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麻帆良に来た漢!第九話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/12-14:12 No.2674

 終了式のあった日の夕方、格闘部連中とのやり取りでその尋常ではない強さを発揮した慶一郎は、『デスメガネ』こと高畑と同じように『麻帆良のパニッシャー』と呼称され、広く学園にその名を刻み込んだ。

「誰が私刑執行人だ、誰が?」

「ま、まあ、僕の『デスメガネ』も結構アレだしねぇ。春休み中に噂がかなりの規模で広がったみたいだし、仕方ないよ南雲先生」

「失礼な呼称を広めたのは報道部か?一度お灸を据えてやらんといかんな……」

「……できるだけ穏便に頼むよ?」

 あの日以降特に何が起こるでもなく慶一郎のバイト三昧の春休みは終わりを告げ、新学期の職員室で高畑と二人で談笑していた。談笑というには物騒な匂いがひしひしとするが、それを敢えて突っ込もうとする教師はいなかった……ネギもまた然りである。ふと、そんなネギに話を振る慶一郎。

「そういえば、俺はずっと『超包子』でバイトしてたけど、ネギ先生は春休みはどうだったんだ?」

「僕ですか?そうですね、2-Aの生徒達と大分仲良く交流できました。学園の案内とかもしてくれたんですよ~」

「学園の案内か、俺も今度誰かに頼むかな?必要最低限の所しか行っていないからな」

 慶一郎の行動範囲として、まずは学校までの道のり、バイト先『超包子』の周辺、食材や生活必需品の買出し、学生寮周辺の警備といった所だけである。学園を隅々まで知る必要はないが、有事の際があると想定すると情報が少し足らないと言える。そう慶一郎が思案していると、ネギはクラス名簿を取り出して提案してきた。

「それじゃあ南雲先生、さんぽ部の人に頼んでみてはどうでしょう?」

「さんぽ部?」

「学園をよく散策している子達だね。だから意外と穴場の喫茶店とか紹介してくれるよ」

 ネギの言葉に続けるようにして高畑が言う。

「ふ~ん、長瀬もこの部に所属か」

「僕が案内してもらったのは鳴滝さん達でしたけどね」

 案内された時の事を思い出して、やや顔を赤くするネギ。そんな少年を不思議に思いながらも、クラス名簿を見た慶一郎は両腕を組んで考え込む。古菲と勝負した夜、こちらを観察していた長瀬を初めは不審に思っていたが、いつもの言動やクラス名簿に思いっきり『忍』と書かれているのを見ると、ただの忍者という性分からの行動と推測する。

(忍者の知り合いにロクな奴はいないが、彼女はそこまで気にするほどではないようだ。一度案内を兼ねて話をしてみるか?)

「なら俺は長瀬に頼んでみるかな?鳴滝達には悪いが、あまり姦しいのは苦手なんだ」

「うう、僕もそれにはちょっと同感です~」

「ははは、彼女達は若さ溢れているからね~」

 珍しく三人の意見が一致する。そんな平穏な新学期の朝の職員室の光景だった。





『第九話 噂の吸血鬼との初遭遇?』





 チャイムが鳴り、昇級した中等部三年A組の朝のHRの時間が始まる。

「三年A組!!ネギ先生ーーっ!!」

 鳴滝姉妹に椎名を筆頭に盛り上がる教室に、そんな歓迎を受けて嬉しそうに照れているネギ。相変わらずのノリの良さに、慣れてはいたものの慶一郎は溜息をつく。そのタイミングが一番後ろに座っている長谷川とシンクロしていたりするが、ネギの挨拶が始まったのでそちらに意識を戻す。

「えっと、そんなわけで……改めまして、このクラスの担任になりましたネギ・スプリングフィールドです」

「同じく、副担任となった南雲慶一郎だ」

「これから一年間、二人共々よろしくお願いします!」

 ネギ達の定番の挨拶にもしっかり反応する生徒達。そんな彼女達を見て、ネギはまだまだ話をしていない生徒達との交流を色々と考えていた。慶一郎はとりあえず長瀬とのコンタクトを考えていたが、その時ネギと同様に鋭い視線を受ける。
 視線の先には、廊下側の席の一番後ろに座っている金の髪に青い瞳の少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがこちらを睨んでいる。ネギはその眼光に思わず怯んでいたが、慶一郎はその挑戦的な視線を疑問に思っていた。

(あんな風に睨まれる覚えはないが、ネギ先生も見ていたという事は『こちら側』の人間か?後で学園長に確認を取っておいた方がいいか……やれやれ、学園の案内はまた今度だな)

 そう慶一郎が結論した時、教室にしずなが入ってくる。

「ネギ先生、南雲先生。今日は身体測定ですので、生徒達もすぐに準備してくださいね?」

「そ、そうでした、ここでですか?」

「わかりました、しずな先生。じゃあ皆、俺達が出て行ったら委員長の指示で測定をしてくれ。雪広、後は任せたぞ?」

「わかりましたわ」

 クラス委員長の雪広にまとめ役を任すと、身体測定の為に着替えるであろう彼女達の教室からネギを伴って出て行く。そのまま少し教室から離れて歩いていく慶一郎に、慌てて付いていくネギ。

「わわ、どうしたんですか、南雲先生?」

「……率直に聞くぞ?ネギ先生、さっきのエヴァンジェリンの視線に気付いたか?」

「南雲先生も気付いたんですか!?」

 てっきり自分にだけ向けられていた視線だと思っていただけに、ネギは驚いていた。そんなネギに、慶一郎は質問をしていく。

「まさかとは思うが、彼女は『こちら側』だったりするのか?あいにく、俺は聞かされていないが……」

「い、いえ……僕も聞いてませんけど?まさかエヴァンジェリンさんが何か?」

「いや俺もよくわからん。ただ俺とネギ先生に、いきなりあんな挑戦的な視線を送ってきた事に疑問を感じただけだ」



 二人が出て行った後、教室では委員長である雪広の監督の下、順調に身体測定が行われていた。その中で生徒達は、クラスで一人今日来ていないまき絵の事や、最近噂の『桜並木の吸血鬼』の話で盛り上がっていた。柿崎の怪談のような話し方に、本気で怖がっている生徒も何人かいたが、現実主義者な明日菜は全く相手にしてなかった。

「馬鹿馬鹿しいわね~、そんな噂話してる暇があるならさっさと測定しちゃいなさいよ?」

「あはは、アスナは相変わらずリアリストだな~」

「少なくても自分で見てない噂の類を信じる気はしないわね。……もし実際に見たなら話が別だけど」

「へぇ~アスナってば、どういう心境の変化?」

 明日菜にしては珍しい意見にクラスは注目する。自分の迂闊な発言に、ついしまったという顔の明日菜。以前図書館島に行った時に、噂話でしかない『メルキセデクの書』という魔法の本を実際に見ているのだ。魔法なんて非常識だと思っていたが、ネギという魔法使いがいるのもまた事実なのである。
 それならば噂話の段階では信じないまでも、この目で確認したものならばその存在までも否定しない事にしていた。

「別におかしい事じゃないでしょ?もしそんな吸血鬼がいるんだったら逆にぶっ飛ばしてやるわよ」

「お~さすがはアスナ!吸血鬼すら恐れないとはね~」

「でもアスナさんみたいなお馬鹿さんの、血を吸うような吸血鬼もいないんじゃなくて?」

「何ですって!?」

 そうしていつもの様に言い争いを始める二人。そんな明日菜を見ていた生徒が近づく。明日菜の横を通り過ぎる時にその生徒、エヴァがその耳に聞こえるように呟いた。

「神楽坂明日菜。噂の吸血鬼は、お前のような元気のいい女の血は好物だそうだ。……十分に気をつけるんだな?」

「え?」

 明日菜が振り向くより先に、その場を離れるエヴァ。そのまま雪広との言い争いをしながらも、明日菜はそんな事を呟いたエヴァの真意を測りかねていたが、あまりにも突然の事だったので明日菜の意識からはすぐに消えてしまった。



 ネギ達は情報の交換をしていたが、お互いに知らないのであればこれ以上の詮索は無意味と判断する。後で学園長に聞いてみようという慶一郎の意見に同意し、教室の方へ戻ろうとすると生徒の一人、和泉亜子が廊下を走ってきた。

「先生ーーっ!大変やーー!?」

「どうした和泉?あと廊下を走るな」

「まき絵がーー!まき絵がーーっ!?」

「まき絵さんがどうかしたんですか!?」

「何!?まき絵がどーしたって!?」

 事情を聞こうと和泉に二人が近づいた時、その声を聞いていた3-Aの生徒達がドアを、窓を開けて出てきた……下着のままで。慶一郎はネギと一緒に慌てて後ろを向いて、彼女達から視線を逸らす。

「あわわっ!?」

「服を着ろーっ!」



 身体測定を先に終わらせていた数人と一緒にネギ達は保健室に向かった。そこには、桜通りで寝ている所を保護されたというまき絵がベッドで穏やかな顔で寝ている。一緒に来ていたしずなが状況を説明すると、クラスメイトは大した事ではなかったと安堵しつつも、彼女の状態に色々と勝手な推測を上げていた。

(桜通り?もしかして……噂の?)

 その中でネギは一人、まき絵の身体から魔力の残滓を感じていた。するとこの状態は魔法使いの仕業という事になるが、学園にいる魔法関係者がそんな事をするはずもないという気持ちがある。両方の考えがせめご合って、ネギは混乱してしまう。
 いきなり真面目な顔で考え込んだネギを不審に思い、明日菜が声をかけるもののネギは答えを濁す。事情がはっきりしないが、下手に生徒を巻き込むわけにはいかないと判断したのだ。

「だ、大丈夫ですよ!まき絵さんは心配ありません。ただの貧血かと」

「でも……」

「あ、それとアスナさん。今日は仕事があって帰りが少し遅くなりますので、晩御飯はいりませんから」

「ネギ?アンタまさか……」

 そう言いかけた明日菜を大きな手が遮る。

「わかった。とりあえず、佐々木はここで休ませておこう。疲れていたんだったら静かに休ませてやれ。ほら、皆教室に戻るぞ?」

「は~い」

 慶一郎の言葉に従って教室に戻っていく中で、一人明日菜を側に呼ぶ。不審な顔で慶一郎に近づいて来る明日菜。

「どういう事、南雲先生?」

「神楽坂、今から俺が話す事は独り言みたいなもんだ。他言無用で頼む」

「?……わかったわ」

 前押しをしてから慶一郎は、保健室で感じた違和感について話す。

「詳しい事は分からないが、佐々木の身体からネギ先生が使う魔力に似たものを感じた。ネギ先生も気付いた筈なんだが、彼はその事実を自分一人だけで背負い込もうとし、尚且つそれを自分一人で解決しようとしている」

「あの馬鹿……」

「噂の吸血鬼というのはもしかしたら魔法関係者なのかもしれん。その確証は無いが、彼の反応を見る限りその可能性は高い。その所為か知らんが、迷惑をかけまい、下手に巻き込むまいと他人を頼ろうとしないのは彼の短所と言えるな」

「どうして、それを私に……?」

 淡々とネギが隠そうとした情報を話してくれる慶一郎に、明日菜はその理由が分からなかった。

「ネギ先生が神楽坂を『こちら側』に最初に巻き込んだのだろう?それならば、彼の知りうる情報を同様にして知る『義務』は無いが、その情報を知る『権利』はある。神楽坂に対して、その責任がネギ先生にはあるワケだ。それを怠るネギ先生を、補佐としては見過ごせないのさ」

「『権利』?そうね。もう巻き込まれている以上、下手に隠されるのは気に入らないわ。しかも勝手に迷惑だ、と決め付けて周りを頼ろうとしない大人ぶったガキンチョもね!」

 巻き込む?迷惑だ?既に巻き込まれているし、迷惑かどうかを決めるのは向こうではない。こちらがどう思っているかを無視するのは、むしろ侮辱に値する。明日菜はそんなネギの考えに憤慨していた。そんな少女を満足そうに見る慶一郎。

「うむ、神楽坂のその直情径行な性格はきっと、ネギ先生にとってプラスになるだろうな」

「直情径行って……それって褒め言葉?」

「さあな。ネギ先生の事も問題だが、噂だけではない可能性もある吸血鬼もだ。神楽坂も夜に一人で出歩いたりするなよ?特に桜並木なんかを」

「わかってるわよ」

 そう言って明日菜は慶一郎から離れて教室へと戻っていった。





 その夜、図書館組と行動していた明日菜は、一人先に帰ったのどかを心配していた。途中で寄り道しようと言うハルナの言葉に乗ったものの、真面目なのどかは先に帰ると言ってきたのだ。
 一人で大丈夫か?と聞いたが、大丈夫と本人が言っていたので納得していたのだが噂話を笑うハルナの言葉に、慶一郎からの忠告を思い出す。

(まさかね?……でも寮への道にはあの桜並木がある)

 慶一郎の言葉が頭から離れず、結局ハルナ達に断って木乃香を伴いのどかを送る為に引き返す事にした。

「意外に心配性なんやね、アスナ?」

「仕方ないでしょ?気になっちゃったんだからさ」

 微笑ましいものを見る様な木乃香の視線に照れながらも、学生寮までの道を戻る。その視界に桜並木を捉えた時、前方から凄まじい音が聞こえてきた。

「な、何なん!?」

「(予感的中!?)って誰かあそこにいる!?」

 音のした所を見やると、そこには三人の人影が確認できた。何故か胸から下の衣服が吹き飛んでいるのどかに、それを支えている私服のネギ。その先に真っ黒なマントに包まれた謎の人物がいた。
 明日菜と違い木乃香はその人物に気付かないのか、気を失っているのどかを支えているネギが吸血鬼なのかと騒ぎ立てる。慌ててネギが弁解していると、その黒い人物は霧に消えていく。

「あっ待て!」

 これ以上距離を取られたら見失ってしまう、そう考えたネギはのどかの事を明日菜達に任せてその後を追おうとする。

「宮崎さんをお願いします!怪我はありませんから」

「え、ちょおネギ君!?」

「僕は事件の犯人を追います!心配ないですから、宮崎さんを送って二人とも先に帰って下さい!」

「ちょ、待てコラーッ!」

 明日菜の制止の言葉も聞かずに、魔力で強化した脚力で犯人を追いかけていくネギ。思わず舌打ちした明日菜は、この状況の収拾をどうするか迷った。

(ネギを追いかけて行きたいけど、そうするとこのか一人じゃ本屋ちゃんを運べないし……)

「このか。私、ネギが無茶しないか見てきたいんだけど……」

「うん、わかったえ~。アスナの事やしな、放ってはおけんやろ?宮崎さんはうちが介抱してるえ~」

「ありがと、このか。途中で誰か先生に連絡しておくから、そこから動かないでね!」

「うち一人じゃ宮崎さん運べへんよ~。大人しく待っとるえ~」

 さすがはルームメイト、と感謝しながら明日菜は後を木乃香に任せ、自分もネギを追いかけていく。
 自慢の運動能力で駆けていく明日菜の前方の空では何やらピカピカと光っている。恐らくはネギが魔法を使って交戦しているのだろうと判断した明日菜は、ポケットから携帯を取り出す。そして念の為に連絡先を聞いていた慶一郎へと電話すると、ワンコールで相手が出る。

「南雲先生?あの、神楽坂です!」

「どうかしたか?何か外がピカピカ光ってるが、もしかして噂の吸血鬼が出たか?」

「そうです!それで、ネギがそれを追っていて……学生寮の方に向かっているみたいです」

「わかった。俺も外に出て調べてみるよ」

「お願いします!」

 携帯を切ると、ネギ達は何かあったのか学生寮の上、屋上に降下していった。どうもネギが追い詰めているようだが、何か嫌な予感がしてならない。急ぐ明日菜が学生寮が近づいてくると、前には慶一郎が丁度入り口から出てきた所だった。

「ネギ先生は何処だ?」

「そ、それが屋上に……」

 息を整えながらも嫌な予感は増すばかりだ。そんな焦燥感を覚える明日菜は、目の前の慶一郎を見ると非常手段を思いついた。

「屋上か、屋内の階段から行くと結構時間掛かるな」

「嫌な予感がするんでショートカットします!南雲先生、協力してください!」

「何をする気だ?」

 明日菜は先程思いつた方法を説明する。それを聞いた慶一郎は思わず溜息をついた。

「……お前の運動能力と、俺の筋力を合わせれば確かに可能だが……かなり危ないぞ?」

「百も承知です!」

 そう言うと明日菜は慶一郎から距離を取る。やれやれ、と頭を掻きながら慶一郎はそんな少女の正面に立ち、片膝を着く。両手を組むようにして足の前に置く。そして、その両手を目指すように明日菜は助走距離を全力で走り駆けていく。

「特に着地には気をつけろよ?勢いがかなりついているからな!」

「了解!」

 明日菜の足が慶一郎の両手を踏みつけた瞬間、立ち上がりながらその全身を使って両腕を上に向けて伸ばす。慶一郎をカタパルトにして、ロケットのように飛んでいく明日菜。八階という高さを物ともせずに飛翔する明日菜は、屋上を越えた所で誰かに押さえつけられているネギを見る。
 まるで襲われているような現場に明日菜は、自分のその激情をそのまま襲撃者達に向ける。屋上に着地し、身体に残る勢いを利用しそちらに飛び込んでいく。

「このっ変質者どもがぁーーーっ!!」





 明日菜達と別れた後、ネギは得意の風属性の魔法を使って事件の襲撃者、エヴァを追いかけていた。のどかが襲われた時にその正体に気付いたのだが、何故こんな事をするのかが分からない。しかも自らを『悪い魔法使い』と称するエヴァに、ネギは正直戸惑っていた。

「ま、待ちなさーい!エヴァンジェリンさん、どうしてこんな事をするんですかー!?」

「ははっ、先生!教えて欲しくば、私を捕まえてみるんだな!」

 不適に笑いながら逃げていくエヴァを風の精霊を召還して捕獲しようとするが、彼女が投げる魔法薬によって阻まれる。

(また魔法薬?あんなに偉そうにしてる割に魔力が弱い……これならいける!)

 最後の精霊が迎撃された隙をつき、加速して前に回りこむ。

「風花 武装解除!!」

「っ!?」

 エヴァが身に纏っていた黒いマントはその姿を蝙蝠に変え、空に飛び去っていく。下着姿で失速するエヴァは適当な足場、学生寮の屋上に降下する。
 ネギも追うようにして、そこへ降り立つ。

「ふっやるじゃないか、先生?」

「これで僕の勝ちですよね?なんでこんな事をしているのか、話してもらいますよ!」

「……これで勝ったつもりか?」

 不適な笑みを崩さないエヴァの態度に、不安を感じるネギ。

「まだ抵抗する気ですか?なら動きを止めさせてもらいます!ラス・テル・マ・スキル……っ!?」

 エヴァの動きを止める為の拘束魔法を詠唱し始めた瞬間、彼女の後ろから現れた影に額を指で弾かれ詠唱を止められる。額を押さえて詠唱を止めた者を確認しようと涙目でエヴァの方を見ると、彼女の側には3-Aの生徒の一人である絡繰茶々丸が立っている。

「えっ、茶々丸さんが何故!?」

「紹介してやろう。茶々丸は私の『魔法使いの従者』だ」

「申し訳ありません、ネギ先生」

 そう言って茶々丸はエヴァとネギの間を塞ぐようにして立つ。そんな二人にネギはすっかり混乱していた。

(何で僕のクラスの生徒が……ってそれよりも茶々丸さんが従者って事は!)

 二人から距離を取って詠唱を試そうとするが、茶々丸にすぐに詰められ失敗する。魔法使いの隙を守るべき従者のいないネギでは、茶々丸の詠唱妨害を防ぐ事が出来ない。そんなネギを見てエヴァは従者の在り方や、自分に降りかかった呪いの解除法を説明しながらネギに近づいていく。

「どうした?もう打つ手なしか、先生?」

(まだ……だ!詠唱ができないのならっ!)

 詠唱をせずに魔法を発動させる無詠唱魔法。ネギはまだ上手く使えた事は無かったが、今はそんな事を言っていられる状況ではない。自分を拘束しようと近づいて来る茶々丸に、無詠唱の魔法の射手を打とうとした……が、不発。

「失敗っ!?」

 瞬間、後ろから茶々丸にヘッドロックされる。茶々丸の拘束を外せないネギに、やや感心したようなエヴァがさらに近づいていた。

「無詠唱近接魔法の射手とは考えたな?だが失敗しては何にもならん。ここまでだな。貴様の父親『サウザンド・マスター』の血縁の血、死ぬまで吸い取らせて貰うぞ!」

 茶々丸にパーカーを脱がされ、エヴァはネギの首筋に口を寄せる。首筋に走る鋭い痛み、ネギは今自分が吸血鬼に吸血されている事を酷く実感していた。吸われていく血液に魔力、それに伴い意識が段々薄れていく。

(僕は……こんな所……で、あきらめ……るワケ……には……)

 そんな時、学生寮の屋上に声が響く。

「このっ変質者どもがぁーーーっ!!」

 と、怒号一声。飛び込んできた明日菜の飛び蹴りが、ネギを拘束していたエヴァ達を勢い良く吹き飛ばす。……当然拘束されていたネギもついでに吹っ飛んだが。

「うちの居候に何如何わしい事してんのよーーっ!!……ってアンタ達はうちのクラスの?」

「か、神楽坂明日菜だと!?」

 自分の魔法障壁を簡単に打ち抜かれて呆然としていたエヴァは、その人物を確認すると青筋を浮かべる。横の茶々丸は律儀に明日菜に礼をしていた。そんな二人に混乱しながらも、明日菜は問い詰める。

「アンタ達が事件の犯人なの!?まき絵や本屋ちゃんだけでなく、ネギにまで!これ以上続けるならタダじゃ……っ!?」

「タダじゃ……何だ?」

 言葉の途中で明日菜はエヴァの迫力に絶句してしまう。真祖の吸血鬼である自分の顔を足蹴にした目の前の少女を、エヴァは睨む。長い時間を過ごし、闇の世界でも広く恐れられた中で一度も女子供を殺めた事がなかった彼女だったが、顔を足蹴にされたのは初めてだ。
 いくらなんでも誇り高い吸血鬼のプライドがそんな事を許さない、そんな怒りの表情を向けられた明日菜は青褪めている。慌てて茶々丸が諌めようとするが、既にエヴァは魔法薬を投擲していた。

「いけない、マスター!それ以上はっ!」

「この私を足蹴にした事、死んで後悔しろっ!!凍てつけ、氷爆!!」

「っ!?」

 エヴァの方から向かってくる凄まじい冷気に思わず目を瞑る。だが一陣の風が吹いたかと思うと、目の前に迫っていた冷気は消えていた。明日菜が目を開くと、そこには忌々しいものを見るような目でエヴァが屋上の屋根の縁を睨んでいた。

「……何のつもりだ?」

「そこまでだ、エヴァンジェリン。それ以上は俺の仕事の領分を侵すぞ?」

 そこには両腕を組んで佇む南雲慶一郎の姿があった。

麻帆良に来た漢! / 麻帆良に来た漢!第十話

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