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大魔導士は眠らない 0話 決別の刻(×ダイの大冒険) 投稿者:ユピテル 投稿日:04/08-04:25 No.66




「早くこっちに!!」


世界は崩壊へと向かっていた、静かに、緩やかに、穏やかに、無慈悲に……

空は悲鳴を上げながら砕け堕ち、大地も既に世界を支える力を失い、音を立て崩れ消え逝く。

この空間が消滅するのも時間の問題である。その大地に立つのは二人の男。

一人はその瞳から止めどなく涙を流しながら必死に叫んでいた。それは絶叫であり叫喚であった。

その顔は未だに幼さを残しながらも経った月日を感じさせる不思議な風格を漂わせる青年がいた。

かたやその姿を苦笑いしながら眺めるは精悍な顔つきの青年。

服は既にボロボロで原形を留めておらず、上半身は裸と言ってもいいだろう。

その身体には幾つもの裂傷が刻まれていた。未だにその傷口からは血が流れ堕ち、大地は彼の血で塗り潰されている。


「お願いだ!!早くこっちに来て!!」


頬に十字傷をもつ青年は必死に手を差し伸べる。しかし血塗れの青年をその手を取ろうとしない。

大地に腰掛ける青年は涙を浮かべながら自分に手を伸ばす青年の姿を苦笑しながら見つめていた。


「分かっているだろ? 脱出するにはこの世界を維持する存在が必要なことを、そしてそれが出来るのは俺しかいないことを」

「けど!!」


群青色の服に身を包んでいる青年の顔が絶望に歪む。その様子に満身創痍の青年は眉間に皺を寄せる。

そんな顔を見たかったわけではない……


「そんな顔をするな……俺はお前を救えれば本望さ、ダイ」

「ポップ!!!」


ダイとポップ、世界を救った英雄は今決断を迫られていた。












大魔導士は眠らない 0話 決別の刻












「まるであの時を思い出すな……」


静かにポップは語りだした。その瞳は現在を映さず懐かしき過去を見つめていた。


「バーンパレスでのお前とハドラーとの決闘だよ」


はっとダイの表情が変わる。ハドラー、それは魔王にして幾度となく刃を交えた誇り高き魔族。

時には勝ち、時には負け、彼らは闘った。最初にお互いに満ちていたのは憤怒と憎悪。

しかし刃を、拳を交えるたびにそれは徐々に昇華され、いつぞや純粋なる闘争心だけが彼らの間にある種の絆を築いていた。


「あの時はキルバーンの罠に嵌められたが、今度は何と言ったって神だからな」


苦笑するポップ。神に挑む……昔なら考えもしなかっただろう。しかし目の前で未だに涙を流すこの青年が、自分を強くしてくれた。

共に歩んだ日々……魔王を、大魔王を倒すという重い使命を背負いながら、それでもひたすら前だけを見つめていた。

その澄んだ瞳に、心にポップは惹かれた。ダイはポップの情けない外面の内側に眠る熱く勇ましき心に触れ、憧れ、惹かれた。

そしていつしか少年と青年は掛替えのない親友となった。

バーンとの最終決戦、今でも覚えているあの恐怖。人とは異なる絶対の壁にポップの足は竦んでいた。

一度圧倒的大差で敗北したポップにとって彼が放つ氣は彼が思う以上に全身の自由を蝕んでいた。

しかし倒れた友の姿を見たら、そんな恐怖など一瞬にして消し飛んだ。

大魔王?そんなものは関係ない……俺の友を傷つける者は……例え誰だろうが許さねぇ!!

気がついたときには彼は大魔王に向かい躍りかかっていた。勝算がほんの僅かでも、ゼロだとしても諦めはしない!!

あの決戦の後、ダイは姿を消した。周りの何も知らないやつらはダイが死んだものと思っていた。


――――――そんなわけがない!あいつが死ぬなんて、あるはずがねぇ!!


世界中を探した、そんなことはあるはずがないと、必ず何処かで生きていると。何年も何年も……

しかし、いなかった……どこにも……

絶望の思いを胸に、しかし顔には出さずに俺はダイの剣へと赴いた。

その突き立てられた剣が、まるで彼の墓標のようで、心が引き裂かれるかのようだった。

しかしロン・ベルクは言った。あの宝玉が光を放つ限りダイは生きていると。

その言葉に俺は気がつけば涙を流していた。ダイが……生きている。

その希望を胸に俺は魔導書や魔導具を求め、旅立った。ダイを探すために……

ありとあらゆる魔導書に目を通し、あらゆるダンジョンに在る魔導具を探したりもした。

しかし地上には有力な魔導書や魔導具は存在しなかった。だから俺は破邪の洞窟へと足を踏み入れた。

アバン先生の言ったとおり、破邪の洞窟は恐ろしいほどの罠に溢れていた。

何度も死にそうなった……しかし死に包まれそうになるたびにあいつの笑顔が思い出された。


―――――まだだ…………まだ死ねない!!


身を、魂を掏り減らしながら、それでも唯ひたすら下へと進んでいった。そしてついに見つけたのだ、ダイを探す力をもつ魔導具を……

それは虹色の水晶体であり、メルルのもつ水晶球とは比較にならないほどの力の波動を感じた。

水晶体に魔力を通すことにより、俺の捜し求める者が姿を現した。その光景を見たとき俺は愕然とし、次第にどす黒い殺気が全身から立ち昇っていた。

ダイは何もない真っ白な空間に鎖で幾重にも縛られていた。あの鎖は恐らく神クラスの魔導具だということが映像からすら理解できた。

それほどの波動が水晶体越しから放たれていたのだ。その魔導具はその求める場所さえ示してくれた……行く先は…………神界だ。

すでに空間転移の魔法はマスターしていた俺は、リレミトで破邪の洞窟を脱出すると一旦休息をとった。

ダイをあのように縛り付けたやつらの住処なのだ、僅かな隙が致命傷になりかねない。

充分に休息をとり、体調が万全になった俺はかつての仲間には何も言わず、一人で神界に赴いた。

確かに皆にこの事実を言ったなら、共に闘ってくれたことだろう……だがそんなことは出来なかった。

大魔王の脅威が去り、世界は今、共に手を取り合いながら復興しようとしている。

しかしこの事実は知られれば、再び地上は混乱に満ちることは火を見るより明らかだった。

それに仲間達には、この光に満ちた世界で生きてほしかった……修羅になるのは…………一人で充分だ。

神界に降り立った俺に待ち受けていたのは、その存在を認めぬ敵意と漆黒の殺意と、そして……幾重の血の匂いだった。

神界に住まう者達の力は地上の生物とは比較にならないほど巨大な力をもっていた。

普通の人間では歯向かうことなど決して出来ないだろう……普通の人間なら…………

幾千、幾万の屍を越え、俺はついにダイのもとへと辿り着いた。

あいつを救い出そうとしたその時、最後の生き残りがダイに巻きついた鎖を砕いて力尽きた。

何故砕いたのか疑問に思った俺だったがダイの斬撃によって否応なく理解できてしまった。


ダイの瞳に……光が宿っていないことに…………



「俺はお前と助けに来たんだ、肝心のお前が助からなくてどうするんだよ」


苦笑しながら目の前の青年を見つめる。その瞳はかつての光を取り戻していた……今は涙で歪んでいるが。


「でも……でも!!」


聞き分けの聞かない子供のようにダイは必死に首を振る。すでにダイの周囲はポップの生み出した結界によって触れることもできずにいた。


「俺を助けてくれたってポップが死んじゃ意味ないだろ!?」


ダイの硬く握られた拳から赤い血が滴り落ちる。ポップはその問いに答えず、自らの手に更なる魔力を集中させる。

この世界はすでに死に絶えようとしていた……ポップはこの世界の最後の瞬間をずっと待っていたのだ。

蝋燭の火が消える最後の瞬間がもっとも強き閃光を放つことを……彼は知っていたのだ。

そして世界も最後の輝きを放つ時が来た。

加速的に崩壊する世界……そして空が完全に崩壊した……その音は、まるで硝子の砕けたようだった…………


「……さよならだ…………ダイ」

「ポップ!!」


ダイは宙へと浮かせれて、止めどなく溢れる涙が地上にいるポップを映しだしていた。

光りだす結界、絶叫をあげるダイ、そして優しく微笑むポップ…………


「じゃあな……」


―――――――バシルーラ


「ポップーーーーーーー!!!!!」


竜の騎士は、在るべき世界に帰還した……大切な人を代償にして…………






「うまくいったか……」


親友がこの世界から上手く脱出できたことに安堵する。
 

「……つぅ」
 

ダイに弱さを見せられなかったため気丈に振舞っていたが、緊張の糸が解け激痛に顔を歪めポップは堪らず膝を折る。

すでに足元は自分の血で赤い水溜りが形成されており、どう考えても致命的な出血量だった。魔力も使い果たした為、ろくな回復魔法も使えない。


「…………がっ!!」


足で支える力も残っていなかったのか、体が地面に吸い寄せられる。バシャッと血の海に倒れるポップ。身体は血の色に染められ、指一本も動かせない。


―――――上出来だ、よくやったぞポップ。


ここにきて初めて自分を褒める。ダイを元の世界に還せた、充分じゃないか。

既に景色がぼやけてきた……もう後がないだろう…………

最初から覚悟していたことだ、生きては戻れないだろうことを……だが…………


――――――何故涙が出るのだろう


空はすでに何もない漆黒に染まっており、大地も殆ど闇に飲み込まれていた。崩壊する世界の中、ポップは急に眠気が襲ってきた。


――――――なんだか……眠く……なって……きた……な…………


世界が砕ける音を聞きながら、青年は眠りにつこうとしていた。

願うことは唯一つ…………


――――――幸せにな……ダイ…………


こうして世界を救った大魔導士は世界と共に眠りについたのであった。












瞼が下りる瞬間、白き聖母竜が見えたような気がした。















「氷の精霊17頭、集い来りて、敵を切り裂け!!」


エヴァの周囲が氷結し、氷牙が幾重も生成されていく。その牙は周囲の熱を奪い去る氷河の僕。


「魔法の射手! 連弾、氷の17柱!!」


少女の命によりその牙は彼女の敵に牙を向く。圧倒的な速度で標的に向かい疾走していく。


「ラス・テル マ・スキル マギステル」


ネギも負けじと詠唱を唱える。ネギが風に囁くと周囲が優しく彼を包み込む。それは生きとし生きるところに存在する者。

その名は精霊。世界に満ちる世界の欠片。彼の願いにその存在は優しく手を指し伸ばす。


「風の精霊17頭、集い来たりて、敵を討て!!」


バチバチとネギの周囲に雷が迸る。その音は敵に対する警告音、主に歯向かうものにはその雷をもってして向かい撃つと。


「魔法の射手!連弾、雷の17柱!!」


放たれるは雷の矢、大気がじりじりと焦がれていく。衝突するは雷と氷。ぶつかりあう二種のエネルギーは相殺され、光と爆音に変換された。


「はははっ!やるじゃないか坊や!!」


エヴァは上機嫌に笑う、それに対しネギは焦りの表情を浮かべていた。


(エヴァンジェリンさんが強いことは分かっていたけれど……こんなに強いなんて、このままじゃ勝てない!!)


今のままでは勝てないことを察したネギは、己の最高の攻撃力を誇るあの魔法を唱えることを決意した。


「ラス・テル マ・スキル マギステル! 来れ雷精、風の精!! 雷を纏いて、吹きすさべ南洋の嵐!!」


ネギの手に雷と風が渦巻く。そのエネルギーは今までのとは桁が違う。その詠唱を耳にしたエヴァは楽しそうに詠唱を唱えた。


「リク・ラク ラ・ラック ライラック! 来たれ氷精、闇の精! 闇を従え、吹雪け常夜の氷雪!!」

「えっ!?」


(これは同種の魔法!)


彼女の手には闇と氷が渦巻いていた。ネギとは相対する力だ。この後、起こりうるであろう現象にネギの舎弟(?)たるカモは顔色を青ざめる。


「ネギ!?」

「マスター」


前衛の二人、茶々丸とアスナも動きを止め、二人の挙動を見つめる。ネギとエヴァの掌には魔力の暴風が吹き荒れる。その膨れ上がる力を二人はただその手に込める。


「来るがいい、坊や!!」

「はい!!」


エヴァの声にネギは全霊を持って答えた。お互いの手を相手へと向け、高らかに叫ぶ。


「雷の暴風!!!」

「闇の吹雪!!!」


激しい閃光と爆音が周囲に木霊する。二人の間には巨大なエネルギーが拮抗していた。

押しつ押されつ、常に変動しながらも拮抗しあうその空間には、急激にエネルギーが膨れ上がっていく。

マナの反作用が働いたのだ。そしてその膨大なエネルギーがあれを……喚んでしまったのだ。






「何よあれ!!」


それを最初に察知したのはアスナだった。彼女の指差す先には渦巻き歪んだ空間が……


「何!?」

「あれは!?」


お互い弾け合い魔法が相殺されると、ネギとエヴァも上空を見上げる。

むしろ彼らの動揺のほうが激しく、顔面は蒼白というよりむしろ真っ白になっていた。それは無理もないことだろう。

彼らの視線には圧倒という言葉すらおこがましいほどの魔力が集っているのである、それこそこの地上が容易く滅びるほどの……

そしてついにそれが姿を現した。その存在とは…………


「ドラゴンだと!?!?」


エヴァは堪らず絶叫した。この地上における絶対種が何故このような場所に現れるか……

ネギはただただ震えていた。物語なら昔から読んでいた、ドラゴンと勇者と魔法使いの物語だ。

強いだろうな~と幼い頃無邪気に思っていたことが遠い昔のようだ。

今はそんな純粋な強さの憧れなど抱けはしない、心の中に渦巻くもの、それは畏怖。

今、視線の先にあるモノは圧倒的な存在感を放っていた。あれには誰も敵わないということがネギには理解できてしまった。


「ちょ、ちょっとネギ、大丈夫!?」


震えるネギに駆け寄るアスナ、ネギは堪らずアスナの裾を掴んだ。

ドラゴンにはまさに純白という言葉に相応しかった。その両手には巨大な玉が大事そうに抱きかかえられていた、まるで卵のように…………

突然変化が訪れた。ドラゴンがもつ球体が急激に膨張し始めたのだ。その膨張に大気のマナが震撼する。そして限界を超えた球体は……弾けた。

その弾けた球体の中からナニかが地上に落ちていった。巨大な魔力に包まれたソレはゆっくりと地上に舞い降りたのであった。

天空に浮かぶドラゴンは使命を果たしたのか元いた空間へと還っていった。落ちていく存在が何なのか茶々丸はなんとか捕捉する事に成功した。


「マスター、先程から落ちている存在は人間だと思われます」


その発言に三人は驚愕した。


「人間だと!?間違いないのか、茶々丸!!」

「間違いありません」


感情の篭らない声で答える。エヴァは茶々丸の返答に数秒思考し、すぐさま答えを導いた。


「そいつが何なのか気になる……来い茶々丸!」

「イエス、マスター」


エヴァと茶々丸はその存在の元へと駆けつけていった。ネギも呆然としていたが、暫くすると……


「アスナさん、僕達も行きますよ!」

「えっ!私たちも!?」

「そうですよ!」


ネギは杖を呼び寄せ、アスナを乗せると大地を蹴った。急速に遠さかる大地。アスナは後ろで悲鳴をあげているがネギは気にしている余裕はなかった。

あの存在は一体何なのか……もしかしたらドラゴンの使者なのでは……思考がまとめられない中、ネギは強く杖を握った。

一体落ちてきた存在は……何なんだろう…………















―――――――――何かが音をたてて動き出そうとしていた





大魔導士は眠らない 大魔導士は眠らない 1話 守護する獣

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