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麻帆良に来た漢!第十話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/15-10:49 No.2683
満月が照らす学生寮の屋上で、エヴァと慶一郎は対峙していた。ネギは貧血で気絶しており、明日菜がそれを抱いて支えている。エヴァの従者である茶々丸は主を守るようにして慶一郎との間に立っていた。
「貴様の領分だと?ふん、坊やの護衛だとでも言うつもりか?」
「違うな。今の一撃、神楽坂を本気で殺そうとしただろう?」
「当たり前だっ!!この真祖の吸血鬼である私の顔を足蹴にしてくれたんだからな、その小娘は!」
それが当然と言わんばかりにエヴァは激昂する。しかし、逆に慶一郎は冷静さを全く損なわずに話を続ける。
「お前の言い分なんぞ知らん。ただ、学園長から頼まれた仕事に『学生寮周辺での生徒の安全』という一項があってな。さっきの一撃は、それに該当するってワケだから妨害したんだが……」
「はあ?」
「要はこのエリアでの生徒の安全は、俺の仕事の一つだから邪魔してくれるな、と言っているんだよ。ちなみに保護対象は生徒のみだから、残念ながら教師であるネギ先生は対象外だな」
「ちょ、南雲先生?本気で言ってるの、それ!?」
「ああ。あくまで学園長に頼まれたのは『生徒の安全』だけだからな」
「で、でもネギを助ける為に、私をここに送ってくれたじゃないっ!?」
明日菜は慶一郎が何を言っているのか分からなかった。生徒である自分は保護の仕事の範疇で助けておきながら、補佐すべき教師のネギの安否は知らないと言っているのだ。そんな言い分を理解できずに叫ぶ明日菜に、淡々と慶一郎は話す。
「保護すべき生徒であるお前の頼みだったからな。それを聞くのは当然だが、反対にネギ先生からは今回の事を手伝ってくれとは一言も聞いてない。ならわざわざ助ける義務は俺に無いだろう?」
「それはっ……そうだけど、でも!」
「人を動かすにはそれなりの『理由』が必要なんだよ、神楽坂」
「……くっくっく、面白いじゃないか南雲慶一郎?」
反論できずに言い淀む明日菜とは反対に、慶一郎の言い分を興味深そうに笑うエヴァ。
「ジジイの手飼いの狗と思っていたが、中々面白い正論を吐くものだ。副担任として担任を補佐して助けなくていいのか?」
「これは『教師』の仕事の範疇じゃないしな。何より助けるにしても、ネギ先生から何も言われていない以上介入する気はない。それよりもエヴァンジェリン、そろそろ退く気にならないか?」
「さあ?どうしたものかな?」
明日菜に対する怒りなど、目の前の面白い男に対する興味に比べれば話にもならない。高まりすぎた熱を下げていく中でエヴァは、従者である茶々丸に念話を通していた。
(茶々丸。さっきお前から拝借した予備の魔法薬を迎撃した奴の攻撃は魔法だったか?あの小娘への怒りの所為で、周りへの注意が散漫でよく見れなかったのだが、お前なら観測していたろう?)
(いいえ。マスターの『氷爆』を相殺したモノは魔法ではありませんでした、が……)
(が?何だ茶々丸、気付いた事があるなら言え。情報は多いに越した事は無い)
冷静になればなるほど、エヴァは目の前の男から何やら嫌な予感がしてならない。
(南雲先生が使ったのは『気』ではないかと思われます)
(いくら弱っているからといって、気弾程度に私の魔法が相殺できるものか?)
(いえ、先程言いかけたのはその気弾の中に、微弱ではありますが『魔力』も感知されたのです)
(『魔力』だとっ!?まさか感卦法で強化した『気』を、飛ばしてきたとでもいうのか?)
『第十話 悪い魔法使いのお宅訪問編』
エヴァは迷っていた。それほど脅威に思ってなかった慶一郎が、まさか高畑と同様に感卦法を使えるとまでは読んでいなかったのである。満月とはいえ封印されたこの状態では、高畑の『豪殺居合い拳』クラスの攻撃は到底防ぎきれない。ここは仕切り直しといきたい所だが、目の前の男がそれを容認するとも思えなかった。
(相反する『気』と『魔力』を融合させる事で、強大な力を得る高難度技法『感卦法』。その融合させた力を魔法のように放出してくるとは、タカミチには真似できん芸当だな。まあ私なら封印されていなければ出来る事だが……っ!?)
(はい。つまりあの感卦法は、封印が開放されたマスターと『同格』の技術という事になります)
(くっ、現状で相手にするには分が悪すぎるか……?)
慶一郎の真意を測ろうとエヴァが悩んでいると、目の前の男は背中を見せる。
「……何のつもりだ、南雲慶一郎?」
「何のつもりも、俺は俺の仕事をするだけさ。気絶しているネギ先生を神楽坂の部屋に連れて行って、その後近衛達の回収に行くだけだ」
「私を見逃すとでも言うのか?次は生徒に害を及ぼさない保証はないかも知れんぞ?」
「そんな仮定じゃ俺が動く『理由』にはならないな。俺が警備するエリア以外の事まで責任は持てんし、持たん。他に無いならそろそろ帰れよ?もちろん絡繰と一緒にな」
さっさと帰れと言わんばかりの慶一郎の態度に訝しむエヴァだったが、とりあえずその提案に乗ることにする。
「……ふん、今日の所は貴様に免じて退いてやろう。行くぞ、茶々丸!」
「はい、マスター。では失礼します、南雲先生」
「また明日、学校でなー」
飛んでいくエヴァ達を見送ると、慶一郎はネギを抱いている明日菜の方へ歩いていく。
「あれで良かったの?」
「分からんな。だが、この周辺で同じような事はもう起きんだろうさ。さて、ネギ先生も気絶したままだし、とりあえず部屋まで送ろう。近衛達もいい加減待ちくたびれているんじゃないか?」
「本屋ちゃん達を、エヴァンジェリンさんが再び襲ってくる可能性は?」
「無い、な。あのエヴァンジェリンの性格上、何か裏があると思わせると暫く様子を見てくるタイプと見た。俺の存在に不審を抱いた以上、少なくとも今日はもう動かんだろうな」
「……南雲先生は今後、エヴァンジェリンさんからネギを助ける気はないの?」
「彼が頼んで来ない限りはな。いいか神楽坂?他人の事を勝手に思い込んで行動する事はな、余計なお世話と言うんだよ。お前も保健室で俺の話を聞いた時にそう感じただろう?」
「そうだった、わね……」
俯く明日菜に慶一郎は言葉を繋げる。
「まあ俺は別として、神楽坂がどう動くかは自由だぞ?ネギの為に動く『義務』はないが、『権利』はあるんだからな。余計なお世話にならん程度に、好きにするといいさ」
「あくまで自主的に、って事ね?」
「正解だ。中々頭の回転が良くなったな、神楽坂?」
「……褒められてるの?それとも馬鹿にしてる?」
「さあな。それよりも早く戻ろう。春になったとはいえ、夜に外出したままじゃ風邪をひきかねんぞ?」
「そうね、ってここからどうやって降りるの!?」
慶一郎をカタパルトにして飛んできた明日菜は、降りる時の事を完全に失念していた。ネギを抱いたままオロオロする明日菜に、溜息をつきながら慶一郎は声をかける。
「お前も今後は考えてから行動するようにするんだな。まあいい、とりあえず俺の肩に乗れ」
「え?……うん?」
右腕を肩に水平なる様に伸ばし、前屈みになる慶一郎……そこに乗れと言っている。そしてネギを抱いたまま、その肩に座るようにして乗る明日菜。ネギを抱いたままでやや不安定な状態だったが、慶一郎が上手くバランスを取ってくれるので何とかなりそうだ。
「どうするの、南雲先生?」
「まあちょっとしたフリーフォールみたいなもんだ。暴れるなよ?」
「ふりーふぉる?って何……っ!?」
明日菜の疑問に答える間もなく、慶一郎は八階の学生寮を垂直に降下……落ちていった。その急激な重力の喪失に思わず絶叫を上げそうになった明日菜だが、下手に暴れてネギを落とすワケにもいかず歯を食いしばって耐える。
地面が近づくと慶一郎は、龍気を練って着地の衝撃に備える。衝撃を緩和して着地した慶一郎は、そのまま前屈みになって明日菜達を降ろす。
「着地完了っと。大丈夫か?」
「大丈夫か?じゃないわよっ!!ひ、非常識な降り方しないでくれる!?」
「非常識な上がり方したお前に言われたくはないが?」
「くっ!?」
いい加減慶一郎に口論では勝てない、と明日菜は自覚した。まだ目を覚まさないネギを恨めしそうに見ながら、前を歩いている慶一郎についていく。
「じゃあ私はネギを部屋に置いてくるから、先生は先にこのか達を迎えに行ってくれる?」
「ああ、桜並木だったな?そっちは任せておけ」
そう言って明日菜はネギと学生寮へ、慶一郎は桜並木の方へ木乃香達を迎えに行く。その先で胸から下の衣装が吹き飛んでいたのどかを見て、慶一郎が慌てて革ジャンを差し出したのは言うまでもなかった。
翌日、エヴァに血と魔力を吸われたネギは体調を崩して寝込んでいた。言いたい事が山程あった明日菜だったが、ネギの容態を考慮して今日はそのまま休ませておく事にする。登校しようと木乃香と部屋を出ると、そこには慶一郎が立っていた。
「あれ、南雲先生?」
「おはよう、二人とも。ネギ先生の出勤は無理そうか?」
「はい、あの後結局そのまま体調を崩しちゃったらしくて……」
「まあ、仕方ないか。じゃあ遅刻しないうちに俺らも行こう」
ネギの状態を確認しに来た慶一郎だったが、出勤が無理と分かると明日菜達と一緒に学校に向かった。その道中、いつも一緒に登校している明日菜達が、肝心のネギといない事を疑問に思ったクラスメイトに話しかけられる。
「あれ、アスナ?ネギ君はー?」
「えーっと、今日は風邪で休みだってさー」
「えっ!アスナってば、ネギ君一人置いてきたの?」
「置いてきた言うな!風邪をうつしちゃ悪いからって遠慮するから、その意向を尊重したのよ」
「な、なるほどー」
そんなクラスメイトの質問に答えながらも、明日菜達はスピードを落とす事無く走っていく。同じように余裕でついてきている慶一郎に、明日菜は小声で話しかける。
「ところで南雲先生?エヴァンジェリンさん達が学校にいたらどうするつもりなの?」
「……別にどうもしないが?」
「だって昨日の事件の犯人なんでしょ?学校で何か仕掛けてきたら……?」
「停学にするだけだな」
「……そういう問題?」
あっさりと言う慶一郎に、思わず脱力してこけそうになる明日菜。ローラースケートで横を並走している木乃香は、そんな明日菜を不思議そうに見ていた。
「学校という敷地内にいる間は教師として対応するまでだ。それを向こうがどう思うかなんぞ知らんな」
「それはそうなんだけど、何だかなぁ……」
相変わらずのその言い分にイマイチ納得がいかない明日菜だったが、そうこう言っている内に教室に辿り着いていた。慶一郎はそのままネギの病欠を告げるべく、明日菜達と別れて職員室に向かう。
「皆おはよーっ!」
朝の挨拶をしながら教室に入ると、昨日倒れて保健室に運ばれたまき絵が登校していた。周りの生徒も心配していたが、その笑顔の様子を見るともう大丈夫のようだ。
さらに教室を見回すと、廊下側の後ろの席にはエヴァと茶々丸がきちんと登校していた。しかも明日菜の姿を確認すると、こちらを睨んでくる。
(うう、昨日の事があるから何か気まずいかも……)
そんなエヴァの視線から目を逸らす明日菜。
(ふっ、南雲慶一郎の事もあるし、昨日の事は特別に水に流してやろう小娘。……それにしても、坊やは休みか茶々丸?)
(そのようです。ネギ先生の生体反応は学生寮から動いていません)
(学生寮なら手は出せん、か)
ネギが出勤して来るならからかってやろうとわざわざ朝から登校してきたが、その本人がいないのでは意味が無い。それならば、といつも通りにサボろうと教室を出て行こうとするエヴァだったが、ドアの向こうの障害物にぶつかる。
「痛っ!?って南雲慶一郎!?」
「おはよう、エヴァンジェリンに絡繰。どこへ行こうとしてたんだ?もうHR始まるぞ?」
「坊やは休みだろ?別に私が授業に出なくても問題あるまい!」
「問題ない訳ないだろう?」
「十五年間も学生をしてきたんだぞ?今更授業を受けようが受けまいが些細な事だろ!?」
周りに聞こえないように声を抑えてはいたが、ドアの前で言い争う二人は目立っていた。
「マスター。このまま目立つのはあまり我々にとって宜しくない状況かと」
「くそっ、呪いの封印さえなければ……!」
「まあ諦めて大人しく授業を受けろ。学生らしく、な?」
「お、覚えておけよ……南雲慶一郎!」
怒鳴るエヴァの声を背中に受けながら教壇へと向かう。言い争う二人の関係などを気になるが、不機嫌なエヴァの様子から生徒達は敢えて突っ込まなかった。
その後、ネギの病欠を聞いた3-Aの生徒達(特に雪広)が騒いだりしたが、何とかその場を鎮めて授業をしていく慶一郎。不満ではあったが逃げようとしても慶一郎に止められてしまうので、エヴァも仕方なくサボらずに授業を受けていた。
その為、学園内の結界を抜けて入った何かの存在に、エヴァは気づかなかった。
慶一郎が授業をしていた頃、学生寮で寝込んでいたネギは目を覚ましていた。しかし、体調の事もあったがその表情は芳しいものではなかった。
(エヴァンジェリンさんに血を吸われて、アスナさんの声がしてから後の記憶がない……)
限界ギリギリまで血も魔力も吸われてた所為か、身体が酷く重い。しかしこうして生きている以上、自分は助けられたのだと分かる。それも巻き込むまいとしていた明日菜の手助けによる事も。
「巻き込みたくないって思ってたのに、結局アスナさんに助けられちゃったんだな……」
のどかがエヴァに襲われ、それを追いかけて学生寮の屋上に追い詰めたネギ。しかし相手を過小評価していた為に出来た隙に、エヴァの従者である茶々丸に完全に詠唱を押さえられたのだ。それでも無詠唱魔法も試すが失敗、結果として明日菜に助けられたが事実上の完敗である。
自分に気をつかって一人にしてくれた明日菜に感謝するが、いつも三人いた部屋が妙に広く感じる。こういう時に一人でいると、ついつい考えは後ろ向きに加速しがちになってしまうものである。
「こんなんじゃ『立派な魔法使い』になんてなれやしない。もっと、もっと僕はしっかりしないと……」
ネギが一人思い耽っていると、誰もいないはずの部屋から声がした。
「しけた顔してるじゃないですかい大将。……助けがいるかい?」
「だ、誰っ!?」
慌てて辺りを見回すものの人影は見えない。
「下、下っすよ!」
「あ、君はっ!?」
声がした下を見てみると、そこには白い小動物がいた。そのイタチに似ている体躯の小動物は、ネギが昔助けたオコジョ妖精と呼ばれるアルベール・カモミールだった。
「久しぶりさー、ネギの兄貴!昔助けられた恩を返しに来たぜ!」
「カモ君!どうしてここにっ!?」
「ふっ、そんな事よりも兄貴の方こそ何かあったんですかい?あんな暗い顔して」
「え、えっと実は……」
昔の知り合いという事で、ついネギはカモに昨日あった事を話していた。ネギの話にあった真祖の吸血鬼という単語にややビビり気味なカモだったが、恩人であるネギが困っているのは放ってはおけなかった。
「真祖の吸血鬼にその『魔法使いの従者』かよ……。これは兄貴一人じゃ分が悪いぜ?」
「分かってるけど、狙われているのは僕一人なんだ。他の人は巻き込めないよ……」
「でもよ、兄貴。そのアスナっていう姐さんはもう巻き込まれてるんだろ?兄貴の『魔法使いの従者』として、協力してもらったらどうだい?」
「だ、駄目だよ!エヴァンジェリンさん達はかなり危険だったし、それにアスナさんは一般人なんだよ?」
「そうは言っても姐さんは兄貴を助ける為に、もうエヴァンジェリン達と遭遇しちまったんだろ?向こうはきっと姐さんを敵として認識してるだろうし、下手に放置する方がかえって危ないぜ?それだったら協力を兼ねて、姐さんと一緒にいる方が安全っすよ?」
カモはネギが他人をあまり頼らない性格なのは把握していたが、今回はそうは言ってられない。恩人であるネギの生命がかかっているのだ、その為に使える策は多い方がいい。
「……そういえば、兄貴には補佐に副担任のナグモって奴がいるんじゃないんですかい?もしくはソイツに護衛を頼むとか?」
「南雲先生……か」
ネギはふと図書館島の出来事を思い出していた。本人は否定していたが、あの時ゴーレムから助けてくれたのは慶一郎だったとネギは思っている。
その時の戦闘能力を考えれば頼もしい味方になってくれそうではあったが……やはり、他人を頼らないというネギの性分がその判断を迷っていた。
「う~ん……」
「ネギの兄貴!悩んでても何も始まりませんぜ、行動あるのみっすよ!とりあえず、その二人にエヴァンジェリン達の事を頼んでみましょうや?」
中々決断できないネギを激励し、カモはとりあえずネギに護衛を頼む話だけを優先させようとする。ネギの体調が完全ではないので、二人が学校から帰ってくる間ネギ達は大人しく待つことになった。
ネギとカモが今後の方針を話し合っている内に、学校では授業は終わり放課後を迎えていた。
慶一郎の所為で放課後まで残る事になったエヴァは舌打ちしながらも、茶々丸と一緒に住んでいるログハウスへと帰ろうとしていた。……後ろに付いて来る二メートルの大男も一緒に。
「待て。何故貴様が付いて来る、南雲慶一郎?」
「何故か?それはお前の授業欠席率が高いからで、これから臨時家庭訪問をするからだが?」
「家庭訪問、だとぉ?今日は欠席しなかっただろうが!」
「今日だけじゃ意味が無いな」
さらりと言う慶一郎にエヴァは頭痛を覚えながらも、かつての知り合いと同じような性格の悪さを感じていた。性格の悪さだけで考えるなら、エヴァもそれなりにと言えないこともない……なんて事を自分の従者である茶々丸が思っていた等はここだけの話である。
そうこういっている内に、エヴァのログハウスの前まで来ていた。家庭訪問はともかく、エヴァとしても慶一郎に聞いておきたい事が幾つかあったので、この機会は丁度良かったと言える。ログハウス周辺には結界が張ってあり、魔法関係者も迂闊には近づいてこない。
「……一体、何が目的だ?」
「今回の事件に関して、エヴァンジェリンの目的がただ聞きたかったのさ」
「坊やの事か?」
「昨日俺は神楽坂を屋上に上げてから現場に着いたが、その時見ただけではさっぱり状況がわからん」
「そういえば坊やは気絶してたか……ならあの小娘に聞けば良かっただろう?」
エヴァの言葉に慶一郎は深い溜息をつく。
「あのな?神楽坂に状況の詳しい説明なんて出来ると思うか?」
「……それもそうだな。ジジイには聞いたのか?あのジジイの事だから、遠見の魔法で見てた可能性があるぞ?」
「それが事実なら、尚更人様の行動を覗いている様な奴の話をまともに聞く気はないな」
「……昨日も不思議に思ったが、貴様はジジイに雇われているんじゃないのか?」
「立場上、教師の仕事を請け負っただけでね。それ以外の行動を制限される気はないし、邪魔するなら容赦もしない」
きっぱりと言い切る慶一郎に、エヴァは心底面白いと言わんばかりに笑う。
「はっはっは!本当に面白いな、南雲慶一郎!あんな温い魔法使い共と一緒にいる事自体おかしいとは思っていたが、中々素晴らしい『悪』の素質を持っているではないか!?」
「それはどうも。で?いい加減状況を話してくれないか、エヴァンジェリン?」
「エヴァでいいぞ、慶一郎。そうだな……簡単に言ってしまうなら坊やの父親『サウザンド・マスター』と呼ばれる最強格の魔法使いに敗れた私は、『登校地獄』というふざけた呪いをかけられた。だが十年前にそいつは私の呪いを解くことなく死んだ。今となってはこの呪いを解くには、そいつの血縁である坊やの血液を大量に取る必要がある。それが今回の私の目的だ」
「血液を全て吸えば、呪いが解ける計算なのか?」
「む?確証はないが坊やの潜在する魔力は甚大だ。血液と魔力を同時に吸い切れば、その可能性はかなり高いぞ?」
しかしエヴァの言い分を聞いて、首を横に振る慶一郎。
「百%呪いが解けないと言うならやめといた方がいい。もし失敗したら他にネギ先生の血縁はいないんだろう?永遠に解けないぞ、エヴァの呪い」
「あ」
血縁は他にいない、という事を完全に失念していたエヴァは硬直する。そんなエヴァは置いといて、慶一郎は茶々丸の方を向く。
「絡繰はどうだ?百%呪いが解けると確証出来るか?」
「……いえ。マスター、ハカセ達の調査でも呪いの術式が不可解すぎて、解呪の目処は立っていないそうです」
「ぐぐ、ハカセ達の方でも確証は得られんか……」
唸るようにエヴァが呟く。ネギの血液と魔力を吸い切れば呪いが解けると思っていただけに、慶一郎の思いもよらぬ一言に衝撃を受けていた。
一歩間違えれば、昨日ネギを殺していて呪いが解けなかったらと思うと寒気がする。永遠にこの学園で、中学生をやり続けなければならなかったのだから。
「話は変わるが、エヴァ?ネギ先生は魔法使いとしての素質はどうなんだ?」
「坊やか?あいつの血族だけあって魔力容量は強大だ。甘っちょろい性格はともかく、鍛えれば父親を超える素質はあるかもしれんな。……何故そんな事を聞く?」
「それなら話は簡単だ。ネギ先生をエヴァが『サウザンド・マスター』を超える魔法使いに教育して、それから自分の呪いを解かせればいい。そんな最強格の魔法使いなら呪いの解呪も簡単だろうさ」
「なっ!それまで何年掛かると思っているんだ!?そんなに待てるかーーっ!!」
思わず激昂するエヴァ。
「永遠に中学生をやる事に比べれば大した事ないだろ、吸血鬼なんだし。それに何年掛かるかはエヴァ次第なんだ、スパルタで育て上げればいいだろう?まあ、自信が無いなら仕方ないが」
「ぐ、ぐぐ……」
「それと並行して呪いの調査も続ければいい。上手くいけば途中で解呪の方法が見つかるかも知れんしな」
「マスター、南雲先生の提案は現状では最善と思われますが……?」
「わかっている!……だが今回の事件はどう収拾する気だ、慶一郎?」
「そうだな、ネギ先生への試練って事にしておいたらどうだ?それなら学園長も下手な介入もしてこないだろうさ」
慶一郎の提案に目を丸くするエヴァ。ネギを補佐すべき人間が、逆に試練を与えようと言い出したのだ。『悪』の魔法使いとしても、こんなに面白い事は今まで滅多に無かった。思わず笑みがこぼれてしまう。
「くっくっく、確かにあの腑抜けた坊やには丁度いい試練と言えるな。それにジジイへの言い訳にもなる、か……『悪い』副担任もいたもんだなぁ?」
「命の保障付きなんだから、補佐の類じゃないか?」
「言ってろ。ところで慶一郎、貴様はどう対応していく気だ?表立って私と動くわけにはいくまい?」
「それはネギ先生の行動次第だな。さて、どう出るかな?」
今日一日は学生寮で寝ていると思われるネギの、これからの奮闘を期待する慶一郎であった。
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