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page.3 ~始まりの終りと、終りの始まり~ 投稿者:戯言師 投稿日:04/09-05:43 No.228

―騎士は大切なものを手に入れるために、たくさん修行をしました。



     修行を終える頃、騎士は人形のお供を手に入れました。



          そして騎士は人形を連れ旅に出ました。



               大切な妖精を探すための旅です。



                    長い長い、旅を続けました。



                         でもまだ妖精は見つかりません。



                              騎士と人形はまだ旅を続けます―





     騎士と妖精と人形の

          page.3 ~始まりの終りと、終りの始まり~





夜中、ヨーロッパ某所、とある地下の一室に一人の少女が監禁されていた。

見た目は18歳前後、肩まである金髪、緑色の眼、典型的な欧米人だ。

手足が拘束され逃げ出せないようなされている。

彼女がこのような状態になってから一週間以上が経っている。

ここに連れて来られた当初は友人が一緒に居たが何処かかに連れて行かれもう顔も見ていない。

窓すらない環境で、定期的に与えられる食事は酷く殆ど口にしていない。

時折遠くから悲鳴が聞こえてくる。

遠くから聞こえてくる筈なのにまるで直ぐ傍で聞こえるようでいつも耳を塞ぐ。



(……もう、いや……)



部屋の明かりは天井に電球が一つきり。

そして、孤独感。いつ自分があの悲鳴の仲間入りするか分らない状況は、神経は磨り減らした。

もう一日だって居たくなかった。どうせなら思いっきり狂いたい。

思考が危険な方向に走っていく。が、それを止める理性すら殆ど止まっていた。

死ぬ事を本気で考え始めたとき、遠くで何かが爆発した音が聞こえた。そして、それに遅れるように伝わる振動。

最初は、何か変な事をしているのだろうと思った。まだ誰か死んだと思った。

それが、自分の番へとまた一つ進んだ事をしめす。怖かった。思いっきり叫びたかった。死にたくないと。

だが、その寸前に外から聞こえた騒音によって遮られる。



「・………!」

「・…やれ…!」



遠くから叫び声が聞こえる。

足音が響き渡り多くの人が居る事が分る。



「……きた……」

「く…な……!」



段々と声が近づいてくる。

その声は、まるで何かに怯えているようだった。



―ドクンドクン



心臓が高鳴る。

近づいてくる奴等が自分をまたどこかに連れて行くかもしれない。

恐怖で張り裂けそうになる。それでも何処か諦めた考えが頭を過ぎる。



―ドクンドクン



銃声が聞こえる。



「が…」

「…ぎゃ……!」



―ドクンドクン



「こ…バ……」

「た・……」



―ドクンドクン



断末魔が響き渡る。

最後の断末魔を期に周りが静かになる。

静寂が耳に痛くそれがさらに恐怖を引き立てる。

静かな闇の中、ドアの向こうから誰かが歩いてくる音がする。



―カツン カツン



こちらに向かってくる足音がはっきりと聞こえる。



―カツン…



足音が止む。足音の主は、今この部屋の前に来ているようだ。



―ドクンドクン



体が震える。扉の前に居るのは恐らく誰か多くの人を殺したのだろう。

そう考えてしまい、恐怖が更に体の震えを増してゆく。

唯の扉がまるで地獄の門のようにすら思える。



―ガチャ



「キャ……!」

ドアの開く音に悲鳴をあげるが口に手をあて無理矢理止める。



―ギィィィ……



ゆっくりと開く扉、そこから現れたのは、全身黒ずくめの何か。

それがまるで死神のようで恐怖が増加する。

恐怖に体を震わせながらも、入ってきた何かを凝視する。

長い間暗闇に居たため慣れた目が目の前の存在を理解する。

その何かは、黒ずくめの男だった。

身長は180半ばの長身。顔にはサングラスのような物を掛け、全身を覆い尽すマントを着ていて体格が判らない。

まるで、映画か何かの悪役を絵にしたような姿に、再び体が強張る。



―コツ



男が此方に向かって歩き始めた。

体が恐怖で震える。

あと、数歩で此方に届くというところで



「あ、いや……来ないで!」



恐怖に駆られ叫ぶ。叫んでも意味は無いと心の隅で思う。

この人は、何を言っても問答無用で自分を連れて行くに違いない。確信のように思う。

でも、男の口から出たのは意外な一言だった。



「安心しろ。おれはあいつ等とは違う」



そう言ってドアの向こうを顎で指す。

其処には人だったナニかが転がっていた。



「・………ッ!?」



叫び声にならない声を上げ顔を逸らす。

がちがちと体が震える。悲鳴は何度も聞いた。だけど、本当の死体を見るのは初めてだった。

目を逸らし地面に目を向ける。唯怖く震えた。



「死体を、見るのは初めてか?」



男の問いにガクガクと頭を縦に振る。

地面を見詰めたままだったので男の様子まではわからない。



「…そうか、ああ成りたくなければここに居ない方が良い。……大丈夫か?」



地面を見たまま震える自分に再び声を掛けてくる。

その声に初めて感情のようなモノが含まれていたがそう感じている暇は無かった。

頭は男が話したことで一杯だった。



(ああ成りたくなければ? ああしたのはあの男で、自分はああ成るかもしれなくて、でもここにから離れれば……)



思考が纏まらない。

初めて死体を見た恐怖が思考力を削っていく。



「押し黙っているところ悪いがここに居るのは危険だ。移動した方が良い。立てるか?」



男が近づいてくる気配を感じ顔を上げる。

視界に写るニ三歩前に居る男から離れようと壁際へと這いずる。

男は自分から離れた私にやや首を傾げ口を開こうとする。



「いたぞ!」



が、部屋に乱入してきた男達によって遮られた。

男達の人数は4人、それぞれがライフルを持っていて此方―男―に銃口を向けてきている。

その目に恐怖を宿していたが、それ以上に狂気がぎらついていた。



「ひっ!」



その目がまるで自分に向けられているように感じ息を飲む。



「まだ、居たか…」



男は無造作に振り返り、そう呟く。

が、それは銃声によって耳に届く前に遮られた。

連続する銃声。狭い室内を照らすマズルフラッシュ。

自分の体を銃弾が抉る瞬間を想像し、少しでも銃弾から逃れようと耳を塞ぎ目を閉じ体を縮める。



「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



聞こえる銃声に、恐怖を追い出そうと叫ぶ。

が、銃弾はいつまでも此方に届かない。そのかわり届いたのはカチンという情けない音。



「あ、あぁ……?」



いつまでも来ない銃弾に首を傾げ顔を上に上げた。

そこにあった光景は銃弾を受けた筈なのに平然と立っている男と、銃を握り困惑し、恐怖している男達。

男達は「なぜ?」や「あ、あ」等と情けない声を上げ、顔面に恐怖を張り付かせていた。



「あ、あ、くそ!」



一人が悪態を吐き空になった弾倉を交換しようとする。

が、その前に男がゆっくりとした動作でマントの中から巨大な銃を取り出す。



「ぎゃっ!?」



一際大きな銃声が弾倉交換していた男を貫く。頭に吸い込まれたそれは男の頭を原型がわからないほどに砕いた。

ビチャッと生々しい音が部屋に響く。そして男が倒れる音。その後ろには仲間の血で彩られたモノ達。

床には真っ赤な花びら。



「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」



一人の男がその場から逃げようとする。

未だ膠着していた残りの二人も扉に向って走り出す。

が、彼等も扉にたどり着く前に地面へと横たわり赤い花を描いた。



「あぁ……」



何か言葉を出そうとするが言葉にならず唯の吐息が漏れた。

4人の男達を一瞬で殺した男は銃を仕舞う。

そしてゆっくりと此方に振り返る。



「悪いがゆっくりしている暇は無い。あいつらの仲間入りをしたくなければついて来い」



今度は先程よりも直接的な言葉。

こちらを労わる気持ちは感じられず、私がどうなってもいいという風に感じられた。



―カツカツカツ



男が立ち去っていく。

目の前で人が死んだ事によるショックによって頭は空白に支配されている。

殆ど何も考えていない頭は単純に死にたくないという理由で男の後ついていくことを選んだ。





そして、呆気なく外に出れた。

あの後幾度か銃を持った男達と遭遇したが、男によって一瞬で殺された。

私は唯、何も言わず男の後をついて行くだけだった。

いや、何も考えず着いて行くだけだった。だが空白の思考は徐々に男に着いて考え始めていた。

この男は何者だろう。なぜこんな事をしている。



―なぜこうもあっさり人を殺せる?



そんな、自分だけでは答えにたどり着けない事を考えつづけていた。

一際高い場所に辿り着いた。

振り返ると其処には自分が先ほどまで居た場所が目に写った。

そこは森をくり抜いた場所に立てられた一階部分のみの建物。

あの後階段を幾らか昇った記憶がある。ならば自分の居た場所は地下だったのだろうとボンヤリとした頭で考える。

しかし其処には最早建物だった跡が残るばかり。一階部分は爆破されたように一部が無くなっており所々が燃えている。

そんな様子を眺めていた私に男が声を掛けて来る。

男の声に振り返ると先ほどと様子が変わっていない男が居た。

建物が燃える光に照らされているその姿は暗い空間にいた時よりは柔らかく見えた。



「ここから、もう少し歩けば安全だろう。救援は呼んである。ここからは一人で行けるな?」



そう言い、男は歩き出した。

その後姿はもう話すことは無いと言う風で無言で去っていく。

その背中は逃げる間ずっと見ていた背中だった。



「待って」



去っていく背中に制止の言葉を掛ける。

何故制止を掛けたか自分にもわからない。でも、問いかけなければいけないと思った。



「ねぇ、あなた何者? なんで私のことを助けてくれたの? ねぇ、聞いてる!?」



男に向かって今まで思っていた事を叫ぶ。

怖かった。何も言わず躊躇いなく人を殺したこの男が。

怖かった。何も言わず歩いていく背中が。

だけど、自分の歩く速さに合わせてくれていた。倒れかけた私に直ぐに手を差し伸べたのは彼だった。

何も言わず前を見て歩いていた筈なのに此方の事をわかっていた。

何故かわからなかった。だからこそ、疑問をぶつけた。

心の隅で、少しでも傍に居て欲しいと、思いながら。

答えてくれない男にもう一度疑問をぶつけようとする前に男によって遮られた。



「君を助けたのには理由はない。……あえて言うなら移動する途中に君を見つけた。それだけの事だ」



相変わらず背中を向けたまま男は言う。

それが当たり前だと言うように。その言葉は半ば予想通りで何故か安心した。

そして再び歩き出す。だが、まだ聞いていない事があった。



「ねぇ、もう一つの質問に答えてよ……」



何となく判っていた、何を言っても彼は行ってしまう。

それに気付き、諦めの念を込めながら、最後の悪あがきをする。

男が立ち止まる。そして、こちらに振り向く。その顔は先ほどまでとは違うと確信できた。

目が見えなくても判る。雰囲気が明らかに変わっていた。



「アキト…天河アキト。ただの……亡霊だ」



普段聞きなれない名前。響きから東洋系なのだろう。

最後の言葉が気になった、けれど、名前を教えてくれた。

相手が名乗ったなら私も、返さなければいけない。それが礼儀。



「私は、エリシア。エリシア・エノーマス!」



名前を返す。その背中に届くよう一際大きな声で。

名前を教えた意味なんて殆どない。

ただ彼に―アキトに名前を知って欲しい。それだけの事だった。



「エリシアか…。いい名前だ」



アキトが呟くと再び背中を向け、歩き出す。

それが最後の言葉だったのだろう。

もう二度と会うことがない。自然と受け入れた。だからこそ―



「ありがとう……」



―その背中に向かって感謝の言葉を投げかけた。





「ありがとう……か」



最後に少女―エリシアが呟いた言葉。

こんな事を―いや、同じ事をしているだけだ―始めて幾度となく言われた言葉。

その全てが心に染みた。が、それと同時に焦燥が生まれていた。

そんな事をつらつらと考えている間に扉を開け地下への階段を降りる。

地下5階に辿り着く。扉を開けると其処には今までの階とは違い広いホールのような場所にだった。

そこら中に様々な電子機器が置かれており何かが行われていたのがわかる。所々に人だったモノがばら撒けられた状態で残されていたが視線を向けず奥に進む。

さらに奥に進むと壁一面が金色に光っているのが見えた。

其処はまるで神殿のような神々しさがあり神聖な場所に思えた。



(神聖な場所か……あれは人の業だというのに)



その傍に設置されている電子機器で作業している人影を見つける。

それに近づいていき声を掛ける。



「サレナ、状況報告」

「Yes.マスター」



人影が振り返る。

それは年頃が十四、五歳程の少女。背丈は170半ば。瞳は黒で黒髪は腰付近まで真っ直ぐに伸びている。

服装は、若干デフォルメされたメイド服。ただのメイド服ではないが。顔は整っており人形じみていた。

名前は黒乃サレナ。俺の従者だが、俺には勿体無いほどに優秀だ。



「拾得できた情報を統合すると、演算装置としての機能は9.37%、いままでの平均と比較すると5.19%低下。イメージ伝達率は34.89%、同じく平均と比較すると12.53%上昇」



サレナが淡々とした言葉で報告する。

耳はサレナの報告を聞いているが視線は正面にある金色のリボンを幾重にも重ねたような存在を見詰める。



「使用された被検体は23体。これらの結果を総合すると完成率は29.64%になります」



中心には四角い金の箱。

その周りにはまるでそれを守護するように眠る様々な人間達。

老若男女誰も彼も問わず其処にはあった。



「救助した人数は?」

「Yes.マスター。マスターの保護した少女を含めると4名になります」



4名。23人いやそれ以上の犠牲の中助けられたのはたったの4人。



「融和率は?」

「3名とも低く適合できなかったため生存できたと判断します」



失敗したからこそ生き残った。どこかで聞いたような話だ。



「俺が助けたのはかなり高かった。様子を見る限りこれからも進行するだろう」



ならば今後も狙われる可能性がある。とサレナに伝える。

そう言えば次の行動を理解してくれる。



「Yes.マスター。救助隊には永続的な保護、監視を本国に要請するよう通達します」



一で十を理解するとはこの事だろう。

それほど長い時間共に居たわけではないが彼女はかなり成長していた。



「それで、奴等の尻尾は掴めたか」

「Yes.マスター。情報は発見できず追跡は困難だと判断します。

 が、情報を削除した痕跡があるためこの組織に干渉していたのは明確だと判断します」



また同じ結果だった。幾つもの組織を壊滅してきたが未だに奴等を捕らえることは出来ないでいる。



「そうか。……コピーを回収後土台を爆破。これに関する物を一切残すな」



再びそれを見上げる。

神々しさがあるそれは見詰めるだけで嫌悪感、罪悪感が生まれる。

人が積み上げていく業は何処までも深く醜い。

サレナが爆破用意を進める中、コピーのコアへと近づく。

目の前にあるそれは大きさは1mほどで思っているよりも小さい。

それに手を伸ばし触れる。手袋越しに触れると微かに鼓動が感じられる。



「………ジャンプ」



たった一言呟くとそれは虚空へと消えた。

人の手が届かぬ場所。多くのコピーが纏めて置かれている場所へ行った筈。

後ろに振り返ると爆破準備の終えたサレナが立っていた。



「カウントは3分に設定。ジャンプ後にカウント開始だ」



簡潔に告げるとサレナは一瞬瞬きをする。

それで設定は完了したのだろう。超鈴音印の特殊爆破装置だ。問題は起きないだろう。



「設定完了しました。マスター次の指示を」



次の指示を求める声。戦闘時のみの簡潔な会話。

見た目年頃の少女とのこのような会話はやや気後れするが慣れた。それに日常に戻ればもう少し柔らかい会話になる。



「そうか……。後始末は救助隊の奴らに任せよう。麻帆良に戻るぞ」

「Yes.マスター。…ジャンプフィールド展開。ナビゲーシュンサポート開始します」



サレナを中心に半径2mほどのジャンプフィールドが展開される。

リンクを通して麻帆良学園の座標などの情報が伝わってくる。

イメージするのは麻帆良学園都市の自分達の家。帰るべき場所。



「ジャンプ」



イメージを固めるための一声。それを呟くと同時に周りを光が覆い尽す。

そして、瞬間その場からは二人の姿は消えた。





―騎士は旅を終え家に戻りました。



     家に帰ると、そこで一人の見習い魔法使いと出会いました。



          彼らが出会うとき、何が起きるかは誰にもわかりません―

騎士と妖精と人形の / page.4 ~地底図書室で眠る墓(上)~

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