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大魔導士は眠らない 1話 守護する獣(×ダイの大冒険) 投稿者:ユピテル 投稿日:04/08-04:37 No.67
月が優しく地上を照らす中、ネギ達は深夜の空を疾走していた。目的地は聞くまでもない……ドラゴンが落とした人間の落下地点だ。
エヴァの姿はすでに見えなくなっている……先程の移動速度とは比較にならないスピードだ。
あれが本来の彼女の飛翔速度なのだろう……焦る気持ちを抑えて、ネギはひたすら前を見据えるのであった。
一体ドラゴンが落としたのは何なのだろう……
大魔導士は眠らない 1話 守護する獣
「んっ、あれか!」
漆黒のマントを靡かせ、エヴァは目的の地点に到達した。続いて彼女の従者である茶々丸も静かに着地する。
空に星が瞬く中、エヴァはゆっくりと歩を進める。足を前に一歩進めるたび身体にかかるマナの重圧が増し、身体が軋む。
(くっ、なんてマナだ……あまりにも異常すぎるぞ!)
エヴァの瞳には、通常では考えられないほどの大気のマナがはっきりと視えていた。これも先程の玉の爆発が原因だろうか、それとも……
自然とエヴァの目が細まる。そしてエヴァと茶々丸はドラゴンの落したモノを目にしたのであった。
彼女達の瞳に映ったのは原形を留めていないほどボロボロな上、血で全身がどす黒く染まっている青年だった。
奇妙なことに酷い損傷を受けた形跡があるにも関わらず、身体に傷一つなかった。
謎の現象に眉間に皺を寄せるエヴァだったが、横たわる青年の血を目にした途端動悸が激しくなった。
(なんだ突然!?何故か目が……離せなく……なる…………)
とろんとエヴァの瞳はまるで催眠にかかったかのように虚ろになると、エヴァはふらふらとその青年に近づいていく。
「マスター?」
茶々丸の声も聞こえないのか、エヴァは青年の側に近づくと膝を折り、ゆっくりと顔を傾けた。
エヴァの舌が衣服に付着した血に触れた瞬間、彼女の身体に快感という名の電撃が駆け巡った。
(なんて甘い……舌がとろけそうだ…………)
頬を上気させながらエヴァはひたすら舌を奔らせる。青年の血は恐ろしいほど美味だった。それはどんな美酒も霞んでしまう……まさに至高の味だった。
衣服についた血を啜り終わったが、それだけではこの火照りは抑えられない。彼女の舌は衣服から青年の肌へと移動していく。
何度も傷めたのか岩の如くごつごつとした指、がっしりとした腕、引き締まった胸、至るところに舌を這わせる。
血と、青年の醸し出す雄の匂いがエヴァの理性を奪っていく。
――――――もっと、もっとだ……こいつの存在が…………欲しい!!
飢えにも近いこの枯渇感がこの存在を強く欲していた。エヴァは気づいたときには青年の身体に馬乗りしていた。
――――――だめだ……抑えられない…………
闇の眷属としての本能がエヴァの思考を支配していた、それはすなわち……生き血を啜るということを意味する。
鋭い犬歯を煌かせ、エヴァはゆっくりと首筋に顔を近づけていく。
「マスター!?」
思いもかけない行動に静止の声をかけるが、今の彼女には届かない。徐々に近づく青年とエヴァの距離、月光を背に行なわれるそれはまるで映画のワンシーンのようである。そして彼女の牙は青年の首筋に突き刺さった。
エヴァの牙によりポップの首筋から二つの紅き水が肌をつたる。その紅き生命の源たる血をエヴァは躊躇うことなく啜る。その瞬間エヴァの身体がビクリと跳ねる。
(何て美味さだ……この雄の匂い! 喉越し! そしてこの魔力!! 身体が火照りが抑えられん!!)
身体に満ちていく高揚感と快感にエヴァの思考は働くことを放棄する。ただひたすらに血を啜るその姿は吸血鬼の真祖、その人であった。エヴァはただ啜る、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという器を満たすために。
「ちょっとネギ、早すぎるわよ!!」
あまりのスピードに思わずネギにしがみつくアスナ。確かに生身で車並みの速度で移動されたらそれは怖いだろう。
しかしネギの耳には届いていておらず、依然険しい顔で前方を見つめていた。その顔にアスナは不満げで面持ちで見つめるがその視線にすら反応しないネギについには口を開く。
「ちょっとネギ!聞いてるの!!」
「………」
「聞きなさいって……言ってるでしょ!!」
「あたっ! い、痛いじゃないですかアスナさん!!」
アスナの鉄拳がネギの頭に突き刺さる。あまりの衝撃音にもし一般人がその音を聞いたら青褪めるであろう。涙目になって振り返るネギの頭には大きなたんこぶが……可哀想に。
「あんたがあたしの話を聞かないからいけないんでしょう!」
「えっ、何か話してましたか?」
「話してたのよ! ……はぁ、もういいわよ」
溜息をつくとアスナは外の景色を眺める。空を見上げれば巨大な月が優しく照らし出し、地上を見下ろせば建物の光がまるで星のようで、思わず見入ってしまう。
「ねぇネギ……」
「なんですか?」
先程みたいに殴られてはたまらないのかきちんと返答するネギにアスナは苦笑いを浮かべる。アスナは腕を伸ばして身体を解すと、少し心配そうな声で尋ねる。
「さっきからやけに焦ってるように見えるけど……」
アスナの言葉にネギの表情が少し強張る。何故彼の表情が強張るのかアスナにはイマイチ理解ができないでいた。
「えっとですね……アスナさんはドラゴンのことをどんなふうに考えていますか?」
「ドラゴン? そりゃゲームみたいにトカゲに翼が生えてて火を噴くとか……」
あまりにも分かりやすいアスナの思考に、ネギは乾いた笑いを浮かべる。
「それも間違いではないんですけど…………」
「何よ、あたしは馬鹿なんだからそのぐらいしか考えられないわよ!」
浮かない顔のネギにアスナは眉間に皺を寄せる。馬鹿にされたと思ったのか少々御冠のようだ。しかし依然浮かない顔をしているネギの表情にアスナは疑問を投げかける。
「それにしてもやっぱ強いの、ドラゴンって?」
アスナの何気ない質問にネギは血相を変えた。
「強いなんてものじゃないんですよ! ドラゴンって言ったら地上最強の生物と言っても過言じゃないですよ!」
(地上最強……オーガと呼ばれるマッチョな親父ではなかったのか……)
アスナの脳裏には背中に鬼の顔を持つとある人物が頭の中にふと浮かんで消えた。
「それにしてもあのドラゴンは明らかに別格だったと思います」
ネギは先程の光景を思い出したのか、ぶるっと身体を振るわせる。それは大気の寒さとはまた別の寒さである。その寒気さを誤魔化すようにネギは口を開く。
「先程のドラゴンの魔力は僕が今まで見てきたどの魔力より巨大でした」
「そうなの? あたしにはなんか白くてちょっと歳を取ってるようにしか見えなかったんだけど……」
「あのドラゴンが本気を出したら、この日本なんか簡単に消し飛んじゃいますよ」
ネギの発言にアスナは思わず吹き出す。
(い、いま何て言ったのよコイツは!!)
「ちょ、ちょっとそれ冗談でしょ?」
「冗談でこんなこと言いませんよ!」
ネギの顔や先程のエヴァちゃんの顔を見れば嫌でも分かる。やっと先程、どれほど危なかったのか理解したアスナは顔面蒼白になっていた。
「な、なんでそんな物騒なヤツがココにくるのよ!?」
「分かりません……けど」
目的ははっきりとは分からない、けれど……
「先程ドラゴンが持っていた珠から人間がいたと茶々丸さんが言っていましたよね」
「えぇ」
もしかしたら、その存在をここに運ぶことが目的だったのかもしれない。色々と推察してみるが所詮はどれも仮定でしかなく確かな確証などあるはずもない。
「……とにかくはっきりしたことは僕にも分からないんです、だからドラゴンが落とした人が何なのか気になるんです」
ネギはよりいっそう杖を強く握り締め、夜の空を駆け抜けた。
「見えた!」
およそエヴァたちから5分ほど遅れただろうか、やっとの思いで辿り着いたネギとアスナの瞳にはあるものが映し出されていた。
「えっ!?」
「何なのよあれ?」
その瞳には必死に応戦するエヴァと茶々丸、そして……
「黄金の……獣?」
「くそっ!なんなんだこいつらは!!」
苛立たしく睨めつけるエヴァ。茶々丸も必死に応戦するが手も足も出せずにいた。
エヴァの瞳には倒れた青年を守護するように存在する二匹の獣の姿が忌々しげに映し出されていた。
エヴァが青年の血を啜っていたら、突如青年が身に着けていた二つの指輪が光り出した。その光にエヴァは吸血を一瞬止めてしまう、そしてその瞬間彼女の腹に突如、衝撃が襲い掛かる。
「くっ!」
あまりの衝撃にエヴァの口から苦悶の声があがる。その衝撃により恐ろしい速度で水平に飛んでいくエヴァを茶々丸が受け止める。
「つぅ……すまん」
「お気になさらず、マスター」
エヴァを支えていた茶々丸の足元には二本の線を描いていた。茶々丸がエヴァを受け止めたときに地面が抉れたものだ。エヴァが受けた衝撃がどれほどのものか想像できよう。
腹を押さえつつ、エヴァは前方を鋭く睨めつける。エヴァの瞳孔が縦に割れ、全身から魔力が迸り髪がゆらゆらと揺らいでいた。その青年の血のお陰が先程の戦闘よりも魔力が漏れ出していた。
土埃が晴れエヴァ達が目にしたものは青年を守護するかのように鎮座する二匹の獣の姿であった。
一匹は狼であり、その全長は2メートルを超えており、まさに神話の魔獣フェンリルを彷彿される。片や天空にその巨大な翼を広げる一羽の鳥。その姿は神々しくまるで不死なる鳥フェニックスかのようだ。
どちらも黄金色に輝いているが、何より異質なのは生物とは思えないその外見だ。まるで金属でできているかのような光沢を放つこの獣にゴーレムの単語が頭に浮かぶ。
「貴様ら、何者だ」
魔力を高めつつ、エヴァは相対する二匹の獣に殺気を叩きつける。真祖の殺気は精神的なものではなく、物理的な圧力すらかかるほどのものだ。
しかしその殺気になんの反応も示さない2匹の獣にエヴァは小さく舌打ちする。
「何者……か」
獣の口から殺意に満ちた声が漏れ出す。狼からエヴァの殺気など遊びと思わせるほどの強烈なプレッシャーが放たれ、天空に浮かぶ怪鳥からも同等の殺気が溢れ出す。
その殺気にエヴァ達は大地に縛り付けられ、地面が陥没する。まるでエヴァ達の立つ大地だけ別の重力がかかっているかのようである。
「主様に危害を加えたあなた達に名乗る名などない!」
怪鳥から放たれるは明確な敵意、その瞳は激しい怒りに燃えている。その殺気にエヴァと茶々丸は臨戦態勢を整える。
ドン!!
狼が足を大地に振り下ろす。すると小さなクレーターが大地に刻み込められていた。
「そういうことだ……」
怪鳥の言葉に静かに同意する巨狼の瞳には静かな敵意が冷たい光を放っていた。2匹から放たれる殺気にエヴァの中で高まっている吸血鬼としての本能が彼女の身体を高揚させる。
――――――――――血と殺戮の宴を
エヴァの瞳が黄金色に輝き、瞳孔が縦に裂けている獣の如き瞳が二匹の獣を射抜く。
「私の質問に答えんか……なら貴様たちを侵入者と認知、よって迎撃させてもらうぞ」
「もとより私たちにとってあなた達は排除すべき敵ですわ」
エヴァの身体から魔力が漏れ出す。それは大気のマナと干渉し、擬似的な火花を散らす。二匹の獣からも殺気が漏れ出す。それは大気を、大地を震え上がらせる。ジリジリと火花が鳴る中、両者の間には完全なる静寂が去来していた。
バチンッ!!
一際大きな音がなった瞬間、4つの影が闇に紛れ疾走し、それと同時に巨大な爆音が辺りに轟いた。
「くそっ!」
腹部を押さえながら上空に舞い上がるエヴァ、その指の間から赤い血が流れている。怪我のせいでなかなかスピードが出せないが文句を言っている場合ではなかった。
「逃がしはしません!!」
上空に旋回する黄金の不死鳥がエヴァを容易く捕捉する。翼を振り下ろすと魔力を帯びた羽がエヴァに向けて放たれた。
一枚、一枚の羽に恐ろしいほどの魔力が凝縮させており、信じられないほどの威力を誇っていた。その威力がどれほどのもとかといえば、羽一枚で戦車を容易く貫通するといえば分かるだろうか。
そのフェザーの嵐を必死に回避するエヴァ、その顔には余裕など一欠けらも存在しない。ただ幸いというべきがその羽があくまで一直線にしか飛来しないことだろう。もし誘導型だった場合、すでに決着はついていた。
「この闇の福音を侮るな!!」
エヴァは腕を横へと払うとエヴァへと殺到していた羽の弾丸はいなされる。その風圧には彼女の魔力が込められており、その威力は建造物など一瞬で粉砕するほどのものである。しかし彼女の顔は僅かに歪んでいた。
(くそっ、封印が解けている状態でさえいなすのが精一杯だと!?)
真祖としてのプライドが今起こっている現状に我慢ならないでいた。真祖とは人間とはポテンシャルが根本的に異なる。人間にとって不可能なことであったとしても真祖にとっては軽く手を振るうだけで成してしまう、そういった存在なのだ。
そしてその人間のカテゴリーから大きく逸脱している彼女が、今追い込まれていたのだ。
「……俺を忘れていないだろうな」
背筋がぞっとする。何時の間にか黄金の狼がエヴァの背後に回っていた。遙か眼下では四肢がもぎ取られている茶々丸の姿が目に映った。
「貴様ぁぁぁぁ!!」
激昂と共にどす黒い魔力がエヴァの身体を覆い尽くす。そして手を翳すと絶対零度の氷矢を瞬時に生成すると、それを目前に迫る敵に一片の躊躇いもなく解き放つ。
―――――魔法の射手!氷の13柱!!
無詠唱による魔弾が巨狼に炸裂する。そして着弾した瞬間、更に魔法を行使する。
「氷爆!!」
着弾したはずの氷の矢が0距離で炸裂する。その炸裂音は漆黒の空に木霊し、炸裂したことにより水蒸気が立ち込める。
だがその煙を一瞬にして吹き飛ばし無傷の巨狼が姿を現す。そうなのだ……ただでさえ隙がないのに何故かこいつらに魔法が効かないのだ。
「はぁぁ!!」
振る下ろされる鉤爪がエヴァの肩を容易く切り裂き、鮮血が大地を染めていく。バランスを崩し、速度が落ちたところに黄金の巨狼はその鋭利な爪をエヴァへと付き立てる。
「がはっ!」
エヴァの口から鮮血が噴き出し、傷口から血が滴る。負傷した傷口はすぐさま再生を開始するが敵は既に次の動作に移っていた。
「地面に這い蹲ばるといい」
宙で回転すると、その遠心力のエネルギーを込めた一撃がエヴァを容易く吹き飛ばす。弾丸となったエヴァは数秒後、轟音と共に地上へ着弾した。
エヴァを中心点とした大地から数メートルの罅が放射線上に走る……一体どれ程の威力だったのだろうか。
エヴァは飛びかける意識を必死に繋ぎ止めていた。ここで意識を失えば命がない事は嫌でも理解できる。
必死に起き上がろうとするエヴァを冷めた目で見つめる二匹の獣。
「こんなもので済むとは思っては困るぞ」
その狼の巨大な口が大きく開かれる。エヴァにも理解できている、やつらが本気を出したらそれこそ一瞬で絶命しているだろう……やつらがそれをしないのは……いたぶる気なのだ、こいつらは………ヤツラの瞳が明確に示している……つまり…………
―――――――絶望の果てに死んでいけ
そう、言っているのだ。
「もうおしまいですか……」
黄金の翼をはためかせ、黄金の鳥は冷めた目でエヴァと茶々丸を見つめていた。
「そろそろ潮時ですね……私が止めをさしてもよろしいでしょう?」
「……好きにするといい」
「感謝しますわ」
嬉しそうに感謝の言葉を述べると怪鳥から強大な魔力が迸る。
「主様を傷つけたことを地獄の底で後悔なさい!!」
冷めた目から一転、烈火の如き燃える瞳が傷ついたエヴァと映し出す!その巨大な羽を大きく振り上げ、殺意と共に振り下ろした瞬間…………白き雷が突き刺さった。
「ちょ、ちょっと何なのよあれは!!」
ネギとアスナの眼下で繰り広げられるエヴァ達と怪物の戦闘に血の気が引く。戦況は一方的だった。黄金色の獣たちが容赦なくその牙を、翼を煌かす。その光景を目撃したネギは急に杖を向きを変える。
「ちょっとネギ、どうするのよ!」
「アスナさん、すみませんがここで待っていてください!」
アスナの声に答えずネギは戦場から多少離れたところに彼女を下ろすと震える身体を抑えて再び宙に浮いた。これからネギが何をしようとするか容易に想像できたアスナは顔を青ざめる。そう、彼は今から闘いに赴こうとしているのだ、あの明らかに異常な闘争の中に……。
アスナはそうなればネギがどうなってしまうのか容易に想像することが出来た。
「ちょっと、あんたにはどうすることも出来ないでしょう!!やめなさいって!!」
必死になって呼び止めようとするアスナ。その声はいつもの怒った声ではなく、むしろ恐怖による叫び声のようである。彼女の必死なその声にネギは振り返る。
「ありがとうございます、アスナさん僕のことを心配してくれて」
「あ、当たり前でしょう! あんたはまだガキなんだから!! 無茶なことしないでここにいなさい!!」
「ここで黙って何もしないなんて出来ませんよ。だって……僕は先生だから生徒を守らないと」
ネギは小さく笑みを浮かべる。いつものような頑張る少年の笑みではなく一人の男としてのその笑みにアスナは何時の間にか頬を赤く染めて、ただネギを見つめてしまう。
「じゃあ……行ってきます!!」
「……はっ! ちょ、ちょっとネギーー!!」
アスナの制止の声を無視しネギは再び宙を疾走する、大切な生徒を守るために………
ネギの魔法が黄金の不死鳥に命中し、爆音が周囲に木霊する。杖を手が真っ白になるほど強く握り締め、ネギは目を凝らす。辺りには煙が充満し、相手の姿が見えない。暫くすると煙が霞みの如く消え去る。
煙が消えた先に見えたものにネギは顔を青ざめ、恐怖に表情が凍る。
「あ、あぁ…………」
するとそこにはなんの損傷もしていない黄金の不死鳥が静かにネギを見つめていた。
「少年よ、これは私達へと敵対宣言と受け取ってもよろしいでしょうか?」
黄金の鳥はネギに静かに問いかける。その瞳にはネギに対し大した敵意を抱いていない、いや敵意すら浮かばないのかもしれない。何故ならばネギなど道端に転がる石ころと同じ価値、即ちその存在に対し何ら価値を見出していないのだから。
「エヴァさん達は僕の生徒です! 生徒を傷つけることは許しません!!」
震えそうになる声、膝をネギは必死に抑えていた。ここで心が折れてしまっては偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)になることなど不可能である。こんな駆け出しで諦めるほどネギの心は弱くはない。
「坊主……言っておくが先に手を出したのはそいつだ」
黄金の巨狼がネギの背で必死に起き上がろうとするエヴァの姿を捉えていた。全身至るところに裂傷が見受けられ血がまるで紅化粧ように全身を染め上げていた。
「エヴァさんが!本当なんですか?」
「……あぁ」
「そんな……」
その事実にネギは愕然とする、つまり彼らはこう言っているのだ。
―――――先に手を出したのはそちらだ、どうなろうが自業自得だ、と
「お退きなさい、さすればあなたは見逃しましょう……しかし」
金色の不死鳥が静かに語りだす。その口調はあくまで静かに穏やかに、だが……
「敵対するなら容赦はいたしません」
鋭い視線がネギに突き刺さる。まるで心臓が刺されたかのようである。ネギは生まれて初めて感じる自分に殺意ある気配に抑えていた震えが止まらなくなっていた。それは今までに浴びたどの視線より冷たく唯ひたすらに……怖い。
「逃げろ坊や……私に構うな」
肩と腹から血を流しながらもエヴァは必死に起き上がろうとする。だが例え傷口が再生されようとも血液が一瞬にして再生されるわけではない。もう彼女には勝ち目などないだろう。しかしエヴァは立ち上がろうと足掻く。それは命ある者の根源にある願いのため、即ち生きるために。
その様子にネギは息を荒げながらも毅然と答えた。
「確かにエヴァさんが悪かったのかもしれません……でも、それでも僕の生徒を傷つけさせるわけにはいきません!!」
震える膝を叱咤しながらネギは黄金の獣に敵対することを宣言する。その毅然とした態度に敬意を表したのか、金色の怪鳥は頭を項垂れた。
「そうですか…………残念です」
ゾクッ!!
背筋が凍る。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
圧倒的な恐怖がネギに襲い掛かる。今まで戦場に出たことのないネギに、この非常識な殺気に一歩として動けずにいた。いや違う、瞳だ……怪鳥の瞳を見た瞬間、ネギは呑まれてしまった。その絶対なる存在感と力に。
「仕方ない……坊主はその勇気に免じて骨一本くらいですまそう」
ゆっくりと近づく巨体にネギは震えていた。
(逃げたい! 今すぐここから逃げ出したい!!)
恥も何もかも棄てネギの心はこの場から一刻も早く消え去りたいと声を荒げる。彼がこの場を逃げ出しても誰も責めはしないだろう。
(だけど……だけど!!)
ちらっと後ろを見つめるとそこには満身創痍のエヴァが必死に立ち上がろうとする姿がネギの瞳に映った。
――――――逃げるわけには、いかない!
杖を向けて、必死に呪文を唱える。謳うは何も複雑な謳ではない。それはもっとも単純にして聖なる謳、それは生への賛美歌。
「ラス・テル マ・スキル マギステル! 光の精霊200柱!!」
ネギは自分の限界ギリギリの、いや限界を超え光の精霊を召喚する。ネギのエヴァを助けたいという純粋な願いに光の精霊は微笑みと共に手を差し伸べる。
闇夜に幾つもの光の乱舞が咲き乱れる。それはまるで星々がネギの手に集うかのようである。
巨狼はネギの魔法を気にすることなくゆっくりと歩を進める。
「集い来たりて、敵を射て!!」
敵を見据えネギは精霊を解き放った。全ての光の精霊が一斉に黄金の獣に突き刺さり、光が音へと変換される。それは爆音が爆音を呼び、閃光が世界を染め上げる。
「はぁはぁはぁ…………」
思わずネギは膝をついてしまう。それは仕方のないことだろう、何せ既に魔力は底をつき、強烈な脱力感が彼の全身を襲っているのだから。
(これで駄目なら……)
縋る思いで目を凝らす。すでに視界が疲労により霞んでいる。ネギの魔法により地面が抉られ砂が舞い視界が遮られる中、先程と変わらぬリズムを刻んでいる音が未だにネギの耳に届いていた。
「そんな……」
変わらぬ足音にネギは顔を青ざめる……煙が晴れた先には変わらぬ足取りで近づく敵の姿があった。
「その歳で大したものだな……素直に感心するぞ、坊主」
その声には感嘆を滲ませながら金色の獣はネギの正面に辿り着いた。その獣から発する威圧感にネギは気を抜くと落ちそうになる腰を必死になって支えていた。
「だが……ここまでだな」
巨狼はその黄金鉤爪を、勢いよく振り下ろす。それは一瞬にしてネギへの距離を詰め、後数ミリといったところで少女の怒声が響き渡る。
「そこをどきなさい! この犬っころ!!」
女子中学生の全力疾走+上段回し蹴りが巨狼の顔面に炸裂した。
ボキッ!!
何かが砕ける音がした。
「痛~~~~~~~~っ!!!」
ごろごろと地面を転がりまわるアスナにネギはもちろん苦悶な表情を浮かべていたエヴァでさえ愕然と見つめていた。幾らなんでも彼女のとった行動は無茶を通り越して無謀である。
幾ら中学生離れした脚力を誇ろうとも彼らに傷をつけられるはずがない、何故なら彼らの全身は金属の頂点に君するオリハルコンなのだから。事実アスナの足に巨狼は何の反応も示していない。つまりアスナは勝手に自爆したことに他ならない。
「ちょ、アスナさん!何してるんですか!?」
「何ってあんたたちを助けに来たに決まってるでしょ!!」
ぎゃーぎゃーと文句を言い合う二人。その様子を見てプルプルと震える一つの影があった。
「……ふっ、なかなか度胸があるな小娘」
金色の巨狼が小さく笑みを浮かべ、その笑い声がアスナの耳元にも届く。その声にアスナは怒気を顕にする。
「小娘って何よ! あたしには神楽坂アスナっていう名前があるんだからね!!」
憮然と文句を言うが言葉を発するたびに激痛が走りごろごろ地を転がるアスナを見て巨狼は更に笑い出す。その様子に空で眺めていた不死鳥も楽しげにアスナを見つめる。
「神楽坂アスナさんと言いましたね」
「そうよ!」
「あなたのその行動の意味を私たちに教えてください」
金色の不死鳥が静かに問いかける。その問いにアスナは胸を反らせて答えた。
「決まってるでしょ、あんたたちがネギやエヴァちゃんたちを虐めるからでしょう!!」
「先に手を出したのはそちらですよ」
相手の容赦ない正論にアスナは逆ギレした。
「何言ってるのよ!先にエヴァちゃん達が手を出したって、あいつは何ともないじゃない!!」
びしっと横たわる青年を指差すアスナ。確かにこの位置からでは目立った外傷は確認できない。しかし黄金の不死鳥は何ら動揺せずにアスナを見つめる。
「確かにアレは主様に文字通り牙を向きましたよ」
「アレって何よ! まるでモノでも言ってるみたいに!!」
アスナは不死鳥の言葉に激怒する。何故ならば血まみれのエヴァをまるでモノのように言う為だ。
「モノ? 違いますね、あれはゴミです。主様に害成す存在は私にとって毒であり、排除すべきモノでしかありませんから」
「っ! なんてこと言うんですか!!」
その言葉に我慢できなかったのかネギも珍しく怒気を顕にする。だがしかしそのお二人の様子をデュランは冷めた面持ちで見つめる。
「俺もあいつに同意見だ。俺たちにとってのマスターは絶対無二の存在であり、全てだ。それを害成す存在は自己の確立(アイデンティティ)を破壊する自己崩壊(アポトーシス)でしかありえない」
その二人の主への絶対的な考えにアスナは食って掛かる。
「主が何よ! マスターが何よ! アイツにとって良いものはあんた達は全て良いの? アイツにとっていらないものはあんた達は全ていらないの?」
「その通りです」
「ふざけるんじゃないわよ!!」
アスナは痛みを忘れて拳を地面に叩きつける。その拳は何に対して怒りを感じているのだろうか。
「それじゃああんた達は自分じゃ何も考えられない子供じゃない! むしろ子供よりたちが悪いわ。あんた達はただの命令を聞くだけの機械? それとも人形?」
小馬鹿するアスナの態度にも黄金色の使い魔たちは顔色1つ変えない。それがアスナには酷く気に入らない。苛立つアスナを尻目にネギの肩に乗っているカモは冷や汗を流しながら彼らを見つめていた。
(マ、マズいぜこりゃ……ありゃ相当なもんだぜ)
冷たい汗が頬をつたる。カモが感じていたのは敵の魔力や殺気はもちろんだが、一番の懸念は別にあった。それは彼らの主に対する忠誠心である。
オコジョ妖精であるカモは使い魔のカテゴリーに属する種族である。その為使い魔がどれほど主と繋がっているのか感覚的に分かるのである。まぁあくまで何となく……程度なのだが。
使い魔にするに際し2種類の方法がある。一つ目は相手を屈服させ、術者との力関係で契約させる隷属契約、二つ目はお互いを信頼し、助け合う主従契約である。彼らは明らかに後者であろう。この場合互いが信頼すればするほど、使い魔の力もまた増大するのだ、まるで信頼を糧にするかのように。
(今は姐さんはあいつ等だけを野次っているが……)
もしあの横たわっている青年を罵倒するようなことを言った時には……
ゾッ!!
カモの顔色がこれ異常ないほど青白くなる。慌ててアスナの暴走を止めようと口を開く。
「ちょ、ちょっと姐さんそろそろ「アンタは黙ってなさい!!」いやだから「こいつらには言ってやりたいことが山ほどあるのよ! そもそもアンタの主っていうのは見知らぬ相手に対してそう簡単に傷つけてもいいっていう命令でも出してるわけ? 信じられないわけね! 正気か疑うわね、そもそも……っ!?」
カモの顔がこれ以上ないほど強張る。何故ならば空気か変わったためだ。それはまるで全身にナイフが突き刺さるようなとても冷たく、肌が裂けるようなものである。
その空気を察したのだろうか、アスナの口が止まる。
「……それで? 続きをどうぞ」
優しい声色、だがしかしその瞳には暖かさなど一欠けらも存在しない。その内に宿るのは明確なる怒気と殺意、その視線にアスナの動きは完全に縛られてしまった。
「……お前の疑問に答えてやろう、主はそのような命令を俺たちに命じてはいない。これは俺たちの独断だ」
静かに語るデュランの声は恐ろしいほど波がなく、淡々と話す。だがしかし彼から発する気配はあまりに荒々しいものであった。
その気配にアスナたちはガタガタと震えだす。身体が己の意志下から離れ、本能のままに震えているのだ。歯がカチカチとたてる音がやけに耳障りに感じる。誰が鳴らしているのかと思えば、それは自分が立てていた音であった。
「主様はお優しいお方です。己が傷つくことを全く恐れない、いえ……むしろ傷つくことを気にもしていない」
瞼を閉じた金色の怪鳥のその面持ちは主を心の底から心配しているのが否応なく気づかされる。だがしかし再び開かれた瞳にネギ達は束縛される、恐怖によって。
「だから私達が主様をお守りするのです。これは命令でも何でもない、私達の使命であり、誓いであり、願いです」
「そう……全ての傷害からマスターを守りきる、と」
「どんなに私達を罵倒しようと構いません。しかし……」
彼らが己の心情を語りだす度に、彼らから魔力が吹き荒れていく。その魔力に彼らの空間が軋み、歪んでさえ見えるようである。
「マスターを侮辱することは……」
「「断じて許しません(さん)!!」」
ゴゥ!!
「「「「ッ!?!?」」」」
突如発生した衝撃波にネギ達は吹き飛ばされる。地面をごろごろと転がっていく。その衝撃波は恐るべきことに魔力の放出による衝撃波である、別に相手を吹き飛ばすための技でも何でもない、ただそれだけの行為で弾き飛ばされてしまったのだ。
そのことが理解できてしまったネギは恐怖に青白さを通り越し、肌色が真っ白になっていた。
「つぅ!」
「!」
片足を骨折しているため、地面を転がるたびに激痛が彼女を襲う。ネギは震える身体に鞭打ってアスナを受け止める。数メートルほど転がってようやく停止した。
いつもなら恥ずかしながらも感謝の言葉をいうはずのアスナは何も言わず、ネギも何も語らない。いや彼らは言葉を発することが出来ない。何故ならば声を出そうにも声帯を震わすことが出来ないのだから。
本当にゆっくりと黄金の狼と鳥はネギとアスナに近づいていく。その姿がネギ達にはまるで鎌を片手に一歩ずつ近づく死神を連想させた。
そしてついにネギ達の目の前で停止する。黄金色の瞳に無機質に見つられ、ネギとアスナの呼吸が止まる。
「主様を罵倒したことを後悔して死になさい」
「……さらばだ」
彼らはそういうと何の躊躇うことなく、己の牙をネギ達に向かい振り下ろす。それは寸分の狂いもなく彼らの命を……
「やめろ」
凛とした声が静かに響き渡る。その声に黄金の獣たちはその牙と翼をあと僅か数センチといったところで停止する。ネギとアスナは呆然と、エヴァは鋭い視線で声の主へと視線を向ける。
その全ての視線が圧倒的な存在感を放ち出す一人の青年に向けられる。その視線に青年は何の揺らぎも見せずに静かに歩み寄る。
「お前ら、大丈夫か?」
―――――――――交わるはずのない糸が、繋がった
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