第15話
修学旅行をまじかに控えたその日、ネギと機龍は学園長に呼び出された。 「学園長、本日はどのようなご用件ですか?」 機龍が学園長に聞く。 「うむ、実は修学旅行のことなんじゃが………」 「何かあったんですか?」 ネギが不安げに聞く。 この前、エヴァに父親の手がかりが京都にあると聞いたので、京都には是非行きたいところだ。 「実はのぉ、関西呪術協会について説明しておこうと思ってのう」 「関西呪術協会?」 「うむ………」 説明を始める学園長。 「なるほど………その関西呪術協会が我々の京都入りをいやがっていると」 「そうなんじゃ。しかし、まあ、ワシももーケンカはやめたいと思っておる。そこでネギくんに特使として、関西呪術協会に親書を届けてほしい」 ネギに親書を渡す学園長。 「はい」 「機龍くんにはその護衛をしてもらいたい」 「了解しました」 敬礼する機龍。 「頼んだぞ」 「「はい!!」」 「では、解散。………ああ、機龍くんは残ってくれ」 「? はい」 「では、失礼します」 ネギが出て行った後、学園長は話を切り出す。 「実はな、君にはもう一つ、頼みたいことがあるんじゃ」 「自分にですか?」 「うむ、このかの護衛を頼みたい」 「お孫さんの?」 疑問を抱く機龍。 「なぜ、お孫さんの護衛を?」 「このかには強大な魔力が宿っておる。それを関西呪術協会が狙っておるらしい」 「ええ!?」 「それに、おそらく………ヴァリムとやらに手を貸しているのもそいつらだ」 「!! ヴァリムに!?」 驚愕する機龍。 「何を企んでおるか分からんが、奴等に対抗できるのは君だけじゃ」 「分かっています。ヴァリムの陰謀を阻止するのは自分の役目です」 「頼んだぞ」 「はっ!! では、失礼します!!」 学園長室を出る機龍。 (ヴァリムめ………お前たちの思い通りにはさせん!!) 改めて決意をする。 広場のベンチにて思案に耽る機龍。 (さてと………とりあえず、修学旅行の準備をせねばな………しかし、どうしたものか?) 「やあ、ここにいたのか」 「ん?」 後ろから声を掛けられ、振り向くと真名が立っていた。 「ああ、龍宮くんか。何か用かい?」 「いや、その、なんだ……」 視線を泳がせ、ほんのりと頬を染めながら言葉を詰まらせる。 「??」 わけが分からず、首を傾げる機龍。 「明日の日曜日………何か、予定はあるか?」 機龍の明日の予定を聞く真名。 「いや、特には………」 「なら、いっしょに出かけないか? 修学旅行の準備も兼ねて」 「ん?」 機龍はしばし考えると言った。 「いいぜ、付き合うよ」 「本当か!?」 「ああ。それじゃ、どこに行くんだい?」 「とりあえず、近場で買い物でもしようかと思ったんだが………」 「分かった。じゃあ、明日またこの場所で10時でいいかい?」 「ああ、それでいい。それじゃ、仕事があるんでこれで………」 やや小走りに立ち去る真名。 「? 変な奴だな」 いたって状況を理解していない機龍。 ………ニブチン!! 翌日。 広場のベンチで機龍を待つ真名。 いつもの制服ではなく、薄緑色のワンピースドレス姿(86時間目参照)である。 やや大胆な服装だが、真名にはよく似合っていた。 時間は9時50分。 約束の時間まで後10分ほどだ。 (少し早く来すぎたか………) やや舞い上がっていたと思う自分に自己嫌悪する真名。 (どうしたというんだ、私は………こんなことで動揺するなんて………らしくもない) そして、胸の高まりを抑えきれずにいる自分がいることに考え込む。 (あいつはあの人とは違う………わかってるはずだ………なのに………) 元パートナーだった彼を思い出す真名。 姿は全く似ていないが、機龍はどことなく彼を思い出させる雰囲気を出していた。 「ヘイ、彼女。一人?」 「俺たちと遊ばない?」 と、考えに耽る真名に二人のガラの悪い男が話しかけてきた。 どこからどう見ても、立派な不良だ。 「待ち合わせしてるんだ。悪いが、お呼びじゃないから帰ってくれ」 冷たくあしらう真名。 「つれないねー」 「いいじゃんかよ。そんなのほっといて、遊びに行こうぜ」 しかし、なおも食い下がる不良たち。 「しつこいぞ! とっとと帰れ!!」 考えを邪魔されイライラしたのか、大声で言う真名。 「なんだ、テメェー!!」 「人が下手にででりゃ、付け上がりやがって!!」 キレる不良たち。 真名は隠し持っている銃に手を伸ばす。 と、 「やー、ゴメンゴメン。君たち、彼女は俺と待ち合わせしてたんだ。手を引いてもらえないかな?」 「ああ! なんだと…うおっ!!」 後ろから声を掛けられ、振り向くと2メートル近い身長のがたいの良い男がいたので驚く不良たち。 「な、なんだ、テメェー!!」 「いや、だから、その子の………」 「うおー!!」 本能的に恐怖に駆られた不良が機龍の腹にパンチをお見舞いする。 だが、ゴキッという音がすると不良が殴った手を押さえてうずくまった。 「いてーーーーーー!!」 「お、おい! コレ、折れてるぞ!!」 なんと、殴った不良の方が手を骨折してしまった。 驚異的な腹筋である。 「あ〜、早く医者に行ったほうが良いぞ」 「「お、覚えてろーー!!」」 一目散に逃げ出す不良たち。 「いや、覚えてろって言われてもな………」 頭を掻く機龍。 「すごいな………どんな身体してるんだ?」 真名も驚愕の目で見ている。 「鍛えてるからな。待たせてゴメンよ」 「あ、いや、私が早く来すぎただけだ………しかし………」 機龍の格好を見る真名。 赤いシャツに黒の皮ジャンと皮ズボン、白いマフラーとライダーグローブ、そして、黒のテンガロンハット。 これで後は、白いギターを持てば、立派な早○健だ。 「その格好は………」 「私服を全部クリーニングに出しちまってな。これしか残ってなかったんだ」 あっけらかんに言う機龍に真名は少し溜息を吐く。 「まあ、良いさ」 「それじゃ、行こうか」 「ああ」 街へと歩き出す二人。 真名が内心、機龍を格好良いと思ったのは内緒だ。 洋服屋で服を選ぶ二人。 「どうだ?」 選んだ服を身体にあてて機龍に聞く真名。 「うん、服のことはよく分からないが、いいと思うよ」 「そ、そうか(赤面)」 時折、そんな会話をしながら、二人は自分の服を選んでいく。 「まあ、これぐらいでいいかな?」 数着服を選んで機龍は言った。 「龍宮くんはどうだい?」 「ああ、私もこれでいい」 真名も数着の服を選んで言った。 「そうか、じゃ、行こうか?」 「ああ」 それぞれ会計をすませて店を出る。 「思ったより時間が余ったな」 「じゃあ、お昼にでもしないか?」 「ああ、良いね!」 と、ここで、 「あれ? 機龍先生。それに龍宮さんも」 「!!」 「ああ、佐々木くんじゃないか」 驚愕する真名といたって普通にしている機龍。 (しまった!! このことが学校の連中に知れたら!!………) からかわれるのは必然。 慌てる真名。 「何してるんですか? ひょっとして………デート!?」 「!!!!」 顔を真っ赤にする真名。 「ハハハ、大人をからかうもんじゃないぞ、佐々木くん」 まき絵の頭をポンポンと叩く機龍。 「いた、いた、痛いですよ先生!」 「ああ、スマンスマン。たまたま、居合わせたんで付き合ってもらったのさ。なあ、龍宮くん?」 「え………あ、ああ、その通りだ」 話を合わせる真名。 「ふ〜ん、そうなんだ」 やや疑惑の目で見るまき絵。 「それより、佐々木くんはどうしてここに?」 「あ! いっけな〜い!! 亜子たちと待ち合わせしてたんだ!! じゃあね、先生」 慌てて去っていくまき絵。 その後ろ姿が消えるのを確認すると真名が呟くように言った。 「………スマン………」 「な〜に、冷やかされるのはあんまり好きじゃないからな」 テンガロンハットを被り直しながら言う機龍。 その動作がやけに似合って、格好良く見える。 そんな機龍を、また元パートナーに重ねる真名。 「? どうした?」 「! 何でもない!!」 顔を背けると早足に歩き出す真名。 「お、おい、そんなに急ぐなって!」 やや遅れてその後に続く機龍。 食堂棟の一角の店にて食事中の二人。 真名は食事をしながら、時折、機龍を盗み見る。 機龍はその視線に気づかず、食事を続ける。 (やっぱり似ている………姿とかじゃなくて………雰囲気が………) 「? どうした?」 視線に気づき、手を止めると声を掛ける機龍。 「い、いや、何でもない!」 「? そうか………ガツガツ………モグモグ………ふ〜、食った食った」 機龍は再び手を動かすと、三人前を食べきり満足そうに言った。 「………よく食べたな」 「食える時に食っておくのも仕事だからな」 「まあ、そうだな」 そう言うと真名も食事を終える。 「さて、じゃあ、後は………」 「デザートはいいのか?」 「えっ!?」 「ここのあんみつ、好きなんだろう」 「なっ!!」 なぜそのことをと言おうとした真名だったが、咄嗟のことで頭がショートする。 「な、な、なな、ななな、なん………」 テンパッてしまう真名。 「いや、何か知らんが、長瀬くんが今朝教えてくれてな」 (楓の奴!!(怒)) 真名が楓への報復手段を考えていると、 「すいませーん! あんみつ一つ!」 機龍は店員に注文する。 「あ、ちょ、ちょっと………!」 「遠慮するな。俺のおごりだ」 そう言われ、何も言えなくなる真名。 「お待たせしました」 少しして、店員があんみつを持ってきた。 「…………」 しばしそれを無言で見つめる真名。 「? どうした? ひょっとしてダイエット中?」 「…………笑わないのか?」 「?? なんで?」 「私みたいな奴が…………こんなのを好きだなんて」 「女の子なら誰だって好きなものぐらいあるだろう」 「えっ!?」 思わず顔に驚きを出す真名。 (女の子…………私が!?) 「さっ、遠慮せずにどうぞ」 あんみつを進める機龍。 「そ、それじゃ、遠慮なく…………」 あんみつを食べ始める真名。 火照った身体のせいか、それはやけに冷たく感じた。 「それじゃ、また明日。今日は楽しかったよ」 「ああ、また明日」 待ち合わせた広場に戻ると別れるふたり。 帰り道、真名は機龍に言われたことを思い出す。 (女の子か…………今まで忘れていたことなのに…………) 戦場を渡り歩いた真名にとって、女であることは障害でしかなかった。 それ故に仕事人として生きてきたのであった。 が、機龍はそんな真名を女の子と言ったのだ。 (本当に…………彼みたいだ…………) ますます元パートナーと機龍を重ねる真名。 その日、真名はなかなか寝付けなかった。 NEXT |