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大魔導士は眠らない 2話 大魔導士と見習い魔法使い(×ダイの大冒険) 投稿者:ユピテル 投稿日:04/08-04:38 No.68
誰もが声を出せずにただ見つめていた。白く輝く月を背に悠然と歩を進めるは一人の青年。そのみすぼらしい服装も彼という存在を貶めることは出来ない。
誰も言葉を発することが出来ずにただ、立ち尽くしその姿を見つめる。その鳶色の瞳は太陽の如き強き輝きを宿し、月の如き静かな雰囲気が彼を包み込む。
星が闇の空に満天と咲き乱れ、月が万物を照らし出す。風の歓喜の産声と共に漆黒の髪を靡かせて、青年は少年と出会った。
大魔導士は眠らない 2話 大魔導士と見習い魔法使い
「お前ら、大丈夫か?」
気さくに笑いかけてくる青年にネギ達は反応できずに呆然と見つめていた。それは無理のないことだろう、あと少し彼の制止の声が遅かったら自分たちの命は朝露の如く消えていたのだから。
反応のないネギ達にポップは頭を掻く。暫し皆呆然としていたがいち早くポップの使い魔たちが反応した。
「主様!よくぞお気づきになりました!!」
黄金の不死鳥は目から涙を滲ませて主が目覚めたことに感動する。金色の巨狼も自然な足取りでポップの横に立つ、まるでそこが自分の居場所というかのように。
「マスター、無事でなによりだ」
ふっと巨狼は口の端を軽くつり上げる。その口調は冷徹といえるほど音に波が無いがその瞳には安堵の色が浮かんでいた。
「あぁ、デュランもメイランも無事で何よりだ」
ポップは嬉しそうに微笑んだ。その微笑は彼の心を表わすかのような暖かなものであり、メイランは頬を赤く染める。
「しかしなんでお前たち傷が治ってるんだ? ダイにボロボロにされたはずだが……」
「分かりません。気づいたら傷が修復されていました……それにしてもここが何処だか分かりますか、マスター」
ポップも軽く周囲を見渡す。辺りは暗く星や月の光でいくらか見える程度である、とても状況を確認できる環境ではないだろう。だが彼の瞳は軽く数キロ先まで見通していた。もちろん只の視力では到底無理な話である。それを可能としているのは彼の魔力である。それにより視力を強化されていたのだ。
「そうだな……神界ということはありえないだろう。それに俺は世界中歩いたから知らないってことはないはずなんだが……」
ポップの目には大きな町が見えていた。だがその光景に彼はある違和感を感じていた。
(なんだあの町は……一見、見覚えのありそうな建物の作りもあるが明らかに違う建築物……いや文明がある?)
現代の知識はもちろん、古代の知識も持ち合わせている彼だが、それだけではその見た景色を完全に理解することは不可能であった。
「ちょっと!あんた一体何なのよ!!」
「んっ、何って何が?」
いきなり怒鳴られたことにポップは没頭していた意識を現実世界に浮かせる。考え事をしていたため話を理解できずポップは首を傾げる。
「なんなのよそこの金ぴかたちは!エヴァちゃんや茶々丸さん、それにネギまで痛めつけようとして!!」
「痛めつける? おいメイラ「何をおっしゃっているんですか」ン?」
ポップの言葉をメイランが遮る。これは珍しいことである。基本的にメイランはポップ絶対主義である。その為、彼が白といえば例えドロドロのどす黒でさえ純白と迷うことなく言う彼女である。
その為、彼の言葉を遮るなどということを彼女は決してしない。だが今回は違う……つまりそれは彼女にとって彼の言葉を遮ってでも言いたいことがあるということである。
「私たちは少年に対して危害は加えておりません」
「何を言ってるのよ! 見てみなさい……よ」
声を荒げアスナが振り返った先にはネギが困惑な面持ちでアスナを見つめていた。顔色はあまり良いとは言えないが怪我をしているようには見えない。
(そういえばコイツらに襲われる前にこの人が止めたんだっけ……つまり……)
―――――――――――未遂
(ま、まずっ!)
勢いで言ってしまったが実は墓穴を掘ったことに気がついたアスナは冷や汗を流し始める。それを追撃するかのごとくメイランは口を開く。
「そもそも私達から攻撃など決して仕掛けておりません。私達はあくまで自己防衛のために力を振るったまでですわ」
(うぅ、悔しいけど全くもって正論……確かにあの金ぴか達は自分達からは攻撃を仕掛けてはいない、現に後にいるネギもエヴァちゃんを助けるために……っ! これよ!!)
突如アスナの脳裏に電球が点る。拳を握り締め、勝ち誇った笑みを浮かべるアスナをメイランは冷ややかな視線で見つめる。
「ふふふふふふ……完璧なる正論、やるわねあなた達……でもその正論も次の私の言葉に脆くも崩れ去ること間違いないわ!!」
「それで……一体どのようなことをおっしゃってくださるのかしら?」
「それはね……エヴァちゃんたちに先に攻撃したのはあなた達だからよ!!」
ビシッ! という効果音が聴こえそうなほど決まっている指にネギは口を引き攣らせる。
「あ、あの……アスナさ「どうよ、先に仕掛けていない?」話を聞い「ちょっとネギ黙ってて!」……」」
勝ち誇った笑みを浮かべるアスナにメイランは静かに口を開く。
「先程も言いましたが先に仕掛けたのはあちらです「嘘言ってんじゃないわよ! 第一こいつに傷なんて」それは私が治癒しました「え? 嘘……」彼女が主様に危害を加えたために私達は彼女に牙を向きました。それは主様を守る使い魔として当然の行動です「うぅ……」……他に何か言いたいことはありますか……小娘?」
最後のセリフは背筋が凍てつくような冷たい声色であり、アスナの背にゾクゾクと悪寒が奔っていった。
(ど、どうしよう……なんかあたし、ますます墓穴を掘ってる??)
冷や汗ダラダラかきながら首を回すとネギが半ば諦めたように首を横に振っており、アスナは益々冷や汗を流し始める。
ネギも援護をしたいところなのだが、アスナの墓穴によりフォローの仕様が無く、彼女とまた同様に焦る。
「え、えっとですね……」
「何ですか少年よ?」
メイランは静かな瞳をアスナからネギへと向ける。その視線にネギは意志とは関係なく硬直する。
(ど、どうしよう……声をかけたはいいけど、全然言葉が浮かばない~~!!)
ネギは傍から見ても可哀想なほどパニックを起こしていた。その肩でカモはひたすら沈黙を保っていた。それはこの現状を打破するために脳をフル回転させているため……
(こ、怖ぇぇ……故郷に暮らす妹よ~先逝く俺っちを許してくれぃ~)
――――――――――――――既に現実逃避していた。
「ふぅ……そこまでにしておけ」
「主様!? し、しかし「……メイラン」っ! ……分かりました」
何か言いたげな面持ちだったがポップの言葉に納得はしていないようだが彼の命に従った。
「ふぅ……すまないな、どうもメイランは俺にことになるとムキになりやすくてな……まぁ嬉しくはあるんだが」
その言葉にメイランは感銘を受けたのか頬を赤く染め、瞳を潤ませていた。そしてその様子にデュランは小さく溜息をつき、その光景をポップは微笑ましく見つめるのであった。
「しかし何時までもそのままという訳にもいかないな」
ポップは鋭い眼光で見つめているエヴァと未だに自分の感情を持て余しているアスナへと向き合うと彼女達に向かい手を翳す。すると掌に魔力が集いだす。一般人であるアスナには魔力自体を見ることはできないがそれにより生じる空間の揺らぎを知覚することは出来た。
「ベホマズン」
彼の言葉を発したと同時にネギ達は白き光に包まれる、それはまるで自らが星になったかのような光である。
「なっ!?」
「これは!?」
身体に染み込んでくる暖かな光にネギ達は驚愕の声を上げる。何故ならば光が収まると彼らの外傷は跡形もなく消え去っていたためだ。彼らは傷が癒えたことに驚いたわけではない。
回復魔法は彼らの世界にも存在するのだから、では彼らは何に対して驚愕したのだろうか。それはその損傷治癒速度である。彼らの世界ですら肉体の治療を一瞬で済ますことなど不可能なのだ。いや、できるかもしれないがそれには膨大な魔力とその魔力を制御する完全なる技術がないと不可能である。
「これで大丈夫のはずだ」
「大丈夫って何がよ?」
未だ自分に何が起こったのか理解できないアスナは再びポップを怒鳴りつける。
(なんかこの子、マァムに似てるんだよな)
その様子を見てポップは思わずかつての仲間の顔が思い浮かぶ。あのツインテールを団子にしたらそっくりである、特に口より先に手が出るところなどが……
「アスナさん! 足! 足見てください!!」
ネギの言葉にアスナは視線を自らの足へと向ける。アスナは困惑げに自分の足を見つめ、そして驚愕した。
「治ってる!?」
思わず飛び起きるアスナ、慌てて地面に足をつけるが痛みなの微塵も感じない。アスナは屈伸し、軽く回し蹴りを放つ。その軌道は鋭く弧を描く。
(痛くない……完治してる?)
「あんたが……やったの?」
アスナの質問にポップは笑みを浮かべ頷いた。アスナは困惑した面持ちでポップを見つめていた。
怪我されされたのは彼の使い魔のせい(蹴ったのはアスナなのだから自業自得ともいえるが)であり、また治してもらったのはその主。感謝すればいいのか、皮肉の一つでも言えばいいのか彼女には分からなかった。
「おい貴様!」
今まで沈黙を守ってきたエヴァの口が開いた。その瞳は怒りと疑惑と、そして僅かな困惑を浮かべていた。
「一体何者だ?何が目的でこの地に来た?」
エヴァの鋭い視線にポップは再び頭を掻いた。
(どうしたものかな……俺はこの地方のことを何も知らない。どうやら彼女がこの中で一番力が強いが俺ほどではない……だが……)
『どういたしましょうか主様』
『この少女に事情を説明するつもりか?』
二人の使い魔からの念話がポップの脳裏に響く。ポップは使い魔の発言に暫し思案する。
(あの町の形態からしてかなり特殊な場所かもしれない……それに彼女はこの地の守護者の役割を担っている可能性が高い)
ポップの瞳にはエヴァがこの地との何らかの繋がりを視認していた。
(何故か呪縛的な力の波動を感じるが今は置いておこう。それにこの地で情報を収集するに場合、友好的であったほうが無難だろう)
『……とりあえず事情を説明する。まぁ深くは言うつもりはないがな。二人とも構わないか?』
『『全ては主様(マスター)の望むがままに』』
『……ありがとう』
「おい貴様! 早く答えないか!!」
「そう急かすなって……俺の名はポップ、目的ってむしろここがどこなのか俺は知らないし……」
腕を組んで首を傾げるポップにエヴァは苛立ちを覚える。
「知らない……だと?」
「あぁ」
ポップの言葉にエヴァは疑惑の面持ちで彼を睨みつけながら、脳裏で思案していた。
(知らない……本当にそうだろうか。先程の魔法がどうも私の知るものとは何か異質を感じるが間違いなく【コチラ側】の人間だろう)
彼の纏う雰囲気、身のこなし、隙の無さ、魔力、使い魔、そして……血の匂い。どれをとっても表に生きる者が持つものではない。エヴァは自然に目を細めていた。
(この臭い……こいつかなりの……)
まるで残り香のように彼の周りから血の匂いが漏れ出している。吸血鬼の好物たるその血の匂いは人間にしてみれば酒の香りのようなものである。その臭いにエヴァの思考が徐々にぼやける。
(いかんな、この臭いは……思考が乱れる。まるで魅了の魔法にかかったかのようだ)
普段なら耐えられるのだが極度の疲労とポップから滲み出るあまりに濃厚な血の匂いにエヴァの吸血鬼の身体が反応を押さえつけることができない。
「大丈夫か?」
「っ!?」
何時の間にかポップはエヴァの目の前にいた。膝を折り、目線をエヴァに合わせる。だがより距離が近くなったことにより、より一層濃い血の匂いがエヴァの鼻腔をくすぐる。
エヴァは思考を保つために思わずポップを突き飛ばす、が体格の差は明確であり突き飛ばされたのはエヴァのほうであった。
「お、おい大丈夫か」
「来るな!!」
慌ててエヴァに近づこうとしたが彼女の翳した制止の手にポップは足を止める。
「す、すまないがその匂いをどうにかしてくれ……身体が火照ってしょうがない」
徐々に桜色に染まるエヴァの身体にポップは目を細める。
(匂い……つまり血に対する本能的衝動……彼女は吸血鬼の類か?)
ポップはエヴァの種族にある程度の推測を立てながらすぐさま何やら呪文を呟くと清らかな風が彼を包み込む。それと同時にエヴァの衝動も治まった。先程ポップは軽い浄化の魔法を自分に施した。その為、彼の血の匂いも抑えられ、エヴァの衝動もまた抑えられたのだ。
「これで大丈夫か?」
「あ、あぁ……」
あれほど沸騰していた体が今では正常に戻っていた。その事にエヴァはひとまずホッと息を吐いた。
「ほれ」
その言葉と共にポップは手を差し伸べる。その手の意味が分からずエヴァは首を傾げる。
(キュ、キュートじゃねえか!? 闇の福音と言われたアイツが……ちくしょう! カメラがあれば売れたのに!!)
カモはエヴァのその仕種に血涙を流していた。その様子にネギとアスナはお互い目を合わせ、苦笑いを浮かべる。
「なんだその手は?」
「掴まれよ」
いつもの彼女ならば決して他人に己の身体を合わせるといった動作をしないのに、何故か今のエヴァは何の躊躇いも無くポップの手を掴んでいた。
(一体どうしたというのだ……)
疑問に思う彼女だが、先程の衝動により未だに思考が完全ではないためと断定した。ポップはエヴァが手を掴んだことを確認するとすっと腕を引く。体重が軽いエヴァはあっさりと立ち上がる。ポップは服についた砂埃を叩いてやる。
「これでよし、と」
「あ、あぁ……」
満足げなポップにエヴァは何と言えばいいのか困る……と突如彼女は顔を左右に振る。
(闇の福音と呼ばれた私が何をやっている!! 今すべきことはコイツの目的、素性を知ること……他に何があるというのだ!!)
突如乱心したかのような行動にポップは一歩引きながらエヴァを見つめる。
「あ、あぁ……こほん、ならば質問を変えよう……先程のドラゴンは一体なんだ?」
「ドラゴン?」
ドラゴンといっても色々いる。ドラゴンキッズといったモンスターから神竜と言った化け物まで多種多様だ。
「白くて少し歳をとってそうなドラゴンですよ、あと卵みたいな球体を抱いていました」
隣にいた少年が容姿を説明してくれたが、白くて、歳をとっていて、球体…………まさか!?
「聖母竜【マザードラゴン】か!?」
「「「聖母竜?」」」
三人が見事に声を揃える。彼らの反応の薄さにポップは驚く。
「聖母竜を知らないのか!?」
驚愕するポップに三人は首を縦に振る。
(聖母竜を知らないとは一体どんな田舎なんだ……デルムリン島並みか!?)
恐ろしく失礼なことを考えるポップ、しかしすぐにその考えを否定する。先程見た都市はかなり文明が発達していた、教会がないなどありえないだろう……などと疑問に思いつつポップは説明し始めた。
「聖母竜というのは世界を滅ぼす魔王を倒すために神界から竜の騎士を送るための使者って言ったところだな」
ポップの説明に思わずアスナは吹き出した。
「魔王を倒す? あははははっ! 今時、子供だって信じないわよ……あはははっ……笑いが……ひくっ……止まらない……」
「何を笑っているのですか小娘!!」
腹を押さえて悶えるアスナに激昂するメイラン、微妙に口が悪くなっている。アスナとは裏腹にエヴァとネギは眉間に皺を寄せた。
「私はそんな話は効いたこともないぞ……でたらめではないだろうな?」
「僕も学校でそんなこと習いませんでしたよ、それに近年魔王なんて確認されてませんよ」
ネギとエヴァの返答にポップは愕然とする。
(魔王が確認されない!? そんな馬鹿な!! つい数年前に人類の存亡をかけた最終決戦を目の前にいる三人は知らないのか!?)
「じゃあ当然竜の騎士も……」
「知らんな」
これが決定的だった。
―――――――ありえない
親友の、竜の騎士の伝説は子供ですら知っている。この年代の少年少女なら知らないはずがないのである。あの世界なら……重い溜息が漏れ出す、流石にこれはちょっと凹んだ。
(つまりここは……)
ポップの口から言葉が零れ落ちた。その言葉はあまりに非科学的な言葉であった。……まぁその言った相手も聞いた相手も非科学的を体現する者たちだったのだが……
「俺、どうも異世界から来たようだ」
「「「はい?」」」
ヤツの説明によると異世界からこちらの世界に運ばれたらしい。あまりに疑わしいし証拠もない。だが先程の呪文……あれほどの怪我を瞬時に癒し、しかも多人数を同時に回復させる呪文など聞いたことがない。
それにあの短い詠唱でこれほどの威力を誇るのだ。ならワードキャンセルしないで発動したならどれほどの威力になるのか、それにもしこの地に目的があって進入したと仮定しよう、そうなると私はヤツラと闘わなければならないわけだが……
―――――冗談じゃない!!
あんな化け物を二匹も使い魔にしている者と闘うなど無謀以外の何者でもない、滅ぼされるのがオチである。故に以上の点からエヴァはこの男の言うことを信じることにした。
「じゃあポップさん、魔王と闘ったんですか?凄いです!!」
目をキラキラさせながら尊敬の眼差しを向けるネギにポップはネギの頭をクシャクシャ撫でる。
「そうだろ~今度ネギに俺の武勇伝を聞かせてやろう」
「本当ですか!?」
「あぁ本当だ」
何時の間にか打ち解けたネギとポップ。というかネギがポップに懐いた様子だ。
「あんたが魔王とね~うさんくさいわね~」
「ほ~、そんな事いうかアスナ」
未だ信じずにいるアスナにポップは含んだ笑みを浮かべる。
「なっ、何よ」
「ならどんだけ強いか試してみるか、デュランやメイランで」
思わず吹き出すアスナ。
「勝てるわけないでしょ!何よ、あんた自分だけなら何もできないんでしょ!」
「何言ってんだよ、使い魔の強さと術者の強さは比例するんだ。だから使い魔を従える術者もまた強いのは当たり前なんだ。まぁ俺はこいつらを従えているつもりはないがな」
ポップは優しく二人の使い魔の頭を撫でてやる。メイランとデュランは嬉しげな笑みを浮かべながら瞼を閉じて彼の手に身を委ねる。
「そんなのしらないわよ! いいから勝負なさい!!」
腰に手を組み、びしっと指差すアスナ。だがポップはやれやれといった面持ちで首を横に振り肩を竦める。
「嫌だね、面倒くさい」
「キーーーーッ!!」
「アスナさん、それじゃお猿さんですよ」
突っかかるアスナにのらりくらりと躱すポップ。完全に遊ばれてる。
「ふんっ!完全にお前を信じたわけではないからな」
不機嫌そうに鼻をならすエヴァにポップは苦笑する。
「あぁ分かってるよ、そう簡単には信じられないだろうな……俺が異世界から来たなんてな」
影のある笑みにエヴァは少しときめく。
「まぁ……なんだ、お前のことをじじいに紹介してやる。悪いようにはしないだろう」
「そうか……ありがとなエヴァ」
「気安く私の名を呼ぶな!」
微笑むポップに怒鳴りつけるエヴァ、ほんの僅かに頬が紅く染まる。その様子をばっちり目撃しているポップは……
「エヴァ~~~~」
「だから気安く名前を、って抱きつくな!!」
「主様!!」
もがくエヴァの反応を楽しむポップに嫉妬したメイランが突っ込んできた。
「では学園に戻るぞ」
未だ顔を赤くしたままポップを先導しようとするエヴァにポップが制止の声をかける。
「少し待ってくれ…………デュラン、メイラン」
「何でしょうか主様?」
「その格好のまま行くのは拙いだろう」
「……確かにな」
デュランのいうとおり、この使い魔の肌の色は見事なまでの金色、目立つことこの上ない。しかもまるで彫刻のような外見をしているのだ、それが動いていたら誰だって驚くだろう。
「そういうわけだ……お前たち」
「分かりましたわ、主様」
「ポップさん……どうするんですか?」
「見ていれば分かるよ、ネギ」
ネギは目を輝かせながらポップを見つめる。その視線にポップは懐かしいものを感じつつ、ネギにメイランたちを見るよう薦める。すると突如彼らの身体が光りだした。
「ちょ、ちょっとどうなってるのよ!?」
「こ、こりゃいったい……」
パニックに陥りそうなアスナの肩にカモが驚愕の面持ちで彼らを見つめる。エヴァは静かに事の成り行きを見守っている。
ギュッ
(……ふっ)
ポップは小さく笑みを浮かべる。ネギは少し怖かったのか無意識にポップの手を握っていたのだ。ポップは優しくネギの手を握り返してやる。
やがて徐々に彼らを包み込んでいた光が解けていく。そして完全に光が溶けた時、皆彼らの姿に呆然としてしまう。
「ふぅ~」
息をつくデュランは先程の巨大な体格は見る影もなく、現在はその姿を犬に変わっており、メイランはその姿を隼に変えていた。
また使い魔達の皮膚は先程のような金属製のものではなく普通の動物と変わらなかった。
「ポップさん、これは…………」
呆然とするネギにポップは悪戯が成功した子供みたいに笑った。
「これで問題ないだろう?」
「ほう……変身魔法か?」
「いや、正確に言うと魔法じゃない。これはこいつらに組み込まれているプログラムの1つだ」
「プログラム?」
その言葉にエヴァの眉が小さく動く。
(つまりそれはあいつらは魔物や妖魔の類ではないのか……ゴーレムあたりの類かと思っていたのだが、むしろ茶々丸や茶々ゼロのようなものなのだろうか?)
エヴァは瞳を横へと向ける。そこにはネギに気さくに笑いかけているポップの顔がある。その光景だけを見るとただの好青年に見えるがそれが彼の本質ではないことをエヴァの吸血鬼の本能が告げていた。
むしろ彼は我々の領域に住まう者……それを意味するものは……
「エヴァ……何をしている?」
ふと意識を戻すと既にネギたちは学園に向かって歩き出していた。どうやら思ったより考え込んでいたらしい。エヴァは何でもないと軽く顔を左右に振ると彼女もまた学編に向けて足を踏み出した。
――――――――――――――――――夜が明ける
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