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麻帆良に来た漢!第十三話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:07/25-16:57 No.2734


 麻帆良大学工学部の研究室の一室。
 その部屋の持ち主、葉加瀬聡美により茶々丸のメンテナンスが行われていた。メンテされている茶々丸が座る席の側に、エヴァがコーヒーを片手に歩いてくる。

「茶々丸、調子はどうだ?」

「はい、マスター。右腕の方も修理は完了してます……ですが、調整にもう少し掛かりそうです」

「お前がいないと私も困るからな。構わん、ゆっくり休め」

「もーエヴァンジェリンさんってば、茶々丸にあんまり無理させないで下さいね?」

 労わりの言葉を掛けるエヴァを珍しく思いながらも、葉加瀬は製作者として忠告する。
 破損は軽微だったものの、右腕と背中のブースターに異常が出ていた。事故に巻き込まれただけと言っているが、普通ではありえない事だ。しかし、葉加瀬は追求する事はない。

「わかってる、今回は私の配慮が足りなかった。ハカセには迷惑かけた」

「いえいえ。南雲先生が早めに連絡くれましたから、大事には至らなかったですし」

「慶一郎か……借りが出来たな」

 葉加瀬に聞こえないように呟く。
 ネギ達の作戦を察知したまでは良かったが、彼らを過小評価していた所為で危うく茶々丸を失いかけた。だがあの場にいたもう一人、慶一郎の保険によりそれは回避できた。

(自分で動かずに、生徒である龍宮真名に護衛させるとは思わなかったが……。どちらにせよ、奴のおかげで茶々丸が助かったのは事実だ。後で礼の一つも言っておくか……)

 エヴァが考え込んでいる間に、葉加瀬は茶々丸のメンテを続けていく。

「そういえば茶々丸。下半身の関節に泥が詰まってたりしたけど、もう少し丁寧に動いてね?」

「申し訳ありません、ハカセ」

 葉加瀬は茶々丸の整備をしながら、的確に調整も加えていく。もう暫く掛かるとみたエヴァは、近くの空いている椅子に座り待つ事にした。研究所の自販機で買ったコーヒーを飲みながら呟く。

「……坊やも今日は動かんだろうしな」

 そんなエヴァの推測は見事に当たっていた。






『第十三話 悪い魔法使いの忍者休息編』






 明日菜の部屋のリビング、机の前でその本人と一匹の小動物が睨み合っていた。

「……どうしやしょう、姐さん」

「……どうしよう、って言われてもねぇ?」

 空のベッドに目を落とす明日菜達。そこには誰も寝ていない。

「朝起きたらもういなかったからね……木乃香には上手く誤魔化したけど」

「今日が土曜日で幸いでしたっすね、姐さん」

 揃って深い溜息をつく。
 昨日気絶したネギを部屋に連れ帰ったは良かったが、明日菜もカモも疲れていた為に深い睡眠に落ちた。その結果、朝早く部屋から出て行ったネギに全く気付かず、今に至るワケである。
 やはり昨日の事がショックだったのか、明日菜もカモも表情は芳しくない。空のベッドを睨みながら、ネギの心情を思うカモは首を振る。

「魔力が暴走した時の記憶が残ってたんすね……あの兄貴に、生徒を殺しかけた事なんて耐えられないっすよ」

 カモの言葉に明日菜も同調する。

「以前から何か、色々と溜め込んでたみたいだしね。私も頭に血が上っちゃってて、そんなネギに気が回らなかったのは反省してる。南雲先生にも考えてから行動しろ、って言われてたのに……」

「いや、そんな兄貴の状態に気付かなかった相棒の俺っちの所為っす!兄貴の危機と聞いて、平静さを失っちまったとは……俺っちもまだまだ未熟だったぜ」

 そんな反省の言葉が、次々と出て来そうになるが止めた。いくら互いに反省しあっても、肝心のネギはここにはいない。

「……過ぎた事を今反省している場合じゃない。兄貴を探さないとっ!」

「そうね!……ってネギが何処にいるか分かるの?」

「…………ぅ」

「分からないのね?とりあえず、私は南雲先生に聞いてみようと思うんだけど?」

 明日菜の提案にギョッとするカモ。彼からして見れば、敵か味方か分からない慶一郎に助力を請うなど危険極まりない。カモは明日菜の意見を止めようとするが、明日菜の目は真剣であった。

「アンタが先生を疑っているのは分かるけど、面倒だからこの際直接聞いてやるわ。南雲先生がどっち側なのか、ネギが何処にいるか知ってるか両方ともね!」

「あ、姐さん……(なんて漢らしい……)!」

「思いたったら何とやら、よ!今すぐ管理人室に行くわ、付いてきなさい!!」

「お、おうっ!」

 カモを肩に乗せ、明日菜は部屋を出て管理人室へと向かう。





 その頃ネギは森の中にいた。
 昨日の茶々丸への魔法攻撃や、魔力の暴走を思い出したネギは、起きてすぐ明日菜達に気付かれないように部屋を抜け出した。その事実を思い出した瞬間、全身に寒気が襲ったからである。

(暴走して意識が無かったとはいえ、アスナさんごと茶々丸さんを攻撃しようとしたのは僕だ。魔法使いである前に、3-Aの担任教師でもある僕が自ら生徒を危険な目に遭わせようとしたなんて……)

 そう思うと、明日菜の顔をまともに見る事ができず、気付いたら部屋の外に飛び出していた。そのまま学生寮を出ると、人の気配がない事を確認してから飛行魔法で空に飛んでいく。認識阻害の魔法もあるので、飛んでいても一般人に目撃される心配はない。
 暫く郊外の方へと飛んでいく中、ネギは一人考え込んでいた。

(これ以上アスナさんに迷惑をかけるワケにもいかないし、僕がいる限りエヴァンジェリンさんはきっと狙ってくる。……それがいつ他の生徒に向くかも分からない。それならいっそウェールズに帰ってしまうとか……)

 だが故郷に帰るという選択肢に、思わず首を横に振るネギ。

(駄目だ!『立派な魔法使い』になる事は、そう簡単に諦められない。それに父さんへの手がかりを、途絶えさすワケにはいかないし……)

 ネギが魔法使いを目指したのは、六年前の事件が主な原因だった。その後、『立派な魔法使い』たる父親を探し追い求める事は、唯一の信念とも言える程の意志を持っていた。
 それを諦めるという事は、六年前からの追い求めたモノを全て無に帰すると同然である。それ程までにネギの中で、父親の存在は大きかった。
 故に必然として、ネギは意思と意志の矛盾に迷う。そして二つを両立するには、ネギはまだあまりにも幼すぎた。その歪みは知らずして、ネギ個人を蝕む事になる。

「はっ!?」

 深く考え込むあまり、ネギは周りへの注意を完全に怠っていた。山の上を飛んでいた筈が、気付いたら高度がかなり下がっている。
 そして前すら見ていなかったネギは、当然のように飛び出していた木々にぶつかった。その衝撃でネギは思わず杖から手を離し、飛行魔法が解除され真っ直ぐ下に落ちていく。

「うわっぷ!?」

 ネギが落下した所には丁度川が流れており、落下の衝撃は幾分か抑えられた。ネギ自身は川に落ち、ずぶ濡れになったが著しい身体の損傷は無さそうだ。
 身を起こして辺りを見回すが、木々の自然の他には特に何も見えない。そして自分の杖が無い事に気付いたネギは、慌てて杖を呼び出そうとするが反応が返ってこない。まるで反応しない杖に、ネギは思わず愕然としてしまう。

「杖が僕に答えない……まさか僕の『迷い』を感じ取った所為で!?」

 そして何より問題なのは、杖が無くてはネギは飛行魔法などは使えない。つまり、こんな山奥の中で十歳の子供であるネギは、ほぼ遭難と言っても良い状況に陥ったという事だ。近場を軽く歩き回って探してみるものの、杖は見つからない。
 何処かで狼の鳴き声が聞こえ、ネギはその鳴き声に驚いて躓いてしまう。あまりにも無力な自分が情けなくて、泣き出してしまいそうになる。しかしその時、木々を掻き分けて誰かが近づいてきた。小さな悲鳴を上げて、ネギは身構える。

「ひっ!?」

「――おや?誰かと思えば、ネギ坊主ではござらんか」

 そう言って出てきたのは、ネギのクラスの生徒、長瀬楓であった。





 その頃、明日菜とカモは管理人室の中にいた。座っているリビングの食卓の上には、慶一郎が淹れたお茶が置かれている。

「それで?俺に何か用でもあったのか、神楽坂?」

「え、えっと~……」

 言いにくそうに視線を揺らす明日菜、その肩から降りてカモが訊ねる。

「俺っちの名前はアルベール・カモミールだ。単刀直入に聞くぜ?旦那はエヴァンジェリンとネギの兄貴、どちらの味方なんだ?」

「やれやれ、神楽坂が聞きたい事も同じか?」

「……うん。こないだの夜の話を聞く限りでは、私にはよく分からないから」

 慶一郎は腕を組んで考え込む。下手な誤魔化しでは明日菜達は納得しないだろう……だが、全ての事を話すわけにもいかない。特に試練に関しては、まだネギに知られるのは困る。しかも相手は明日菜の為に、わかりやすく説明しなくてはならない。

「そうだな、簡単に言うならどちらの味方でもない。俺はあくまでも中立の立場と言える」

「兄貴を助けないのに中立だぁ!?」

 あっさりと言う慶一郎にカモが激昂するが、それを明日菜が遮る。

「今回の事件で、エヴァンジェリンがネギを狙っているのは確かなんでしょ?中立なんて言ってないで、助けてやれないの?」

「それに関しては俺に言われても困るな。魔法が秘匿されている世界で、魔法関係で生命が脅かされるのを公的にどう説明しろと?表面的にネギに何かあったワケじゃないから、副担任の教師としては助けられん」

「無理をしたら魔法関係の秘匿が成り立たない……か。それなら『こちら側』として助けてはもらえないんすか?」

「その場合は『理由』が無い。俺は『こちら側』でネギ先生に何の借りも無いし、昔からの知り合いでも何でもない。そんな人物に頼まれて、生命のやり取りをするメリットも何も無いだろう?」

 淡々と語る慶一郎に明日菜達は何も言えない。以前にも言われた事のある、人を動かす時の理由。ただネギが危ないかもしれない、というだけでは決して慶一郎が動く事はない。

「でも、私は……」

 だが、明日菜はそれでもネギを放っておく事は出来ない。それは性格云々という話ではなく、神楽坂明日菜という少女が持つ本質がそうさせるのであろう。そこに理屈などは必要ない。
 しかし、そんな明日菜を慶一郎は冷静に諭してくる。

「前にも言ったが、神楽坂がそこまでネギ先生を気に掛ける『義務』はないんだぞ?」

「それは分かってる、けど……」

「昨日の暴走の時のように、生命の危機に晒される。ただの中学生のお前が、そこまでする『義理』もないんじゃないのか?」

「っ!?」

 昨日の出来事が頭に蘇る。
 片腕が動かなくなっても、ボロボロになっても決して退かなかった茶々丸。そして魔力を暴走させたネギに、茶々丸ごと向けられた絶対的な死の予感。思い出した途端に、身体の震えが止まらなくなる。カモも苦々しく俯いていた。

「昨日は無事に済んだから良かったが、一歩間違えればかなり危険な事態だったろ?」

「って何で旦那が昨日の事を知っているんすか!?」

「あ、そういえば……?」

 カモの疑問に明日菜もまた、震える身体を抑えて慶一郎を睨む。

「見てたからな、一部始終。作戦としては悪くないが、ネギ先生の心情を考慮に入れなかったのが敗因って所かな?」

 当然のように言う慶一郎。物理的介入は龍宮に任せ、慶一郎は双眼鏡を使って見ていただけでなく、その口の動きを読唇術で読んでいた。ネギ達の戸惑いも茶々丸の覚悟もしっかり聞いていたワケである。

「……あの場にいて、黙って見てたの?」

「当たり前だ。中立と言っただろう?あれはお前達の問題であって、俺には関係がない(まあ、保険は掛けたりはしたが……)」

「旦那はネギの兄貴が、どうなってもいいって言う気ですかい?」

 最早完全に警戒しているカモに、慶一郎は溜息をつく。どうもこの小動物はネギ至上主義とでも言うべきか?そんな考えが浮かぶ慶一郎だったが、気を取り直して話を続ける。

「あのな?別に俺は正義の味方でも何でもない。仕事で補佐をやっているとはいえ、何でもかんでもネギ先生を助けてやらなければならない『義理』などない。勿論敵対する必要もない……それをいい加減理解しろ小動物」

「くっ……」

 慶一郎の説明に押し黙るカモ。

「第一ネギ先生本人がいないのに、彼を慕ってるお前らが彼自身を無視してどうするよ?こういう相談はきちんと本人合意の下で……」

「ああぁぁーーっ!!」

 急に立ち上がった明日菜の大声が、慶一郎の言葉を遮る。眉を顰める慶一郎は、その本人を見ると顔が真っ青になっていた。

「ど、どうしたんすか、姐さん!?」

「肝心のネギがいなくなったのを、ここに相談に来た事忘れてるわよ!?」

「はあ?」

 慌てふためく明日菜達に、とりあえず事情の説明を求める。
 彼女達の説明によると、昨日の事件で心に衝撃を受けたネギが部屋を抜け出した、と。しかも全く連絡も無しにいなくなったそうだ。思わず頭を掻きながら、呆然とする慶一郎に明日菜が詰め寄る。

「南雲先生!エヴァンジェリンさん達との事は一先ず置いといて、ネギが何処にいるか分からない!?」

「……お前らは知らないんだな?」

「少なくともこの学園内にはいないみたいっす!俺っちの鼻でも追尾できるかどうか微妙な所っすね……」

「ふむ、アレを使えば見つかりそうではあるが」

 そう言って慶一郎はリビングから席を外すと、他の部屋から大きい携帯のような物を持ってきた。明日菜は不思議そうに、慶一郎の手にある物を見ている。

「それは?」

「学園長から借りた魔力GPSというものらしい。特定の魔力パターンを入力する事で、その相手を探知できそうだ。こないだ使ったときに、ネギ先生のパターンは打ち込んであるからこれで分かるはずだ」

 スイッチを入れてみるが、ネギの点は出てこない。少なくとも、この学生寮周辺にはいないと言う事か。画面を覗き込んでいたカモが、GPSの機能を把握したらしく指示してくる。

「旦那、そこのスイッチを使ってもう少し倍率は上げてみてくれ」

 言われたように倍率を上げていくと、やがて一つの光点が浮かび上がる。思わず喜んだ明日菜だったが、その倍率値を見て驚く。何故なら簡単に見積もっても、数キロ以上離れた所……しかも山の中にネギはいるらしい。
 すぐに探しに行こうとする明日菜を、慶一郎は引き止める。

「ミイラ取りがミイラになられても困る。俺が行こう」

「でもっ!」

「神楽坂はサバイバルの経験なんかないだろう?見つけたらすぐに連絡してやるから、大人しく部屋で待ってろ。小動物、神楽坂が暴走しないように見張ってろよ?」

「アルベール・カモミールっすよ、旦那……」

 まだ不満そうにこちらを見ている明日菜に、慶一郎は溜息交じりに言う。

「ネギ先生が心配なのは分かるが、まだ気持ちの整理がついてないかもしれんだろう?その場合、神楽坂が行くとややこしい事になりかねんぞ?まだ中立の俺の方がマシだ」

「むむむ……」

「むしろ、ネギ先生が帰って来た時の事を考えとけ。叱るなり、慰めるなりしっかりフォローしてやるといい。神楽坂が自分で決めた思いってやつを、ネギ先生に教えてやれ」

 ネギを探しに行こうと立ち上がった慶一郎は、すれ違う時に明日菜の頭をクシャと撫でる。まるで子供扱いの慶一郎の行動に真っ赤になる明日菜だったが、その大きな手に撫でられる事に嫌悪感は感じなかった。
 それは何処か懐かしく思えた。

「……懐かしい?」

「姐さん?どうかしたんで?」

「いや、ちょっと……ね」

 軽く手を振ってネギを探しに歩いていく、明日菜にはそんな慶一郎の背中がとても印象に残っていた。





「土日は寮を離れて、ここで修行しているんですか?」

「そーでござるよ」

 川に落ちたネギは楓に手伝ってもらい、服を干して今はバスタオルに包まれていた。その横に、忍装束にしか見えない服を着た楓が座ってる。

「ネギ坊主はこんな山奥で何を?」

「う……」

 まさか魔法で飛んで来た、等とは言えないネギは言葉に詰まる。そんなネギを見透かすように楓は笑う。

「まあ、話したくなければそれでも構わんでござるよ。ネギ坊主のその顔を見れば、何かに悩んでいるのはバレバレでござるが……」

「っ!?」

「それでは周りに心配してくれ、と言っているようなものでござるよ?」

 そんな楓の視線に耐えられず、ネギは俯いてしまう。思った以上に重症なネギの態度に、思わず頬を掻いて苦笑する楓。

(何やら難しく考えすぎているようだが、さて……どうしたものでござるかな?保護者の明日菜殿の姿も見えないようだし……)

 対応を考えていた楓は、横から聞こえてきた奇妙な音に思考を乱される。横を見てみると、鳴ってしまったお腹の音を恥ずかしそうな顔をして俯いているネギがいた。これは良い気晴らしになるかもしれない、そう思った楓は立ち上がるとネギに手を差し出す。

「気分転換に拙者の修行に付き合わぬか、ネギ坊主?」

「え、でも……」

「なに、難しい事ではござらん。食料調達を兼ねた運動みたいなものでござる」

 服を着たネギを促して、流れる川のある一点を指差す。そこには岩魚が数匹泳いでいる。すると楓は何処からか棒手裏剣を取り出して、静かにそれを片手に構えた。

「岩魚は警戒心がとても強く、足音を立てるとすぐ逃げられてしまうでござる」

 魚が川の表面近くに浮いた瞬間、音も無く飛び上がって投擲。見事魚の中心に刺さっている棒手裏剣を、見ていたネギはその腕前に感心を通り越して驚いている。
 ネギも楓に勧められて投擲するものの、やはり勝手が分からずに水音がするだけだった。
 その後、楓の十六分身などで山菜取りをして材料を集めたネギ達は、枯れ木を拾って火を熾す。その食材を簡単に火を通して、ネギはようやく食事を摂る事が出来た。楓もネギの顔が幾分かすっきりしたのを、確認しホッとする。

「少しは気が晴れたようでござるな?」

「あ……す、すいません!気を使わせてしまって……」

「いやいや。拙者が勝手にやった事だし、気にする必要はないでござる」

「で、でもスゴイです。長瀬さんはまだ十四歳なのに、すごく落ち着いていて頼りがいがあって……僕なんかよりずっと」

 楓を尊敬すればするほど、自分の情けなさを実感してしまうネギだった。また俯いてしまったネギに、楓は静かに話し始める。

「また落ち込むでござるか?……思うにネギ坊主は考えすぎる性分でござるな。あまり言いたくはないが、その年で何もかも悟って冷静な子供など気味が悪いでござるぞ?そんなに自分を卑下することはない」

「でも僕は、自分の抱える矛盾で周りに迷惑を……」

「抱える矛盾?」

 訝しむ楓に、顔を上げたネギは真っ直ぐ視線を向ける。

「長瀬さんは、二つの大事な物が相対した時に……どちらかを取りますか?」

「それは両方とも、自分にとって大事な物でござるか?」

「そうです」

 ネギは心中自己嫌悪していた。自分で考えて答えが出なかった問題を、いきなり他人に押し付けるように聞いてしまった事に。しかしそんなネギを見て楓は笑って、いとも簡単に答える。

「両方とも自分にとって大事な物ならば、両方取ればいいでござる。迷うまでもない」

「い、いえ、どうしてもどちらかを取るとしたら……」

 慌てて口を挟もうとするネギを手で制す。

「簡単に割り切れる物ではないのでござろう?ならばどんな事があっても、どちらも手放さないように諦めない、でござる」

「長瀬さん……?」

「諦めたらそこで終了、でござるよネギ坊主」

 食事を摂り終えた楓は立ち上がる。ネギの頭を撫でながら、夕食分の食料調達に行こうと促す。呆然としながらも、ネギはそんな彼女の後を追いかけていく。その顔の陰りは、ほとんど消えていた。





 崖登りをして頂上のキノコを取りに行く二人を、木々の陰から見送る者が一人いた……慶一郎である。

「見つけた、はいいが長瀬が一緒だったか。なら任せても大丈夫か?」

 木に寄りかかるようにして立っていた慶一郎は、姿勢を崩さずに木の上に話しかけた。本来なら返ってくる筈のない、返事が返ってくる。

「バレたでござるか。……こうも見破られると少し自信を失くすでござるよ」

「分身の術か、便利だなその技」

 木から下りてきた楓を見て、慶一郎の第一声がそれだった。思わず脱力してしまう楓。

「……便利とか言わないで欲しいでござる。というかこの分身まで見破るでござるか?」

「気にするな、自称忍者と知り合いだった頃があってな?俺は知り合いたくなかったが……そいつが使っていたのを見た事がある」

「もしや拙者を以前から不審そうに見てたのは、その似非忍者の所為でござるか?」

「まあ、そうなるか?……とにかく、ネギ先生が世話になったな、長瀬。本当は連れて帰ると言いたい所だが、暫く長瀬といる方がネギ先生にとってもプラスになりそうだ。神楽坂にもそう説明しておくさ」

 慶一郎の視線の先には、楓本体とネギが熊に追いかけられていた。涙目で必死になって逃げているが、そのネギの顔は何処か吹っ切れたような感じがしていた。
 自分と違って、楓は上手くネギを励ませたようだと確信する。

「南雲先生は、ネギ先生が巻き込まれている事件を全て知っている。そして知っていながらも、それを手助けせぬとは……何か良からぬ事を企んではいないでござろうな?」

「……だとしたら?」

「もしそうならば……拙者、黙ってはおれぬぞ?」

 薄く目を開き、慶一郎を見据える楓……その目はどこまでも本気の目だった。そんな緊張感に包まれた空間に、二人の沈黙が数分続いたかと思うと、ふと慶一郎が吹き出した。

「くっくっく……忍者といえど、ここまで違うと面白いな。安心しろ、企んではいるが良からぬ事ではない。信用できないなら龍宮に聞いてもいいぞ?事情は話してあるから」

 警戒していた楓だが、そこに友人の名前を出されては動揺を隠せなかった。

「ま、真名もグルでござるか!?それはまた、なんとも……」

「ネギ先生の『生命』の危険はない、他の生徒もな。今更何をしようと、どうせ後数日で決着がつくさ」

 そう断言した慶一郎の目もまた、本気の目をしていた。楓もその言葉に偽りがない、と判断すると構えを解く。

「あい、わかった。ならネギ先生は、今夜はここで休ませればいいでござるな?」

「頼む。明日の朝には、ほぼ吹っ切れて自分で帰ってくるだろう。精々励ましてやってくれ」

 ネギを楓に任せた慶一郎は、学生寮へと戻っていく。その巨体とは思えぬくらいの身軽さで山を下っていく慶一郎に、楓は溜息をついていた。

「やれやれ……食えない御人でござる」

 慶一郎を見送った分身の楓は、何とか熊から逃げ切って息を切らしているネギの、すぐ側にいる本体へと合流していく。ふと空を見上げてみれば、山はもう薄っすらと夕日に染まっていた。

麻帆良に来た漢! / 麻帆良に来た漢!第十四話

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