菲?先生は一緒じゃなかったのカ?」

「そ、そうだったアル!実は……」

 古菲は中国武術研究会からの帰りに、いつものように格闘関係の挑戦者達に囲まれていた事と、そこに割り込んで後に残った慶一郎の事を説明した。話を聞いていた朝倉は、そこで初めて古菲に焦りのような感情を感じ取る。ピークの山を越え落ち着いてきた屋台を少しの間四葉に任せ、厨房から出てきた超も朝倉の隣で話を聞いていた。その彼女の顔にも自分と同様の疑問が浮かんでいた。

「なんで古菲はそんなに慌てているの?教師の南雲先生がその場に残ったって別に問題ないし、その挑戦してきた男達もまさか教師に手は出さないでしょ?」

「そうだネ。もしもの時は、広域指導員の高畑先生とかが来るだろうから心配はいらないヨ?」

「そうじゃないアル!ワタシが心配しているのは南雲先生じゃなくて、その相手の男達アルよ~!!」

「「は?」」

 そんな古菲の言葉に疑問符を出して固まる二人であった。

「一人に対して複数で囲んだ事や、話の途中で殴りかかった事に相当腹を立ててたアル!あの時の南雲先生、目がマジだったアルよ~」





『第八話 テスト終了!そして春休みのVTN~後編~』





 古菲が『超包子』の方へ向かったのを確認すると、目の前の男達に問いかける慶一郎。

「さてと。一対一の勝負ならいざ知らず、この人数で一人に襲い掛かるその根性。しかも周囲への迷惑を顧みない、割り込んできたとはいえ教師に手を上げる有様。違う、なんて言わないよな?」

 慶一郎の『教師』という単語にビクッとなる男達。古菲を庇うように現れた謎の大男がまさか教師だったとは、露とも知らなかったのだ。動揺が広がる中で唯一人、南雲慶一郎は獰猛な笑みを浮かべ一歩踏み出す。バキッボキッと両手を鳴らしながらも、その歩みは止まる事は無い。

「くっ、古菲への挑戦がとんだ事になっちまったか!?だが図体がでかいだけの教師なぞ……」

 男は最後まで言葉を話す事無く空中へ舞う。横に飛ばしては周りに迷惑なので、慶一郎は敢えて縦に飛ばしていた。地面に落ちたその男はピクリともしない、何故なら完全に意識を失っているからだ。そんな容赦の無い一撃に、周りの男達に戦慄が走る。

「前口上とは随分間抜けな奴だな?それと、人を見た目だけで判断すると痛い目を見るぞ?こんな風にな」

「き、教師が生徒に手を出すのはいいのか!?」

「はあ?今は勤務時間外だぞ?それにマナーを知らん連中に遠慮するほど、俺は甘くない」

 そう言って慶一郎はまた一人と空中に殴り飛ばす。その容赦ない攻撃は、麻帆良学園で特に恐れられている指導員『デスメガネ』こと高畑を彷彿させるものがある。ようやく男達は藪を突付いて『龍』を出した事に気付いた。

「うわっ!?何だコイツの尋常じゃない強さは!?」

「菲部長に挑戦どころじゃねぇー!!」

「こうなったら戦術的撤退をーー!?」

 騒ぎ立てる男達は、慶一郎の強さを文字通り痛感しそれぞれ逃げようとするが……現実はそう甘くはなかった。

「ちなみに逃げても無駄だ。俺は人の顔を一度見たら覚えられるからな、ここから逃げた奴は個人的家庭訪問するぞ?」

「なんという職権乱用!?」

「俺の機嫌を損ねた事を後悔するんだな。まあ一人一発にしといてやるよ?」

 一発と言ってもそれだけで横たわっている男達は意識が無いのか動かない。どれだけの痛覚を受ければ一撃で気絶するというのだろう?ニヤリと笑う慶一郎の顔を見た男達は、絶望を感じながらもせめて一太刀と向かっていくしかなかった。限りなく勝算がゼロに近いとしても……。



 それから数分後。
 慶一郎の周囲にはかなり遠巻きに見ている野次馬以外に、立っている者は誰一人としていなかった。一撃で意識を刈り取られ、動く気配は見られない。汗一つ掻いていない慶一郎が仕事に戻ろうとすると、野次馬の人ごみから知り合いが一人こちらに歩いてきた。古菲絡みで格闘部連中が騒ぎを起こしていると言うので仲裁に来てみたら、この惨状を目の当たりにして戸惑う広域指導員の高畑だった。

「やあ、南雲先生。……これはまた派手にやったね?」

「正当防衛だぞ?」

「そうだね。見てた限り一人一発しか受けてないから、過剰防衛とは言えない……かな?」

 再起不能にされている訳ではなく、単純に一撃で気絶させられているだけなのだ。一応過剰とは言えないだろう。

「ん~でも話し合いは無理だったのかい?南雲先生ほどの実力ならここまでしなくても……」

「悪いな、タカミチ。いきなり攻撃を仕掛けてきたんだぞ?そんな連中に遠慮する必要があるのか?」

「む、そう言われると反論できないんだが……僕も人の事は言えないしね」

 高畑は苦笑しながら頭を掻く。ノリの良すぎる生徒達に、つい必要以上の力で鎮圧した事があるのは『デスメガネ』こと高畑も同様である。その為に今回の慶一郎の行動を嗜める言葉が無かった。

「じゃあ悪いけど、ここの後始末頼んでいいか?仕事の途中に抜けてきたからさ」

「ん?それは別に構わないけど、仕事って何だい?」

「『超包子』の臨時従業員」

 あっさりと答える慶一郎に、予想以上に驚愕してしまう高畑。『麻帆良の最高頭脳』と称賛されている魔法と科学の研究者、その有能さ故に学園長や上層部ではその危険性が討論されていると言う超鈴音。特に際立った行動をしているわけではないが、必要以上に魔法に深く関わりすぎているというのは高畑も思っていたことだ。そんな人物とこうも簡単に接触してしまう彼の真意を思わず高畑は疑ってしまった。
 いきなり硬化した高畑の態度に逆に驚く慶一郎。

「べ、別に教師の仕事に嫌気がさしたわけじゃないぞ?それにあくまで臨時だし、別に問題は無いだろ?」

「あ、ああ……そうだね。一応学園長に報告はしていいかい?」

「わかった。じゃあそろそろ戻るよ」

 軽く手を振って慶一郎はその場を去っていく。後には死屍累々と転がる生徒達をどうしたものか?と悩む高畑が残された。



「すまんな、少し時間掛かったよ」

 そんな声と共に帰ってきた慶一郎に、まず一番に近づいたのは古菲だった。

「ご、ごめんアル、南雲先生。ワタシの面倒に巻き込んでしまって……その、あの連中は無事アルか?」

「気にするな。というか連中の心配もしてるのか?大丈夫、適当にやってきただけだからな」

「殺って……きた?」

 結局残っていた朝倉は、慶一郎の言葉を見事に聞き間違える。そして呟いた朝倉のそんな発音に引く古菲達。

「違うって!……あまりにマナーを知らないもんだから、ちょっと教育的指導を与えてやっただけだ」

「ほほぅ?古菲に挑戦してきた連中を一蹴してくるとは。中々の腕前のようだネ、先生?」

「まあ、それなりには」

 超の言葉を流しながら再びエプロンをつけて厨房に入る慶一郎。中の四葉に途中で抜けて大丈夫だったかと聞くが、素直に〈大丈夫ですよ〉と笑顔で返された。

「む~?南雲先生は何か武術をしているアルか?」

「一応な」

「それなら仕事が終わったらワタシと手合わせして欲しいアルよ!」

 目を輝かせている古菲を横目に厨房の慶一郎はその言葉に眉を顰める。その顔はまるで面倒事は御免だ、と言わんばかりの表情だ。そんな慶一郎を見て、超は面白そうに彼女の方に助け舟を出してくる。

「いいんじゃないかナ?この学園の連中はノリがいい奴が多いから、ああいう喧嘩はよくある事ネ。それならいざという時に、屋台を守ってくれる人間が多い方がオーナーとしても助かるネ。それに私個人としても先生の武術とやらに興味があるヨ」

「オーナーである超の意向にはできるだけ従ってやりたいが……ふむ、とりあえず仕事が終わるまで考えさせてくれ」

「わかったアル!」

「ふふ、楽しみが増えたネ」

 結託する麻帆良チャイナーズ。そんな二人にでかい図体で肩を竦める慶一郎だった。三人だけで話が進む中、残った二人のうち一人が疲れたように呟いている。

「……ふっ、相変わらず私ってば蚊帳の外だよね~。そんなに存在感ないかな、私……」

 思わず屋台の壁と同化しかけている朝倉を、四葉だけがそっと慰めていた。



 夜も過ぎて、『超包子』も閉店時間を迎える。人だかりが出来ていた客席も、さすがに今の時間では閑散としていた。屋台の前には四人(+一人)が仕事を終え、楽しそうに談笑していた。

「なるほど、あのタイミングでそういう味付けをしていたのか」

〈はい。そうすると程よい甘味を出してくれるんです〉

「いや~先生ってば五月の味付けに気付いたんダ?私も中々気付けなかったというのにネ」

「よくわからないアルが、すごいアルね~南雲先生?」

「……いやさ、私にも話の主導権を取らせて欲しいな~とか思ってたり?」

 約一人は談笑に入り込めていないが。そんなこんなで五人が夜風にくつろぎながら休憩していると、その中の一人の古菲が立ち上がっていた。

「それじゃあそろそろ手合わせお願いするアルよ!」

「どうしてもか?」

「先生も往生際が悪いネ。こんなにも生徒がお願いしているんだから、受けてあげたらどうヨ?」

「……一つ聞いていいか?」

「何アル?」

 固辞するのを諦めた様子の慶一郎が古菲に一つ疑問を問いかける。

「古菲、お前にとって武術とは何だ?」

「武術とは……アルか?」

 いきなりの質問に、苦手な頭脳をフル回転して考える。

「ワタシには難しいことはわからないアルよ。……でも一つだけわかるのは『強く』なりたい、そう在りたい。そう思っている事アル!だからこそ強者との戦いを求めるのは当然アルよ!」

 なりたいだけではなく在りたい。その純粋な言葉に、慶一郎は古菲という人間の想いを感じ取った。個人的にそういう姿勢は嫌いではない、そう思うと彼女の願いを聞いてあげても構わない気分になっていた。

「わかった。そこまで言うのであれば少しだけ相手をしてやろう」

「本当アルか!?」

 嬉しそうにそう言った古菲は、慶一郎から数歩距離を取って構える。そんな楽しそうな彼女の態度にやれやれと頭を掻きながら、席を立った慶一郎もまた構えを取る。

(中学生の身で、ここまで純粋に強さを追求できるとはな。その真っ直ぐな気持ちは、少し羨ましいかな?)

 これが若さか、などとやや年寄りじみた思考をしていたが、すぐに振り払い目の前の相手に集中する。中国武術研究会に所属している彼女であれば、八極拳の活歩といった縮地法の類を使える可能性は高い。この程度の間合いでは距離を取ったとは言えないだろう。

「さあ、いくアルよ!」

 掛け声と共に懐に飛び込んでくる古菲に、慶一郎は慌てることなく冷静に対処する。浸透勁という技もあるために、簡単には組み合わない。古菲が繰り出してくる技を受けるというよりは弾く形で捌く、そんな慶一郎の手腕に見学していた超も驚いていた。

(前年度ウルティマホラチャンピオンの古菲の攻撃をこうも捌くかネ。しかも見た目の巨体からは信じられないくらいの機敏さもある、下手をすると高畑先生クラスの実力者か……?)

 攻撃を捌かれ続ける古菲の動きに迷いは無い。何処ぞの虎縞バンダナ男であったなら、苛立ちがピークに達するであろうそのやり取りに、目の前の少女は取り乱すことなく連撃を打ち込んでくる。

「ふむ、中々どうして隙を見せんな……」

「さすがに防御は堅いアル!……それならばっ!!」

 攻撃をすると見せかけ、防御してきた慶一郎の腕を強引に上方へと弾く。両腕が上方へ上がり、ガラ空きの懐へ歩法からの正拳突きを繰り出す。

「これは入ったネ!」

「炮拳!!」

 見学していた超達も、攻撃態勢に入った古菲も決まったと思った……が、その一撃は決まらなかった。古菲の拳が届く前に、慶一郎は彼女の歩法から踏み出した基点の前足を横に払ったのだ。基点を崩された一撃は威力を失い、慶一郎の脇腹を掠るだけに留まる。そしてバランスを崩した古菲の前には、両腕を胸の前に構え打ち出してくる慶一郎がいた。

(ム!コレは拙いアルねっ!?)

「双撞掌!!」

 慶一郎の両手による双掌底を片方の腕に硬気功を使い防御するが、片手だった為完全に威力を殺しきれずに後方に飛ばされる。地面に着地するもすぐに態勢を整える古菲は、不敵な笑みを慶一郎に向ける。

「……南雲先生も八極拳を使うアルか?」

「俺の格闘スタイルに近いんだよ、八極拳は。だから対策を練っているうちに自然に覚えたわけさ。……どうする?まだ続けるか?」

「なんの、まだまだアル!!」

 そう宣言し再び突っ込んでいく。様々な形から攻撃を繰り出す古菲に、それを冷静に捌いていく慶一郎。その二人のやり取りは、屋台近くの街灯と月明かりの下、まるで舞踏のように続いていく……その光景に超達見学者も思わず見入っていた。
 しかし舞踏に終わりがあるように、二人の勝負もまた終わりを迎えていた。

「ここまで……アル、な」

「……残念ながら、な」

 互いに距離を取っていた二人は構えを解く。呼吸が荒く汗まみれの古菲に対して、慶一郎もまた汗を掻いてはいたものの呼吸はそこまで乱れていない。十数分にも及ぶ二人の勝負は、ずっと攻撃していた古菲ではなく防御に徹していた慶一郎に、最終的に体力の差で軍配が上がった。息を整えている古菲に、慶一郎は片手を差し出す。

「中々楽しい勝負だったよ」

「それは、何よりだったアルよ」

 そう言って握手を交わす二人に、四葉がお盆に飲み物を載せて近づいて来る。

〈お疲れ様でした。特製のスポーツドリンクですよ〉

「悪いな四葉。ありがたく頂くよ」

「サツキ、ありがとアルよ~」

「いや~中々良いものを見せてもらったヨ。先生とはこれからも仲良くしていくたいネ」

 和気藹々としている四人に声をかける者が一人、朝倉である。

「いい加減にさ?私を無視して話を進めないでくれないかな?さすがの私もこの扱いは泣くよ?」

「朝倉か?まあ細かい事は気にするな」

「細かくないって!ふふふ、南雲先生?約束は守ってもらいますよ?」

「ここで働いている理由だったな?そんな大した事じゃないぞ?」

「それは私が聞いて判断します!」

 朝倉の勢いにやや押され気味の慶一郎だったが、別に隠す事でもないので話す事にする。

「俺が料理を趣味なのは知っているよな?一つは四葉の中華料理に興味があった事だ」

「というとそのうち管理人室には中華のバリエーションが増える、と。一つはって言うと何か他に?」

「もう一つはお前達(特に龍宮)が管理人室に遠慮なく飯をたかりに来るからだ。別に断りはせんが毎日来るのなら、せめて食材は持って来いと他の奴らにも伝えておけ。何だかんだ言って俺も結構な量を食うからな、食費がそろそろ足りなくなりそうなんだよ。その為の副業でもある」

「そ、それはまた、私達の所為だったんですか……」

 思わず朝倉は額に汗を流す。慶一郎が就任した初日に夕食をご馳走になった朝倉達三人の生徒は、その料理に味を占めその日以来何かと理由をつけては食事をご馳走になっていた。慶一郎個人としても料理を作る事は好きなので気にしてはいなかったが、学園長から渡された生活費ではそろそろ賄えなくなってきていたのも事実だった。すると学園長は魔法関係の仕事を斡旋してきたが、レイハがこちらを探知する間厄介になるだけの予定だったので断った。面倒な事はソルバニアだけで十分である。

(一応学生寮周辺の警護は請け負ったけど、魔法関係は思った以上に面倒だからな……)

 何せ一般世界からは秘匿され、情報も制限されているなどと厄介な枷が多い。ソルバニアの時は、向こうへ行く時と帰ってくる時に最悪気をつければいいだけだったのを思えば、こちらは酷くやりにくい。しかも魔法が存在する世界の所為か分からないが、仙術気功闘法〈神威の拳〉の基礎である〈神気〉がソルバニアの時のように光として肉眼で確認できるようになっている(対刹那戦の時に確認済み)。ある意味こちらの魔法と似たような現象の為、学園長からは非常時以外の〈神威の拳〉の使用は極力避けるようにも言われている。慶一郎としてもわざわざ使う気は無かったが。

「学園長から適当に仕事を斡旋されたけど、どれも面倒そうで気に入らなかったからほとんど断ってさ。それでこの屋台の事を思い出して、一石二鳥でもあったから超に頼んだ、というのが真相だ。記事にするか?」

「あー今回は私らにも責任あるんでやめときますー」

 朝倉は非常に残念そうに詳細をメモしていた手帳をしまう。スクープといっても自分の醜態?を記事に晒す気はなかった。

(先生にとっては一石二鳥かも知れないが、私にとっては一石三鳥ネ)

 超が密かに微笑んでいたりするが、その様子に気付く者はいない。朝倉がもう一つの約束であるバイト代に関して質問していたが、慶一郎はさらっと受け流す。

「今週の夕食を全てご馳走してやろう。もちろん材料費は無しでな?」

「お~それは中々の好条件ですな~?先生もお人が悪い~」

 などと時代劇の悪役のような台詞を話す朝倉に一同はどこか呆れていた。



 朝倉への約束を果たし、『超包子』の客席などの整理清掃を終えた慶一郎は皆を促して学生寮へと戻る。だいぶ夜も更けていたので慶一郎を除く全員は眠たそうな顔をしている。学生寮に辿り着くと、一人一人と自分の部屋へと戻っていった。
 全員が部屋に戻ったのを確認すると、踵を返し寮の入り口を出る。入り口から少し歩いた所にある木に向かって一言。

「長瀬。お前も夜更かししてないでさっさと寝ろよ?」

 そう言って管理人室へと戻っていく慶一郎。声をかけられた木から黒い服を来た人物が降り立つ。百八十センチの長身で、特徴ある髪型に糸目の少女、長瀬楓である。

「……まさか拙者の気配に気付かれていたとは。やはり只者ではないでござるな、ニンニン♪」

 と、いまいち忍んでいない忍者がそこにいた。

麻帆良に来た漢! / 麻帆良に来た漢!第九話

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