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大魔導士は眠らない 7話 雨振りし日に(×ダイの大冒険) 投稿者:ユピテル 投稿日:04/08-04:43 No.73
「先輩……あの…………」
夕日で体を赤く染めた一人の少女と少年が人気のない校舎裏に佇んでいた。少女は動悸を抑えるように手で胸を押さえつける。
彼女の呼吸は乱れ、心臓がまるで破裂しそうだ。瞳に微かに涙を浮かべ、少女の顔は夕日とは別の色を彩られる。
少女は震える身体を叱咤し、目の前に立つ少年に自分の想いと明かした。
――――――――――――止まる時間、壊れる関係
少年は少女の告白に少し目を見開いたが…………それだけだった。
「和泉……僕は…………」
少女は少年の答えに激しく身体を震えた。顔を押さえる指の隙間から幾重の涙が零れ落ちた。
――――――――――――彼女の想いは……彼に届くことはなかった
少女はその場から駆け出す、心の傷から逃れるかのように。
それは何処にでもいる少女の、何処にでもある初恋の、何処にでもある失恋であった。
「ん……」
亜子はゆっくりと瞼を開く。首を横に動かし枕元にある時計を見るといつもより若干起きるのが早い。
「嫌な夢、見てしもうたな…………」
彼の夢を見るのは久しぶりだった。失恋した当初は毎回あの夢を見させられたものだ。吹っ切れたとはいえあの夢を見て良い気分にはなれない。
「ポップさんのエッチ~~ネギ君助けて~~~」
何やら上からまき絵の寝ぼけた声が聞こえる。その寝言に亜子は小さく笑うと静かにベットから起き上がった。
カーテンを勢いよく開けると窓の外から燦々と輝く太陽が顔を覗かせた。思わず目を手で覆う。
「今日はええ天気や~~」
窓を開けると朝の新鮮な空気が亜子の鼻腔をくすぐる。外の外気にまき絵は布団に包まりこむ。鳥達のさえずりが今日の始まりを告げていた。
「よ~し!今日も一日頑張ろう!!」
パンと頬を叩くと亜子はまず寝ぼけている同居人を起こすことにした。
―――――――――――――本日は晴天なり!
大魔導士は眠らない 7話 雨降りし日に
「今日はいい天気だね~~」
「そうやな~~」
亜子とまき絵はゆっくりと通学路を歩いていた。時刻は八時二十分、早くもないが遅くもない。それを証明するように、彼女たちの周りにも同じように登校する生徒達の姿が見受けられる。よって焦る必要もなくのんびりと歩いているわけだ。
「ねぇ亜子~~学校に着いたら宿題写させて~~」
「またかいな、まき絵ちょっとは自分で問題解かへんと、テストまずいんちゃうの?」
「そんなこと言ったって私に解けるわけないよ~」
(流石バカピンク、あんな簡単な問題も解けへんとは……)
亜子は思わず頭を抱えてしまう。どうしてこう同居人の頭は悪いのだろうか。
馬鹿だから? アホだから? 貧乳だから? それが宇宙の真理だから?
(ウチには分からんわ……)
「しかたあらへんな……クレープ、まき絵の奢りなら貸してもええよ」
「本当に! 亜子大好き~~」
「ちょっとまき絵、歩きにくいわ~」
喜びのあまりまき絵は亜子に抱きつく。それを亜子はふらふらしながら受け止め自然と笑みを浮かべる。
「おはよう~亜子、まき絵~」
後ろから声が聞こえる。二人が振り向くとそこには手をブンブン振っている裕奈と軽く手を振るアキラの姿があった。
「おはよう裕奈、アキラ」
「おはよう亜子」
そのまま仲良く四人で学校へと向かった。
「ねぇねぇ、まき絵土曜のあれ見た?」
「エンタの魔王様? 見た見た! 面白かったよね~~」
わいわいと盛り上がる四人は何時の間にか校門の手前まで辿り着いていた。校門に近づくと生徒達と明るく会話する一人の青年が彼女たちの瞳に映った。その人物を亜子たちはよく知っていた。
「相変わらず人気だね~ポップさん」
裕奈は面白そうに見つめていた。アキラも無言で頷く。彼女の視線もまた好意的である。
登校中の生徒達はポップとは軽い挨拶しか出来ない。しかし彼はその短いやりとりで生徒達を明るい気分にさせるのである。
「おっ、相変わらず可愛いなお前たち」
「そうでしょ、そうでしょ」
軽く挨拶をしようと近づくとポップは屈託ない笑みを浮かべ、裕奈も彼の言葉に同意しながら楽しそうに笑う。
「ポップさんおはようございます、それにデュランもおはよう」
デュランはアキラの挨拶に答えるかのように一声吠える。彼女は本来は小動物好きであり、逆に大きな動物は苦手であるのだが、大型犬のデュランをよく撫でている。何故あっさり撫でられるかというとポップのペットだから安心、とのことだ。
「えへへ、おっはようっす!」
ビシっと敬礼を決めるまき絵。ポップは可愛く敬礼をとるまき絵の頭をクシャクシャに撫でた。
「ちょっとポップさん!髪が乱れちゃうよ!!」
まき絵は両手で払おうとするがビクともしない。ポップは楽しそうに笑う。
「大丈夫だって、髪が多少乱れたところでまき絵の可愛さは曇ったりしないって」
「そうかな~えへへ」
ポップの言葉に気を良くしたのかすんなりまき絵は彼の手に身を任せる。その顔はその手の温もりに安心したのか安らかな顔をしている。
亜子はその様子を一歩外から見守っていた。まき絵を撫でて楽しそうに笑うポップだがふと視線を亜子へと向けた。
「よっ! 亜子おはよう!!」
ポップの優しそうな瞳が亜子を映し出す。
【おはよう!和泉!!】
「えっ」
亜子の瞳には一瞬ポップと誰かが重なった。
(あの人は……)
亜子の瞳が小さく揺らぐ。身体に冷たい衝動が小さく駆け巡る。
ポンッ
「えっ?」
思わず亜子の口から声が漏れる。何時の間にかポップが亜子の目の前に立っていた。
「なんだか知らないが元気ないぞ亜子、ほら笑った笑った!」
にかっと笑うポップに亜子もつられて笑う。その顔にポップは優しげに見つめる。
「さっきよりいい顔になったな。亜子お前、顔がいいんだから笑わないともったいないぞ」
「そ、そんなウチの顔なんか別に……」
「美人は笑って何ぼだぞ」
ポップは二、三度亜子の頭を軽く叩くと背を押した。
「ほれ、さっさと行った。遅刻しちまうぞ!」
ポップの言葉に背を押され彼女たちは校門を潜っていった。亜子たちは門を潜ってからももう一度振り返ってみる。するとやはり他の生徒と会話しているわけで……
「ポップさん、おはようございます」
「しのぶか、髪型変えたんだな。良く似合ってるぞ」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます!」
「おはようございます、ポップさん」
「凛か、お前相変わらずネコの皮被ってるな~」
「…………何か言いまして?」
「いや別に~」
亜子達が去った後も彼の周りに生徒が、そして笑みが絶えない。
「やっぱりポップさん、人気あるよね」
その言葉にアキラとまき絵が揃って頷いた。そんな中亜子はというとあまり浮かない顔をしていた。
(何でポップさんと先輩が…………)
「亜子……どうしたの?」
反応のない亜子に裕奈は顔を近づける。
「何でもあらへんよ~」
手をブンブン振りながら亜子は笑顔を浮かべた。しかしその表情は先程と違いどこか作り物だった。
―――――――――空には小さな雲が流れていた
「Only physical strength does not make you the strongest.」
ネギは教科書を片手に黒板のあたりを行ったり来たりする。
「You need to have love,anger and sorrow also.」
続けて朗読しようとしたらチャイムの音によって遮られてしまった。
「じゃあ今日はここまでにしましょう」
ネギの言葉と共に日直が号令をかけ、四時間目の授業が終わりを告げると生徒達は各々に昼食に向け行動を開始する。
「あ~疲れた~さぁご飯にしよう♪」
まき絵は一瞬にして弁当を机に広げた。恐るべき早業である。続いて亜子達も弁当を広げる。しかし彼女たちは弁当を開いても未だ箸を持とうとすらしない。
「ねぇ、あとどのくらいで来ると思う?」
裕奈が楽しそうに亜子達に聞いてみる。
「もうそろそろじゃないかな」
アキラがチラッと時計を見る。
「そうそう、もうじき来るよ」
まき絵は足をぶらぶら揺らしながらドアを見つめていた。すると…………
ガラッ
ゆっくりとドアが開かれる。するとそこには既に見慣れた青年が姿を現していた。
「おじゃましま~す!」
「「「「「おじゃまされま~す!!」」」」」
お互いの言葉に笑い出す。ポップはきょろきょろと周りを見回す……自分の席を見つけるためだ。
「こっちこっち!」
「ここが空いてるよ!」
「こちらも空いてますわよ!」
生徒達が一斉に席を勧める。その様子にポップは少々困ったような表情を浮かべる。
何故ポップがここまで誘われるのか、それは人気とはまた別にあるものがあったりするのだが、それは後ほど。
「それじゃあ…………今日は亜子達の席にご厄介になりますかね」
「「「「えぇ~~~!!」」」」
周りから不満の声が上がる中ポップは亜子達の下へと向かった。
「じゃあここでいいかな」
「「「どうぞどうぞ」」」
ポップはゆっくりと椅子に腰掛ける。流石に低そうだが致し方ないだろう。ゆっくりとポップが弁当を広げるのをまき絵達はもちろん古菲や楓達もその光景を眺める。
パカっと開く蓋の中には美味しそうな料理の数々が光り輝いていた。
「ま、眩しい!!」
そのあまりの輝きに購買部直行組みは手で目を覆う。生徒達がポップの料理が絶品だということを知った日から自分たちのグループへと誘うようになったのだ。
弁当といえばエヴァはというと、何と一人ではなくアスナやこのかと一緒に食事を取っている。
いつも何とか教室を抜け出そうとしていたのだがデュランかメイランにドアを抑えられ出れないのである。トドメにもし生徒達と一緒に食事を取らなかったら弁当なしと言われてしまったのだ。
流石にこれには堪えたのかそれからというもののエヴァは他の生徒達と食事を取ることになったのだ。
「うわ~相変わらず美味しそうですね」
裕奈は目を輝かせながらポップの料理を眺める。
「ホントおいしそう~」
まき絵など口から涎が垂れている。そこまでして食べたいのか。
その様子にポップは苦笑すると
「一品だけだからな」
一応一品だけと釘を刺すとポップはすっと弁当箱を差し出す。裕奈とまき絵は速攻で定めていた料理に箸を伸ばす。
感動した面持ちでポップの料理を食べる裕奈たちを周りは悔しそうに眺めるより他がなかった。
アキラも遠慮がちに一品箸に取ると噛み締めるようにゆっくりと噛む。その顔はとても幸せそうだ。
亜子はというとボーっとポップを見つめていた。
今朝の夢を見てからというものの何故かポップがあの人と重なってしまうのだ。
(口調も、声も、髪も、体格も、性格も、何もかも違うのにどうして似ていると思ってしまうんやろ……)
亜子の視線に気づいたポップは自分が箸で挟んでいる料理を見つめていると思ったのか……
「ん? 亜子はこれが食いたいのか?」
弁当にはすでにその料理は無くなっており、ポップがもつそれが最後の一つのようだ。
「えっ? ちゃいますよ!」
ぶんぶん顔を赤らめて亜子は否定するが恥ずかしさによるものだと解釈したポップはあわあわしていた亜子の口にひょいと放り込んだ。
「食べかけだけど勘弁な」
「「「「「あぁーーーーーーーー!!!」」」」」
一斉に亜子の口を指差す。裕奈とまき絵は亜子を囃し立て、アキラは亜子と同じく顔を真っ赤にさせる。
ついでにこの間、似たようなことをされたエヴァはというと顔色一つ変えずに食事を続けてた。
ただエヴァの箸がミシミシと悲鳴をあげる音を聞いたのがドアで横になっているデュランだけであったのは彼女にとって幸いであろう。
亜子は周囲の視線に顔を真っ赤にして身を縮こまらせていた。その後寮に戻った亜子がどんなに恥ずかしくてもポップの料理は美味しかったっとルームメイトに語ったとか。
赤くなった亜子を助けるように白き雲が太陽をゆっくりと覆い尽くした。
――――――――――太陽が翳る
「よいしょっと!」
学校の授業も終わり亜子はいつも通りサッカー部のマネージャーに勤しんだ。
「マネージャー、このゼッケンお願いな!」
「はい、わかりました!」
ドロドロに汚れたゼッケンが山のように積まれている。亜子は特に嫌がる様子もなくゼッケンを洗うために水飲み場へと向かうのであった。
ジャバジャバ
亜子は一着、一着丁寧に洗っていく。もともと洗濯は好きな亜子は別に苦でも何でもなかった。
パンッ!!
「これで終わりや!」
水しぶきを取ると亜子は部室へと向かった。いつもなら外で乾かすのだが雲がどんよりとしているため部室で乾かすことにしたのだ。
並ならぬ量に苦労しながらも亜子はゆっくりとした歩調で部室へと向かった。
「よし、これで終わりや」
綺麗に干されたことに亜子は満足げだ。亜子は次の作業に移ろうと部室を後にするのだが……
「おい、お前彼女作ったんだって?」
「あ、あぁ……」
ビクッ
思わず足が止まってしまった。部室の裏側に水飲み場があるため部室に会話が筒抜けなのだ。そして亜子が思わず震えたのは彼女を作った男性が自分の先輩であり初恋の相手だからだ。
「いいよな~あんな綺麗な子を彼女に出来るなんて羨ましいぞ、この野郎!!」
ズキッ!!
(痛い!!)
思わず胸に手をおく。心臓がが激しく脈打つのを亜子は否応なく理解できた。吹っ切ったつもりだが心は未だ傷口から血を流していた。
(やっぱり先輩は大人びた綺麗な子の方がいいんだ、私はどうせ子供っぽい顔だし……)
「でもお前、確か和泉に告白されたんだよな」
(嘘! 何で知ってるんや!?)
顔を真っ赤にしながら亜子は呆然としていた。あの時は確かに2人だけだったはずである。
「ば、馬鹿! 誰かに聞かれたらどうするんだよ!!」
「大丈夫だって、周りには誰もいないだろ?」
亜子は思わず耳を塞ぎたくなるが腕が思うように動かない。聞きたくないと、これ以上此処にいたくないと思っているのに身体は鉛のように重い。
「でもよ、なんで断ったんだ? 和泉は結構可愛いし部員の何人かは狙ってるぜ、絶対」
自分が可愛いとかそういうことは亜子の耳には何も入ってこなかった。ただ亜子の耳に入るのはあの人の声だけだ。
「そうか? 僕は別にそうは思わなかったな。それに、ちょっとおどおどしているところとか好きになれなかっただけだよ」
その言葉を聞いた瞬間、亜子の頭は真っ白になり、そこから彼女の思考が停止してしまった。気づいたら亜子の足は勝手に動き出した。
それは恐らく自己防衛が働いたのだろう、己の心をこれ以上傷つかないための。
だから亜子はひたすら走った。現実から目を逸らしたかった。何時の間にか亜子の瞳は涙で溢れて、視界が歪んだ。
ポツポツと亜子の頬に水滴がつく。何時の間にか白雲は雨雲となり、空から幾重にも雨を降らし始めた。
雨に打たれながらもただ駆け出しながら亜子はこの雨に感謝した、これでこの瞳から流れるのは涙でないと思えるから……
―――――――――――雨が降り頻る
気づいてみたら亜子は世界樹を背に蹲っていた。顔を膝に抱え込み、身体を小さく縮こまらせ震えていた。
(あの時も……そうやった)
先輩にフラれ、呆然となった亜子は気がついたときには世界樹の元に辿り着いていた。
(あの時も雨が降ってたっけ)
まるで雨が私に同情しているみたいで嫌だったのを今でも覚えている。あの日からウチは雨が嫌いになった、あの日を思い出してしまうから……
(もう何も見たくない! 何も聞きたくない!! 何も感じたくない!!!)
亜子は自分の世界に塞ぎ込もうとした、正にその時、彼女の頭に影が覆う。恐る恐る顔を上げると見知った男が傘を差しながら心配そうに己を見つめていた。
「おい亜子!どうしたんだ!!」
「ポップ…………さん?」
「何も……聞かないん?」
「聞いたら答えてくれるか?」
「…………」
「だろ? だから聞かない」
今世界樹に二人の人間がいる。一人は少女、一人は青年、少女は依然膝を抱えながら、充血した瞳で降りしきる雨を見つめる。青年は少女に何も語らずただ静かに佇むだけだ。
彼らの間に音はなく、ただ降りしきる雨だけが全てだった。
「ウチ…………」
ぽつりと亜子の口から漏れる。
「前に好きな男の人がおったん。好きで好きでしかたなくなってそれで……告白したんや」
まるで過去を確認するかのように呟く亜子の言葉をポップは黙って聞いていた。
「でも…………あかんかった」
亜子は自虐ぎみに笑う……その瞳には再び涙が溢れていた。ポロポロと雫となって雨と共に大地を濡らす。
「何日も塞ぎこんで……でもまき絵が必死にウチを慰めてくれたんよ」
彼女の声は震えていた。あの時のことを思い出しているのだろう。亜子は胸を強く握り締める、その痛みに耐えるように。
「それでいつまでもクヨクヨしたらアカンって思って少しずつやけど頑張ってきた…………」
ポップは世界樹に寄りかかりながら目を瞑る。
「けど…………やっぱりダメやったみたいや」
彼女の瞳はどうしようもない程、揺れていた。それは雨に打たれていた為による寒さの為か、それとも……
「今日聞いてしまったんや、先輩はウチが対して可愛くないって…………それにオドオドしてるからって……」
涙が再び頬を伝わる。口から嗚咽が漏れるのを亜子は止めることが出来ない。
(胸が、胸が痛いよ………)
亜子は再び膝に顔を埋ずめる。腕が足に白くなるほど強く握り締める。雨以外全ての存在は静止していた。
「いいんじゃないか?」
ポツリとポップは呟いた。
「例え可愛くなくったって、オドオドしたって…………」
亜子は未だ顔を埋めたままだ。
「それに俺は亜子は充分魅力的だと思うけどな」
「嘘や!!!」
思わず亜子は立ち上がった。その瞳にはまるで憎悪のような暗い光を宿している。
「どうせただ慰めようとしてるだけやろ!! 嘘は言わんといて! 本当のこと言うてよ!!!」
必死に泣き叫ぶ亜子にポップは……
「えっ」
静かに抱き寄せた。
「やっ、離して!!」
必死に抜け出そうとじたばたするがポップの腕から抜け出せない。
「亜子……」
「離して!!!!!」
亜子の手がポップの顔へと放たれる。しかしポップは避けようとすらしなかった。
「あ、あぁ…………」
亜子の顔が見る見るうちに青ざめる。ポップの顔に一筋の赤い線が浮かび上がっていた。そこから赤い血がゆっくりと流れ出し頬を伝わる。
「ウチ……ウチが…………」
ガクガクと震える亜子の身体をポップは優しくけれど力強く抱きしめ、頭を静かに撫でる。
一瞬ビクつくが亜子は動かずに、いや動けずにいた。しかし身体は依然震えている。
「例えどれだけオドオドしても亜子は誰にでも優しいことを俺は知ってる……」
「………………」
「どんなに苦手なことがあっても自分で解決しようとしている亜子の力を俺は知ってる……」
「………………」
「だから自分を……追い詰めるな」
「………………」
いつしか亜子の震えは止まっていた。
「ポップさん…………」
ポツリと、本当に小さな声で呼びかける。
「何だ?」
ポップは優しく問いかける。その優しい瞳に見つめられ亜子の瞳から再び涙が込み上げる。その涙は冷たいものではなかった。
「これで最後にするから、泣いても……ええ?」
ぎゅっとポップの服を握り締める。ポップは亜子を抱き締める力を強くする。
「あぁ……思う存分泣けばいいさ」
その言葉は静かに亜子に染み渡り、彼女の中にある悲しみのダムが決壊した。
「ウチは……ウチは…………ウチは!!!」
ポップの胸に顔を埋め亜子はだたひたすら涙した。ポップは何も言わずにただ彼女の頭を撫でる。
その掌の暖かみに感謝しながらこれが初恋との決別になろうことを亜子ははっきりと理解した。
――――――――――雨が上がる。
「おはようまき絵!亜子!」
「「おはよう裕奈!!」」
裕奈が元気良く手を振るとまき絵と亜子もそれに元気良く答える。
「亜子……」
つんつんとアキラが亜子の肩をつつく。
「何やアキラ?」
不思議そうに首を傾げる亜子にアキラは嬉しそうに笑う。
「何か良いことでもあった?」
「えっ!べ、別に何もあらへんよ」
顔を真っ赤にして亜子は首を横に振るう。その様子にアキラは苦笑いを浮かべる。
(それでは肯定しているのも同じだよ、亜子)
昨日はどこか元気がなかったが今日の彼女は輝いている。アキラは心の中で小さく安堵の息を吐きながら嬉しそうに友の姿を眺めていた。
何でもないようなことを語りながら通学路を歩いていたら気づくと何時の間にか校門に辿り着いていた。彼女たちの視線の先にはいつものように笑いかけるポップの姿が目に入る。
「おはようございます隊長!」
昨日のまき絵のまねをする裕奈にポップは乱暴に髪を撫でる。
「ポップさん、おっは~」
まき絵はやけに古い挨拶にポップは良く分からないと言わんばかりに眉を眉間に寄せる。
「なんだそれは?」
「えっ?ポップさん知らないの??」
「まき絵、ポップさんが外人なのを忘れてるよ。おはようございます、ポップさん」
アキラは静かに頭を下げる。
「あぁ、おはようアキラ」
ポップは彼女に笑いかける。するとアキラの背後からひょっこりと亜子が顔を覗かせる。
亜子はポップの顔を見た瞬間顔を赤く染める。亜子の様子にみな首を傾げる。
「亜子……」
優しい声に亜子はハッとする。優しげな瞳に亜子は吸い込まれるように見つめてしまう。
「おはよう」
屈託なく笑うポップに亜子は自然に高鳴る心音と共に……
「おはよう! ポップさん!!」
満面の笑みで答えた。
和泉亜子14歳、初恋に別れを告げ、新たな恋にチャレンジします!
――――――――――――――本日も晴天なり!!
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