HOME
| 書架
|
当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!
書架
麻帆良に来た漢!第十二話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/20-17:08 No.2720
エヴァハウスに寄った翌日、通学路でネギを見た慶一郎は違和感を感じていた。最初は体調がまだ優れないのかと思ったが、どうやら違うらしい。一緒に登校している木乃香は普通と変わらないが、隣の明日菜はこちらを睨んでいる。
(……俺を警戒している?それに神楽坂の肩に乗ってるあの小動物は何だ?)
明日菜の肩には白いイタチのような小動物が乗っている。昨日まで一度も見かけたことの無いその小動物に興味があったが、いつまでも挨拶をしないのも不自然なので、いつも通りに声をかける。
「おはよう、ネギ先生。それに近衛に神楽坂も」
「お、おはようございます、南雲先生」
「おはよ~です、先生~」
「……おはようございます」
木乃香以外の二人の挨拶は不自然だった。慶一郎は不思議に思いながらも、遅刻するわけにもいかないのでそのまま職員室へと向かう。同じ教師であるネギも、明日菜の方に一瞥送るとその後に付いていった。
明日菜は肩に乗ってるカモに小声で話しかける。カモも厳しい顔を崩さず答える。
「あれが南雲先生よ。どう?何か分かる、カモ?」
「詳しくは分からないが、洞察力はずば抜けてるみたいっす。俺っちの存在と、兄貴達の不自然な挨拶を訝しんでやしたからね」
「不自然って……まあ緊張しちゃったのは事実だけど」
「後は身体つきからして、何か格闘技でもやってるんすかね?味方になってくれたら随分と頼もしそうなんすけど……」
慶一郎の分析をしていたカモは溜息をつく。そんなカモに眉を顰めながらも、一応フォローする明日菜。
「仕方ないでしょ?それに南雲先生が何考えてるなんか分からないわよ」
「それはそうなんっすけどね……」
「南雲先生の事より、今日の仮契約の方が問題よ……やっぱりキスじゃないと駄目なの?」
「昨日も言いやしたけど、他の方法だとちゃんとした儀式とか組まなくちゃいけないらしいんすよ。残念ながら俺っちは、キスでする一番簡単な契約方法しか知らないっす」
止むを得ないと分かってはいても、女性として異性とのキスは重大問題と言える。いくら相手が十歳の子供のネギでも、やはり簡単に行うには抵抗が出るというものだ。しかも自分には他に好きな人がいるなら尚更である。
「何でこんな事になっちゃったのかな?運が無いにも程があるわよ……」
「ま、まあ確かに……お察ししますぜ、姐さん」
『第十二話 悪い魔法使いの従者激闘編』
職員室に行き、朝のHRの準備をしたネギ達は3-Aの教室に向かって歩いていた。特に会話も無く廊下を歩いていた二人だったが、満月の夜に明日菜が聞いたという慶一郎の真意を量りかねていたネギはふと訊ねていた。
「……南雲先生、今回の事件に介入しない『理由』は何なんですか?」
「ん?介入しないとは言ってないぞ?学園長からの仕事もあるしな」
「でもその仕事は、教師である僕は保護の対象じゃないんですよね?」
「ネギ先生が望むなら助けるが?」
「えっ!?」
慶一郎のあっさりとした答えに、思わずネギは呆然としてしまう。
「ネギ先生がそれでいいと言うなら助けるよ。どうも学園長はこの事件も、ネギ先生の『立派な魔法使い』になる為の試練の一部とか考えているようだが。さすがにそろそろ生徒に被害が出るのを、黙って見過ごす事もできないだろうしな」
「学園長が……?」
「そうなれば学園で極秘裏に、エヴァンジェリンが処理されるだけの事だ。なにネギ先生が一人前になるのがほんの少し遅れるだけだし、望むなら今すぐ俺が彼女を処理しようか?」
「ま、待ってください!そんな、生徒を処理するなんて……」
まるでゴミを捨ててくるみたいに簡単に言う慶一郎に、ネギは戸惑いを隠せない。確かにネギはエヴァ達に襲われたが、彼女達はクラスの生徒でもあるのだ。故に単純に相手を『悪』と決めきれないネギは、その対応を迷っていた。
「君を攻撃してきたのだろう?ならば彼女は害を及ぼす存在だ……つまりはネギ先生にとっての『悪』じゃないのかい?」
まるでネギのその迷いを知っているかのように、慶一郎は問い詰めてくる。
「彼女は君の『生命』を脅かす者でしかない。ならその脅威を振り払うのは当然の事ではないかな?」
「ち、違いますっ!!確かに襲われましたけど、エヴァンジェリンさん達は僕のクラスの生徒でもあるんですよ!?それを『悪』だなんて……僕にはそんな簡単に割り切れません!」
「殺されかけて?それでも生徒を信じると?……随分と甘い事を言うもんだな、ネギ先生?」
「確かに甘いです……それでも、僕は!……それに、ちゃんと説得すれば彼女達だってきっとわかってくれます!」
自分を励ますように呟くネギを、慶一郎はやや拍子抜けした目で見ていた。やはり十歳の子供だからなのか?ネギの考えは昨晩エヴァが酷評してたように甘いとしか言えない。そんなネギを、慶一郎は残念に思う。
(あの神楽坂がいても、まだ迷っているのか。……それならばいっそ、エヴァに全て任せた方がネギ先生の為になる、か?)
とりあえず、慶一郎は現段階でネギ達に協力する気は無くなった。しかし、余裕が感じられないネギを今突き放すのも得策とは言えない。下手に暴走されても色々と問題が出るからである。
それならば、とこの場はネギを励ます事にする慶一郎。先程までの態度を一変して、ネギの背中を励ますように叩いてやる。
「まあ、好きにするといいさネギ先生。君の人生なんだから」
「は、はい!頑張ります!」
少し苛めすぎたのか、ネギの顔は問題が山積みでパニックになっていた。やれやれと苦笑している慶一郎は、教室が近いのを確認するとネギとの話を中断する。
教室に入るとエヴァ達も登校しており、ネギと明日菜は思いっきり警戒していたがエヴァは相手にしてなかった。HRの準備をしている慶一郎の頭の中に、エヴァの声が響く。
(少しいいか、慶一郎?)
(学園長にも言ったが、急に頭の中に話しかけるな。……何だ、エヴァ?)
(神楽坂明日菜の肩にいる小動物に見覚えはあるか?)
(いや、ないな。俺もその事は一応聞こうと思ってたんだが……)
エヴァを警戒している二人と同じく、その小動物もエヴァ達を睨んでいる。
(恐らくあれはオコジョ妖精という類だろう。坊やの助言者としてついたのかもしれんな……侵入に気付かなかったとは迂闊だった)
(ふ~ん、助言者ねぇ?なら尚更俺はする事はないかな)
(わからんぞ?小賢しいオコジョ妖精なら、坊やと違って搦め手も使ってくる可能性がある)
(なら昼休みにでも、少し今後の相談でもしとくか?)
(ふ、いいだろう)
そう言って念話を切るエヴァ。慶一郎もエヴァにやや怯んでいるネギに声をかけ、HRの時間を進めていった。
午前中の授業も終わり昼休み、ネギ達は人知れず屋上に向かっていた。ネギと明日菜の仮契約を執行する為である。
「それじゃあ時間も勿体無いですし、ちゃきちゃき契約しちゃいましょうぜ!」
そう宣言すると、カモは素早く仮契約の為の魔法陣を書き上げていく。そういえば昨晩もいつのまにかに魔法陣を書き上げ、木乃香が帰ってくると知ると素早く消していた。その手早さにネギと明日菜は少し驚いていた。
「用意できたぜ!」
「「早っ!?」」
つい声がハモってしまう二人。
「時は金なり、だぜ兄貴!姐さん、いいですかい!?」
「うぅ~わかったわよ!ネギ、せめて目を瞑ってよ」
「わ、わかりました、アスナさん」
目を瞑って立つネギに、頭を抱えるようにして顔を近づける明日菜。魔法陣の中で二人の唇が近づき、そしてその距離がゼロになる。
『仮契約!!』
「うし!仮契約成立っす!『神楽坂明日菜』!!」
カモの宣言と共に二人は光に包まれる。やがて光が収まると、目を瞑ったままのネギから明日菜は離れていた。異性との初めてのキスの所為か、二人の顔は真っ赤になっている。
ネギから離れた明日菜は手を開いたり、足を動かしたりして自分に起こった変化を確かめようとしていた。
「カモ?その仮契約ってのをしたけど、特に身体に変化は無いわよ?」
「いやいや、兄貴が魔力供給の呪文を唱えないと効果は無いっす!それじゃ兄貴、頼むぜ!」
「う、うん。わかったよ、カモ君。……契約執行十秒間!!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」
ネギの詠唱と共に、明日菜は身体に何か別の力が流れてくるのを感じていた。魔力供給が行われたのを確認したカモは、二人に次の指示を出していく。
「それじゃあ百聞は一見にしかず、だ。兄貴、姐さんにこの石を投げてみてくれ」
「えっ!でも……結構大きいよ、コレ?」
「大丈夫っす!姐さんは腕をクロスして防御しててくれな?」
「わかったわ」
明日菜はカモの言う通り、腕を交差して防御の構えを取る。ネギもカモの指示を信じ、拳くらいの大きさの石を投げる。
「えいっ!!」
「きゃっ!?」
真っ直ぐに明日菜の構える腕に、ネギの投げた石がぶつかったかと思うと粉々に砕けた。そのありえない光景に明日菜は驚きの表情を隠せない。そんな明日菜に、仮契約で得られる力をカモは説明していく。
「どうですかい?魔力供給している内は、姐さんの身体能力は超人的に上がってるんっす。もちろん防御の頑丈さも見ての通りでさ!」
「確かに……すごい力ね。ってあれ?力が抜ける……?」
「兄貴の契約執行詠唱が十秒だったからな。とりあえず姐さんは魔力が全身に行き渡るのを確認してから、平常時との動きのギャップに気をつけてくれ。それから兄貴は姐さんへの供給時間を……」
「伸ばす訓練、だねカモ君?」
カモが言い終わらないうちに、ネギが言葉を引き継ぐ。
「その通りでさー兄貴。相手は真祖の吸血鬼の従者、こちらは戦闘に関しては素人の姐さんなんだ。魔力供給で力は同等だとしても、戦闘経験の差を考えるとやはり分が悪い」
「むむ?そうすると私はどうすればいいの?」
「アスナさんには、僕が詠唱するまでの間を守って欲しいんです。詠唱中に攻撃されると、魔法使いは呪文を使えませんから」
「兄貴が距離を取って詠唱、姐さんはその間の時間稼ぎ。後は呪文を放つ瞬間に、相手から離れるだけでいいっす。真面目に戦り合う必要はないから、素人の姐さんにも出来るっすよ」
頭を捻っていた明日菜だったが、ネギ達の分かりやすい説明を受けて何とか納得する。そんな明日菜の理解度に合わせて、カモは対茶々丸戦の作戦を練っていく。基本的に明日菜を前衛に、ネギを後衛にするスタンスで行く事に決定した。
ネギ達が作戦会議をしている屋上から、少し離れた世界樹の枝の上に慶一郎はいた。その横には枝に腰掛けているエヴァに、耳のアンテナを使ってネギ達の行動をサーチしている茶々丸がいる。
「……どうやら、我々を各個撃破してくる作戦のようです。如何しますか、マスター?」
「ふん、助言者がやってくれる。あの坊やを、よくもそこまで行動させるように煽れたものだ。それに神楽坂明日菜をパートナーに選ぶか……中々策士だな小動物」
「あのオコジョがねぇ?ネギ先生は流されているだけなのかな?」
慶一郎の素朴な疑問にエヴァが答える。
「精神的にまだ幼い坊やならありえるな。キレイ事を並べる坊やの主張では、例え私が『悪』だとしても簡単に割り切れない……などふざけた事をと言うんじゃないか?」
「……よく分かるな、エヴァ?」
「こないだのやり取りだけで、十分坊やの本質は読めたからな。……世界が全てキレイで善いものだと信じて、いや信じたいのさ坊やは。だから現実とのギャップに平気で迷うし、他者の言葉に振り回されるワケだ」
「なるほど、ね……」
肩を竦めて慶一郎は溜息をつく。
「だが小動物の作戦とはいえ、坊やがどう足掻けるかに興味はある。パートナーを得ての行動なら、やはり狙うとしたら茶々丸の方だろうな」
「はい、マスター。ネギ先生達の動きを見る限り、神楽坂さんの動きはネギ先生の詠唱を守るものです。詠唱妨害を考えての動きなら、その対象は恐らく私で間違いないでしょう」
「やれやれ、生徒を攻撃しようとする教師か。それが成功して、果たしてネギ先生は正常でいられるのかな?」
今ネギがしているのは、自分の本質ともいえる主張に矛盾した行動である。切羽詰っている為に気付いてないようだが、それはきっとネギの在りようを揺るがす結果になるだろう。
「さあな?私としてもこの程度で壊れるような奴ではないと思いたいが。まあいい……茶々丸、暫く私から離れるなよ?」
「イエス、マスター」
「それじゃあ、そろそろ戻るとするか」
エヴァはネギ達の作戦をこうして察知し、対策として戦力を分断されないように心がける。満月の夜でなければエヴァは魔力が激減する。慶一郎の提案によって、エヴァ達の方から現状仕掛ける事はしないだろうから当然の対応と言える。
しかし、慶一郎には一つの懸念があった。それは物事において絶対は無い、という事である。ネギもエヴァも自分の信じる道を進んでいる……が、道は決して平坦なものでは無い。本人達も思いも寄らぬ事が起きる時もある。慶一郎が美咲と死別した事もその一つと言える。
(どちらも信用しないワケではないが、保険は掛けておくに限るな)
世界樹を降りてエヴァと別れた後、慶一郎は携帯でとある人物に連絡を取る。
「もしもし?南雲慶一郎だ。……そうだ、一つ仕事を依頼したい」
その翌日、いつものように登校したネギは校舎の下駄箱の所でエヴァ達と遭遇する。
「おはようネギ先生?」
「っ!」
「――今日もまったりサボらせてもらうよ。ネギ先生が担任になってから色々楽になったもんだ」
「エヴァンジェリンさん!茶々丸さん!」
思わず身構えるネギに、エヴァは勝ち目はあるのか?と忠告する。それに校内で魔法を使うわけにもいかない、とネギは必死に自制する。そんなネギを面白そうに見ながら、エヴァは茶々丸を連れて歩いていく。
「落ち着け、兄貴。茶々丸って奴が一人になるのを待つんだ」
「……わかってるよ、カモ君」
カモの言葉に、表面上は冷静に答えるネギ。その心中はかなり動揺していた。
(生徒を正しく導くのが教師の仕事……でも、あの二人は僕を『敵』として見ている。なら彼女達を何とかしなければ、いずれアスナさんにも被害が及ぶかもしれない……)
エヴァ達という生徒を『敵』じゃないと信じたい心と、明日菜という生徒を守りたい心が互いに反発している状況である。そんな不安定な状態のネギに、カモはエヴァ達の分析で手一杯で気付く事ができなかった。
時間は進み、放課後。
ネギ達は茶々丸が一人になるチャンスを狙っていたが、エヴァはそれを読んでいるかのように茶々丸と二人でいた。今は部活である茶道部に出ている。
「くっ……中々二手に別れないっすね」
「(どうでもいいけど、辻斬りみたいで気分悪いわ……)まさかとは思うけど、読まれてるんじゃない?」
「まさか、と思いたいですけど……気配遮断の魔法を使ってますし、バレてはいないみたいです」
物陰に隠れているネギ達は、チャンスを授業が終わってからも狙っていた。
さらに時間が立ち、部活も終了し帰ろうとしていたエヴァを高畑が呼び止めいた。
「おーい、エヴァ」
「……何か用か、タカミチ?仕事はしてるぞ?」
「学園長がお呼びだ。一人で来いだってさ」
高畑からの伝言に少し考え込む。
(このタイミングに呼び出すとは……どうする?この機会に間違いなく坊や達は動く。茶々丸を信用しないわけではないが、坊やはあれでも奴の息子。その潜在能力は馬鹿に出来ん、茶々丸一人では厳しいか?)
しかし、考え込むにしても学園長の呼び出しを無視するわけにもいかず、エヴァは茶々丸に人通りの多い道を帰れとだけ言っておく。自分の立場を考えれば、もう少し対策を立てておくべきだったかとエヴァは考える。
そんなエヴァを見て高畑は暢気に、また悪さしてるのか?などと聞いてくる。
「ふん、貴様には関係ない事だ」
そう相槌を打ちながらエヴァは高畑に付いていく。茶々丸は一人それを見送っていた。
エヴァの言いつけ通りに人通りの多い道を帰っていた茶々丸は、今現在教会の前の広場でネギ達と対面していた。
「……油断しました。でもお相手はします」
ゼンマイを外し、戦闘モードへと移行する茶々丸。その前にいるネギは悲痛な顔で訴える。
「茶々丸さん、僕を狙うのをあきらめてくれませんか?あなたのような人が……」
ネギはここに来るまでの茶々丸の行動に困惑していた。自らを『悪』と名乗るエヴァの従者でありながら、ネギ達の尾行中に道行く人々を助けていた茶々丸。さらにこの教会で野良猫達に餌を与えている姿は、『慈愛』に満ち溢れているといえた。
そんな心優しい茶々丸が、何故そうまでして自分を狙うのか?それが純粋なネギには理解できない。だが茶々丸はいつもと同じ表情で、その訴えを切り捨てる。
「私はガイノイドであって人ではありません。マスターの命令は最優先事項ですので……」
例えネギが教師だとしても、自分はエヴァの従者である事に変わりはない。誰に何を言われようがそれは不変である。
「っ!……仕方、ないです」
(……じ、じゃあアスナさん、作戦通りにお願いします)
(はぁ……上手く出来るかわからないわよ?)
茶々丸に退く気がないのが分かると、ネギは杖を構える。明日菜はそんなネギを守るように立つ。
「神楽坂明日菜さん……良いパートナーを見つけましたね」
「では、茶々丸さん……」
「ごめんね」
茶々丸も構えを取る。状況は二対一で不利ではあるが、魔法使いであるネギの詠唱を止められれば勝機はある。足のブースターを着火し、接近戦を挑もうと前へ出る。
「行きます!契約執行六十秒!!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」
ほぼ同時にネギが魔力供給をし、それを確認した明日菜は茶々丸を迎撃するべく前へ出た。先日の訓練のおかげで、全身に魔力が供給されているのを感じ、慌てずに茶々丸の動きを捉える事が出来る。
自分の動きについてくる明日菜に一瞬戸惑うものの、すぐに修正していく茶々丸。
「速い。とても素人とは思えない動き……」
突破しようとしても、それを防いでくる明日菜の動きには無駄が無かった。明日菜に手間取っているうちに、ネギの方は詠唱を終えてしまっている。今彼女から離れたら魔法の直撃は免れない。
「それならば……」
「えっ!?」
先程までの動きを一変して、明日菜の身体をネギの斜線に捉えるように組み合う。しかし、それもカモの作戦でもある。突破しようとする動きと違って、密着してくる接近戦であれば相手の身体を捕まえやすい。
茶々丸の動きに混乱はしていたが、作戦を練った時に言われた事を実行する明日菜。
「はっ!?」
「ゴメン、茶々丸さん!」
強引に茶々丸の腕を掴み、力任せに投げ放つ。投げ飛ばされた茶々丸はバランスを取って着地するが、その隙をネギは見落とさない。
「魔法の射手・連弾・光の五矢!!」
ネギの魔法が迫ると、茶々丸は背中のブースターを緊急作動し直撃を避ける。緊急作動の反動で地面を転がる茶々丸。反動が止まると、茶々丸は冷静に現状分析をする。
緊急作動の為に、背中のブースターに異常。直撃はしなかったが、魔法の射手は右腕と右肩に被弾。右腕はもう動かないと判断、後は制服が所々破れたり汚れたりしている他の損傷は軽微。
「……?」
分析をしている茶々丸が不審に思ったのは、何故か追撃が来ないからである。顔を上げて見れば、その先には罰の悪そうな顔をしている明日菜と、今にも泣きそうな顔のネギがいた。
「……何故追撃をしてこないのですか?」
「勝負はつきました……降参して下さい、茶々丸さん」
「私は、まだ動けます」
動かない右腕を支えるようにして茶々丸が立ち上がる。それを見ていたカモはネギに叫ぶ。
「兄貴!相手はロボだぜ?手加減無用、ここは派手な呪文をっ!」
「ま、待ってよカモ君!もうこれ以上はっ!」
再び突っ込んでくる茶々丸を明日菜が抑える。
「ちょ、茶々丸さん!?もう勝負はついたじゃない!」
「いいえ。私がまだ動ける以上、終わりではありません。……それが『戦い』というものです」
「っ!?」
なおもネギに接近しようとする茶々丸を、必死に明日菜は抑えようとする。
「奴が動ける以上、『敵』でしかないんだよ、兄貴!」
ネギの脳裏に慶一郎に言われた言葉が浮かぶ。
『害を及ばす存在』『脅威を振り払うのは当然の事』
瞬間、ネギの頭の中で何かが弾けた。悩み抱え込んできた問題が多すぎて、ネギの思考の容量が限界を超えたのだ。
「……ううぅぅあああぁぁぁっ!!?」
「兄貴!?拙いっ魔力の暴走!!」
凄まじい魔力の奔流がネギに集まっていく。そしてその集束した魔力を杖に乗せ、茶々丸の方へと向けるネギ。……明日菜はまだ茶々丸から離れていない。
「あ、兄貴、駄目だ!?姐さんっ!!避けてくれ!!」
「へっ!?何なの!?」
「……!!」
狼狽する明日菜の横で、茶々丸は目の前のネギの魔力を見る。アレは……かわせない。
「すいません、マスター……私が動かなくなったら、ネコのエサを……」
ネギの杖から凄まじい魔力が放たれると思った瞬間。
ドンッ
一発の銃声と共に、ネギが持っていた杖が後ろに吹き飛ぶ。
そして媒介を失った魔力は、限界まで膨れた風船のように……弾けた。
弾けた魔力は風となって、ネギをカモを明日菜を茶々丸をも吹き飛ばす。草むらに飛ばされたカモは、自身の安全を確かめると息を吐く。
「あ、危ねぇ……媒介の杖が何でかしらないが離れたおかげで、魔法は不発だったみたいだぜ……って兄貴!姐さん!?」
慌てて周りを見渡すと、ネギと明日菜は道端に倒れていた。明日菜が頭を押さえながら起き上がるのを見て、無事に一安心するカモ。しかしネギが起き上がらないのを見ると、急いで側に走り寄る。明日菜も心配のようだ。
「……大丈夫。急な魔力行使だったんで無理が出たんでさ、気を失ってるだけっす。」
「全く、心配させるんじゃない……って茶々丸さんは!?」
明日菜の言葉に振り向くが、周辺にはネギ達以外に誰もいない。カモは複雑な顔をしている。
「逃げられちゃったね。……それにしても、一体何があったの?」
「……俺っちのミスだな。兄貴が物事を簡単に割り切れない人だって知っていたのに、無理をさせるから魔力が暴走しちまった。あのロボを姐さんごと吹き飛ばそうとした所を、何者かが媒介の杖を狙撃した。媒介を失ったおかげで、兄貴の魔法は不発に終わったのさ」
「な、何者かが狙撃って……エヴァンジェリンさんが?」
「それは分からねぇ。……とにかく、一から作戦の練り直しだな。兄貴のメンタルサポートもしてやらないと……」
「また無理が祟るってことね?その方がいいんじゃない?私もちょっと考える事あるし……」
気を失っているネギを明日菜が背負う。ネギ程ではないが、自分にも色々と問題はあるようだ……と明日菜は溜息をつく。カモと相談しながら、学生寮までの道を歩いていった。
教会から離れた建物の屋上に着地する茶々丸。その屋上には二人の人物がいた。
「南雲先生、龍宮さん……」
「お疲れ、茶々丸。散々な目に合ったな?」
「いえ……すいません、助かりました」
「何、仕事をしただけさ」
双眼鏡を持っている慶一郎と、スナイパーライフルをギターケースにしまっている龍宮は茶々丸にそう答える。ネギの杖を弾いた狙撃手は彼女だったと理解する。
「……南雲先生の依頼ですか?」
「ああ。昨日電話を受けてね」
「エヴァは自信満々だったけど、何が起こるか分からないだろうし……保険を掛けといただけさ。葉加瀬にも連絡しておいたから、後で寄っていくといい」
あまりの手際の良さに、茶々丸はふと疑問を口にしていた。
「……何故、南雲先生がそこまでしてくれる『理由』が思いつかないのですが?」
「『理由』ねぇ?ん~そうだな、俺が学生寮周辺の生徒の保護の仕事をしているのは知っているよな?」
「はい。……しかし、ここはそのエリアではありませんが?」
「そうだ。だが仮にも副担任を務めるクラスの生徒が、エリア外で事故にあって『はい、そうですか』というのも少し無責任が過ぎるだろう?」
授業の時のように説明していく慶一郎。すると横から龍宮が割り込む。
「しかし先生はそういう事にあまり執着しないのだろう?ならば今回の依頼はどうしてなんだい?」
「今回は事前に『何か』起きるとわかっていたからな。それが知り合いなら尚更だろ?」
「それでは龍宮さんに依頼したのは何故ですか?」
「俺としても、あまり大っぴらに動くわけにはいかないしな。丁度隠密性のあるスナイパーを知っていたから、そっちに任せた……それだけさ」
話せば話す程、茶々丸は南雲慶一郎という男が分からない。自分にプログラムされた分析能力では、目の前の男を把握できない。そんな事実が浮かびながらも、茶々丸は何故かそれを不快に思わなかった。むしろ心地良い、とそんな感情に戸惑う茶々丸。
そんな様子を見ていた龍宮は一人納得していた。
(なるほど。南雲先生はネギ先生よりも、エヴァンジェリンという本質に近いものがある。それなら茶々丸との相性もいい、か)
「だが南雲先生。あまりネギ先生を苛めすぎるのは、彼の生徒としてはあまり見過ごせないぞ?今回は仕事として彼を妨害したが……」
十歳にして『立派な魔法使い』を目指す少年を、龍宮個人としても気に入っている。そんな少年が『闇の福音』にあっさりと潰されてしまうのは惜しい。
「別にネギ先生を苛めているワケじゃないぞ?今回は茶々丸の護衛を依頼しただけだし、今後エヴァを手伝えなんて依頼しないさ。まあネギ先生には、いい教訓になったって事で」
「……学園長同様、南雲先生も中々食えない御人だね」
「学園長と同格にはしないでもらいたい……」
疲れたような顔で溜息をつく。
そう、本来であれば学園の責任者たる学園長こそがネギの成長を見守るべきであり、部外者ともいえる慶一郎がここまで気を使う必要性は無いのだから。そんな慶一郎に茶々丸は声をかける。
「私はハカセの所に戻りますが、南雲先生は学園長に報告に行かないのですか?」
「どうせ『遠見の魔法』かなんかで覗いているんだろ?呼ばれない限り、面倒だから行かん」
「ふふ、本当に面白い人だね」
麻帆良の空は夕暮れに染まり、夜を迎えようとしていた。
HOME
| 書架top
|
Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.