第35話



龍宮真名は困っていた。

仕事のことでもなければ、学校のことでもない。

いや、厳密にいえば、仕事のことだともいえるだろう。

私生活の………お金に困っていた。

学費は実家の親が出してくれているから問題ない。

問題は私財の方だった。

弾薬すらままならない状態だ。

このままでは、好物のあんみつも食べられなくなる。

(マズイ………これはマズイ………)

悩む真名。

真名が金欠に陥った理由………それは、セイバー小隊にあった。

修学旅行後、警備部隊として発足したセイバー小隊。

その活躍は目紛るしいほどだった。

なぜならば、彼等には『PF』という、強大な戦力を持っていたからだ。

相手が妖怪や魑魅魍魎ならば一方的に排除され、不法侵入者ならば姿を見ただけで降参するというほどだ。

現在のところ、セイバー小隊と戦いと呼べるものができるのは、ヴァリム軍だけだろう。

そして、彼等は軍人………人々を守るのが仕事である。

報酬などは受け取らず、危機が起きれば真っ先に駆けつける。

そのため、学園長はあまり真名に仕事を頼まなくなっていった。

それは即ち、真名の金欠を意味していた。

(どうする………どうする?)

考え抜いた末、真名は一つの結論に行き着いた。

「………別にバイトを始めるか………」


学校、昼休みにて………

「ほう、それで私のところにきたとネ」

「ああ、超包子なら知ってるところだし、超なら金払いも良さそうだしな」

超に超包子に雇ってくれと言う真名。

実際、超包子は学園都市内でも有数の売り上げを誇っていた。

超は、しばし何かを考えると言った。

「良いネ、雇うヨ」

「そうか、ありがとう」

「ただし、オーナーのいうことは聞いてもらうヨ」

「勿論だ、報酬さえ貰えればどんな仕事でもするのが私の主義だ」

その時、超が怪しげな笑みを浮かべているのに真名は気づかなかった………


放課後………

超包子の屋台に集まる超、五月、クー、ハカセ、茶々丸、そして真名。

「よし、では、今日も頑張るネ!」

「………ちょっと待て」

顔を真っ赤にして俯きながら、握った拳をワナワナと震わせる真名。

「どうしたネ? 真名」

「どうしたもこうしたもあるか!! みんな中華系の服なのに、何で私だけメイド服なんだ!?」

そう、真名の服装はアキバ系が好みそうなメイド服だった。

「に、似合ってるアルよ、真名………ククク………」

「ほ、本当に………ハハハ………」

笑いを堪えるのに必死なクーとハカセ。

「笑うな!!」

「中華系ばかりでは客足が伸びないと思ってネ。少々、趣向を凝らしてみようと………」

「凝らすな!!」

[龍宮さん、落ち着いてください]

超に組みかからんとする真名を茶々丸が抑える。

「後それから、出迎えの挨拶の時は『お帰りなさいませ、ご主人様』、注文をとる時は『ご主人様、本日のお食事はいかがなさいましょうか?』と、つねにメイドをアピールするネ」

「ふざけるな!!」

怒りと恥ずかしさ(割合2:8)今にも爆発しそうになる真名。

しかし………

「給料、欲しいくないのかネ?」

その一言には逆らえなかった………


「お、お帰りなさいませ、ご主人様………」

やや引き攣った営業スマイルを浮かべ、客を迎える真名。

日が落ちて、ピークの時間を迎えた超包子。

特に、今日は真名の噂を聞きつけた客が来て、いつも以上に繁盛していた。

(割り切るんだ………これは仕事………仕事なんだ………)

湧き上がる羞恥心を仕事人精神で押さえ込み、職務に励む真名。

〈龍宮さん、向こうのテーブルのオーダー、頼みます〉

「あ、わかった、今行く………」

五月に言われたテーブルへと向かって行く。

(しかし………こんな格好………間違っても機龍達には見せられないな………)

などと思いつつ、テーブルに辿り着く。

「ご主人様、本日のお食事はいかがなさいましょうか?」

思いっきりの営業スマイルを浮かべて言う。

オーダーを聞きかれたその客は………

「何をやってるんだ、龍宮?」

「あ、龍宮さん!………何、その格好?」

「うわ〜〜、カワイイな〜〜!」

「うん、似合ってますよ、龍宮さん」

刹那、アスナ、このか、ネギのいつものカルテットに………

「ここでバイト始めたのか?」

機龍だった………

ビシッと音を発てて固まる真名。

そのまま5分経過………

「龍宮………くん?」

機龍の呼びかけに、ハッと我に還る真名。

「キ、キャアーーーーーーッ!!」

普段は絶対に出しそうに無い女の子の悲鳴を挙げると、後ろを向くとバッと走り去ろうとした。

が、勢い余って身体の前面を全て打ち付けるように転んだ。

「おわっ! 龍宮くん!?」

「だ、大丈夫ですか!?」

「う………う………う………うわーーーーーん!!」

それでも立ち上がると泣きながら走り去って行った。

「何だ?………」

「「「「さあ?」」」」

真名の行動に首を傾げる一同。


「今日はこれで店じまいネ、これが給料ネ」

「お、お疲れ様でした………」

心身ともにボロボロになった真名は給料袋を受け取ると、着替える気力もなく、制服を入れた鞄を持つとフラフラと帰路へとついた。

「!! 痛ッ!!」

と、少し歩いていると足を押さえて蹲った。

「つ〜〜〜、捻ったか………」

どうやら機龍達の前から走り去ろうとして転んだ時、足を捻ったようだ。

それでも何とか歩こうとする真名だったが、やはり思うように歩けずバランスを崩す。

「あ!!」

再び転びそうになった真名。

と、その時………

「おっと!!」

どこからともなく現れた人影が素早く真名を支えた。

「!! 機龍!!」

それは警備員服を着た機龍だった。

「ちょっと気になって見に来たんだが………やっぱり、足を痛めていたか」

「別に大したことない、これぐらい………うわっ!!」

真名が何事かを言う前に、機龍は真名をお姫様抱っこで抱え上げた。

「バ、バカ!! 降ろせ!! 誰かに見られたら………」

「この時間なら外にいる人の方が少ないさ」

そのまま寮へと歩き出す機龍。

と、ここで真名は、自分がメイド服のままなのに気がつく。

「!! あ、あの………機龍………」

「ん、どうした?」

「そ、その………わ、私の格好………」

「ああ、カワイイよ。よく似合ってるし」

「な!!………」

ボッと顔を真っ赤にするとその長身を縮こませる真名。

時折、機龍の顔を見ては視線を逸らすという行為を繰り返した。

(彼も………私が足を怪我した時………こうしてくれたな………)

結局、真名はお姫様抱っこされたまま寮に送られたのであった。


翌日の放課後………

ダヴィデ像の広場に集まっているネギ(+カモ)、アスナ、このか、武闘四天王、のどか、夕映、和美、さよ、エヴァ、茶々丸………3−Aの魔法関係者。

「皆さんも機龍さんと超さん達に呼ばれたんですか?」

「ええ、重大な話があるからここに集まってくれって」

「一体、何でしょうね?」

と、そこへ、1台の機動隊輸送用のバスが到着した。

「皆揃ってるな」

運転席から軍服姿のジンが顔を出した。

「ジンさん!」

「何ですか、そのバス?」

「詳しい話は行った先で話す、乗ってくれ」

首を傾げる一同を乗せ、ジンはバスを走らせた。


3−A魔法関係者を乗せたバスは地下駐車場へと入っていった。

「おい、こんなところに連れてきて、どうするつもりだ?」

「直に分かる………」

そのまま、最下層の行き止まりで止まる。

「アイヤ? 行き止まりアルよ」

と、ジンは胸ポケットから手帳を取り出すと、近くにあった監視カメラに向けた。

すると、行き止まりの壁が開き、隠し通路が現れる。

「「「「「ええ〜〜〜〜〜!!」」」」」

驚く一同。

ジンはそのまま隠し通路にバスを走らせる。

少し行くとまた駐車場に出る。

しかし、先ほどまでの駐車場とは違って、戦車や装甲車、メーサー戦車にミサイルポット車など戦闘関連車両が並んでいた。

その中の空いたスペースにバスを停めるジン。

「………着いて来てくれ」

そのまま、バスを降りるとネギ達に着いて来るように促す。

驚きながらも後に続くネギ達。

近くにあった大きな扉を抜けて、空港などにあるような動く歩道の通路を移動する一同。

時々、途中にあった大きな窓の外では戦闘機、戦闘ヘリなどの格納庫や、それらを造っていると思われるプラントが見えた。

「こんな施設があったなんて………」

「すごい………」

「秘密基地ッスか………?」

「まるでSF映画か特撮のセットみたい………」

「………着いたぞ、ここだ」

そうこう言っているうちにやや大きめな扉の前に辿り着く。

「ジンです。全員をお連れしました」

「ああ、入ってくれ」

促されて入ると、そこには奥の壁には巨大なモニターが付けられて、右側にはオペレーター席のようなものが設けられ、左側にはダストシュートのようなスロープが備え付けられ、中央に巨大な長方形の机とその周りを囲むように椅子が置かれた広め部屋だった。

いわゆる、作戦室だった。

巨大な机の一番奥の椅子には軍服姿の機龍が座っていた。

「「「「機龍さん(先生)」」」」

「ここでは、総隊長と呼んでくれ」

そう言って機龍は立ち上がると、一息吐いてまた言った。


「ようこそ、麻帆良独立特務防衛警備捜査部隊へ!」


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