page.4 ~地底図書室で眠る墓(上)~ 投稿者:戯言師 投稿日:04/11-19:10 No.278
―騎士は無事に家にたどり着きました。
家に着いた騎士を待っていたのは双子の小さな友人達でした。
小さな友人達は言います。
「友達を助けてください」と。
騎士はその頼みを聞きました。
向かう場所は地下深い迷宮です―
騎士と妖精と人形の
page.4 ~地底図書室で眠る墓(上)~
麻帆良学園にある高級マンションの一室、暗い部屋の中一筋の光が漏れた。
そして、そこには先ほど待て居なかった2人組の男女が現れた。
「ふぅ、…久しぶりに戻ったな」
「はいマスター。埃も大分溜まっています」
「あぁ」
会話をしながらも、サレナは回りの様子を見渡している。
先ほどの会話とは違う柔らかい会話。
その様子に、日常に戻れたと安堵する。
「俺はこれから学園長のところに報告と、鈴音ちゃんの方に行ってくる」
「わかりました。では、私は部屋の清掃と食料の買出しに行ってきます」
サレナの返事を聞きながら戦闘服から着替るために部屋に向かう。
部屋に着くとドアを閉める。
扉の向こうから聞こえるゴチンという音と共に聞こえる、あう、という声に笑みを浮かべつつ戦闘服を脱ぐ。
戦闘服をケースに収めると、次に箪笥を開け服を選び取り出す。
―TrrrrTrrrrTrrrr、がちゃ
黒を中心とした服に着替えていると電話が鳴る。掃除の準備をしていたサレナが直ぐに電話に出る。
「はい、もしもし……はい、わかりました。今変わります」
礼儀正しい声での応答。ここに電話が来るのは珍しい。が、そのため掛けてくるのは限られるため大体の見当がつく。
サレナがこちらに向かってくるのが足音でわかる。
―トントン
ノック音。ドアの前にサレナが立っている。
「マスター。風香さんと史伽さんからお電話です。かなり慌てている御様子です」
あの2人―風香ちゃんと史伽ちゃんとは1年半前に世界樹で出会ってからの付き合いだ―からの電話は珍しくないが今回は少し違うらしい。
「わかった。直ぐ行く」
慌てているという事は何かがあったのだろう。
返事をし手早く着替え、部屋を出る。部屋の前で待っていたサレナから受話器を受け取る。
電話を耳に当て電話の向こうに居るであろう風香ちゃんと史伽ちゃんに声を掛ける。
「風香ちゃん史伽ちゃん? 代わったぞ」
『あっ! アキト兄! 実は、期末テストで、行方不明で、最下位になって、クビなの!』
………分けが判らない。
支離滅裂な事を言う。後ろでは史伽ちゃんが騒いでいる声が聞こえる。
大分混乱しているようだ。今も意味不明な話を続けている。
まずは落ち着かせなければ話にならない。
「風香ちゃん? 少し落ち着け。何が言いたいかわからない」
『あと、えと』
「まずは深呼吸だ」
『あ、う、うん。すぅー…はぁー…すぅー…はぁー…』
素直に言う事を聞いてくる。
その後ろでは史伽ちゃんも深呼吸しているのが聞こえる。
「落ち着いたか?」
『う、うん』
「そうか、それで用件は?」
『うん。実は…』
風香ちゃんと史伽ちゃんが言うには彼女達のクラスの担任に10歳の少年が来たらしい。
その少年に学園長が、「期末テストで2-Aが最下位脱出できたら正式な教師にする」という試験が出たとのこと。
それが、どう捻り曲がったか生徒の間では最下位になったクラスは解散になり初等部からやり直し、という噂になって広まった。
それを危惧したバカレンジャーなるクラスの最下位組みが先生を連れ、魔法の本があるという図書館島に行ったら行方不明になった。
と要約するとこういう事らしい。
「大体の事情は判った。それで俺にどうして?」
自然と疑問を口にする。
其れならば他の教員又は学園長に連絡した方が良いだろう。
ま、普段の様子から答えは予想できるが。
『えっと、アキト兄ならどうにかしてくれると思って…』
予想通りの答えに思わずため息が出る。
早い話が、俺に彼女らを助けて欲しいと言っているのだ。
無茶苦茶な話だ。俺は便利屋か何かなのか問い掛けたくなった。
『それで、アキト兄に「わかった」・・・え?』
「俺が彼女達を助ければいいんだろう。わかった直ぐ行く」
だが、そんな話に乗る俺は相当なお人好しだ。
『あ、ありがとうアキト兄!』
電話口を通してでも隠し切れない喜びが聞こえる。
そんな彼女達の様子にかすかに笑みを零しながら
「お前らは、寮の方で待っていろ。安心しろ彼女達は必ず助ける」
『う、うん。アキト兄頼むよ』
「あぁ、それじゃ切るぞ」
返事を待たずに電話を切る。
帰ってきたばかりだというのに厄介事を持ち込んでくれる。
そう愚痴るが顔には笑みが浮かぶ。そして、直ぐに行動に移す。
「サレナ、予定変更だ。図書館島に向かうぞ」
「はいマスター」
話を聞いていたのだろう。とっくに準備を始めていた。
「とくに装備は無くても十分だろう。サレナ、一応聞いておくが地底図書室の走査は出来るか?」
「はいマスター。やはり、地底図書室に行かなければ走査は困難です」
「そうか……あそこに近づかれるのは厄介だ。急ぐぞ」
「Yes.マスター」
その言葉と同時に思考も戦闘用に切り替わる。
向かう場所は地底図書室。
白亜の墓標の眠る場所。
その頃、地底図書室のネギ達御一行は……
「キャアアー!」
「うわ~ん! あの石像しつこ~い!」
「みんな早く走るです!」
「まっ、待って~!」
『ま~て~』
出口が見つからずゴーレムと追いかけっこをしていた。
追いかけっこが始まってから相当時間が経っている為、体力が売りのバカレンジャーと言えとも疲労が溜まってくる。
「はぁはぁ、何時まで逃げればいいのよ!」
「む~、私と楓で相手するカ?」
「ん~、その方が楽な気がするでござるな」
「あ、危ないですからやめて下さい!」
ゴーレムを素手で相手するのは無謀です!、と叫びながらも走りつづける。
走りながらも此処まで会話できるなんて意外と余裕では?と、疑問に思ってしまう。
『フン!』
僕達を捕まえようとするゴーレムの腕を避ける。
ズドン! と狙いを外した腕が地面に当たる音がする。
あんな物を直撃で受けたらたたでは済まない。
『お主ら~諦めて観念したらどうじゃ』
追って来ながらもゴーレムが降伏を勧めてくる。
確かに大分疲れてきている。出口もまだ見つかっていない。でも……
「ふざんじゃないわよ! あんたみたいな変な奴の言う事なんて聞く筈ないでしょ!」
「うんうん」
「そうです。此処は早く出口を見つける方が得策です」
明日菜さんが大声で叫び返す。
その諦めの感じられない声に元気が少し湧いてくる。
そうだ。僕は先生だから皆を安全に外に連れて行かなきゃ。
そう思い、どうにか逃げられないかと頭を巡らせる。
と、その時、目の前に白い大きな建造物が見えてきた。
所々崩れかけていて地面に接している部分にも大きな亀裂が多数見える。
―!?
「皆さん! 次の建物で右に曲がってください!」
「ネギ君!?」
「あんた、何か思いついたの!?」
「いいから、言うとおりにして下さい!」
僕が叫ぶと皆此方を見詰めてくる。
どうやら、信じてくれたみたいだ。
そのやり取りの合間にも、建物に近づいていく。
建物の直ぐ横を曲がる。
その後をゴーレムが追ってきた。
『待たん…ふぉ?』
ゴーレムが曲がった先には、先ほどまで追いかけていた相手は居なかった。
きょとんとした様子で、少し経つときょろきょろと周りを見渡し始める。
『ど…どこ行ったんじゃ~!』
ドスンドスンと、ゴーレムが走り出した。
徐々に離れていく足音。そして静寂が訪れる。いや、どこからか話し声が聞こえる。
「ねぇ夕映、行った?」
「まだ遠くに行ってない筈です。もう少し待ってください」
明日菜と夕映だ。
ネギの咄嗟の判断により、建物の亀裂の中に逃げ込んでいたのだ。
表面上は安心している2人だが、その後ろでは大変な事になっていた。
「せ、狭い~!」
「か、楓! もう少し小さくなるネ!」
「無理言うなでござる!」
「お、お願い…もう少し前行って…」
「み、皆さん、落ち着いて…」
鮨詰め状態になっていたのだった。
明記しておくが亀裂の深さは大体3、4人が入れる程度の深さである。
その程度の深さの亀裂に7人もの人が入ると、
「も、もう駄目~!」
「皆さん! もう少しの辛抱ですから頑張ってください!」
「な、何か……色んな物が出てきそうネ!」
「早く…早く外に!」
「ネギ君!? どこ触ってんねん!?」
「あわわ~! 御免なさい!」
「皆! 少し落ち着いて!」
以上のような状態になる。
この地獄絵図とも言える光景はゴーレムの足音が聞こえなくなるまで続いた。
「や…やっと出れた…」
「もう嫌…」
「もう少しで大変な事になってたネ…」
ゴーレムが居なくなったのを確認し、やっとの事で外に出れた。
皆走っているときよりも疲れているように見えるのは勘違いではない筈。
それでもゴーレムが近くにいないという事実に周りを見渡す余裕が出来る。
「この建物は…」
先ほどまで僕達が隠れていた建物を見上げる。
白亜の城。そんな言葉がしっくりくる巨大な建物だ。
ピラミッドを細く縦長にしたような形。純白で幾何学模様が表面を走っている。その周りを斜めに円形の何かが引っ掛かっている。
魔力を一切感じない、それどころか所々に丸い穴が開いていて、かなりの年季を感じる。
でも、どこか神秘的な何かが隠れているような気がした。
「ん~…なんかのピラミッドみたいね」
隣に明日菜さんが来て一緒に建物を見上げる。
「はい。相当年数が経っているみたいです」
「それは見て判るわよ。これぐらいボロボロだとね」
話しながらも建物を見上げつづける。
目が引き付けられる。
この建物には何かが絶対にあると何処か確信めいた思いで建物を見詰める。
「船…?」
ボソリと小さく呟く。
あまりに小さい声だったので明日菜さんには聞こえて無いようだ。
どこか、船に似ている。直感的にそう思った。自分でも何故そう思ったのか判らず思考を巡らせる。
「ネギ先生」
と、後ろから話し掛けられる。
思考を中断し、声のした方を振り返る。
「えっと、何ですか夕映さん?」
「ネギ先生、これからどうするですか?」
どう返事しようかと考えていると、他の生徒も此方に近づいてきた。
「そうですね…。出口を探しましょう。出口が見つからなければどうしようもありませんし」
もう期末テスト目の前だ。いつまでも此処に居るわけには行かない。
「そうですね。では行きましょうか」
「はい」
頷き全員で歩き出す。
出口を探す。単純な事だけれど、これだけ広いと大変だ。
時間が掛かるかもしれないけどやらなければならない。
と、全員いるか確認しようとしたその時視界の隅に黒い何かが写った。
「ん?」
黒い何かが見えた方向に視線を向ける。
「どうしたの?」
「どうしたですか先生?」
遠くにあるのでぼやっとしか見えない。
あの白亜の城のようにどこか引き付けられる。目を凝らし焦点を合わせる。
あの黒いの……石像のように見える。でも…それ以上の…何かに…
「キャアァァ!」
『ふぉふぉふぉ、見つけたぞ~!』
まき絵さんの叫び声があたり一面に響き渡る。
突然の事に先ほどまで見ていたものを忘れ声をしたほうに振り向く。
そしてゴーレムの声の声と共に姿を見つけた。
―見つかった!?
「皆さん! 走って!」
「いや~! また走るの~!?」
『待つんじゃ~!』
追いかけっこがまた始まる。
―地下深い迷宮で小さな魔法使い達は一つの建物を見つけました。
それは、妖精が住まう白亜のお城でした。
でもそこには主の妖精は居ません。
妖精が居ないお城はとても寂しそうに見えました。
白亜のお城は主が帰ってくるの待っています―
page.4 ~地底図書室で眠る墓(下)~ 投稿者:戯言師 投稿日:04/11-19:11 No.279
―地下深い迷宮で小さな魔法使い達は一つの建物を見つけました。
それは、妖精が住まう白亜のお城でした。
でもそこには主の妖精は居ません。
妖精が居ないお城はとても寂しそうに見えました。
白亜のお城は主が帰ってくるの待っています―
騎士と妖精と人形の
page.4 ~地底図書室で眠る墓(下)~
ネギ達が追いかけっこを再開した頃、同じく地底図書室の少し高い建物の上に2人組の男女が立っていた。
一人は全身黒ずくめでマントまで羽織っている。もう一人はメイド服を纏い頭にはヘルメットを被っている。
ご存知のとおり天河アキトと黒乃サレナの両名である。
「サレナ、状況はどうだ」
「Yes.マスター。現在、彼女らはゴーレムから逃走中。音声、又魔力波長からゴーレムは学園長が操作していると判断します」
サレナの報告に少し頭痛がする。
学園長、貴方は先生と生徒をこんな所に連れてきて何をしているだ。
此処に居ない人物に対して疑問を投げつける。
「はぁ…、学園長については兎に角、後で問い詰めるとして…どうする?」
「Yes.マスター。学園長の意図が判明しない限り静観するのが妥当だと判断しますが」
「そうだな…」
顎に手を当て少し考える。
確かに、学園長が何を考えているか判らない以上下手な行動はできない。
「風香ちゃんと史伽ちゃんに頼まれたからな…」
そう、自分を信頼してくれる双子の願いに答えなくてはならない。
「よし…サレナ、ゴーレムを足止めする」
「Yes.マスター」
サレナの返事と共に2人の姿が掻き消える。
そして、ゴーレムへと向かっていく二つの影があった。
先ほどから変わらず走りつづけている御一行、しかしその足取りがやや遅くなってきている。
「はぁ、はぁ……何時まで逃げればいいのよ」
「で、出口は…」
ずっと走りつづけているため、全員の―約一部の例外も含め―体力が限界に近づいていた。
「も、もうあかん…」
「ほら木乃香、頑張って!」
「う、うん……あっ!」
明日菜が木乃香に向って激を飛ばすが、足取りが覚束無い。
そして、返事に気を取られ木乃香が足をもつれさせて転ぶ。
「きゃっ!」
『ふぉふぉふぉ、捕まえたぞ!』
「木乃香!」
全員が足を止め後ろを振り返る。
木乃香にゴーレムが迫る。
今まさにゴーレムの腕が木乃香を捉えようとする。
―ズドン!
衝撃が辺り一帯に走る。
「木乃香!」
全員が叫ぶ。かなりの勢いだったそれに捕まっては唯では済まない。
が、視線の先に居るのはゴーレムの腕に捕まっている木乃香ではなく、ゴーレムの腕を片腕で受け止めている黒い影だった。
「大丈夫か?」
黒い影が此方に向けて口を開く。
それは、黒い影ではなく黒尽くめ男だった。
バイザーを掛けているのでよくわからないが相当の勢いで振り落とされたゴーレムの腕を受け止めているのに顔色一つ変わっていない。
「こ、木乃香は!?」
明日菜が男に向って問い掛ける。
そう、先ほど迄いた場所には木乃香の姿は無かった。
「安心しろ、彼女は無事だ」
そう、男が話すと何処からか木乃香を抱えたヘルメットを被ったメイド姿の女性が現れる。
「木乃香さん!?」
「木乃香!?」
ネギと明日菜が木乃香と女性の元に駆け寄る。
「大丈夫!? 怪我ない?」
「うちは大丈夫やで、この人が助けてくれたから…」
木乃香が女性に下ろしてもらいながら答える。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「いえ、マスターの指示ですので」
ネギが礼を言うと、当然のように返される。
その言葉と一緒に出された微笑に思わず見惚れる。
―うわぁ…綺麗…
ネギ達がそんなやり取りをしている横ではゴーレムと男が話していた。
『お主…邪魔をするのか?』
「友人に頼まれてな。邪魔させてもらう」
不穏な空気が混じる声での応答は何か含んでいる様子だったがそれに気が付いたものは居なかった。
会話が終了すると同時にゴーレムの腕が迫る。
横薙ぎに払われるそれを数歩後ろに下がる事で男は避ける。
ゴーレムはそれを狙ったかのような今度は左から拳を振う。
が、大振りなそれをゴーレムの懐に入り込む事でかわす。
懐に入った瞬間、気を練り上げ拳に纏わせゴーレムの腹に殴りつける。
―ドガン!
技でも何でもないそれは鉄を殴ったような音と共に鈍重なゴーレムを5m近くも吹き飛ばす。
吹き飛んだゴーレムは盛大な水飛沫を立て地底湖へと落ちた。
「なっ!」
後ろから驚愕の声が聞こえる。
あれほど重量のあるゴーレムが吹き飛んだのだ相当驚いているのだろう。
「あっ! もしかしてアキトアルカ!?」
後ろからどこかで聞いた声がする。
声がした方を振り向くと、チャイナ服を纏った少女が居た。
「菲ちゃんか?」
古菲、鳴滝姉妹と同じく一年半前ぐらいに戦いを申し込まれた。
そうネ! と元気が良い返事が来た。一瞬何故ここに? と思ったが確か彼女も2-Aの生徒だったと思い出す。
「むむ? もしかして知り合いでござるか?」
クーちゃんの隣に立っていた長身の女の子が俺達に疑問を投げかける。
「そんなところだ」
「そうアルヨ」
2人同時に答える。
横を通り過ぎた瞬間殴りかけられるのが普通の知り合いならばな。
それは口に出さずに心の隅にしまう。
それよりも今は外に誘導した方がいいだろうと口を開く。
「それよりも、ここから北に行った所に滝がある。その裏に非常口があるから其処に行くといい」
「えっ! 本当っ!?」
「あぁ」
頷くと全員で、ばんざーいとか、やっと帰れるー! などと言う声が聞こえる。
胴上げでもしそうな雰囲気の中、一人の少年が此方に近づいてくる。
背丈から判断すると10歳前後の子供のようだ。
恐らくこの少年が例の子供先生なんだろう。
「あ、あの」
「なんだ?」
「えと、助けて頂きありがとうございます」
そう言って俺に向って頭を下ろした。
驚いた。この年でこう迄人に頭を下ろせるものだろうか?
だが、そんなことより言わなければならない事がある。
「あぁ、そう言うことか。それよりも早く行くといい」
「え? あぁ、そうですね。それじゃ一緒に…」
「いや、お前達だけで行くといい」
子供先生が話し終わる前に遮る。
「えっ? どうしてですか!?」
「あぁ、それはな…」
―ゴゴゴゴゴゴゴ……
地響きが辺り一面に響き渡る。
「まだ終わってないからだ」
―バシャァァァァン!
俺の言葉と同時に、水面からゴーレムが飛び出した。
「キャァァァ!?」
「早く行け。此処は俺が食い止める」
振り返りゴーレムと相対すると共に、先に行くよう促す。
俺の言葉に子供先生が慌てて制止を掛けてくる。
「危険ですよ!? 一緒に行きましょう!」
その言葉に苦笑する。
俺の事を心配して言ってくれているのだろう。が、それは必要の無い事だ。
視線を菲ちゃんに向ける。
「クーちゃん、この子を連れて行ってくれないか?」
「了解ネアキト!」
クーが言うと同時に子供先生を抱えて走り出す。
周りの子達もそれにつられて走り出した。
「わわわっ! クーフェイさん!? 下ろしてください!」
「駄目ネ、ネギ坊主。今行けば確実に足手まといネ」
それでも! ゴーレム相手に素手で立ち向かうのは無謀です!
そう叫ぼうとクーフェイさんの顔を見ると、其処には強い光を宿した瞳があった。
「大丈夫ネ。アキトは私なんかより全然強いアル」
その言葉に驚く。
この図書館島の間見ていただけだけどクーフェイさんの実力は相当の物だった。
それよりも強いなんて!
「だから、あいつを信じるネ」
力強い声、それはクーフェイさんの信頼の証だった。
子供先生達が立ち去った後、其処には2人組とゴーレムだけが残っていた。
彼等の後姿が視界から消えた頃を見計らってゴーレムに話し掛ける。
「ふぅ、それで学園長、今回の目的は?」
ゴーレムに話し掛ける。
その問いに学園長は笑いながら事情を説明する。
『ふぉふぉふぉ、実はの……』
曰く、これは試験の一環で、この困難を乗り越えれるかどうかを試している。とのこと。
学園長の説明に思わず額に手を当てる。
「なんて回りくどい事を…」
『ふぉふぉふぉ…まぁそう言わさんな』
毎度の事ながら何を考えているのか判らん老人だ。
だからってなぜわざわざ地底図書室に連れて来るんだ。
『それでの、お主はどうして此処に?』
「先ほども言った筈だ。友人達に頼まれたと」
『ふむ、そうじゃったかな?』
はぁ、とため息を吐く。この老人は人の話を聞いてなかったのか?
「まぁいい。それよりも追いかけなくていいのか?」
『ふむ? なんじゃ止めんのか?』
「あぁ、学園長の意図が判ったからな無理に止める必要もない」
『ふむ、そうか。…それでお主はこれからどうするんじゃ?』
学園長が質問を投げかけてくる。
この後か、折角地底図書室に来たのだ。真っ直ぐ帰るというのも味気ない。
「そうだな、墓を見に行くか……」
そう墓を、かつての自分自身を見に。
大体一年ぶりに見に行く事になるか。
『そうか……』
聞こえてきた学園長の声にはどこか悲しみを帯びていた。
『それじゃ、ワシは行くぞ。後で学園長室に来るんじゃぞ』
そう言い残し学園長は子供先生達が向かった方向へと去って行った。
「サレナ、船に向かうぞ」
「…Yes.マスター」
サレナの返事が遅れる。
珍しい事だ。そしてふと気付く、そうだあれに関す事ではいつもこうだったなと思い出す。
黒い石像の前に辿り着く。
それは良く見ると石像ではなく鎧のように金属光沢を持っていた。
だがその表面はひび割れ、所々欠けている。
アキトは、ただ何をやるとも無くただ立ち尽くしている。
「サレナ…」
「はいマスター」
「俺は強いか?」
視線は石像に向けたまま、何かに耐えるように問う。
「はいマスター。マスターの力は世界でも上位に位置すると思います」
「俺は誰かを守れるのか?」
拳を握り締め、今にも砕けそうな声で問う。
「…はいマスター。現にマスターによって助け出された人数は多数にわたっています」
「俺は…」
言葉が続かない。
俯きそして再び顔を上げる。
「……サレナ、こんな事に巻き込んで済まない」
その言葉に様々な感情を含めて。
本来なら違う生き方をしていた筈の少女に向って。
そして、此処に居ないもう一人の少女に向って。
「いえ、私はマスターの従者です。そこに後悔や不満はありません。…それに…」
サレナの言葉が途切れる。
「……それに?」
「…いえ何でもありません」
―……それに、これは私自らの意思です。
―だからこそ、あなたの傍にいます。
その言葉は心の中に押しとどめる。
今は唯、主人の背中を見つめるのみ。
―騎士と人形は白亜のお城の前に来ました。
でも騎士は白亜のお城に近づけませんでした。
その変わり騎士は白亜のお城の近くにある、黒い石像に近づきました。
そこで騎士は人形に問いかけました。
人形は騎士が欲しい答えを答えます。
そして自分の本当の答えは答えないまま―