第16話



修学旅行当日。

機龍は駅にて集まった生徒たちを見ながら思った。

(はしゃいでるな…………まあ、あの頃の子供はイベントには目がないからな)

青春を戦いに燃やしている機龍は、少し羨ましそうだった。

しかし同時に、ああいう子たちの日常を守るために戦うことこそ自分の青春の全てだとも思った。

(関西呪術協会…………そしてヴァリム…………来るなら来てみろ!!)

気合を入れる機龍。

「先生ー。どうしたの?」

「顔が怖いです」

いつの間にか近寄って来ていた鳴滝姉妹が話し掛けてきた。

「ああ、ゴメンよ。少し、考え事をしててね…………」

慌てて笑顔を作り、鳴滝姉妹に向ける。

「それよりも、列車の中で暴れるなよ」

「「はーい!!」」

元気よく返事をすると、クラスメートの方へ戻って行く鳴滝姉妹。

「やれやれ、わかってるんだか…………ん?」

それを見ていた機龍はクラスのグループから少し離れて、様子を見ている子がいるのに気づいた。

(あれは…………桜咲くんか?)

それはサイドテールに長い鞘袋を持った生徒…………桜咲刹那だった。

(そう言えば、彼女も近衛くんの護衛で退魔師だったな…………)

彼女の流派…………京都神鳴流は退魔の剣だと聞いた。

(一度見てみたいものだ)

機龍の武家の血…………侍の血がそう思わせた。

「みなさーん!! そろそろ行きますよ!!」

と、ネギの声が響き、機龍は列車へと向かった。


「「機龍先生」」

列車に乗ると、超とハカセが声を掛けてきた。

「ああ、超にハカセか…………例のは?」

小声で言う機龍。

「はい、コレです」

と言って、巨大なケースを出すハカセ。

中身は機龍が万が一の場合を想定して頼んでおいた重火器および重武装兵器と、磨ぎ直してもらった愛刀(龍虎と雀武)と、整備してもらった愛銃(ショットガンとマグナム)である。

「ありがとう…………フェニックスは?」

「コレを使うネ」

超が腕時計のような物を差し出す。

「コレは?」

「腕時計型エマージェンシーコール装置ネ。これを翳して、『コール!! フェニックス!!』 と叫べば、施設からフェニックスが転移魔法装置によって転送されるヨ」

「転送はすごいとして、だいぶ趣味が入ってるな」

腕時計を受け取ると、手にはめながら言う。

「まっ、こういうのは嫌いじゃないがな」

満更でもない顔をする機龍。

「何かあったら手を貸すネ」

「何でも言ってください」

「ありがとう。でも、君たちは旅行を楽しんでくれ。こっちは俺とネギ先生だけで何とかする」

二人の申し出に感謝しつつも、協力を断る。

「大丈夫ですか?」

「俺は軍人だぜ」

「わかったネ。でもいつでも協力するヨ」

そう言って二人は車両へと向かう。

入れ違いにネギがやって来た。

「機龍さん」

「ネギ先生。今のところ、異常はありません」

「わかりました。引き続き、警戒をお願いします」

機龍の癖が移ったのか、敬礼するネギ。

「了解」

機龍も敬礼で返す。

そんな二人にある人物が話しかけてきた。

「ネギ先生。機龍先生」

「ん?」

「あ………あなたは15番桜咲刹那さん…………とザジさん」

「はい」

「……………」

相変わらず寡黙なザジだったが、機龍を見ると笑顔を浮かべて頭を下げる。

「よっ」

機龍はそれに手を挙げて応える。

「私が6班の班長だったのですが………エヴァンジェリンさん、他2名が欠席したので6班はザジさんと私の二人になりました。どうすればいいんでしょうか?」

「えっ………あ、そうですか、困ったな………」

(やはり、彼女は来られんか………)

登校地獄の呪いを受けているエヴァは学園から離れられない。

必然的に修学旅行は欠席となる。

(土産でも買っていってやるか………)

わりと優しい機龍。

「わ、わかりました。他の班に入れてもらいますね」

と、ここでネギは代案を考えた。

「なら、桜咲くんは5班、レニーデイくんは3班に入れよう」

(同じ班の方が護衛しやすいだろうしな………)

「あ、はい、そうしましょう。アスナさん、いいんちょさん、お願いします」

そんな機龍の思惑は知らず、班を編成し直すネギ。

「はいはい」

「かまいませんわ、ネギ先生」

「え………」

このかが少し嬉しそうに言った。

「あ………せっちゃん。一緒の班やなあ………」

「あ………」

しかし、刹那はお辞儀するとプイッとして列車に入っていった。

「あ………」

「………?」

がっかりするこのかと、理由が分からず困惑するネギ。

(何だ? 護衛にしては随分とそっけないな………嫌々やってる………わけじゃなさそうだが………)

機龍も疑惑を向ける。


結局、刹那はこのかと反対の席に座り、視線すら合わそうとしなかった。

刹那の態度に傷つくこのか。

(まったく………あれで護衛とは、何を考えてるんだ?)

それを遠巻きに見て呆れる機龍。

「どうしたんだ? 機龍先生」

「トラブルでござるか?」

そんな機龍に楓と真名が話し掛けてきた。

「いや、少しな………」

そう言って言葉を濁す機龍。

「よかったら手を貸すぞ」

「あいあい」

協力を申し出る二人。

「そうはいかない。君たちには修学旅行を楽しんでもらわないと………」

超たちと同じように断ろうとする機龍。

「そんなことは言いっこなしだ」

「そうでござるよ」

食い下がるふたり。

「しかし………」

「どうしてもダメだと言うなら、勝手に手を貸すからな」

「同じくでござる」

そんな二人にタメ息を吐く機龍。

「わかった、なら正式に協力要請を出す。龍宮くん、長瀬くん、力を貸してくれ」

「了解」

「心得たでござる」

敬礼してみせる二人。

「しかし意外だな。長瀬くんはともかく、龍宮くんは報酬がなければ動かないと思ったが」

疑問を口にする機龍。

「そ、それは………」

途端に頬を染める真名。

「フフフ、真名殿は機龍殿が………」

「わーー!! わーー!!」

何か言いかけた楓の口を塞ぐ真名。

「????」

機龍は困惑するしかなかった。

と、その時、

「「「「キャアァァーーーーー!!!!」」」」

3−A一同の悲鳴が響いた。

「!! 何だ!!」

見てみると大量のカエルが跳ね回っていた。

「か、カエルーーー!!」

途端に気絶する楓。

「ハ○トリくんか、君は!?」

などと言いながらもカエルを回収する機龍。

「機龍さん!! これは一体!?」

騒ぎを聞いてネギも駆けつける。

「とにかく、今はカエルを!!」

「は、はい!!」

やっとのことでカエルを全部集め終わる。

「どうなってるのー!?」

「超常現象!?」

「しずな先生が気絶したー!!」

混乱する3−A一同。

「み、みなさん! 落ち着いて………」

「うろたえるな!!」

ネギの言葉を遮り、機龍が叫ぶ。

「各班、点呼!! 負傷者は保健委員が収容!! 他の教員にも応援を要請!! 各自、警戒を怠るな!!」

「「「「りょ、了解!!」」」」

思わず敬礼して行動に移る一同。

(さ、さすが軍人………)

「ネギ先生。おそらくこれは陽動か混乱が目的です。警戒を強めてください!」

「は、はい!!」

「そうだ兄貴! 親書は!?」

ネギの肩に乗っていたカモが聞く。

「大丈夫。ちゃんとここに………」

と言って、懐から親書を覗かせた途端、

「あ!!」

「何!?」

一匹のツバメが親書を咥え、飛び去っていった。

「し、新書が!!」

「しまった!!」

慌てて追う二人。

と、ガンッという音がしたかと思うと、機龍が顔を抑えて膝をついた。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

長身が災いし、扉の鴨居に顔面を強打したようだ。

「機龍さん!!」

「は、早く追って!!」

「は、はい!!」

機龍を心配しつつも親書を追うネギ。

「だ、大丈夫か?」

心配した真名が声を掛ける。

「な、なんのこれしき!!」

しかし根性で耐え、再び追跡する。


結局、親書は刹那が取り戻した。

しかし、刹那の不器用な物言いでカモとネギは刹那を関西からのスパイと思い込んでしまった。

(可能性はなくもないが………確認が必要だな)

機龍は軍人として、最悪の事態を想定しつつ、刹那のことを調べることにした。


果たして、西には何が待ち受けているのか!?


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