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麻帆良に来た漢!第十一話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/17-12:33 No.2697
放課後、用事があるからと言った木乃香と別れた明日菜は、学生寮の自分の部屋で頭を抱えていた。何故ならば、そこにいるはずのネギはともかく、謎の小動物を目の前にしているからだ。
「オ、オコジョが喋ってる……?」
「始めましてっすね、アスナの姐さん!俺っちの事はカモミールと呼んでくれっす!」
「あ、あの、アスナさん。カモ君は昔の知り合いでして……」
一日寝てた所為かネギの体調はだいぶ回復したようだが、そんな事すら忘れそうになる位の衝撃を明日菜は受けていた。頭を抱えながらも、そんな事実を何とか受け入れようと必死になる。
(ま、まあ吸血鬼が存在するんなら、喋るオコジョがいても今更よね……)
「それで?そのオコジョが私達の部屋で何をしていたの?」
「それは、その……」
カモがいる理由を聞かれると、ネギは言葉を濁してしまう。先日の保健室の時の様なネギの態度に、我慢できずに怒鳴ろうとした明日菜の言葉をカモが遮った。
「待った姐さん!それは俺っちから話させてもらうぜ。俺っちはネギの兄貴に恩を返しに来ただけっすよ」
「……オコジョが何を返すって言うのよ?」
「今、兄貴の置かれている状況を何とかする事さ。詳しくは知らないが、姐さんは兄貴を昨日助けに来てくれたらしいじゃねえか。つまり姐さんは、真祖の吸血鬼と遭遇しちまったんだろ?」
「よく分からなかったけど、そういう事になるのかな?今日も教室で睨まれたし……」
「ゲッ!?よ、よく無事でしたね、姐さん?」
「学校だったし、一応南雲先生もいたからね」
明日菜の言葉に眉を顰めるカモ。昨日ネギを助けたのは明日菜だとばかり思ってはいたが……。
「ナグモの旦那が?姐さん、もしかして昨日の夜に……?」
「ええ、私だけじゃなくて南雲先生もいたわ。それにエヴァンジェリンさんは、私より南雲先生の方を警戒してた感じね」
「えっ!?」
明日菜だけでなく慶一郎も巻き込んでいた、その事実に驚くネギ。自分が気絶した後に、そんな事になっているとは思わなかった。その情報に驚くものの、ネギの助言者たるカモはすぐに作戦を修正し構築する。
「ナグモの旦那もだったんで!?……しかし、それなら丁度良いかも知れねぇな。姐さん、俺達に協力してくれませんかい?」
『第十一話 悪い魔法使いの作戦会議編』
突然の提案に驚くが、そんな明日菜に畳み掛けるようにカモは言葉を続ける。
「協力って……どういう事よ?」
「どうも封印されているらしいが、相手は真祖の吸血鬼にその従者だ。いかに兄貴に才能があったとしても一人で当たるには分が悪い……そこで姐さん達が登場するわけだ」
「あの南雲先生ならともかく、素人の私が協力しただけで状況が変わるもんなの?」
「奴が連れている従者ってのは魔法使いを守るために、その相手と契約して力を分けて貰えるんだ。つまり素人の姐さんでも、兄貴と契約して魔力を分ければかなりの力を出せるんっすよ!」
ネギのような子供ではまだ『本契約』はできないが、活動時間等色々な制限がつくが何人かと結べる『仮契約』というものがある。カモはその相手に明日菜を推してきたのだった。
「どうすっか?真祖がこのまま穏便に済ます気もないでしょうし、姐さん自身の安全の為にもここは一つ『仮契約』を!」
「し、仕方ないわね。もう巻き込まれてるし、何か昨日の事でエヴァンジェリンさんから恨まれてそうだし」
「……さっきも気になったが、姐さん真祖に何したんすか?」
「……顔面に飛び蹴りしただけよ」
「…………よく生きてますね、姐さん?」
「正直、南雲先生が来てくれなかったらやばかったかも……」
あの時のエヴァの顔を見れば、本気だったのは明日菜でも分かる。慶一郎の妨害がなければ、今こうして話をしていたりはできなかっただろうと思うと、全身に寒気がする。そんな明日菜の言葉に反応するカモ。
「するとナグモの旦那なら奴に対抗できるって事か?ここはやはり旦那に頼むのが一番無難か……?」
「あ~待って。南雲先生はこの件には必要以上介入しないって言ってたけど……」
「「えぇっ!?」」
ネギとカモの声がはもる。
「旦那は『こちら側』の人間で、兄貴の補佐する立場なんだろ?それなのに今回の事件に介入しないってどういうつもりだよっ!?」
「わ、私に聞かないでよ!何か学園長から請け負った仕事は、学生寮周辺の生徒の保護ってだけらしくてさ……」
「教師である兄貴はその対象外ってか?くそ、それがナグモの旦那の考えって事か……こいつはちと拙いぜ!」
「ど、どういう事、カモ君?」
汗を掻きながら青褪めるカモにネギは訊ねた。横の明日菜も聞き入っている。
「……俺っちは最悪の事態の想定をしただけさ。もし狡猾な吸血鬼だったら、逆に報酬を払って旦那を雇ってくるかも知れないぜ?」
「あの南雲先生が、エヴァンジェリンさんに協力して襲ってくるって言う気?」
「学園長の依頼で生徒は襲わないだろうが、教師の兄貴はその範疇じゃないだろ?それなら可能性はゼロじゃないっすよ!」
「……でも証拠がないのに疑うのはよくないよ、カモ君?南雲先生は『こちら側』の補佐も頼まれてたはずだし……」
慶一郎を疑うカモを、ネギは慌てて嗜める。しかし昨日の夜の会話を思い出す限り、慶一郎の人間性の片鱗を見た明日菜としては捨て置けない意見でもあった。
「私も疑うわけじゃないけど、どうも南雲先生って仕事は仕事って割り切る性格みたいだからね。生徒の超さんがオーナーの『超包子』でも従業員として普通に働いているっていうし、もし依頼されたら仕事として遂行しちゃうかも……?」
「『疑わしきを罰せよ』とまでは言わねえが、気をつけるに越した事はないぜ兄貴?」
「う、うん……」
「しかし旦那の助力が得られないとすると、姐さんには是非とも兄貴と『仮契約』してもらわないとな?」
「ところで、さっきから言ってる『仮契約』って何なの?」
「魔法使いのパートーナーとして契約するってことっす。『本契約』はまだ兄貴は無理なんで、お試し期間みたいな感じの契約だと思ってもらえば……」
「ま、待ってよ、カモ君!やっぱり明日菜さんをこれ以上危険な目には……っ!?」
ネギがまだ言い終わらない内に頭を思いっきり殴られた。今までの話の流れを聞いてなかったのか?と言わんばかりの一撃だった。頭を押さえて蹲るネギを、殴った本人の明日菜は冷ややかな目で見ている。ネギの助言者でもあるカモもまた明日菜の行動を咎めなかった。
「この馬鹿っ!これ以上も何も、もう十分巻き込まれてるのよ!!今更、私に対する安全の責任を放棄する気?」
「そうっすよ兄貴!こうなった以上、兄貴は姐さんを守る責任があるんだぜ?無理に事実から遠ざけるのは守るとは言えねぇ、見捨てるって言うのさ!それで兄貴は自分が誇れる『立派な魔法使い』になれるのかよ!?」
明日菜達の厳しい言葉に硬直する。予想外の事実の連続に混乱して、ネギは自分を見失っていた事にようやく気付いた。その様子に気付いた一人と一匹は思わず苦笑する。
「ったく、本当にどうしようもないガキなんだから。少しは周りを頼りなさいよ、年相応らしくさ。それにこれは私が自分で決めた事なんだから、迷惑でも何でもないわよ?」
「厳しい事言ってすまねぇ兄貴!でもこれは既に兄貴一人の問題じゃないんだ、協力を頼む事は恥でも何でもないぜ!」
「アスナさん、カモ君……」
頼もしい明日菜達の言葉に、不覚にも泣き出してしまうネギだった。そんなネギを慰めるように明日菜が頭を撫でてやる。そんな光景を見ていたカモは丁度いい、と『仮契約』を結ぶ為の魔法陣を用意する。
「お互いの覚悟も一致したことだし、さっさと契約しちまいましょうや!」
「仕方ないわね、ネギいい?」
「わ、わかりました!」
「じゃあ魔法陣の上に乗って、ホラ一気にブチューーッってどうぞ!」
「う、うん。ブチューッと……!?」
「ちょ、もしかしてキスしろって事っ!?」
凄い勢いで離れる二人。チッと舌打ちしながらカモは説明する。
「それが一番簡単な契約方法なんでさ~」
ネギ達が部屋で『仮契約』の話をしている頃、慶一郎はまだエヴァハウスにいた。リビングの食卓に飾られた美味しそうな料理の数々を、その巨漢にモリモリと食い取り込んでいる最中である。
「……何故俺はここで夕食を食っているんだ?」
「そこまで食っておいて今更突っ込むか?……私が聞きたい事が山程あるのだ。サツキ特製レシピの料理を茶々丸に作らせ、ご馳走してやっているのだから付き合え」
「む、確かにこの料理は四葉の味だが……まだ何か聞きたい事があったか?」
「昨日の私の魔法を相殺した技の事だよ、慶一郎?」
不適な笑みを浮かべるエヴァを見て、誤魔化しきれないなと慶一郎は判断する。料理をあらかた食べ終わった所だったので、箸を置いて改めてエヴァの方を向いて話し始める。
「まあいいか。エヴァは俺が別世界から来たって事は聞いてるな?あれは向こうで身に付けた技だ」
「ジジイから聞いてはいたが、あの技は何だ?こちらの世界の、高難度技法『感卦法』に似ているようだが……」
「こちらの魔法の詠唱とは違って、独自の呼吸法によって精気と霊気を練り合わる。俺の場合は龍気と呼んでいるが、その龍気を攻撃にも防御にも使える技法……仙術気功闘法〈神威の拳〉、向こうではそう呼ばれている」
「精気と霊気?なるほど、内側から出す気が精気で外側から取り込む魔力が霊気といった所か。それを練り上げて力にする、確かに感卦法に似ている技法と言えるな。しかし独自の呼吸法とはまた変わった……」
腕を組んで考え込むエヴァ。すると黒のワンピースにエプロンをつけたロボメイド、茶々丸が食後にお茶を運んでくる。メイドと言うには若干スカートの裾の長さが短いかもしれないが。
「どうぞ、お茶です。南雲先生」
「ああ、ありがとう。絡繰」
「あの……良ければ下の名前で呼んでください。そちらの方が呼ばれ慣れているので……」
「ふむ、確かに。茶々丸……悪くない響きだな?」
茶々丸から手渡された湯飲みを持って、慶一郎は一息入れる。一瞬茶々丸の動きが止まったが、特に気にしない事にする。エヴァは相変わらず不気味な笑みを浮かべたまま、慶一郎が言う〈神威の拳〉の分析を続けていた。
「感卦法のように身体を強化したり、様々な魔法のような芸当ができるとは……タカミチの居合い拳よりも応用性は高そうだな。くっくっく、本当に面白い奴だよ貴様は……」
「やれやれ……いつもエヴァはこうなのか茶々丸?」
「いえ。こんなに楽しそうなマスター初めて見ました」
「うるさいぞ茶々丸!坊やが予想以上に情けなかったからな、適度にストレス発散しなくては私の気がすまん!」
相変わらずテンションの高いエヴァについていけず、慶一郎は一人お茶を啜る。
「……聞き終わったんなら、そろそろ帰っていいか俺?」
「む、そうだな。あと一つだけ聞いていいか?」
「なんだ?」
あと一つ、そう言ったエヴァの表情が真剣なものに変わる。
「別世界から来たと言っている割に、あまり向こうに帰る事を焦っていないのは何故だ?」
普通なら元の世界に戻る為に、必死になったり焦ったりするものだ。それなのに、この目の前の男から焦燥感のようなものが感じられない。エヴァは何故かその事を強く疑問に思っていた。
しかし、慶一郎は静かにその問いに答える。特に動揺は無い。
「別に諦めているわけではないさ。それに俺がここで暴れたからといって、向こうに帰れるワケでも無いしな。なら向こうが俺を探知して連れ戻してくれるのを、今は待つ以外にする事は無いだろう?」
それは慶一郎の本心ではない。自分が昔恋焦がれた鬼塚美咲の一人娘、鬼塚美雪の事もある。放浪の旅を続けていた時ならともかく、今は美雪を見守ってやりたいと思っていた。そんな時に異世界に飛ばされるという事故は、本当に運が無かったとしかいえない。
「するとこの学園に留まっているのは、一番最初の転移点から離れない為か?」
「まあ、そういう事だ。……納得したか?」
しかしどんなに焦った所で、レイハが魔法を失敗した以上慶一郎に出来る事は何も無い。レイハのような魔法が使えるワケではないのだから。
それならば、いざ戻る時に冷静に行動できるように心を鎮めておくことが、今の慶一郎にできる唯一の事だった。
「……そういう事にしておいてやるよ」
エヴァはその会話のやり取りに、慶一郎の本質を僅かだが感じ取れた。だがそんな慶一郎の本質は、どこか昔の自分を彷彿させるものを感じたが故に、エヴァはそれ以上慶一郎に追求する事は無かった。
「それじゃそろそろお暇するよ。夕食上手かった、今度は俺がご馳走しよう」
「ふん、サツキの下でどれだけ腕を磨けたか試してやろう」
「お気をつけて御帰り下さい、南雲先生」
「それじゃあまた明日な、エヴァ、茶々丸」
二人に挨拶すると、ログハウスを出て行く慶一郎。そんな慶一郎を見て、エヴァは茶々丸に静かに呟いた。
「おかしいものだ……最も警戒していい相手なのに、全く嫌悪感を感じないとはな」
「マスター……」
「ふっ、アイツを見ているとつい感傷的になっていかんな。……茶々丸、例の件はどうなっている?」
「引き続き調査中です。確証が得られるのは四、五日掛かります……急ぎますか?」
「いやいい。坊やがどう動くかも見たいしな、今まで通りでいいぞ」
「イエス、マスター」
仮契約を結ぶのにキスが必要だと知った明日菜は、先程の前言を撤回する。
「ネギを助けるとは言ったけど、それとキスとは問題が別よっ!!」
「そ、そんな事を言われても、他の方法だと数日はかかっちまいますぜ?その間に奴に襲われたらどうするんすか?」
「それは、そうだけど……」
「……ははあ?もしかして姐さん、中学三年生にもなって初キッスがまだだったりするんっすか?」
「なっ……!?」
馬鹿にしたようなカモの物言いについ絶句してしまう明日菜。そんな明日菜の思考を読むかのように、カモは敢えて挑発するように言葉を続けていく。
「それじゃあ仮契約の為とはいえ、抵抗があるのも無理もありませんねぇ?」
「べ、別にチューくらい何でもないわよっ!!……それに十歳のガキ相手ならノーカウントでしょうし」
「じゃあOKという事で。兄貴もそれでいいっすね!?」
「わ、わかったよ、カモ君」
顔を真っ赤にしている二人の了解を得たカモは、再び仮契約を結ばせようとしたがそれを明日菜が遮る。
「待った!そろそろこのかが帰ってくるから、今はちょっと拙いかも」
「そ、そうでした!このかさんも同じ部屋だったんだ……」
「む、魔法陣なんて目立つからな。喋るオコジョも普通じゃないんで、俺っちは黙ってますぜ?それじゃあ兄貴、姐さん。明日学校で、時間が空いたら人気の無い所でするとしますかい?」
「その言い回しは何か不快だけど……わかったわ。ネギもいいわね?」
「は、はい!」
話がまとまった所で、丁度木乃香が帰ってきた。用事と言うのは学園長恒例のお見合いの話だったらしく、若干不機嫌で帰ってきた木乃香に明日菜は労わりの言葉をかける。すると、ネギの肩にいるカモを見て和んでいた木乃香は溜息をつく。
「お疲れ、このか。またお見合いの話?」
「ほんまやわ~、まだ中学生なのにお見合い言われてもな~。それにしてもこの子かわえ~な~」
ネギは春休みに木乃香が、お見合いから逃げていたのを助けた事を思い出していた。その時木乃香に占ってもらった将来のパートナーが明日菜だと言われ、今現在仮契約とはいえパートナー候補に一番近いのも彼女である。
あの時はそう信じていなかったが、木乃香の占いは的を得ているのかもしれない。そんな事を思ったネギは、ふと木乃香に訊ねていた。
「そういえば、このかさんは南雲先生の事をどう思いますか?」
「ふえ?南雲先生?」
「ちょ、いきなり何聞いているのよ、ネギ!」
唐突なネギの質問に暫く考え込んだ木乃香だったが、すぐに笑って答えを返す。
「いい人やね~。最初は身体が大きいからちょお怖かったんやけど、いざお話してみると全然そんなことなかったわ~」
「へ?このかって南雲先生と話なんかしたの?」
「そ~や?おじーちゃんの所から帰ろうとしたら丁度先生に会ってな?もう夜だからって寮まで送ってくれたんよ~。意外と紳士的なんやね、南雲先生って」
少し顔を赤らめて言う木乃香に呆気に取られた明日菜だったが、すぐにネギとカモに小声で話しかける。
(……あの巨体で紳士って言われてもね?生徒に関しては友好的に行動してるみたいだけど……)
(俺っちもそのナグモの旦那を、直接見たワケじゃないから何とも言えないな。こちらを欺く為の演技、とまでは少し考えられないが……)
(紳士的か~。僕も是非とも見習いたいな~)
(クシャミでスカート捲くったり、衣服を吹き飛ばすセクハラ教師のアンタには一生無理ね)
明日菜の厳しい突っ込みに衝撃を受けて、一人壁側でいじけるネギ。そんなネギを、カモは必死にフォローしようとしていた。
「ネギ君?まあええわ、夕食まだやろ?すぐに作るからもうちょい待ってな~」
制服のままエプロンをつけると、木乃香は一人台所へと入っていく。それを見送ると、明日菜はカモに質問する。
「とりあえず明日仮契約をするとして、その後のエヴァンジェリンさん達に対して何か考えはあるの?」
「恐らく次の満月までは動かないとは思うが、姐さんが協力してくれるなら話は変わる。二人がかりで隙を見て、奴の従者だけを狙ってやっつける。それから次の満月までに、真祖の方もやっつければ万事解決っすよ!」
「そんなに上手くいくかしら?」
「えぇ~~っ!?でも二人がかりなんて卑怯じゃ……」
「兄貴声でかいって、このか姉さんに聞こえるっす!いいっすか?戦術的に二対一に持っていくのは当たり前っす。それはむしろ、そういう状況に持ち込まれた方の失策なんですよ、卑怯でも何でもねえっす!」
異論を唱えるネギだったが、カモの説明の迫力に押し黙ってしまう。
「そうね、確かに向こうもネギを二人で追い詰めてたし。だからといってこっちもしていいわけじゃないけど、命が懸かってるならそんな事は言ってられないわね」
「アスナさん!?」
「難しい事は良く分からないけど、私達の負け=死っていうふざけた状況なのよ?アンタがどうか知らないけど、私はそんなのは御免よ。高畑先生に告白もしてないのに死んでられないわ」
「姐さんの言う通りだぜ。相手はあの真祖の吸血鬼、そんな相手に説得なんて意味が無いっすよ兄貴!」
二人の言い分に反論できないネギは黙ったままだ。カモは続けて作戦を構築していく。
「とりあえず詳しい事は明日に話すが、仮契約していきなり戦うのはさすがに無謀だ。姐さんには契約したら、その感覚を慣れてもらう為に一日使ってもらう。兄貴の方は、姐さんへの契約執行の魔力供給の練習をしてもらうぜ」
「すると茶々丸さんに勝負をかけるのは明後日って事ね?」
「そうなるっすね」
やる気満々の明日菜達を見ているネギは、また混乱の渦に巻き込まれていた。確かに自分一人の手に余ると言って、明日菜やカモに協力してもらえるのはネギとしても嬉しいのだが、一応相手も同じクラスメイトの生徒なのである。
魔法使いではなく教師としての自分が、そんな明日菜達の暴挙に警告を出しているのだが、それを止めるだけの言葉が無い。
(生徒に勝負を仕掛けるなんて教師としては間違いだ……けど、このまま放置したらきっと次の満月に、エヴァンジェリンさん達は僕を襲ってくる。学園長かタカミチに相談するのも考えたけど、それで相手が一般生徒まで巻き込んできたりしたら……)
考えても考えても、打開策が浮かんでこない。『立派な魔法使い』を目指し、父親を探すという目標を諦める事もできず、結局はカモの作戦に従うように流されるしかなかった。
話が決まった時、木乃香の方も夕食を作り終え料理を運んできた。ネギ達もそれを手伝い、少し遅めの夕食を三人と一匹は取っていく。楽しそうに笑いあう明日菜達とは反対に、ネギだけはこれからの事を考え憂鬱な気分に陥っていった。
木乃香をエヴァハウスからの途中で見かけ、学生寮まで一緒に帰った慶一郎。部屋へ戻っていく木乃香を見送った後、管理人室に戻るとそこには妙な光景が待っていた。
「何してるんだ、お前ら?」
視線の先には何故かこちらを睨んでいる三人がいた。龍宮に刹那、そしてもう一人は朝倉だ。
「……待ちくたびれたよ、先生」
「どちらへ行かれていたのですか?」
「もうお腹ペコペコなんだけど……?」
三人ともビニール袋に食料らしきものを持参で、管理人室の部屋の前で佇んでいた。どうやらいつものように、慶一郎に夕食をご馳走になろうと食材片手に来たものの、肝心の慶一郎はエヴァハウスにお邪魔して留守だった。その為に数時間の待ちぼうけを食らったようである。
「いや、留守だったら諦めて自分達で夕食作ればいいだろ?わざわざ俺を待って、しかも遅いと怒るのは筋が違うぞ」
「まあ、それはそうかもしれないがね……」
「その、ここまで待っていたのも事実ですし……」
「食材無駄にするのも何だし、ねえ?」
そんな生徒達に肩を竦めると、慶一郎はゆっくりと管理人室に向かう。もちろん生徒達に手招きしてから。
「確かに食材に罪は無いからな。もう少し我慢できるなら、三人とも食ってけ」
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